TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「私は認めない……レフトオーバーと手を組んだ人なんて!」
ニコちゃんは、怒りのこもった目で俺を睨む。その怒りが連動したのか、リュッケの表情も強張った。
「私の弟を魔獣に変えなきゃ行けないような世界を創って、そのうえあの子を踏み潰したレフトオーバーに協力した人、絶対に……!」
うーん……困った、反論の余地がないぞ。レフバーちゃんが恨まれるのは当たり前すぎて。ていうか、あの戦闘の時のレフトオーバーさん、ついでのようにニコちゃんの弟だった魔獣を踏み潰してたな……そりゃ許せんわな……。
だが! ニコちゃんが渋って反対してくることなど計算の内なのだ。
「みんな騙されてる! だって……んっ!?」
「まぁまぁ」
ヒートアップするニコちゃんに近づき、トンと人差し指で彼女の唇を押さえる。
「なっなにするの!?」
「俺の得意技を忘れたのかな?」
「得意技……?」
「冥腕解放!」
困惑するニコちゃんの前で、俺はザラさんの力を解放する。彼女相手の交渉カードが、これだ。俺じゃなくてザラさんの技だって? 残念、他人の力を良いように使うのが俺の得意技でした。
変じた腕の権能を使用し、とある魂を呼び寄せ、受肉させる。
「ここは……? あ……お姉ちゃん……?」
「ムッカ……!」
顕れたのは、紛れもなく魔獣にされて死んだニコちゃんの弟。その彼が、人間の姿で受肉したのだ。その姿に、怒りも何もかも忘れて飛びつくニコちゃん。……いや、この権能、普段は名もなき魂を肉壁として受肉! とかにしか使ってなかったけど、普通に死者蘇生だよな……えぐ……。ザラさんは地元で生死のシステムを司ってるタイプの神様らしいし、こういうのはできるけどやらないんだろうな……。
「ぼく……なんで生きて……」
「ムッカ、お姉ちゃんだよ? 分かる?」
「あ、うん……」
ムッカというらしいニコちゃんの弟は、姉の存在をはっきりと認識し、笑った。
「ぼくが魔獣になっちゃっても、ぼくをぼくとして扱ってくれたお姉ちゃんのこと、ちゃんと覚えてるよ」
「ムッカ……!」
界喰みであることが嘘のように涙を流すニコちゃんと、無垢に笑う弟くん。そこには美しい姉弟愛が展開していたが、俺はそこに思いっきり水を差す。
「ちょいちょい、ニコちゃんや。なんかハナビさんに言うことあるんとちゃいます?」
「ちょっと! 台無しじゃない!」
リュッケの真っ当なツッコミが響くが、今はチャンスなのだ。ニコちゃんの心が最大限に揺さぶられている今押さなくてどうする!
「……ありがとう、ハナビさん。弟に会わせてくれて」
「もう一声!」
「……分かったよ。私も、ハナビさんのモノになればいいんでしょ」
「百声くらい来ちゃった……」
認めてくれるだけで良かったのだが、斜め上の所まで提供してくれた。いや、そりゃかわいい子がいらないなんてことはないが、そこまでは要求していない。
「でも! 条件がある! この子を……平和に過ごさせて。私はもう……界喰みだから。この子と一緒には過ごせない……」
「お姉ちゃん……?」
苦しそうに俯くニコちゃんと、その不穏な言葉に疑問を抱くムッカくん。ムッカくんは人間として復活したが、ニコちゃんは界喰みだ。生身の依り代がいない世界では、界喰みが身体を得ることはできない。ずっとここで過ごすわけにはいかないし、ムッカくんは外で一人生きていかなければならない……と、ニコちゃんはそう考えてこんな約束を迫っているのだろう。
「……そこんとこ、実際どうなの?」
「ニコの言う通りよ。アタシやニコがこの部屋の外に出ても、実体を保つことはできないわ」
「依り代がいればいいんだよな?」
「……!? アンタ、まさか……」
驚愕するリュッケに向かって、自分を指さしアピールする。
「何言ってるの!? そんなことしたら、アンタまでアタシたちの怒りに呑まれて! その覚悟があるの!?」
「いや、あんまりない」
「なんなの!?」
「そういうのじゃなくてさぁ、なんかもっとマイルドな感じ? 完全にシンクロするんじゃなくて、ゆるくリュッケたちと繋がれるみたいな、良い塩梅のないの?」
俺がリュッケに無茶ぶりをすると、意外にもリュッケは思案を始めた。割とダメ元だったのだが。
「……半分界喰みになる、みたいなこと? そんなの、もしできたとしてもアタシたちの力の半分以下しか使えない……って、そこは問題ないのか」
「あ、みんなとじっくり仲良くなりたいから、できれば記憶共有もなしで!」
「……注文が多い……」
俺の要求に呆れたリュッケは一旦深くため息をつくと、真剣な眼差しで俺を見た。
「やってみてもいい。記憶も流れないようにやってみるけど、多分少なからずアタシたちの憎しみがアンタに流れ込むと思う。人が変わるようなことはないと思うけど、もしかしたら……」
「やってくれ」
「でも……」
「俺さ、人を恨んだことないから。喧嘩とかはあるかもだけど」
「……!」
そこで、リュッケも気づいたのだろう。覗いた俺の前世や今世の記憶の中に、一度だって誰かを恨んだ記憶がないことを。俺だって、ヒョウヤに説教できるくらいには恨み辛みを理解しているつもりだが、実際に自分がそういうものに囚われたことはなかった。逆に、復讐に走るくらいの怒りを経験してみたい気持ちもあるくらいだ。
「まぁ、一番は俺だけリュッケたちの仲間はずれなのがちょっとモヤモヤするからなんだけど……」
「…………分かったわよ」
半分冗談の一言で茶化すと、リュッケは俺の右手を握る。
「やるわ。アンタに界喰みの因子の……欠片を植え付ける。覚悟は良い?」
「は、ハナビさん! 私のためにそこまで……」
「ニコちゃんのためだけじゃないから、気にすんなって。じゃ、よろしくリュッケ」
リュッケが、あの界喰みの赤黒い液体を結晶化させたようなモノを出現させる。そして、それを俺の手に当ててなにか力を送り込み始める。
瞬間。
「……!」
叫び。地獄の底から煮えたぎるような、消えることのない怨嗟の声。そもそも怒りに燃えている人間がこれを浴びれば、瞬く間に堕ちてしまうであろう、数多の悲劇を思わせる声。
だけれども、それらに晒されてもなお、俺にとっては他人事だった。
かわいそうだなぁとは思うけど、それだけだった。
「……ハナビ……? 平気……?」
「あぁ、平気」
処置が終わり、本当に心配そうなリュッケの声に、笑顔で応える。
呑まれなかったことを少し残念に思う、自分に呆れる。結局、俺はリュッケ達とは違って共感能力に問題があるのだろう。だが今日だけは、俺が人でなしで良かったと、そう思うべきなのかもしれない。