TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない) 作:鐘楼
「戻ったぞ~」
「……その子供は……」
時間にしたら、十数分くらいだろうか。蘇生したムッカくんを連れた俺が戻ってくると、当然レフバーちゃんとヒョウヤの視線はムッカくんに集まる。
「あ……えっと……」
「んー、こうか? 来い、ニコちゃん!」
一旦二人は無視して、手はず通りにニコちゃんをこの場に呼び出そうと試してみる。すると、俺の右手から例の液体が出てきて、ニコちゃんの身体を形作った。
「な……!」
「キミ……その力は……」
「お姉ちゃん!」
見知った姉の出現に、ムッカくんは満面の笑みで駆け寄る。それとは対照的に、レフバーちゃんとヒョウヤの表情は険しくなった。まぁ、明らかに先刻戦った奴の力なので無理はない。
「……どういうことか、説明してくれるかな?」
「あ、界喰みの会員になりました。半分」
「は……? じゃあ、お前まで復讐鬼に……」
俺のシンプルな釈明に、ヒョウヤの顔が青くなる。だがその反面、レフバーちゃんは冷静だった。
「にしては、変わりがなさすぎるように見えるが」
「あぁ。俺はいつも通りだよ」
俺がひらひらと手を振って普段通りであることを精一杯アピールすると、レフバーちゃんはなにかを思案する顔をした。
「……そんなことが……いや、そもそも何故キミが界喰みになるなどという話になったのかな?」
「まぁ、それも含めてレフバーちゃん……いや、レフトオーバー。交渉しよう」
先ほどから温めていた提案を口にすると、レフバーちゃんは珍しく険しい顔をした。まぁ、考えていることはなんとなく分かる。この交渉は今までとは決定的に違う。俺が界喰みになった時点で、力関係が逆転しているのだ。今までのようには行かないと考えているのだろう。
「まぁ、聞こうか。何かな?」
「さっきリュッケたちと話して確信した。俺なら界喰みの手綱を握れる。だから俺に賭けろ」
「……!」
レフバーちゃんの瞳が見開かれる。俺は、正気のまま界喰みの内側に入り込んだ。この立場なら、彼女たちの報復がエスカレートする前に止められる気がするのだ。もっと前向きな方向に力を活かすよう誘導することだって、きっと。だから、レフバーちゃんにはそのための手伝いをして欲しかった。
「レフバーちゃん、あんまり恨みとかないんだろ? あくまで界喰みを何とかするのが使命だから行動してる。だったら、俺に協力して無力化を試みるのも良いんじゃないか?」
「…………なるほど。そこの界喰みが私を見て襲ってこないあたり、キミがアレの手綱を握れるというのは一定の信憑性がある」
レフバーちゃんが目線をニコちゃんに向け、俺の言葉に一定の理解を示す。たしかに、ちょっと前までの彼女なら真っ先にレフバーちゃんを消しに行っただろう。
「そして……本当に界喰みの脅威がなくなると言うのなら、たしかに私の使命も達せられると言えるだろう」
「おっ、乗り気か?」
「賭けてみる価値はあると感じる。流石にすべてを預けることはできないが……プランの一つとして協力することはやぶさかではないね」
出てきたのは、ほぼベストみたいな答えだった。全面的に信じたわけではないとのことだが、ひとまず協力してくれる時点で大勝利だ。
うーむ……あまりにもハッピーエンドすぎるな。これから俺は、界喰みたちのメンタルケアをしながら気ままに旅でもすることになるだろう。試したいこともあるし、色々楽しみだ。うん、勝ったな! 本当に勝ったな!
「……本当に、説得したのか。奴らを……」
すっかり存在を忘れかけていたヒョウヤが、俺になにか眩しいものを見るかのような不可解な視線を向けてきた。なんかそれ気持ち悪いんだが。
「なに……? どうした急に」
「……二つ、言いたいことがある」
何やら思い詰めているヒョウヤがそんなことを言う。そんな真剣な声色で言われたら、突っぱねることはできない。
「言ってみろ」
「……俺は、界喰みと戦ったとき……止めてやらなきゃと思った。話をしてみて……あいつらの所業は明らかにやりすぎだと思った。それすらも、気づけなくなっているんなら、力づくでも止めてやるのが……正しいことだと、そう思った」
「うんうん」
うん……普通だな! いや、多分12とかそこらのガキにしてはあまりに立派すぎる感想だと思うんだが……あ、そんな意見を月並みって言ったことに関しては言わないでおこう。
「けど、お前は違った。お前はその先を見ていた。和解して、相手を正す道を勝ち取った。そんなお前を見て、俺の視野が狭くなっていたことに気づいた気がした。俺は……酔っていたのか? 俺が勝手に決めた、正しさに……」
「いや……んなことはないだろ……普通にヒョウヤが正しいとは思うが……」
ヒョウヤの導き出した答えは、真っ当だとは思う。むしろ、相手のためをも思って止めてやらねばというのは、かなり優しくて良い答えだ。それではリュッケたちを救うことはできないのかもしれないが、それと正しいことは両立する。
「じゃあ……正しさって、正義ってなんなんだよ……!」
「え? 他人を黙らせるためのもっともらしい理屈?」
「……は?」
「あ」
急に正義がどうのとか言われたから、教育とか考えずについ素で答えてしまった。
いや、ヒョウヤもヒョウヤだ。ちゃんと俺がどういう人間か教えてやったはずなのに、なんでそういう話を俺に振るんだまったく。俺みたいなナチュラルボーン反社にまともな回答を期待するなよな。
こういうのはもっと良い相手が……と、周りを見る。レフトオーバー、ニコちゃん、ムッカくん。
……。かわいそうにヒョウヤ。周りにちゃんとした大人がいなかったんだね……。
「と、とにかく! あんまり難しく考えるなよ。俺だって、何が正しいのかなんて無駄な……答えが無数にあることを考えてはいない。やりたいようにやった結果なんか上手くいってるだけだ。お前も次からそうすればいいんじゃね?」
今回の俺のように、運良く結果が伴うとは限らない。でも、こういう生き方が比較的には最も後悔しにくい。親父もそう言っていた。ただ、それだけの話なのだ。
「そう、か……」
俺の言葉が、ヒョウヤの中でどう受け止められたのかは分からない。というか、こんな奴の戯れ言をあまり重く受け止めて欲しくない。が、一旦この疑問は呑み込むことができたらしい。
「……なら、二つ目だ」
じゃ、これで終わりかぁと思いかけたが、ヒョウヤは言いたいことが二つあると言っていた。まだ二つ目が残っている。
「なんで……あの根暗を……キヌを裏切るような真似をした!?」
「…………?」
裏切る……? 声を荒げるヒョウヤに、大量のクエスチョンマークが脳裏に浮かぶ。
「いや、これ以上ないくらいに誠実な対応をしたが? なぁ、レフバーちゃん」
「あぁ」
話を振られたレフバーちゃんは、気を利かせたのか虚空に映像を投写した。どうやらそれはリアルタイムの映像のようで。
そこには、