TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない)   作:鐘楼

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勝ったな!(勝った)

 少女が、長い眠りから目を覚ました。

 

 「……ハナビ、ちゃん……?」

 「おはよう、キヌ」

 

 少女の瞳に、最愛の人が映る。最愛の人は少女だけを見つめていて、少女が未だ夢の中にいるのだと錯覚するような光景だった。

 

 「他の、人は……」

 「もういないよ。二人っきりだ」

 

 変わらず夢のようなことを言う最愛の人だったが、抱きかかえられていることでたしかに感じる最愛の人の体温が、少女にこれが現実だということを伝えていた。

 

 「そんなことって……!? ハナビちゃん、その腕……」

 

 段々と意識が明瞭になっていく中で、少女はあることに気づいた。

 

 最愛の人の身体に紛れた、度しがたい異物。別離の象徴のようなあの左腕が、元の彼女のものに戻っていたのだ。それだけではなく、あの腕に起因する痛ましい身体の変異までもが綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 「あぁ……元に戻してもらったよ。こうして両方の手で、直接キヌに触れたかったから」

 

 そう言って、最愛の人は少女を左手で撫でた。

 

 「ハナビちゃんっ!」

 

 そうして感極まった少女は、最愛の人を思いっきり抱きしめるのだった。

 

―――――――――――――

 

 「こうして両方の手で、直接キヌに触れたかったから」

 

 キリッ。……決まった。

 

 あ、どうも。ハナビ(ダッシュ)です。ハナビ(1)とかハナビツーでもいいよ。

 

 この度キヌの旦那様としての役目を全うするために創り出されたわけだが、正直その実感はあんまりない。レフバーちゃんにコピーをお願いするときまでの記憶はしっかりあるし、キヌと一緒にいることもリュッケたちを追いかけることも、どっちも本当にやりたかったことだ。だから、今の自分が偽物だとか貧乏くじだとかは全く思わない。身体からザラさんとのつながりが消えてしまったことは少し残念だが。

 

 「ハナビちゃんっ!」

 

 昔よりももっと甘えてくるキヌの存在で、そんなの全部吹き飛ぶくらいだ。なんか……収まるところにおさまったんやなって。もしかして最初からこれがあるべき形だったのでは……?

 

―――――――――――――

 

 「とりあえず、ここに住もうか」

 

 俺とキヌは、焔精族の村には帰らなかった。俺が罪人扱いなことを差し置いても、既にキヌが彼らに対してどうしようもない不信感を抱いてしまっているからだ。だから、寄る辺のない俺たちは当然二人だけで暮らすことになる。

 

 何のインフラもない場所で女二人スローライフなんて、普通は無理だ。だけど幸い、ここは普通の世界ではない。

 

 ここは、レフトオーバーが効率的に闘争を起こさせるために……他殺以外の死因が徹底的に排除された世界。食糧は引くくらい簡単に手に入るし、気候も安定しているし、凶暴な動物など見たこともない。だから、二人でもやっていける。

 

 「ハナビちゃんがいてくれるなら、どこだっていいよ」

 

 丁度良く、おあつらえ向きのデカい洞のある大樹を見つけ、そこを住処にすることにした。

 キヌの祝詞は戦闘一辺倒だが、俺が使える祝詞の中には生活の役に立ちそうなものがいくつかある。使えばもっと良い住処を創れる可能性があるが、基本的に祝詞は外敵……つまりは他の人間のことだが、それらの排除に使いたい。それに存在力の性質上、今の俺が生まれたばかりという扱いであれば、存在力がほとんど皆無である可能性がある。おいそれと力を使うわけにはいかないのだ。

 

 そうして、日々は静かに過ぎていく。

 

 完全に炊いたあとの米が出てくる木の実とか、挙げ句にコンビニ弁当みたいなのが入った木の実なんかを食べたり、びっくりするぐらい無抵抗な羊っぽい動物から拝借した引くくらい質の良い繊維で、洞の中の生活環境をどんどん良くしていった。

 

 「……キヌ、寒くないか?」

 「大丈夫……だけど、もうちょっと、くっついていて」

 「仰せのままに」

 

 想定の十倍くらいのスピードで整った生活環境に、自然と俺たちには余裕ができてきた。

 

 「……好き、だよ。ハナビちゃん」

 「知ってる。俺も……んっ!?」

 

 そんな日の夜に、油断していた俺の隙を突くように、覆い被さってきたキヌが唇を合わせてきた。吃驚したが、拒むわけもない。やがて唇を離すと、キヌははにかむように笑った。

 

 「えへへ……しちゃったね、キス」

 「こら。……そんなことしたら、反撃されちゃうんだぞ」

 「っ……シて、欲しい……」

 

 お仕置きと称して、俺もキヌの唇を奪った。恋愛系の娯楽もない世界で育ったキヌには少々刺激が強いかもしれないが、これはお仕置きだ。容赦なく舌を捻じ込み、上顎を軽く叩き、歯茎をなぞり、歯の裏側をそっと撫で、最後にはキヌの舌を絡め取って締め付ける。キヌの肩が震え、しがみつくように俺を抱きしめる力が強くなる。

 

 「ひゃっ!? んっ……ぁ……ゃ……っ」

 

 一通り好き放題してから解放すると、ほんのり染まっていたキヌの顔は真っ赤になり、目の焦点が合わず放心状態になってしまっていた。

 

 「おーい、大丈夫かー?」

 「…………す、すごかった」

 「ごめんごめん、キヌにはまだ早かったな」

 

 未だふわふわしているキヌを前に、リードできている自分に少し気分が良くなったが。

 

 「なんか……上手かったよね。経験があるみたい」

 「ちょ……勘ぐりで機嫌悪くなるなって!」

 

 急にキヌの目つきが鋭くなった。……ザラさんとのコトはリュッケがいなくなった後だから、キヌが知ってるはずはないんだが……怖い怖い。

 

 「と、とにかく! キヌにはまだ早かったみたいだから、今日はもう寝ような」

 「え……もう、終わりなの……?」

 「暇なら、俺が作り話をしてやるよ」

 「……ハナビちゃんのお話、好き」

 

 その日は、そうしてキヌが眠るまで話をした。そう、もちろん前世の諸々のパクリ話である。この世界では、生活を維持するための労力が少ない。故に、闘争を放棄した俺たちにとっては娯楽が不足しやすく、暇なときはこうして俺が作り話をして過ごすのだった。

 

―――――――――――――

 

 そうして、何年かの時を過ごした。もちろん、ちょっとした苦難はあった。

 

 ここは、人が完全に来ないような土地ではない。当然、何度か接触の機会があったが、こっちには史上初とレフバーちゃんのお墨付きをもらった巫女のキヌがいる。第十階梯に至ったと思しきキヌの力は随一だ。そんなキヌの力を、恨みを買わないよう追い払う程度に見せつけると、危険性が周知されやがてこの一帯に人が近づいてくることはなくなった。

 

 中には、知り合い……ハズミラ様たち冥葬族が俺を追って接触を図ってきたこともあった。あの時はキヌが番犬みたいな形相になって大変だったが、俺にはもうザラさんが宿っていないこと、一緒には行けないことを懇切丁寧に説明して、穏便に帰ってもらおうとした。ハズミラ様は引き下がってくれたが、その中にはシャーリーもいて泣きつかれてしまった。キヌの目が手が出そうなくらい鋭くなってやばかった。

 

 ……この辺りの因縁の解決はオリジナルの仕事だろと思わないでもないが、二人に分かれる前の因縁は俺のものでもある。なんとかシャーリーを落ち着かせ、別れの言葉を告げ帰ってもらった。

 

 そして、キヌは気づいていなかったが、ホノカ。彼女が、何度か声をかけるでもなく俺たちを見に来ていたのだ。筆舌に尽くしがたい表情で俺たちを見つめ、俺が気づいたことに気づくと痛みに耐えるような表情を浮かべて一礼し、去って行く。罪の意識でも感じているのだろうか。ホノカに悪いところは……まぁなかったわけではないが、そこまで苦に思うほどでもないだろう……と思うのだが、俺はもうキヌの味方だ。その言葉をホノカにかけてやることはできない。

 

 そんな数年を過ごした、ある日。

 

 むにゅ、と背中に感触。

 

 「ハナビちゃん」

 「……キヌ、どうかした?」

 

 キヌが後ろから抱きついてきて、すっかり豊満に成長したキヌの胸が、背中に押しつけられている。めっちゃいい。

 

 「ハナビちゃんは、生まれる前の記憶があるんだよね」

 「あ、あぁ……なんだ藪から棒に」

 

 どこかいつもと違う雰囲気のキヌが何を言うのかと思えば、前世のことに触れてくるのは初めてだ。

 

 「……もしかして、俺の前世に思うところが?」

 「ううん、ハナビちゃんはハナビちゃんでしょ。そうじゃなくて……だから、ハナビちゃんは私より大人なんだよね」

 「まぁ……そうだな」

 

 たしかに、俺は同世代のキヌやヒョウヤのことを本当に同世代だとは思ったことがないが……それはしょうがないだろう。精神年齢の差だし。

 

 「えっと……それがどうかしたか?」

 「私、もう大人だよ」

 

 キヌは俺の前に回り込むと、火照った顔で、自分が大人だと主張してきた。すっかり美人さんに成長したキヌは、たしかにもう少女ではなかった。

 

 「誘ってるんだ」

 

 ちょっと意地悪な言葉を投げかけると、キヌはコクりとただ首肯した。あまりにも愛おしいので、俺はその場でキヌを抱き上げ、ゆっくりと寝床に歩き出す。

 

 「キスの時みたいにまためちゃくちゃになっても知らないぞ~」

 「……あの時みたいにはならないもん」

 

 その晩、俺とキヌは寝床の中で寄り添い、長い時間をかけて互いの心と体に触れた。唇だけでなく、頬、喉、肩、胸……すべての温もりが、たしかにお互いにはお互いしかいないことを伝えてくる。

 

 恥ずかしがるキヌが、震えながらも懸命に俺に応えようとする姿に、胸が締め付けられるほどの愛しさを覚えた。

 

 それは、決して一夜だけの出来事ではなく。

 

 俺たちは幾度も「ひとつ」になった。

 

―――――――――――――

 

 それからまた、幾度も年が巡った。

 

 長く住んだ大樹の根元には、二人で作った花壇に白い花が咲き誇っている。

 

 「……ハナビちゃん」

 

 その日も変わらず、静かな夜だった。焚き火のぱちり、ぱちりという音に混じって、キヌの細い声が聞こえた。

 

 「ここにいるよ」

 

 俺は年老いたキヌの手を握る。すっかり細くなっていたが、その手の温もりはあの夜と変わらない。

 

 「……ねぇ、ハナビちゃん。手、離さないでいてくれる?」

 「バカ言うな。離すわけないだろ」

 

 そっと抱きしめると、キヌは俺の胸元に顔を埋め、こくりと頷いた。

 吐息がゆるやかに重なり、呼吸が同じリズムを刻む。

 

 「……ハナビちゃん……ありがとう……本当に、ずっと……一緒で……」

 

 言葉を紡ぎながら目を閉じていく。

俺は、そんなキヌの髪にそっと口づけを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 焚き火は、静かに燃え続けていた。

 ふたりの身体が冷えていくことに、誰も気づく者はいなかった。

 

 ただ、大樹の根元に寄り添うふたつの影が、まるで最初からそうであったかのように──穏やかに、眠りについていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 「おはようございます、ハナビ」

 「………………………………ん!?」

 

 目が覚めると、見覚えのある場所に立ち、微笑むザラさんがそこにいた。

 

 「いや……えっ。俺、死んだよな……え、もしかしてザラさん、俺の魂回収した……?」

 「はい。約束通りに」

 

 つまりここは、異世界の冥界。ザラさんの本拠地。たしかに、死んだらザラさんのものになるという旨の約束をした憶えはあるが……。

 

 「いや……いやいやいやいや! 今めっちゃ良い感じの死に様だったじゃん! これ以上ない純愛エンドを繰り広げてたじゃん! そこはキヌと一緒に眠りにつくのが綺麗な着地じゃん!」

 「はい。善き人生を送れたようですね」

 

 俺の人生を褒めてくれたザラさんに、少し気が緩むが……屈するわけにはいかない。どうせ今も節操なしをやっているであろうオリジナルと違って、このハナビ′ちゃんはキヌに身を捧げたのだ。

 

 「だったら! 俺の魂連れ帰っちゃだめじゃん! それはオリジナルの仕事じゃん」

 「それなのですが……もう一人の貴方がいつまでも死んでくれる気配がないものでして」

 「え……そうなの?」

 「その上、界喰みの末席に加わったのです。これでは、もし死んだとしてもハナビの魂は界喰みに取り込まれてしまうでしょう」

 「そんなことに……」

 

 はぇ~、オリジナルはリュッケたちと真の意味で身内になったのか。まぁ、予想外というほどの選択ではない。いや、それは良いのだ、それは!

 

 「そんな時に、ちょうどよく貴方が亡くなったものでして」

 「いや、そうだとしてもぉ……」

 「問題がありますか? 貴方が二人に分かたれたのは、私を口説き落とし口づけを交わした後のはずです。貴方にもその記憶はある」

 「う……」

 

 そこを突かれると、非常に痛い。ザラさんの手を取った記憶は、当然俺にもある。俺がオリジナルではないからといって約束から逃れられる、というのもおかしな話ではある……かもしれない。

 

 「それに、貴方が善き人生を全うできたのも、それまでの苦難を乗り越える力があってこそ。自惚れるつもりはありませんが、私の力も大きく役に立ったはずです。見返りを求めます」

 「くっ……!」

 「それとも……嫌ですか? 私と共にいるのは……」

 「そんなことは……っ!」

 

 初めて見たザラさんの不安げな表情に、心が大きく揺らぎ……屈した。

 

 「……わかったよ。よろしく、ザラさん」

 「はい、よろしくお願いします」

 

 本音を言えば、ザラさんと一緒に居れるのが嫌なはずがないのだ。死んだ後もこんな役得があるなんて、お得だとすら思う。

 

 「……つくづく俺は、悪い奴だな……」

 

 キヌに身を捧げると、決めたはずなのに。そんな風に思えてしまう自分に呆れるばかりだ。

 「では、彼女も喚びますか?」

 「……は?」

 

 だから、そんな時に聞いたザラさんの言葉に、耳を疑った。

 

 「彼女って、キヌのことか!? 喚べるの!?」

 「はい」

 

 喚べる。ここに。会える。もう一度。そのことに興奮して、ザラさんにそれを頼もうとして──

 

 「……いや」

 

 踏みとどまった。

 

 「やめとくよ。眠らせてあげたい」

 「良いのですか?」

 「あぁ……」

 

 ここにキヌを呼べたとしても、ここにいる俺はザラさんのものだ。キヌのものではない俺を、彼女に知って欲しくない。俺のすべての嘘に気づくことがないまま、眠っていて欲しい。そう思ったから。

 

 「では、姿をあの時に戻しますね」

 「え……」

 

 話を切り替えたザラさんがそう言ったと思えば、俺の姿がどんどんと若返っていく。まるで、俺がキヌを選ぶよりも前に、時を戻すかのように。

 

 「では、改めて。ハナビ。貴方が彼女と過ごした数十年間、その何倍以上の時を、これから私と過ごしてもらいます。良いですね?」

 「……はい、よろしくお願いします……」

 

 分かってる。結局俺は酷い奴なのだろう。

 

 けれど、そんな俺のことを目の前の人が許してくれる限り、それでもいいと……俺は思えてしまうのだ。

 

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