つまり詰んでいます。
※ダーウィンズゲーム原作を読んでいない方でもこの後投稿する第1話から読みやすくしていきます。
一寸先も見通せない暗闇の中をほのかに照らす一本の蝋燭の灯りが揺れる。
暗い部屋の中を見通すことができないのは、暗闇のせいか、それとも戦いの最中無くした片目のせいか。
鋭くなり過ぎた嗅覚が乾いた血と薬品の匂いの隙間から、微かに畳の匂いを嗅ぎ取る。
横に寝かされた自分の身体を起こそうにも、四肢が足りない肉体は当然の如く脳の指令を受け付けず、身体が揺れるだけにとどまった。
仕方なく
「はぁ……絶対安静と言ったはずなんじゃが……???この我、ククリの言う事が聞けんのか〜???」
「すまねぇ……」
給仕服を着た角の生えた幼い少女が呆れた顔をして入ってくる。
自分より幼い相手の言葉にさすがに心が苦しくなり、目を伏せて物思いに耽る。
今にして思えばある程度仲が良い相手とは言えども、よく
この妙に似合った給仕服を着こなした幼き皇帝にでは無く、特にその周りに、だ。
もちろん突然の来訪に驚き警戒こそしていたらしいが、そこに居たのは瀕死な上に意識不明の状態で横たわった死体同然の顔見知りの人間。
それからはあれよこれよと医療施設にぶち込まれた結果、包帯をグルグルに巻かれたミイラが出来上がったってわけだ。
まぁそんな現状も最早今となってはどうでもいいことだが。
「コホンッ………それで、だ……辛いことを思い出させるかもしれんが、単刀直入に聞く。そちらの世界で何が起きた?こちらが援軍として飛行船ごと転移しようとした瞬間、お主らの世界線の存在を一切感じ取れなくなった」
「そう、か………クソッ………」
悔しさに拳を握り締めようとするが、途中から欠けた右腕は応えない。
それはまるで無くしたものを嘆くことも許されないことを暗示ているようで………
透き通った白魚のような小さい手が優しく肩に置かれる。
荒ぶった心の熱が、少女の手の温かさに解かれていくのを感じる。
「多少は落ち着いたか?」
「ああ……取り敢えず今は情報共有か………まず俺の世界線はグリードの世界線を特定する為の作戦が行われていた。作戦中、大地震による建物の崩壊に乗じたグリードの奇襲を受けて部隊はほぼ壊滅……ゲームマスターの至道イザヤとすぐ近くに居た俺が真っ先にぶった斬られちまった……」
「カナメやシュカ、リュージもどうなったか分かんねぇ……必死に虫の息になったイザヤと側に居たレインを捕まえて脱出するしかなかった」
「イザヤは死ぬ直前、レインに世界線の守護者としての力を渡そうとしていた。もっとも渡された瞬間、グリードに襲われたレインは俺と転移を決行したんだが………」
「急いでいて座標を定めてなかったのか、何なのかは判らないが気づいたらこっちの世界に飛ばされて、あとはお前の知る通りだ」
「惨めだな……ほんとうに……」
既にククリが俺の世界線を感じ取れないということは、恐らく信じたくはないがグリードに敗北したんだろう。
本当に笑える話だ。仲間たちが最期まで抵抗して、戦い、最善を尽くしているなか、俺は1人この世界線に飛ばされてしまった。生き残ってしまった。
───ああ、本当に全くもって笑えない
正直な話、戦ったうえで死ぬのはまぁ悔しいだろうが別段良い。もちろんサンセットレーベンズの仲間や、他の知り合いのプレイヤーには申し訳ないが、現状より遥かにマシだ。
ここで何も成せずに犬死にする。なんの意味も、目的もなくこのまま死んでいく。
そんなダサい死に方が俺には許せない……!!
一矢報いる事もできず、ここで1人諦めるなんてできるか!!
瞬間、脳が沸騰するような熱を発し始めるのを感じ取る。不快な感覚に吐き気を催すが気にせず続行する。慌てて心配そうな声がどこからか聞こえた気がした。
深く深く自分自身の記憶の海に潜っていく。
コツは既にレインから教わっている。あとは自分の
求めるモノはただ一つ、この終わった現状を打破する手段。
───あった
自分の内海から抜け出すと同時に外の情報が再び入ってくるようになる。
「おいっおいっ!!無事か!?今のお主が無茶をすれば身体に響くどころの話ではないのだぞ!!」
副作用として目や鼻から垂れ出した血液を拭う事も忘れて告げる。
「頼む、最後のお願いだ。魂抜けによる御霊憑依、過去の俺自身に今の俺を長期間憑依させてくれ」
恐らくこれは最後の策とも呼べないただの自殺行為。
人は魂だけの状態でなら異なる世界線や過去にすら入り込む事ができる。これを魂抜けと呼び、特殊な薬物や異能力などを用いる事で可能となる。
またこの魂抜けを使った際に自分自身に憑依することで異なる世界線での物質的活動を可能とすることを御霊憑依と言った。
もっとも御霊憑依に関しては制限や致命的な危険性が存在するのだが、今回はこの危険性にこそ用がある。
短期間の憑依では恐らく短過ぎて何も成せない。何せこちらはグリードに対する情報が未だにほぼ皆無だ。地道な情報収集を行いたいところだが、そんな時間は短期間の憑依では叶わない。
だが長期に渡る憑依によって、過去の自分自身と同化する事で今の経験や記憶を渡す事ができる……かもしれない。
もし成功すればそれはグリードに対して大きな有利になる上に、様々な対策が取れる可能性に繋がる。
「意味を分かって言っておるのか……?短期間の憑依ならまだしも、長期間の憑依は今のお主の自我の喪失を意味するのだぞ!?」
「違ぇな、完全な消滅じゃ無くて過去の自分と同化し混じり合うことになるって言ってた筈だ」
「同化とは言っても、何一つとして今のお主の要素が残らない可能性の方が遥かに高い!!」
ほんとうにとんでもないお人好しだ。元はと言えども、ククリからしてみれば、俺達は異なる世界からやって来ただけの捕虜の筈だが、いつの間にかだいぶ気に入られていたらしい。
世界線の守護者などという御恐れた役割には似合わない心優しい少女の悲痛な顔は、さすがに心に来るものがある。
だけど俺は既に決めたんだ。
自分の無力さから来る焦りでも無い。
癒えない傷がもたらす痛みからの逃避でも無い。
他の何もかもがどうでもよくなるほどの怒りでも無い。
消えていった仲間達のかつての情景を思い返す。
カナメと
シュカとカナメのカッコいいところを話し合った日を。
スイとソータの三人で料理を作り合った日を。
リュージやオージと一緒に
おかしいな……パッと思い浮かんだ思い出のうちかなりの割合が雪蘭たちに扱かれている思い出ばかりだ。
そして最後にレイン。
不意の事故とは言え、恐らく終わる世界に1人残された、残してしまった最も古い仲間。
転移後に残った仲間たちと合流出来ているといいのだが………
「………そうだな。だけど、だからこそこれは賭けなんだ。もう完全に敗北しちまった世界が出来る最後の、唯一の抵抗だ」
「だから頼むククリ……俺に最後にもう一回だけリベンジさせてくれ。散っていた仲間の為にも、俺自身の為にも」
「むぅ………はぁ……分かった。欲を言えばこのまま残ってくれて欲しかったが、お前は何を言っても気がなさそうじゃからな」
「こんな身体じゃもう皇室親衛隊としては働けねぇよ」
「別にそれだけじゃないのだが……」
なぜか重いため息を吐きつつ、準備に取り掛かっていった。
◆◆◆
「よいか?グリードがいつ、どうして、どうやって、やって来るか分からないからこそ、我の力も使いなるべくお前を遠い過去に送る。いいな……?」
「ああ、頼むやってくれ……」
「最後にこれだけは覚えておくこといい、我らはいつだってお前の、隆道シュウの味方だ。過去でも我らに頼るがいい」
「それと忠告だ。分かっておると思うが、あまりその異能力を使いすぎるでないぞ。
◆◆◆
──某日・ファストフード店
「何か悲しい事でもありましたかシュウ?」
「分かんねぇ……けどなんだかレインの顔を見てたら涙が止まらないんだ」
「この数日間、音信不通になったかと思えばその間の出来事は覚えていないと……」
「かなり気になりますが、今はこちらが先決です」
「あなたにも来ましたか?
デスゲーム要素どこ……?ここ……?
たぶん次話から出るハズ……