ポイズンスライムと地球に行く【オリジナル】 作:苺のタルトですが
異世界というものが存在することは知っているが、行くまでのことではないと思っている。
それもこれも、この世界がとても居心地の良い世界だから。
しかし、だ。
私はあちらに渡りたい。
どうしても欲しいものがある。
それは、それは。
家電が欲しい!
えっ?てなるかもしれない。
けれど、考えてみてほしい。
魔法があっても米はない。
米があっても美味しい米は炊けない。
炊いても美味しくない。
美味しくない米を作っても意味がない。
米じゃなくても、地球の料理が食べたい。
私の原動力はご飯です。
食べたーいっ!
という気持ちであるのだ。
仕方ないでしょ。
だって、この世界、異世界というカテゴリーなだけあって、料理がシンプルなんだもん。
タロンもご飯のことを語るが、ないものを語る虚しさも合わせて、食べたい欲が高まっていた。
しかし、しかしだ。
今回のマレビトの件で、地球に行ける可能性が高まったということだ。
彼は、今回のことで地球が本当にあったことに驚いていた。
タロンはそれはそれは、驚いていたがそれを顔に出さない(出せない)だけ。
ふよっと震える彼は喜ぶ魔女を見て、リズベッタによかったなと思っていた。
言葉少ないスライムであるが、心根は優しいと少女に言われて悪くはない気分ではある。
しかし、己が純粋であるなどということはあり得ないと思っている。
という科白を思いながらも地球に行けると知れた彼女を見守る
スライムの思いなど知らぬまま、リズベッタはいずれくる地球のへの来訪に現を抜かせていた。
まあ、しかたないところである。
地球がどんなところか知るものであれば、誰だってこうなる、というのがリズベッタの言。
頭の上で思案するタロンを感じながらも、浮かれる心がふわふわさせる。
リズベッタはそのふわふわさで、マレビトの男性と再度話すことになる。
異世界に行ける、帰れるという言葉は確実になるまで黙っておく。
ぬか喜びさせないためだ。
帰れると言って気を強くさせるよりも、まずは気持ちを落ち着かせる事を優先したのだ。
週に6日間、1時間程を彼に当てている。
給金はマレビトが来た時にもらえるものから引いている。
勿論彼にも許可を得ている。
「リズベッタさん、毎日ありがとうございます」
お礼を言われてとんでもないと首を振る。
どうして、と思うが私は地球を何度か夢で見たのだと説明している。
魔女の叡智だと説明し、納得してもらっている。
叡智でもなんでもなく、シンプルに前世の記憶なのだけどね。
嘘も方便さ。
そういうことで地球に詳しい異世界と地球の人間は地球談義をしている。
まず、彼は警察官という職を軽く説明して、私に語る。
私は魔女の役割を話して、話ではいけないこと以外を話す。
なんでもかんでも話して、地球のお偉い人に伝えられては敵わないからね。
流石に私にも危機意識があるよ。
迂闊に教えないのは、魔女としての誇り。
誇りというか、生まれた世界なのだから愛着もあるし、愛すべき住人も居る。
当然の気持ちである。
私達は、お互い地球のことで盛り上がり、1時間はあっという間に過ぎる。
1時間なのはマレビトへの配慮だ。
異世界に来たばかりなので、慣れるためには、休ませるのが先決だ。
休ませることで、彼をなじませる。
この世界に。
この世界にて馴染めば少しはこころが癒せるだろう。
ここはいいところなので、是非好きになってほしい。
リズベッタも一緒に地球へ行って、マレビトの説明をする。
でないと彼は無断で仕事をやらずに行方不明になった扱いで今後苦労することになる。
時間は経過してないというご都合主義は残念ながら働いてくれないのだ。
そんなことが可能ならば、私がまずは使いたい。
警官は、楽しそうに会話をしにきた。
少し慣れた顔つきで、むしろ寝不足だったのにここにきて健康になったと笑う。
まあ、流石にそれは空元気とは分かっている。
生まれた国から離れることすらストレスを感じるのに、世界ごと変化したとなれば笑う他あるまい。
私も生まれて一年は地球への哀愁があった。
私の場合は一度人生を区切っているけれど彼の場合、途中から。
おまけに死んでない。
どう頑張っても故郷に二度と帰れないなんて、想像など出来ない体験。
私は彼の心のうちを配慮しながらも、この世界を過ごしやすいように手配する。
魔女としてではなく、同郷のよしみとして。
彼は私と同郷などということは、知らない。
教えるつもりはない。
教えても良いことはないと思う。
地球に戻る人に教えるにはリスクが大きすぎ、私の今後にめちゃくちゃ響く。
下手をしたら利用されて終わり。
なので、あくまで魔女の叡智だと説明している。
「リズベッタ、あいつは日に日にお前を信用してきてる」
「それは仕方ないよ」
タロンにとっては不思議な光景になるのだろうね。
相手は二度と帰れないと思い込んでるし。
まあ、帰れるとなれば、私達のことは記憶の端にでも、引っ掛けておく程度になるだろうさ。
でも、私も共に行って魔法を見せれば嫌でも騒ぎになるから記憶の端どころではないかもしれない。
人生をかなり変えてしまうかもしれないが、行方不明により無職になったり、不名誉な形で仕事を首にされるよりかはマシですね。
嘘つき呼ばわりされずに済むのだから。
それにしても私は何故そんなに地球へ興味があるのかと不思議がられる。
現地人にね。