ふかふかダンジョン下部
地下300m地点
漸く見つけた。
黒衣の褪せ人と呼ばれている貴方は薄まった神秘をまき散らす石碑を壊しつくし、そして神秘の源流たる場所へと赴いていた。
下部ダンジョンは今までの上層部と異なり巨大な白いミミズのような生物や巨大魚、神秘を纏う機械で作られた謎の人型などが襲い掛かってきた。
人の手が全く入っていない不安定な足場での戦闘は、貴方がたまに落下で死亡しまた長距離を歩く苦労を除けば特に問題はなかった。
というより酒を飲みながらの戦闘で足元がふらついていたのが主因ともいえようが。
最終的にそれらをすべて壊し、神秘の奔流その源へ到着した貴方が見つけたものは、一切の劣化もない大聖堂の中央で、瞳を閉じ座禅を組んでいる古い意匠のローブを纏った幼く耳の長い女の存在だった。
入口にあった祝福に触れて中へ入る。
とりあえず殺そうとした糞食い装備、呪いの褪せ人を制止し貴方は話しかけた。
君の出している神秘を止めてくれないか、と
すると耳長の幼い女はゆっくりと目を開き、謎の言葉を話し始めた。
「なるほど、ふむ、どの言語だったかな
これは? ちがう
これか」
謎の言葉を話し始めたと思ったらいきなり会話ができるようになった耳長の女に驚きの視線を向ける。
「ここにやって来る客人がまさかイレギュラーとは
いや、その戦闘能力を見れば疑問ではないか」
とりあえず話は聞いてくれそうで安心し、再度要求を伝える。
「ふむ、なぜだ?
儂の定めた法則によってこの世界はお互いの争いによって自滅することもなく、今のまま続いているというのに」
貴方は答える。
不快だからであると、貴方が定めようとした律もこの世界では適用されず、他人の律によって何かを強制されるのは不快であると。
隣の呪いの褪せ人もうんうんと頷く。
「ふっ、はっははははははは!!! 大義でも人類の為でも未来を見据えたわけでもなく
ただ不快だというまさかそんな理由でここまで来るとは!」
いきなり笑い出した耳長にもう一度声をかけようとするも
「しかもお主、いやお主だけではない、儂が苦労して作った神秘の流れ、その中継地点をことごとく破壊したな?」
貴方は首をかしげながらも頷く、貴方たちだけだと思っていた石碑破壊の旅は、他の誰かもやっていたらしい。
とりあえずさっさと消せ、と言い詰め寄る。
なぜならば
「まぁまてそこの赤黒いの、儂を殺してもこの場所では呪いは育たん、というより呪いの元がないのだから当たり前じゃないかの?」
既に呪いの褪せ人は我慢ならないようにミエロスの剣を抜いていた。
だが切りかかろうとしたその勢いは呪いの元がないという発言によってそがれていく。
ガクッっと力が抜けた身体が倒れるのを両手で支え膝をついたのを横目に貴方は再度神秘を止めろと言った
それは最終勧告であり、いつでも黒き刃を抜ける状態にしている。
「まぁ待て待て、そこまで殺気立たんでもよかろう?
…と言っても、この神秘を止めるなどするつもりはないんじゃがな!」
ゴオッ!
瞬間、突風が吹くと同時、貴方は見えない壁につぶされたかのような衝撃を受け、後ろへ吹っ飛ばされる。
攻撃された、そう感じると同時に体力を確認する。
体力は4分の1にまで減少している状態、回避主体で生命力に多くは割り振っていなかったとはいえ、この地で初めての強力な攻撃に酔いが覚めた貴方は警戒を強める。
耳長をロックオンし、黒き刃を抜く。
敵対したのならば、殺してでも神秘を止めるしかないだろう。
貴方は黒き刃の戦技、死の刃を発動しようとする。
「ほお、あの一撃で死なんとは、やはりバケモンじゃな
それ、二度目じゃ」
おもむろに立ち上がり手を上げ下に下ろす動作。
又しても不可視の攻撃をしてくる気配に慌てて貴方は黒き刃を黄銅の短刀に付け替え、戦技:猟犬のステップで大きく避けた。
ドンッ!
先ほどまで立っていた場所に1mほどのクレーターができる。
貴方は素早く緋雫の聖杯瓶を取り出し一口飲む。
「なるほどのぉ、輪廻転生、その力をわずかに借り、既に生まれた生命を新しく生まれたと定義することで傷を癒すのか。
確かに新しく生まれた生命に傷があったらおかしいからのぉ
では、私も本気を出すとしよう!」
悪寒、貴方を中心に円状に地面に爪痕が付き、円を描くように一気に迫る。
これは避けきれないと判断し貴方は黒き刃に素早く持ち換え、戦技:死の刃を発動する。
「むっ! 神殺しか!
いい得物を持ってるのうお主!
だが当たらなければ意味がないぞッ!」
耳長は軽やかに戦技を避けこちらへと走ってくるのを視認し、そこで全身に鋭い衝撃が走る。
貴方の体には無数の深い裂傷が作られ、出血してしまう。
体力を見れば残りミリだ。
できれば回復をしたいと向かってくる耳長を視認しようとしたとき
「ほいっとな」
!?
目の前で耳長が消えた。
いや
左後ろだ!
猟犬の長牙の戦技で距離を詰め、袈裟切りにしようとするが
「ほほ、届かん届かん」
刃は耳長の目の前で止められそれ以上進まない。
そのまま戦技によって後ろへと退避する。
「面白いのう、魂で見ているのか、視界に頼り切っていないのは感心じゃの
ほれ! 次は何を見せる!?」
煽るような耳長の言葉を無視し、思考を巡らせる。
死の刃は避けた、だが猟犬の長牙は避けなかった、そして死の刃を見て発言したのが神殺し、つまり…
貴方は手持ちが足りないことを自覚する、だが濃い神秘を扱い、更に不可視の攻撃を扱う相手だ、祝福を見つけて破壊でもされたらこの場所に戻れないかもしれない。
どうすればいいのか…焦りが募る。
そんな時、
「…なぁ、狭間の地へ帰れないんだが?」
その言葉は呪いの存在しない事実に意気消沈し、項垂れていた呪いの褪せ人からだった。
「ん? はざ…? ああ、そりゃあ赤黒いの、儂の神秘があるんじゃ、儂の力によって入ることも逃がすことはありやせんよ
っというか今気づいたのか?
そもそも儂が供給していた神秘はそういう外宇宙からの侵攻を防ぐ意味もあったはずなんじゃが、本当にどうやってきたんじゃお主ら」
その言葉に思わず硬直してしまう、王になったのちにこの地にやってきた、どうせいつでも戻れるだろうから観光がわりでもあったのだ。
特に待っている存在や、やることがあるというわけではないが。
しかしまさかの帰れないという返答に驚愕する。
すぐに地図から狭間の地の祝福へ転移を試みるが、転移罠にかかった時のように、狭間の地の祝福の反応のみ消えている、そして
「…ハッハッハッ!
まさか仲間の黒いのがあんなにやられているのを見ても、殺意をみなぎらせ迫るとは!
面白い奴らじゃ!」
呪いの褪せ人は立ち上がりミエロスの剣を片手に、もう片方に巨人の聖印を持ち耳長へと迫る。
その背に貴方は30秒稼いでくれと頼み込んだ。
「…わかった」
その返答に貴方は聖堂に壁の外にある祝福へと駆け出す。
「はは! 面白い、ここに儂を30秒も釘付けにできるとでも?」
30秒 耳長はミエロスの剣を躱し貴方へと迫る。
対して呪いの褪せ人は祈祷:火の雨を発動し道を塞ぐ。
25秒 「ほう! 火の雨とは! だがこの程度…ガッ!」
火の雨に手をやり、雨を降らせていた雲が霧散する。
だがその一瞬の足止めに祈祷:坩堝の諸相・角が刺さった。
「なに、をおおおッ!」
20秒 上へと打ち上げられた耳長に対し呪いの褪せ人はダメージがないことを見抜いている。
祈祷:悪神の火を貴方と耳長の間で発動する。
「ガハッ! チッ! この程度か?」
地面へと叩きつけるように落ちた耳長が素早く起き上がる。
17秒 耳長が発動した悪神の火に手を向ける。
先ほどの火の雨のように消すつもりだろう。
祈祷:神鳥の羽を発動させ両手を塞ぐと同時に距離を詰める。
「ッ! ああッ! 鬱陶しいんじゃ!」
両手で扉を開けるように手を動かし、神鳥の翼がすべて逸らされる。
そこに既に発動していた祈祷:坩堝の諸相・喉袋で視界を塞ぐ。
「この程度、問題ないわッ!」
14秒 無理やり突破すると思っていた、呪いの褪せ人は既に悪神の火が爆発することを知っている。
ドォンッ!!!!
目の前で爆発を受けた耳長は、服は焼け落ち、体の正面が焼けただれ、両腕も折れている、だが
「ゴホッ…けほっけほっやってくれたのぉ!」
逆再生のようにすぐに巻き戻った。
耳長が腕を振るう、しゃがんだが全面の攻撃だったようで吹き飛ばされる。
12秒 やはり、狭間の地に似た存在だと再認識すると同時、相手の体力を確認する、だがやはりそこまで減ってはいない、あの不可視の攻撃を続けられたらじり貧だ。
そうならないために、呪いの褪せ人は攻め続けなければならない
幸いにも呪いの褪せ人は糞食い装備なだけあって体力にも随分と振っているのか不可視の攻撃が直撃しても、体力は半分以上残っている。
10秒 ようやく貴方は祝福に到着する。
9秒 悪神の火によって生まれた炎の地面を飛び越え貴方の元へ向かう耳長を止めようと割って入った呪いの褪せ人が戦技:ミエロスの絶叫と王家の忌み水子を連続して発動させる。
8秒 耳長の一振りで王家の忌水子がまとめて消失、その隙にミエロスの剣で切りかかるも吹き飛ばされる。
7秒 吹き飛ばされた呪いの褪せ人が体ごと火を纏い、地面に手のひらを押し付ける。
呪いの褪せ人、その体力は残り半分を切る。
6秒 炎が吹きあがるが耳長は意に介さず突破する。
5秒 そこに燃えている呪いの褪せ人が組みつく
4秒 「暑苦しいッ!」 耳長が自分ごと爆発させるように呪いの褪せ人を吹っ飛ばす。
耳長自身の影響を加味したのか体力減少は殆どない。
2秒 あなたは装備の入れ替えを完了すると同時に黒炎の刃を獣人の大曲刀に発動する。
1秒 「それがお前らの力の源かぁ!?」 突っ込んできた耳長はもうすぐ目の前だ、だが
0秒
その顔面に貴方は黒炎エンチャントの獣人の大曲剣を叩き込む。
「グッアアアアア!!!!」
耳長の体を黒い炎が蝕む。
そこに追加で死の刃も発動する、避けようとするもすぐ後ろに追いついた呪いの褪せ人が羽交い絞めにする。
「や、やめろぉおおおお!!!!」
死の刃は耳長を貫いた。
バリバリバリッ!!
何かが無理矢理剥がされるような騒音が響く。
倒れ伏す耳長に目を向けた貴方は驚愕した。
耳長が纏っていた神秘が消えていってるのだ、まるで石碑を壊した時のごとく。
「なあっ!! きさ、貴様のせいでっ!
儂が何十年も溜めながら強めていた神秘が消えたじゃないかああああ!」
更に体力も一気に下がり、このままでは死の刃のスリップダメージで死んでしまう。
まだ帰る方法も聞いていないのにそれは不味い、と急いでぬくもり石を設置すると、耳長は気絶するように眠り始めた。
よく見ると呪いの褪せ人も先ほど発動させた祈祷は火の大罪だったようで、ぬくもり石でかろうじて死を抑えているという状態だった。
褪せ人が2人いて、初見とは言えギリギリだった事実に、貴方は倒せて良かったと安堵のため息をついた。
数時間後
「いや、あの悪かったの、いきなり襲い掛かったりして」
呪いの褪せ人と貴方に囲まれながら、耳長は胡座をかいて座り込んでいた。
綺麗だった大聖堂は耳長との戦闘でかなり傷ついている。
「で、さっさと戻れるようにしてほしいんだが」
「…まったく、儂はお主らに傷物にされたんじゃぞ? 少しはゆっくりさせてもええと思うがの」
文句を言う耳長の首に呪いの褪せ人がミエロスの剣を置く。
「あっ! ちょっ! もう帰れるようになっとるじゃろ! ちょっとした冗談じゃよ!」
急いで言い放たれた言葉に、脳内で状況を確認すれば、確かに狭間の地の祝福の反応は復活していた。
安堵し、更に神秘も世界中に漂わせることができないほど弱体化した耳長を見て、次はどうしようかと思案する。
呪いの褪せ人はまだこっちの世界は未知のものが多いからまだ観光は続けるそうだ。
そこに耳長がすり寄ってきた。
「お主ら、神秘の消失で世界は滅亡の道へと向かうことになるのじゃ…何か思うことはないのかの…?
あ、ない…
じゃ、じゃがな! 神秘の消失はお主らのせいだということはわかるじゃろ!?
ならば儂について今後の世界の立て直しに協力しても罰は当たらんと思うんじゃがのぉ!
呪いの褪せ人とやらも、元々は弱かったしろがね…? とやらに同情したから呪いを振り撒こうとしたのじゃろ!
え、ちがう…? 巨人や坩堝の騎士が強かったから…?
あ、みんな強いほうがもっと楽しいと思ったんじゃな…それ呪いなんじゃが…理解しておるのか…?
いや、ほら今デザインベイビーっていうか亜人共も迫害されておるじゃろ?
あ奴らは人間と戦ってもまぁまぁ勝てるぐらいの強さなんじゃが大きく数を減らしておってのぉ、これもお主らが原因なんじゃが!
いい感じにバランスをとる手伝いぐらいしてくれんか!?」
呪いの褪せ人は特に何も考えず頷く。
呪いの元が存在せず、育てることができないと言われたが、巨人や坩堝の騎士に似て強そうな亜人はまぁまぁ多かった、殆ど肩透かしだったが、それに耳長、見たことがなかったがかなり強い、着いていけばまた戦える可能性もある。
ついでに呪いの褪せ人はその道中でやっぱり呪いの苗床を育てたかったのでいくつかの死体にその呪いの苗床の欠片をちぎり、放り込んでいた、その確認もしてみたかったのだ。
不可能と言われたが実体験するまではやめれない、褪せ人の性であった。
黒衣の褪せ人である貴方もとりあえず頷いた。
耳長の強力な攻撃法、その戦技、もしくは祈祷か魔法をもらえるかもしれない。
もともとまとわりつく神秘が不快だっただけで、短期的な目標として神秘を消していたのだ。
耳長の神秘が剝ぎ落され、蔓延していた神秘ももう耳長の周囲にしか漂っていない。
次はこの耳長の言う通りに動いてみてもいいだろう。
あわよくば耳長の強力な攻撃法、その戦技、もしくは祈祷か魔法をもらえるかもしれない。
貴方はそんな下心から頷いたのだった。
容易く頷いた二人の褪せ人を見て、耳長は驚いたように話始める。
「え、いいのかの?
本当に? さっきまで戦っていた奴の手伝いじゃぞ?
普通に殺されると思ってたから適当に意味深なこと言ってバランスとらせようとしたんじゃが。
ま、まぁ! 手伝ってくれるというのなら是非もないわい!
よろしく頼むぞ!
儂の名は耳長ではなく、エンシェントエルフのルイルじゃからな! ちゃんと呼ぶように!
お主らは何て名前なんじゃ?」
その問いに貴方は本当の名は忘れた、今は町ではクロと呼ばれていると答える、呪いの褪せ人は名前も忘れ名付けられてもいなかったようで首を振っていた。
「ふーむ、なら呪いの、儂が名づけをしてやろう!
お主はノロじゃ! よろしく頼むぞ~ノロ!」
呪いの褪せ人改めノロはルイルの言葉に頷きを返す。
「よし! じゃあ自己紹介も済んだところじゃ!
さっさと上界に上がろうぞ! 今はどんな風になってるのか、神秘では見てたんじゃが実物を見たことはなかったんじゃよなぁ
最近はその監視もサボり気味じゃったし、今じゃ殆どの神秘をはがされ、その残りからは世界の危険因子を見つけることぐらいしかできんよ」
そういってルイルが歩き出して、途中で神秘に頼りすぎていたのかすぐ体力切れで動けなくなったルイルを背負った貴方が外界に出る、すると
「なんかめっちゃ世界終わらせそうな奴の反応があるんじゃが…? なんでじゃ…? いきなりすぎじゃろ…?」
ルイルはいきなり顔を蒼白に染めながら、ある方向を指さす、貴方と呪いの褪せ人、ノロはその方向へとトレントを駆り、走り出した。
この世界、まだ随分と楽しめそうだと思いながら
尚、ルイルの攻撃はこの世界のオークが当たれば一瞬で血煙になります。