振り返るとそこに居たのは昨日酒場で女性解放戦線と言い争っていた金髪の小さな少女と黒髪メガネの少女、特に黒髪メガネの方は不安そうな顔でこちらを見ている。
様はつけないで良い、何か用かと貴方が聞くと
「あ、わかりました…その、昨日彼女たちを鍛えるって言ってましたよね…どうでした?」
答えられた金髪少女の言葉、どうでしたという意味に、貴方は悩む。
弱い、という感想がまずあったが戦い初めの頃は皆弱い、何なら成長速度で言ったら貴方よりも早い存在が何人か居たほどだ。
訓練の最後には貴方の雑な剣筋とはいえ幾度か避けることにも全員が成功し始めている。
言っていた主張はよくわからなかったが、その主張に向けてひた走れるのはいいことだろう。
貴方の悩みながら出した答えを聞いた金髪の少女は
「ほら、そんなに心配しなくても、普通に鍛えられてるだけじゃない、心配しなくても大丈夫よ」と黒髪メガネに声をかける。
貴方はなぜそんなことを? と逆に問いかける
「か、彼女たちが連れていかれた宿の周りで、悲鳴が聞こえるって聞いてたので気になって、騙されてたりしたら怖いじゃないですか…」
その答えに、なのに直接聞きに来る度胸はあるんだな、と思いつつ、貴方は串を食べていると。
「あ、あの! 私アロって言います!
魔法なんて初めて見て…魔法って私でも使えるようになりますか!?」
「あ! 私はグラスです! 貴方が訓練してくれてる女性解放戦線に居たんですけど、抜けて今は観光みたいなことをしてます!
私もその魔法について詳しく聞きたいんです! 良ければそこの軽食屋、とてもおいしいので一緒に話しながらご飯でもいかがですか?」
いきなり二人から魔法について尋ねられた貴方は、とりあえずおいしい軽食屋とやらに惹かれ、テーブルに着いた。
お勧めされた料理を注文しひとまず、彼女たちが言っている魔法、恐らく昨日見せた祈祷の事だろうと予測して話す。
あれは正確には魔法ではなく、祈祷という祈りによって恩恵を得る奇跡と近しいものであり、残念ながらこの世界で使えるようになった人は、見たことがないと伝える。
「この世界、そうですか…あの魔法…じゃなかった祈祷って、やっぱり選ばれた人にしか使えないんですか?」
アロの問いに貴方は自分のいた場所では、伸ばした能力によっては誰でも使うことができると答える。
「へぇ、すごいところだったんですね、万能の騎士がいた場所って。
能力はどうやって伸ばすんですか? やっぱり瞑想とか?」
いや、襲い掛かってくる敵を殺せばルーン、ある種の存在の源のようなものが得られる、それを使って伸ばしていく
だがこの世界にルーンは存在していない、それによって自分が使える祈祷などの必要な能力をたりさせることができないのではないか
貴方の言葉に微妙な言葉を浮かべたアロは
「あ~それは聖教会の聖典の話ですか?」
と若干引いた表情で問いかけてくる、どうやら頭のおかしい奴と思われたようだ。
しかしこれ以外に説明の仕方がない、そもそも貴方は口下手なのだ、話をすることに頷いたのもおいしいと話された料理に惹かれただけであり、そのお礼として会話をしているだけなのだ。
「あの、私たちでも使えるような、特別な武器とかって…ないですよね…?」
グラスと名乗った少女はおどおどしつつも質問する。
貴方はそういえば、とインベントリを確認し屑輝石を取り出す。
精神力を消費するとはいえ4程度、初期ステータスで2番目に低かった貴方の精神力でも、何も伸ばさずに19回は使用できる程だ。
他に使わせた試しはないが大丈夫だろう、とアロとグラスへそれぞれ一つずつ渡す。
そして少し席を立ち離れた場所で中盾を魔力カット率77パーセントの指紋石の大盾に変更し、タリスマンも自動HP回復に付け替えた。
握りしめて、意識を向けた方向に攻撃が出る、だが精神力が削られるので注意してくれと言い、貴方は指紋石の大盾を構える。
「え、握りしめるって…こうかな? キャッ!」
アロは手に持った屑輝石を不思議そうに眺めながらも、握る手のひらに力を籠めた。
屑輝石が割れ、青白い光が三つ浮き上がる。
こっちに意識を向けないと危ない、そう声をかけ、アロはこちらを視認する。
同時に浮かんだ三つの魔力の弾がこちらへと飛んでくるが、指紋盾でガードしたことでほとんどダメージは入っていない。
グラスもアロを真似し、屑輝石を砕いてこちらに魔力の弾を発生させた。
貴方は受けるが先ほどよりダメージは少ない、知力が少ないからだろうかと頭をひねった。
「すごいです! これなんですか!?」
そう問いかけられた貴方は屑輝石という名の、頭の良さに応じて威力の変わる魔力の弾を打ち出す石だと答える。
対してアロは
「すごいですけど、なんていうか威力が低くないですか?
貴方の盾はビクともしませんでしたし…」
と少し微妙そうな顔をしている。
貴方は知っている利点をとりあえず答える。
まずは射程距離、これが一番の目玉ともいえる要素だろう。
直線距離で100mはあろうかという距離を目標に向けてまっすぐ飛ぶ。
それもある程度の速さでだ。
それに隙の少なさも良いポイントだろう。
握りしめるだけ、それによって生じた魔力の弾は念じるだけで飛んでいくのでいざという時に握りしめ、怯ませて隙を作ることも可能だ。
「100m!? うそでしょ、確かに隙を作ったり、意識を向けた場所に飛ぶなら隠れた敵の場所を示すのにも役立つかも、目に入れたら目つぶしにもなるし、すごいアイテムじゃないですか!」
アロは既に貴方が考え付かなかった使用法を発想し始める、グラスは
「100mかぁ、あんまり想像できないなぁ」
ぼんやり呟いた。
と、反応を受けたところで料理が届いた。
料理を食べながらも貴方はあることが気になる。
それは彼女たちのというよりはこの世界に生きている人間の精神力に関してだ。
とんでもない速さでお代わりも食べ尽くした貴方は、アロとグラスの二人に、少しモンスターを実験台に、精神力に関して実験に付き合ってくれないかとお願いをする。
少し渋る彼女たちに、貴方が安全を確保しながら、その間にモンスターを何匹か捕らえ、安全な状態で実験するからと念押しし、何とか実験に参加してくれることとなった。
何よりも大きかったのは貴方が報酬として狩ったモンスターと屑輝石を10個ほど渡す、と言ったからだろう。
貴方がギルドへ話を通した後、アロはパーティーメンバーに話を通すため、宿へと向かい、貴方とグラスは一緒に大門前で待つことになった。
アイギス大門前にて
「あの、本当に女性解放戦線の仲間たちにはひどいことしてないんですよね?」
グラスは再度貴方にそう問いかけるが、貴方は頷き
自分がいた場所で実際に経験して覚えたことを、回復の祈祷も合わせながらかなり弱めに手加減しながら教えていると伝えた。
「よかった…やっぱり手加減してくれてるんですね…」
そういうとグラスは顔を綻ばせた。
無言の時間が十数分ほど流れ
「あ! いたいた! 万能の騎士! 本当に悪いんだけど、私のパーティメンバーも同行させていい?」
アロの声に振り返った先にはジャンパーティと、そのレイドを組んでいるクロスが勢揃いしていた。
「ジャンパーティのリーダーをやってます。
ジャンです。
いきなりで本当にすいません、取ったモンスターは貴方にまとめて差し上げますので、どうですか?
もちろんギルドには報告済みです。
無理なようでしたら、申し訳ないですがアロは同行させられません」
ジャンがこちらに頭を下げつつも、断固とした口調で言い放つ。
後ろを見れば冷めた目で見ているレイドパーティメンバーの4人がいた。
どうやら、貴方は森に女性二人だけを連れて行こうとしたことで、よろしく無い事でもするのでは無いかと疑われてしまったらしい。
もちろん許可するし、モンスターは差し上げよう。
そう伝えた貴方の言葉に
「え!? あ、本当ですか!? ありがとうございます!」
とジャンは再度頭を下げる。
後ろの面々の表情は和らぎ、というよりも驚愕に塗り替えられていた。
「ね? だから大丈夫って言ったでしょ!」
アロの言葉に付き人のような二人の女性が曖昧に頷いた。
貴方を見据え、お付きの格好の黒髪のほうがおずおずと尋ねる。
「あの、万能の騎士様は、女性ですよね、なぜ女性用の鎧を着用していないのですか?」
貴方はその質問に、初めてシンシアに聖教会へ連れていかれた時のことを思い出した。
聖教会で語った事をなぞるように貴方は話す。
女用の鎧という存在を知らなかったこと、無くても問題なく一人で放浪できたこと。
その答えに黒髪の付き人は少し疑念を持った表情で尋ねる。
「…あなた、本当に人間なんですか?」
全く聖教会の時と同じ問いかけに少し笑いながらも、貴方は兜を取った。
「うわっ美人…」
思わずといった口調でアロが呟く。
顔を見せた貴方はさっさと兜を被り直し、固まっている残りのメンバーにはやく出発しようと声をかけた。
正門を出発してしばらく
貴方は先頭に立ちつつ、周囲に偵察を行っているジャンを観察していた。
なんというか…普通だ、女性が多いパーティなのに長期間生還できていることから、何か特別な技能や超人的な身体能力でもあるのかと期待したが、特にそういうものはありそうに見えない。
今日、出会った弓王ボーゲンも、この世界では強いと言えるだろうが、狭間の地の褪せ人達のような技量は持っていなかった、弓を出したら変わるのだろうか。
頭の中で適当に考えつつ、偵察をしていたジャンたちの目を逃れ、カモフラージュして隠れている3体のゴブリンに古びた直剣に装着していた戦技:落雷を発動する。
ドシャンッ!
直撃を受けたゴブリンの1体は体が焼け焦げ、既に生命活動を終わらせているが、周りにいた二体のゴブリンは落雷による体の麻痺だけで済んだようだ。
生きたままならば運が良いとマヒしたままの二体のゴブリンを担ぎジャンたちに声をかけると、近くの比較的安全に平原へと出た。
「なぁ…どうやって見つけたんだ?」
大きなクロスボウを担いだクロスが尋ねる。
だが貴方はうまく答えられない、強いて言うならば…殺気?
そう答えるとまたしても微妙な顔をして、クロスは隊列へと戻った。
森を抜けた見晴らしの良い練習用の広場、その的として木に括り付けたゴブリンを設置し、貴方はまず50m程度の距離からアロとグラスに屑輝石を渡す。
「生きたままの亜人を殺すのはちょっと気後れするけど…折角、私のために捕まえてくれたんだし覚悟決めるわよ!!」
「は、はい!」
どうやら貴方が捕らえた実験台のモンスターがゴブリンで、更にまだ生きていることに顔を青くしていたアロだったが、腹を決めたアロが激励し屑輝石を握りグラスがそれに続いて同時に屑輝石を割った。
浮遊した6つの魔力は50m離れている片方の亜人の的に寸分違わずすべて命中した。
「おお、すげぇな本当に魔法だ」
ジャンパーティは驚きつつ、屑輝石を知りたくてたまらないようだったので、1つだけ屑輝石を渡す。
アロに説明したことを教えといてくれと頼み、貴方は計6発の、魔力弾が命中した亜人の元へと向かった。
手で触れられるほど近づくと、集中的に狙われた片割れを見て憤怒の表情をしているゴブリンを無視し、集中攻撃された方の体を捌きつつ、影響を見る。
この世界ではルーンが無いため見えない所が自動的に修復されることが無い。
だからこそどのような影響を与えているのかを知ることが、この世界の敵を容易く殺すことに一役買うだろうと。
何よりその知識は貴方が鍛えている少女たちの体に叩き込むことによって、少女たちの力にもなる。
久方ぶりに、貴方は戦いの知識を貪欲に求めていた。
集中攻撃された方の外見は、連続して攻撃を受けた胸の中心部分が抉れ、穴が開いている。
内臓を捌き、中をよく見てみれば、穴を貫通した周囲の臓器も、衝撃を受けたかのように破壊されていた。
つまり、一当てでも内臓を揺らして体勢を崩すことはできそうだ。
貴方はとりあえずまた死体を吊るし直して、屑輝石を囲んでいろんな角度から見ていたアロとグラスに今度は100mの位置から今度は死体に向けて射ってくれと指示し、離れて屑輝石を割る。
6発の魔力弾が死体へ殺到する。
またしても寸分違わず貫いた屑輝石に
「~~ッ! マジかよッ!?」
驚愕し、冷や汗を流すジャンパーティ。
とりあえずもう一度確認しに向かうと、狭間の地と同じく、距離減衰はして無く見えた。
これでそれぞれ計3回は屑輝石を割った、あとは何か言われるかだな、と思案し、今度は5つずつ屑輝石を渡す。
そしてアロには三つ出た魔力弾の内の一つだけをまだ生きている亜人に、それ以外を死体にと指示をする。
グラスはそのままだ。
5つの魔力弾が殺到する死体をしり目に、貴方は一つの魔力弾で貫かれた亜人を観察する。
やはり物理攻撃ではないからか、威力が足りていないのか、胸に穴をあけるほどではないが、1発で胸骨を粉々に砕き、呼吸も阻害することが出来ていた。
この世界の存在は脆い、そう認識すると共に、アロたちへ残りの屑輝石をすべて割ってくれと頼む。
ところがグラスは、もらった屑輝石5つの内5つ目を割ろうとしたところで、ふらつきへたり込んでしまう。
割れたのは合計7つ、精神力は28程度ということだろうか?
疑問に思いながらも、グラスの体調を調べるが、精神力が低下したと予測できる以外何もわからない。
周りのジャンパーティもどうしたのか続々と集まってくる、アロにいったん屑輝石を割るのを止めてもらい、グラスにどんな不調が出たのかを聞くと
「いえ…不調はないんですが…とても神経が疲れたというか…やる気が出ないというか…」
貴方が経験したことのない不調に疑問を思うも、一つの仮説が思い当たる、それはこの世界の精神力はスタミナと似たような存在となっているのではないかということだ。
ある意味重要な話だが、とりあえずアロにも割ってもらう。
いざとなれば精神力は回復させられると、説明し続けてもらえないか頼み込む、その貴方の願いにアロは
「ええ、私も少し疲れるくらいなら問題ないわ! 限界がどこまであるのか知りたいし!」
と笑顔で承諾してくれた。
アロはそこから最終的に5個もの屑輝石を割ることが出来た。
合わせれば12個、先ほどのグラスの倍近い数だ。
何がこの差を生んだのか考えつつも、さらに驚くべきことは
「あ~確かに疲れたような、何のやる気も起きない気分だけど、倒れるってことは無いわね」
アロが屑輝石を割れなくなった時、倒れこむことが無かった。
精神力の差なのか、わからないが特筆すべきこととして、アイテムで精神力を回復させていなかったグラスも、アロが屑輝石を割り終わるころ自然に立ち上がれるまでにはなっていた。
この世界の人間は精神力が自然に回復するのかもしれない
その事実に驚きと期待感を持ちつつ、精神力の消耗は、訓練に使えそうだと頭の中に書き留めておく。
そうしてアロとグラスに実験の謝礼として屑輝石をそれぞれ10個ほど渡して帰路に就いた。
帰り道ではジャンと貴方のそれぞれの冒険の話で盛り上がった。
貴方が初めて聖女シンシアと出会い、ゴブリンオークの集落から一緒に逃げだした話。
その後海を渡って協会に住みながらいろんな場所で亜人を殺しに行った話。
ジャンからは初めて会ったドラゴンの話
その話を聞きつけてきたドラゴンスレイヤーが速攻で殺した遺骸を見て、驚きと哀愁を感じたという話
未探索区域で踊るデーモンと出会い、戦ったその報酬として、紫水晶ももらった話
お互いに話は弾み、楽しい帰路となった。
「あ~今日は疲れた~もう何もしたくない~」
正門をくぐりそう口に出したアロに
「あら、お嬢様がそう言うなんて珍しい、やはりあの屑輝石とやらの影響でしょうか…? いつもはアグレッシブすぎますから偶にはこういう日があってもいいかもですね」
ナギが答える。
「今日はありがとうございました、途中で見つけた魔獣やモンスターも全部譲ってもらっちゃって…本当にいいんですか?」
貴方は良いんだと首を振り、自分のとっている宿はこっちだから、ギルドへの報告はお願いしていいか? と頼む。
「もちろんです、また縁があったらよろしくお願いします!」
頭を下げるジャンに手を振って、歩き出した貴方はジャンパーティと別れてすぐなのに、アイテムを使用できるのならば、形として残っているルーンを使用させることもできるのでは? と思いつく。
貴方は手伝ってくれたジャンパーティやグラスにもう一度手伝ってもらうかと考えるが、よく考えれば広い距離で狙撃のような使い方をする屑輝石と違い、ルーンは体に取り込まれる形だ。
ならば聖騎士たちの修練所兼宿にとめている女性解放戦線の面々やシンシアに使わせても大丈夫だろう、そう考えた貴方はジャンたちにかけようとした言葉を飲み込み、逆方向にある勇者パーティの宿へと戻っていった。
「くか~んにゃんにゃ」
宿に戻ると少女たち5人はまだ寝ていたので、貴方は腐敗した結晶剣を抜いた。
感想めちゃくちゃ待ってます。