大司教アークは報告書に書かれている内容に頭を抱える。
その報告書は、本来数ヶ月前に教会へ郵送されるべきもので、第35開拓村の司教があまりにも馬鹿げた内容に破棄されたはずのものだった。
偶然、破棄せず保持していたギルド職員によってアイギスのギルドマスター、ルドスの呼び掛けから渡り、数ヶ月の時を経てアーク大司教の目の前に届いた。
そこにはこう書かれている。
オーク帝国壊滅及び捕囚となった女性たちを救出した魔法使いに関した報告書
と。
内容はまさに、荒唐無稽であった。
数か月前の◇月▽日 深夜
青肌の亜人らしき女とその従者と思われる豪華な装飾の施された鎧をまとった騎士、そして全裸に近い姿の女性複数人が第35開拓村の衛兵に発見される。
会話によって判明したのは第35開拓村の北北西に存在していたとされるオーク帝国、そこから女性たちを救出してきたという話であった。
手段を聞いたところ騎士が杖を振り先から現れた青いつぶてが空へと浮かび上がったという。
その後、主人と目される存在が亜人であることを理由に開拓村へ入れることはできないと話す。
当時は衛兵が少なく、二人体制だったため片割れの一人が急いで宿舎に居る仲間の衛兵を呼び出していたそうだ。
開拓村に入れないと聞いた青肌の亜人とその従者の騎士は衛兵の言葉に頷き、着いてきていた女性に何事か話すと黒髪の女性一人を連れて残りの5人の女性を残しどこかへと消えたという。
消えたというのは比喩表現ではなく、騎士が幾度か杖を振ると騎士を含めた3人の姿が消えたのだという。
残った女性たちは保護されたが、内2名は亜人の洗脳が解けておらず、破壊工作をしているところを見つかり、火炙りに処された。
残りの3名は冒険者と村人であり、冒険者から詳しく話を聞いたところ、オーク帝国と名乗っていたオークゴブリンの集落には高速で大量の弓矢を発射する装置、それを鉄の道の上で高速で移動させられる装置、平坦な道の上ならば馬以上の速度で馬に負担をかけずに走れる戦車などが存在しており、青肌の亜人とその騎士はそれらをすべて破壊し、最後にはモンスタースタンピードを発生させてオーク帝国を壊滅させたと報告された。
この報告の真偽を確かめるべきとの声が相次いだが、亜人共に与した女性の破壊工作が発覚し、罠の可能性もあり真偽不明のままとなった。
「セイちゃんはどう思う? これ」
頭を抱えたアーク大司教の絞り出すような声に勇者セイは
「どうもなにも、完全に褪せ人さんの同類じゃないですか
しかも二人、片方は亜人って言ってたし、亜人の可能性もあるから亜人側に付きそうだけど、助けたんですよね?」
「…そうなんだよね…しかも聖教国にその名が届くぐらい巨大化していたオーク帝国を、たった二人で潰したって書かれてるし、しかもモンスタースタンピードも起こしてるからねぇ、多分確定だと思っていいよ」
「そういえば褪せ人さんと同郷の人たちはみんなモンスタースタンピードを起こす材料とそれを活用した武器を知っているって言ってましたね…
まぁでも大丈夫じゃないですか? オーク帝国も潰して、人間の女性を連れて行ったんでしょ? 大方シンシアちゃんみたいに付いて行きたくなった人がいたんだと思いますし
そもそも数か月前のことを殊更に考えても意味ないですよ、今のこと考えましょ」
「…それもそうだね、セイちゃんは褪せ人殿に師事を受けている少女たちの様子を見に行ったそうだが、どうだったかね? 3日しかたってない今、急激に変わるようには思えないが…」
「ああ~…いや、多分現段階ではここにつれてきた聖騎士ですら単体で倒せるようにはなってますね、シンシアちゃんはなんなら無傷で」
「…は?」
またしてもアーク大司教はその情報に呆けた声を出してしまう。
「いや、確かに傷はついてない、っていうか回復の祈祷? を使って直してるんで終わった時には傷一つついてないんですけど
ずっと真剣で打ち合い続けてるんですよね、褪せ人さんの持っている武器はめちゃくちゃヤバそうな気配してるし、切られた方もめちゃくちゃ痛いはずなのにちゃんと次の攻撃に繋げてたりしてますからね…
よく食らいついてると思いますよ、あ、いや逃げられないからか」
一人で納得したセイにアーク大司教が詳しく話してくれと眉間を揉みながら訴える。
「褪せ人さんに直接聞けばいいじゃないですか?
ああ、「褪せ人さんの主観だとあの人の生きていた常識を知らないから致命的な間違いを起こしそうで怖い」んですね」
「セイちゃん…うん、その通りなんだけどね…
いや、先に話を聞こう」
そうして眉間を揉んでいた手を組み、真剣に聞く姿勢となったアーク大司教にセイは話し始める。
「え~と、聞いた限りなんですけど最初の一日は全員一斉に襲い掛からせてそれを延々と返り討ちにする訓練だったみたいですね。
お陰で随分と戦闘そのものに慣れて体を切りつけられて痛みを感じても痛みで剣を取り落としたり戦闘時不利になるような行動はしなくなったらしいです。
二日目は寝てるところを奇襲して誰も対策できなかったみたいなので褪せ人さんの持ってる特殊効果がある武器や強制的に眠らせたり体を凍らせたり腐らせたりする武器、まぁ腐らせる武器は前日も使ってたんですけどそれらを活用して睡眠状態からどれだけ早く起きられるようになるかとか、体を凍らせて更に腐らせる武器も使用することで少しでも動くとめちゃくちゃ痛い状態で強制的に一対一で延々と、戦い続けたりとか、猛毒出血で命を削りながらの戦闘とか、その間に睡眠状態にして自分の番が来るまでに起きれるようになるかをずっとやったらしくて、最後の方は強制的に眠らされた状態じゃなければ殺意? とかで起きれるようになって剣を向けられるまで少しでも寝るようになってましたね。
精神力とやらも無理やり使わされて、体の動きややる気も鈍くなった状態でそれですから、正直引きました。
ついでに英雄のルーンを与えたって言ってましたね。
とんでもなく動きや武器の扱いの上達速度が異常に速くなってたのでこの3日でここまで成長した秘密の一つみたいなんですよね。
3日目、まぁ今日はそれぞれに合った武器を見つけようってなったのか色々な武器を持たせて戦い続けて、最終的に短槍一人に双曲刀一人、刀一人、大鎌とか言う色物武器一人のごっちゃ煮みたいになってましたね。
ああ、シンシアちゃんは真っ赤なドレスみたいな服を着せられて円刃っていう見たこともない武器を持たされてましたね。
で今日も体に負荷をかける特殊効果の武器でボロボロにしてました。
僕が聞いたのはこれぐらいですね、まぁ結構聞こえた声の情報も入ってますけど
あ、あと聖騎士達の宿の夜ずっとやってるみたいなので宿を変えるか褪せ人を別の訓練所に移してほしいって嘆願書もいくつか来てますよ」
セイが話した情報量の多さにしかし、アーク大司教は人々へ利となる様な情報を確実に読み取る。
「セイちゃん、褪せ人殿のそのルーンとやら、具体的にどんなものに見えた?」
「う~んと、取り敢えず悪いものじゃないです。
存在感の塊というか、神聖で神秘的過ぎてそれを取り込ませたって聞いたときは絶句しちゃいました」
「なるほどねついでに詳しい説明も欲しいんだけど、そっちは私が褪せ人殿に直接話を聞こう
彼女は今どこに?」
「え~っと、確かがいこうぶきょくちょう? のめっちゃ話が上手い人がS級全員の交渉に失敗してめちゃくちゃ落ち込んでたので、一日休ませて今日は交渉に行った騎士とか呼んでお疲れ様会するって言ってました。
それに参加してると思いますよ。
予約必須な料亭? を用意したらしくて褪せ人さんめちゃくちゃワクワクして行ってましたけど、呼んできます?」
「…明日に、しようか…」
アーク大司教は今日も苦労人だった。
料亭、お疲れ様会会場
「えーでは今回は落ち込んでいる局長ネゴ神父に変わりまして、私、副局長シエ神父が始まりの音頭を取らせていただきます。
では、お疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした!」」」
始まりの音頭とともに予約していた料亭の大部屋はにわかに騒がしくなる。
「いや~それにしても弓王ボーゲンがあんな狂人だったとはなぁ」
「やっぱりS級はどこか狂ってないと成れねぇもんなんだろうなぁ…」
「ちょ、お前らッ! 局長が落ち込むからその話はするなって言っただろ!」
「あ」 「やべ」
「はぁ…、どうせ私は口が上手いだけの無能ですよ…
弓王ボーゲンにはみっともなく頭を下げて、盲導人バトにはそれで同情されながらまた断られて…
最後のS級、剣姫カタナに至っては話すら聞いてもらえない始末…
タダの給料泥棒…それが私…
はぁ…」
「い、いやいや!
局長のあの土下座のお陰で敵対せずに済んだんですからあの状態から持ち直せたのは本当にすごいですって!」
「そうですよ!
確かに誰も説得できませんでしたけど、全員生きてますから!
弓王ボーゲンとの交渉のあとにはもっとギリギリなライン見極められるようになってたじゃないですか!」
「はぁ…
誰も説得できなかったんだ…
大司教殿や枢機卿殿にどう説明すれば…」
「「まぁまぁまぁまぁ!」」
そんなそこだけ落ち込んでいた局長のネゴ神父に近づく騎士、そう貴方だ。
せっかくの美味しい食事に美味しいお酒を前にして何辛気臭いこと言ってるんだ。
貴方は、言うもののネゴは未だにグチグチ言っている。
貴方はその口に手に持っていた酒瓶を突っ込んだ。
「ごッ!? もがッ!?」
ゴクッゴクッゴクッ
無理やり突っ込まれた酒を飲み干したネゴはふらりと立ち上がり。
「クソ〜ッ!
もう知らんぞ大司教や枢機卿への報告なんて!
今日は飲み尽くしてやる!」
と顔を赤くして先ほどネゴを励まそうとして失言した騎士の頭を両腕でアームロックしシエ神父に絡みに行く。
貴方はヨシッ!
と頷いて元の食事の場所へ戻る。
貴方も既に酒を飲んで酔っ払っていた。
その後、騎士と話したり食事をたらふく食べたりしていると酔っ払いきった局長ネゴ神父を副局長シエ神父が肩で支えながらやってきた。
「褪せ人殿、楽しんでますかぁ!?」
「ネゴ神父、飲み過ぎでは?」
ネゴ神父の気遣いに貴方は、問題なく楽しんでいると答える。
「本当にあなたには感謝してるんですよ!?
まさか死にかけるとは思ってませんでしたからね!
ハッハッハッ!
さあ感謝しているんですから何か一発芸でもしてください!」
「ちょ、ネゴ神父!? 飲み過ぎですよ!?
褪せ人殿もすいません!
行きましょうネゴ神父!」
漫才のように問答をするネゴ神父とシエ神父に貴方は、笑いながら一発芸くらいならば問題ないと答える。
「えッ!?
本当に良いんですか…?」
その言葉に頷きを返して貴方は壇上に上がり片手に指の聖印を持つ。
「なんだあれ?」
「お前知らねぇのか?
褪せ人殿が魔法を使う時に出す杖みたいなもんだよ。
また金ピカに光るのかな?」
そして腕に火を宿した。
祈祷:火よ、力を!
によって身体を傷つけることはなく、周囲はどよめく。
そのまま炎を自分の胸に叩きつけたことで驚愕の声も多数上がったが、すぐに赤いオーラが見えるだけで支障ないと見ると歓声が上がった。
「面白かったです、神父の無茶振りに答えてくださってありがとうございます…」
シエ神父が申し訳無さそうな顔で謝罪に来て、貴方は再度問題ないと答える。
貴方は再度残っている豪華な食事をつまみに、窓辺で月を眺めながら、酒を飲み始めた。
宴会は様々な笑い声や話し声が響き渡り、夜も更けていった。
丑三つ時も回り、漸く宴会が解散され一人となった貴方は二軒目にハシゴしに行く聖騎士達と別れ、千鳥足で修練所兼宿に帰り着いた。
訓練所の隣の部屋に寝かしている少女たちの扉を開け、腐敗した結晶剣を抜き振り被る。
真っ先に狙われたシンシアが飛び上がるように起き上がり、その振動で気付いたのか女性解放戦線の少女たちも素早く起き上がる。
まさかの四日目にしてかなり上出来な奇襲への対応に2日前に与えた英雄のルーン、その効力を実感する。
貴方が与えたルーンは英雄のルーン【1】
カンストどころか溢れているとはいえ、多くのルーンを得ることができるアイテムを与えていた。
最初のうちは普通の黄金のルーンを少しずつ与えてみようとも考えたのだが、自らの経験からルーンを与えても少しならば、強化される幅も少なくなると知っていた。
更に昨日はそれぞれに合った武器を見繕った。
セリアは小さな隙を穿つのが上手いので槍の速槍を
ユーリは動きの裏をかくのが上手く、重い武器も重心移動や柔らかな関節でやすやすと扱えた為に大鎌を
キューイは素早い動きと比較的多いスタミナから双曲剣のファルクスを
クレアは一撃に重きを置いており、間合いを測り、攻撃を避け、見切るのがとても上手いので刀の長牙を
シンシアは舞を更に昇華させ隙を晒した相手へ攻撃を誘い、誘い込んだ相手に息もつかせぬ連撃を行う事が出来るようになったので、舞によって攻撃が上がる真っ赤なフードとドレスの踊り子シリーズと、舞と相性の良い戦技を持っている呪剣士の円刃を
それぞれ与えて鍛えている。
随分と体に馴染んだ様で、昨日の終わりにはそれぞれが使っていたロングソードよりも上手く扱えるようになっていた。
貴方は取り敢えずいつも通り訓練所へ少女達を移動させる。
今日は特に状態異常を最初から付与することはせず、精神力をゼロに近くまで減らすこともしない、状態異常を付与するのもこの腐敗した結晶剣のみだと宣誓する。
蹂躙が始まった。
異変が起きたのは日が上がり始め白くなってきた空が見え始めた頃。
最後の一人となったシンシアの攻撃を避け、とどめを刺そうとした時のことだった。
シンシアは力強く地面を蹴ると共に飛び上がり、縦に回転しながら斬りつけてきたのだ!
それは呪剣士の円刃、その戦技である災いの舞いの劣化版のような動きであり、少しの衝撃を受けつつもシンシアの攻撃を避け着地したその背を貫いて、最後にまとめて回復させる。
そしていったん聞きたいことがある、と訓練の中止を宣言した。
「え? 最後のあの攻撃はどうやって思いついたのかですか?
う~ん、実は最後はがむしゃらで、何を考えても通じるようなイメージが浮かばなかったんです、でもその時、握っていたこの呪剣士の円刃からイメージみたいなのが流れ込んできたんです。
そのイメージ通りに動こうとしたら、体が追いつかなくて、その隙に倒されちゃったんですけどね」
シンシアははにかみながら呪剣士の円刃を撫でつつそう答えた。
貴方は原因がわからず、思案する。
そして思いつく鳥脚の白銀漬けを食えば何かわかるのではないかと、貴方は取り出した鳥脚の白銀漬けを頬張り、シンシアを観察する。
数十秒観察し、鳥脚の白銀漬けの効果が消える時に漸く理解をすることができた。
シンシアの中に入れた英雄のルーンが呪剣士の円刃、その武器として構成しているルーンとか細く結びついているということに。
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