褪せ人が行く!ふかふかダンジョン!【完結】   作:No_46

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いつも誤字報告ありがとうございます、本当に助かってます


今の彼女たちの実力

 セリア達とジャンパーティが模擬戦をするという話は、いつの間にか冒険者ギルドに駆け巡ったようで、訓練所にたどり着いたときには既に、多くの冒険者が観覧に来ていた。

 

「すごいですね、ジャンパーティの名声は」

 

 とセリアの仲間である女性の刃に一人が口に出す。

 

「いや~、実は昨日ふかふかダンジョンを攻略した時に、ヒュドラを倒してね…

 今まで幻の存在だって言われてたからそれを倒したことで有名になったみたい、実際は一番小さいやつを少しだけだったんだけどね」

 

 ジャンは語る。

 

 各々が装備を整えていると

 

「皆さんは真剣、実弾で構いません、でないとまともな模擬戦になりませんから!」

 

 いつの間にか着替えていた男性用のような胸もスカートもない鎧を着たセリアの言葉にジャンパーティは驚愕する。

 

 セリアの仲間たちはその発言を静観しているようで何も言わない。

 

「い、いやでもさすがに…」

 

 とジャンが止めようとするも。

 

「いつも師匠…褪せ人様と戦う時は真剣に実弾ですから大丈夫です! 

 いざという時のための回復手段もありますから!」

 

 とごり押されてしまう。

 

「はぁ…わかったが、もし手も足も出ないで負けても真剣と実弾だったからなんて言い訳はするんじゃねぇぞ」

 

 クロスはあきらめたようにため息をついてセリアに言い放つ。

 

 クロスの言動に

 

「もちろんです! 貴方たちも真剣なんですから本気でかかってきてくださいね?」

 

 そういい放つと、訓練場の開始線に立った。

 

 ジャンパーティも各々最適な位置を決め、武器を構える。

 

「じゃあ私、女性の刃パーティのユーリが、開始の合図をさせてもらいますね!」

 

 セリアとジャンパーティが相対する中間点に立ったユーリが声を張り上げる。

 

 そういえば彼女はセリアの異様な勧誘を異様だと自己認識していたな、アロは考えつつ、ナァル、ナギ、ウォルと同じようにポーラシューター(分銅を射出する通常の弓と使い分け可能な武器)を構える。

 

 ユーリはまるで心配を感じてないように微笑みながら、セリアとジャンパーティの対決を見守るために後ろに下がった。

 

 セリアは目つきを鋭く変えてジャンパーティのメンバーたちを見据える。片手で速槍を軽く持ち、もう片方の手は速槍の尻に置かれている。彼女の笑みを浮かべた表情からは、圧倒的な自信が伺える。

 

 一方、ジャンパーティのリーダーであるジャンは、肩を軽くほぐしながらセリアの姿をじっと見ていた。緊張が走る中、周囲の空気は一瞬で張り詰める。

 

「…準備はいいですか?」

 

 ユーリが確認のため声をかけると、両者は一斉に頷いた。空気がさらに冷たく感じられるような静寂の中、ユーリは腕を高く掲げ、力強く下ろすと同時に声を張り上げた。

 

「戦闘開始!」

 

 その瞬間、セリアが地を蹴り、鋭い勢いで前方へ飛び出した。

 

 女性用の物と比べて重装備の鎧に似合わない俊敏な動き、ジャンはそれを見越したように剣を振り上げ、迎え撃つ態勢を整える。双方の武器がぶつかり合い、火花が散る音が響き渡った。

 

 観衆とジャンパーティは次の瞬間に驚きに染まった表情を見せる。

 

 少女と大の男、鍔迫り合う訳もなく少女が押し負けるだろうという観衆とジャンパーティの予想に反し、セリアの槍がジャンの剣と鍔迫り合う状態から絡め捕るように動き、ジャンの剣を取り落させた。

 

 ジャンは観客とは違う事実に驚愕していた、それは

 

(あんな細い槍で俺の渾身の打ち下ろしを、しかも片腕で止めやがった! 

 どんな力だよ! 明らかに訓練で付いていい力じゃないだろ!)

 

 ジャンは驚愕を覚えながらも無手になった状態から、前世にてテレビなどで見たボクシングの動きでセリアに迫り、アッパーカットを放つ。

 

 白面金毛ですら虚を突かれた右アッパーによる攻撃は、軽く胸ごと顔を逸らされ回避された。

 

「アハッ❤研ぎ澄まされてないですけどそれ使う人本当に居るんですね! 

 師匠との訓練で殴られまくったのを思い出します!」

 

 鎧を着てこの動きかよ!? 

 

 ジャンが驚愕するも突如セリアは視界から消える。

 

 ジャンの振り上げられた腕をするりと通り抜けると同時、足を引っ掛けて転倒させ、後衛のアロたちポーラシューター組へと迫っていたのだ。

 

「今!」

 

 何故ジャンに死亡判定とされるような急所への寸止めも行わずこちらに向かってきたのか、考える暇もなく向かってくるセリアに対して、アロの掛け声とともに一斉に放たれたポーラシューターの分銅は5つ、セリアは立ち止まるが

 

「そういえば買ったなーポーラシューター

 懐かしいや」

 

 ブォン! ブォン! ブォンッ! 

 

 セリアは槍を1回、2回、3回と振り回す。

 

 振り回された槍の周りに巻き付いたポーラシューターの分銅は、最後にセリアがアロたちに向けてもう一振りしたことで、絡まっている弾がいくつかありながらも2つほどが広がって回転しながらアロたちに迫る。

 

 広がっている分銅だけではない、絡まった状態の分銅でも、顔周辺に当たれば隙が生まれる。

 

 セリアは笑みを浮かべながら自分が槍で払った分銅についていくように駆け出す。

 

 そのスピードは分銅に追いつくレベルであり

 

「お嬢様! 下がって!」

 

 既にセリアがポーラシューターの弾を防ぎ、返した時にナギがアロの前へ出て、体を捻るようにして背負っていた薙刀を手に持ち、アロを投げ返された分銅から比較的大きな体で守り、向かって来たセリアへ突きを繰り出す。

 

「アハハハッ! おっそい遅い遅い!」

 

 ナギの突きを走りを止めずに顔の真横で薄皮一枚避ける。

 もし突きを見切り間違えて刃が触れていたのなら、女の武器とも言える顔に切り傷が残ってしまう。

 にも関わらずギリギリを攻め、懐に入られたナギはセリアの行動と自らの危機に怖気が走る。

 

 セリアは突如として地面にへばりつくように体を下げる、その上をクロスの鉄鋼矢が通り過ぎたが、向けられたクロスボウに目もくれず、地面に身体を接近させたままねじ込むような鋭い蹴り上げを放った。

 

「ほらほら! もっと見せてくださいよッ!」

 

 ナギの鳩尾部分にセリアの蹴りが突き刺さる。

 

 鎧で守られた状態でも蹴り上げられた衝撃にナギの体は浮き上がり、肺が潰れ、呼吸が乱れ、後ろに仰向けで倒れこむ。

 

「やあーッ!」

 

 カバーするためにウォルがスコップを振り下ろす。

 

 風を切りながら振り下ろされたスコップの一撃を

 

「ハハッ! 刃が広いから楽だねッ!」

 

 スコップの広い先に手甲を沿わせ、攻撃を逸らす。

 振り下ろされた攻撃にあえて手を近づけるという自殺行為に言葉を失うウォル

 

 タッ! 

 

 その間に足を戻したセリアは両足で地面を蹴り上げ一回転すると共にナァルとクロスの矢を避けた。

 

 ナギは未だに起き上がれていない事から、ユーリは死亡判定を下す。

 

「まだッ! グッ…! 

 …いえ…これは無理ですね…」

 

 死亡判定に不服を訴えようとしたナギは、言葉を失うほどの胸の痛みにこれ以上は無理だと倒れ込む。

 

 死亡判定を受けた者はその場から動いてはならない。

 動くことで邪魔になり、妨害も可能だからである。

 

 そんなナギの状況中も、事態は動いていた。

 

「やっぱり、先に潰すのは遠距離って相場決まってるしね!」

 

 そう言いながら体制を整え再度走り出したのは、言動と裏腹にウォルの方向だった。

 

「はっ!?」

 

 言動と行動の不一致に驚愕しながらも、顔に向けて突き出された槍にスコップを盾とする。

 

「顔覆ったら次の攻撃見えなくなるんだよねぇ」

 

 セリアは呟くと、軽くスコップに槍を当てたかと思えば素早く二撃目の突きをウォルの心臓部へと突き刺そうとして

 

「っと模擬戦模擬戦、危なかった」

 

 槍はウォルの鎧を貫いて、あと少しでも押し込めば身体を貫く寸前だった。

 

 だが暴風のような動きは止まらない、流れるようにナァルとクロスへ向かうセリアに対して、ナァルは速射で、クロスはできるだけ早く打ち出した矢で応戦する。

 

 セリアは体を軽く動かして避け、偶に避けきれない弓矢の攻撃を掴み、槍で払う。

 

 既に槍の圏内に入れられたナァルは

 

「降参っす」

 

 と弓から手を離すが。

 

「俺はまだやれるぞ!」

 

 クロスが、鉈を抜き立ち向かってくる。

 

「うーん、これだけですか?」

 

 クロスの決死の近接攻撃に、セリアは鉈を持ったクロスの手の甲へ槍を打ちつけた。

 

 槍によって叩かれた手からクロスは鉈を取り落としてしまう。

 

 強く叩かれた手の痛みをこらえるように

 

「チッ…まさか一人の女にやられるとはな」

 

 クロスも降参し、残りはアロとジャンだけになった。

 

 アロの下へに重装備で転ばされ、動きが鈍かった(それでも一般的な男性より早いのだが)ジャンが辿り着く。

 

(ウソだろッ!? 

 1分も経ってねぇのに殆ど全滅って…

 弓矢も見て避けてたよな!?)

 

 心の中で驚愕しながらも、ジャンの瞳は決して揺らがない。

 ジャンはすでに、この状況下での唯一の希望を見出していた。

 戦闘中に得た敵の情報。

 それが、わずかながらも勝機を生み出す鍵となるかもしれないと信じていた。

 

「アロ!」

 

 ジャンの低く鋭い声が響く。

 

「弓矢は恐らく通じないが、やつの隙を作るために速射で援護してくれ!」

 

 アロは一瞬の迷いも見せず、頷いた。その瞳には鋭い集中の光が宿る。弦を引く手に、微かな緊張が走るが、それすらも覚悟の表れだった。

 

 再び動き出したジャン。

 

 重い装備のまま、地面を蹴り上げ、前方へと突進する。かつての失敗を振り払い、再び戦場の中心に身を投じたジャンの姿にアロは安心感を覚える。

 

(さっきは不意を突かれて転ばされたが、今度は違う…その手には二度と引っかからねぇッ!)

 

 勢いを増すジャンの突進と、弓矢が速射で空を裂き、アロとの連携は過去最高潮に仕上がっていた。

 

 振り下ろした剣は防がれた事実を学び、ジャンは突きを繰り出す。

 

「やっぱり、もうジャンパーティも弱く見れるようになっちゃッ!?」

 

 肩の鎧、ギリギリで避けようとするセリア、突きの動きはすでに動き出してしまっている。

 

 だからこそ! 

 

「ウォオオオ!!」

 

 無理やりジャンは腕を動かし、刃を横に薙ぎ払う。

 

 既に決めた動きを出した後、その行動の途中で別の動きを無理やり入れても、殆どは剣筋も通らない一撃となるが至近距離で、かつただ動きを崩すだけというなら話は別だ。

 

 ジャンはセリアの戦闘観察から攻撃をぎりぎりで避けている事実に気付き、鎧を着ているのだから当てても大丈夫だろう、それで姿勢を崩してマウントポジションをとれれば最高だ、と考えていた。

 

 セリアはギリギリで避けた剣の薙ぎ払いを肩にもろに受けてしまう、だが

 

「ハハッ! 油断しちゃいましたよ! でもやっぱり面白いですね! 戦いは!」

 

 剣の衝撃で横に倒れこむような体制から、片腕で横転をするように体勢を立て直し、即座に攻勢が入る。

 

 ジャンはアロに援護を求めようとするが、セリアが立った位置はアロがジャンの体を盾に狙いをつけれない場所だ。

 

 ジャンの剣は最初の二連撃を防ぎきる事に成功したが、3連撃目で喉仏に寸止めされた速槍に両手を上げて降参する。

 

「…本当に、強くなったのね…」

 

 アロはジャンがやられたのを見て同じく降参した。

 

 ユーリが勝者、セリア! と声を張り上げ。

 

 ウォオオオオオ!!!!! 

 

 周囲の観衆はざわめきと歓声に包まれる。

 

 すげぇなあんちゃん! 

 

 どうやったらそんな動き出来るんだ! 

 

 セリアは称賛に軽く手を振りながら女性の刃のパーティメンバーたちと合流する。

 

「どうだった? セリア

 ジャンパーティの実力は」

 

 ユーリに尋ねられたセリアは、戦闘中に見せていた狂ったような笑みが鳴りを潜め、無表情で

 

「なんか、最後の発想とか予想外の攻撃はおもしろかったけど…それだけかなぁ…

 あ! でも弱い相手を蹂躙するのは楽しかったよ!」

 

 と言い切った。

 

 

 

 模擬戦闘が終わったあと、セリア達にアロは訓練の誘いを受けたがやんわり断ると訓練場で解散し酒場に戻った。

 ジャンパーティは、負けると思っていなかった敗北に苦渋の表情をしている側と、苦笑いで励ましている側に分かれていた。

 

「まさかポーラシューターがあんな対策で破られるとはなぁ」

 

 ジャンの言葉にうぐっっとアロが呻く。

 今回の模擬戦で自信を持って開発したはずのポーラシューターが容易く破られたことにアロは落ち込んでいた。

 

「まぁお嬢様、あんな対策できるのなんて一部だけですよ! 

 イレギュラーな存在を勘定に入れても意味が無いですって!」

 

 ウォルが励ます。

 対してナギはアロに

 

「本当に話していた少女たちなんですか、お嬢様?」

 

 と顔をしかめて聞いた。

 

「…ええ、たしかに彼女達は、1週間前、万能の騎士に訓練を付けてもらいについて行った少女たちよ

 顔も体も何も変わってないのに、あんなに変わったって分からせられるものなのね。

 万能の騎士っていう名前にやっと納得したわ。

 そりゃあ自分も強くて他人もあんなに鍛えられるなら万能よ」

 

 そこにナァルがツッコミを入れる。

 

「え? 万能の騎士さんの万能っていろんな武器で様々な倒し方、手段を持ってるからって聞いたんですけど」

 

「恐らくその意味も入ってる、様々な部分の万能を包括してるんだろう」

 

 ナァルの疑問にクロスが答え、

 

「それでも、俺の鋼鉄の矢を避けたのはマジでわからねぇ

 アロは俺の武器の事、話してないよな」

 

 と続けた。

 空気が悪くなるその部屋に

 

「当たり前でしょ!? レイドは信用、仲間にそんなことしないわよ!」

 

 アロの言葉が走る。

 

「いや、そうだな、すまん。

 負けてちょっと気が立ってた」

 

 クロスは謝罪し、そこでアロも謝罪を受け入れたことで空気は弛緩する。

 

 

「だったら、あの女性の刃は本当に初めてみるクロスの弾を避けたのかよ…」

 

 思わずといった口調でこぼれたジャンの言葉は、ある意味、このテーブルに座っている人、すべての気持ちを代弁していた。

 

「ジャン先輩は似たようなことできないんすか?」

 

 そう聞いたのはナァル、純粋なその瞳に思わずそらしてしまうが。

 

「そもそも、俺が着ているのは革製だけど3から5枚以上の膠打ちで重鎧って部類といえる鎧だ、もちろん全体的に重いから動きも遅く、鈍くなる、ゆっくり慎重に狙える弓ぐらいだったら大丈夫だが、素早く正確に球を確認して腕を動かすのは俺には無理だな

 でも…セリアだっけ、彼女の体に剣をぶつけることができたことで、彼女が来ているのが正真正銘、金属で作られた鎧で、それをあんな風に全身で着ていながら、俺以上のスピードで走り、正確に突きを繰り出し、放たれた飛び道具を全部躱したってことだな…

 はっきり言って化け物だよ」

 

 それを聞いたアロは何か思い詰めるように顔を伏せ、

 

「ごめん、今日は疲れたから早めに寝るね」

 

 

 と、宿へ戻った。

 

「う~ん、自分も心配なんで戻るっす!」

 

「え、まぁいいけど、お休み」

 

 それにナァルが追従しジャンは見送る、残ったジャンパーティはこれからの予定の話へと切り替えた。

 

「…」

 

 不安げに揺れるナギを残して…

 




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