だからもうちょっと追憶の祈祷良いのにしてくれませんか…?
あ、ダメ…
戦場は既に全ての亜人が狂い火の褪せ人と竜餐の褪せ人との戦いの余波で身動きすらできない瀕死、もしくは物言わぬ屍となり、それでも戦いは続いていた。
だが
竜餐の褪せ人の方が押されているな。
誰ともなしに理解していた。
一見互角に見えるその戦いは、発動の隙が大きい竜餐祈祷の褪せ人を着実に削っていた。
いまだ殺されず、戦えているのは周囲の亜人による妨害があったからだろう。
竜餐祈祷は至近距離で周囲の広範囲を吹き飛ばす、また
何よりも、竜餐の祈祷によって宙に浮くことで、小さなゴブリンのほとんどの近接攻撃を躱すことが出来た。
対する狂い火の褪せ人も
しかし亜人が倒れ伏し、戦場から姿を消した時、狂い火の褪せ人は本領を発揮し、遠距離狙撃が可能な祈祷:空裂狂火によって、半ば強制的に竜餐の祈祷を封じたのだろう。
亜人の殲滅にも精神力の消費が大きい竜餐の祈祷を使用していたことから、竜餐の褪せ人は精神力の減少も早かったはずだ。
しかし、耐えた。
これならば囲んで叩いて終わりだろう。
先鋒を切ったのは褪せ人の中でも特に身軽で、足が速かった黒衣の褪せ人、逆手剣を両手持ちにして、戦技:速斬を発動する。
瞬速の踏み込みから狂い火の懐に入り込み、戦技の一撃は鋭く、切り裂く真空を生じるさせた。
しかし狂い火の褪せ人もこちらをしっかり確認していたようで、軽ローリングで速斬を抜けられる。
ローリングを終えた隙を狙ったのは純魔の褪せ人の魔術:滅びの流星
足を止めずに放たれた「伝説の魔術」のひとつ、対象に向かって飛ぶ、十二の暗い流星は、しかし狂い火の褪せ人に、流星の誘導性能が低く、近距離では外れてしまう隙を突かれてしまう。
懐に入られたことで、カウンターとばかりにヴァイクの戦槍から、幾つもの遺体から生皮を剥ぎ繋ぎ合わせた手袋、狂手に切り替え、殴り掛かる。
あえてその狂手による攻撃を受ける、戦技ではない一発ならば耐えられると知っていたからだ。
滅びの流星を避けられたことで、こちらに向かってくると読んでいた純魔の褪せ人は、既に何度も唱えていた魔術:奇襲のつぶてを連続して放ち、幾ばくかのダメージを狂い火の褪せ人に与えることに成功する。
背中から撃たれるのも気にせず、今度は狂手の戦技:発狂の貫手を叩き込み発狂させようとした狂い火の褪せ人に、騎士の褪せ人が割り込む。
盾を構えず割り込んだ騎士の褪せ人に、対して狂い火の褪せ人は少し顔を歪める。
すでに動き出していた発狂の抜き手にカイトシールドを当て、振り抜く。
騎士の褪せ人によって発動された戦技:黄金パリィは、黄金樹の紋章を発生させ、狂い火の褪せ人の体勢を崩した。
後ろに既に待機していた呪いの褪せ人の手には慈悲の短剣が握られている。
短剣の中でも特に致命に特化して作られたその短剣が、狂い火の褪せ人の仙骨を抉り、内臓までも貫いた。
だがまだ起き上がったかと思えば、すぐに退避して赤雫の聖杯瓶を飲もうとする。
純魔の褪せ人はその隙を見逃さず、魔術:輝石のつぶてを放ち、怯ませて回復を妨害させようとするが。
狂い火の褪せ人は下に転がっていた死体をつかむと、その青白い輝石のつぶてを死体で防ぎ、回復した。
驚愕する褪せ人達を前に、武器を切り替えヴァイクの戦槍からの戦技:狂い火突きによって強制的に距離取らせる。
狂い火に相対していた褪せ人達は、回復中に空いている腕で別の行動をはさむという考えもしなかった行動に驚愕する。
何故考え付かなかったのか、こんな単純な事実を。
そう考えながらも戦いは止まらない。
赤雫の聖杯瓶で回復され、またしても膠着状態に陥った戦場に、腐敗のブレスがばら撒かれた。
祝福で体力と精神力を回復し、聖杯瓶も補充して合流してきた竜餐の褪せ人、その祈祷:エグズキスの腐敗によってまとめてばら撒かれた腐敗は、狂い火の褪せ人のみを重点的に狙い、赤い腐敗を発症させる。
その隙に周囲の褪せ人は己の装備を整えた。
状態異常特化、尚且つ発狂特化、ならば正気の角飾り+2、病の首飾りをつけ発狂を対策し、呪いの褪せ人を除いた全員が持っていた発狂祈祷や発狂アイテムにより、病の首飾りの効果:状態異常を発症した後、しばらくの間、同じ状態異常に対する耐性を高める効果を発生させる。
付け替え途中、呪いの褪せ人は病の首飾りを着用のみ行い、エグズキスの腐敗ブレスによって吹き飛ばされた狂い火の褪せ人を足止めしに向かう。
全員が発狂しHPが減少するも、すぐに竜餐の褪せ人が祈祷:黄金樹の回復によって周囲の褪せ人を回復させ、続いて祈祷:回帰性原理により、病の首飾りの効果で半分まで貯まった発狂ゲージを消し去る。
最後に祈祷:黄金樹に誓ってを発動させ、周囲の攻撃力と防御力を上昇させる。
一通りの回復とバフを済ませ、狂い火と呪いの褪せ人の戦いを見れば、思わず感心した。
なぜなら、狂い火の褪せ人は、通常のヴァイクの戦槍に加え、拳に狂手を付けたまま格闘武器:落葉格闘を合わせ、織り交ぜながら攻めている。
感心したのは、エンチャントができない格闘武器に、拳武器の狂手を組み合わせることで疑似的なエンチャントを行っていることと、格闘武器、己の体そのものを武器とする近接格闘に、ヴァイクの戦槍による槍術が合わさり、まさに狭間の地、既存の戦い方とは別物に仕上がったその形を見たためだ。
槍を外したかと思えば落葉格闘による狂手の掌底や槍を支えにした飛び蹴りなど、見たこともない未知の戦い方に呪いの褪せ人は防戦一方のようで、じりじりと後退してきている。
やがて、狂手やヴァイクの戦槍による発狂が貯まり切ったのか、頭部から発火し、身動きが取れなくなる。
これは不味いと感心していた思考を振り払い、黒衣の褪せ人は猟犬の長牙を構え、狂い火と呪いの褪せ人との間に割り込む、だがそれを見越していたのか狂い火の褪せ人は戦技:狂い火突きにより騎士の褪せ人ごと呪いの褪せ人にダメージを与えた。
そのまま攻めようとする勢いを急停止させるように、狂い火の褪せ人が怯まされる。
純魔の褪せ人の魔術:見えざる姿による奇襲から放たれた夜の彗星が直撃したからだ。
術者の姿を、見え難くする魔術を使用した純魔の褪せ人から見え難い、魔力の彗星が放たれ、足を止めずに連続で放たれる魔力の彗星に、たまらず狂い火の褪せ人は祈祷:堪えきれぬ狂い火を周囲にまき散らす。
攻撃を受けたことで姿が薄まり見逃した純魔の褪せ人を再発見した狂い火の褪せ人は、そのまま堪えきれぬ狂い火を発動し続ける。
純魔の褪せ人に襲い掛かる狂い火を、騎士の褪せ人が割り込んで、指紋石の盾で防ぐ、純魔の褪せ人は幾度か堪えきれぬ狂い火を受けていたが、ダメージは軽微で済んだ様子だ。
堪えきれぬ狂い火を放ち続けるその背中に、黒衣の褪せ人が持つ猟犬の長牙、その戦技:猟犬の剣技が切り上げられようとする。
その攻撃を読んでいたのか、猟犬の長牙で飛び掛かった直後、堪えきれぬ狂い火が終わり、周囲全方位無差別に狂い火がまき散らされる。
しかし堪えきれぬ狂い火の弾幕より薄いその狂い火は、黒衣の褪せ人によって容易く突破され、狂い火の褪せ人の背に深く、猟犬の長牙、緩やかに波打つその刃が深く刻まれる。
そのまま後ろに退避し、格闘による反撃が無いと見るや否や、一気に近づき大きく切り上げた。
赤い腐敗に蝕まれ、魔術と戦技によって削られた体力は数ミリだけ、囲んでいる今ならば回復させる暇も与えず倒すことが出来るだろう。
狂い火の褪せ人に近づき。騎士の褪せ人が口を開く。
もう多勢に無勢だと理解しただろう、この世界に狂い火を蔓延させるのはやめてくれないか、と。
だが、狂い火の褪せ人は言葉を聞き終わると、頭を抱え、倒れこんだ。
残りの体力が消失し、死亡したはずなのに体が崩れない。
そして頭が崩れていく、崩れ去った頭部には、煌々と輝く狂い火が宿っていた。
世界を焼いた狂い火の王■■■
頭の中に流れる敵の名前と、視界に写った巨大な体力バーで、褪せ人達は理解した。
これは止まらない、既に狂い火の王となってしまったのだから。
それぞれが、武器を構え、狂い火の王へと得物を向ける。
対して狂い火の王は、片腕に持っていたヴァイクの戦槍に、大量の狂い火を纏わせたかと思えば、飛ぶように前へ出ていた騎士の褪せ人の体にヴァイクの戦槍を大きく薙ぎ払った。
纏っていた狂い火が広がり、半円状にまき散らされた狂い火は、以前戦った狂い火の王、ミドラーの物よりも威力が高く、それぞれがローリングで避ける。
だが直接ヴァイクの戦槍による攻撃を受けそうになった鎧の騎士は、その薙ぎ払いをパリィする。
体勢を崩せず、狂い火に身を焼かれながらも薙ぎ払い自体の直撃は避けたが、それでも狂い火だけで体力の3分の一が吹き飛ばされた。
今度は遠距離攻撃の魔術、祈祷を使おうとした竜餐の褪せ人、純魔の褪せ人に、空裂狂火と似た光線が連射される。
純魔の褪せ人は既に発動しかけていた魔術をキャンセルし、ローリングで回避することに成功するが、竜餐祈祷を放とうとしていた褪せ人はキャンセルできず、そのまま空裂狂火連射に巻き込まれた。
直撃により、一瞬で体力が持っていかれたのか、灰となり消える褪せ人を尻目に、黒衣の褪せ人と呪いの褪せ人が挟み込むようにそれぞれの戦技で挟撃を仕掛ける。
呪いの褪せ人は切り替えた黒鉄の両刃剣による戦技:坩堝の諸相・翼で錐揉み回転しながら突撃し、黒衣の褪せ人はもう片方の手に装備していた黒き刃の戦技:死の刃を放つ。
対して狂い火の王は空へと浮かび上がり、挟撃を躱すと、直下に自らの頭部を落とした。
巨大な爆発とともに、直撃した呪いの褪せ人が灰となる。
だが降りてきた狂い火の王の体に、死の刃が刻まれた。
体力の上限が減少し、スリップダメージで削られていく。
降りてきた隙を狙われた狂い火の王は、すぐに黒衣の褪せ人に接近しようとするが
それを読んでいた純魔の褪せ人が魔術:溶岩弾を直撃させる。
体力バーが死の刃と同程度に減った事実を確認した純魔は声を上げた。
恐らく、耐性はミドラーと同じである、と
その言葉にそれぞれが祈祷:火よ、力を! やメスメルの火脂などを使用し、炎攻撃力を高める。
純魔の褪せ人は杖をゲルミアの輝石杖に変更し、続けて溶岩弾を放っていく。
対する狂い火の王は、溶岩弾を避けながら、狂い火を放とうとするが、やはり攻撃中は動きが鈍るようで、狙われていない騎士の褪せ人が回り込み、エンチャントした武器で滅多切りにする。
そして狙われた純魔の褪せ人も、掠りダメージは大きかったが容易く避けられる。
そして、近くに祝福があったことで容易く復帰した呪いの褪せ人と竜餐の褪せ人にも情報共有をすると、それぞれ武器に炎をエンチャントする。
狂い火の王は斬りかかってきていた騎士の褪せ人に今度は大ぶりの振り下ろしを叩き込もうとするが、またしても黄金パリィにより纏った狂い火だけがまき散らされる結果に終わる。
そうして戦いを続けていると、狂い火の王と戦っていた褪せ人達は一つの考えが頭によぎった。
なんか、狂い火の王になったほうが弱体化してないか…? と
狂い火の王になる前は、この世界で見つけたらしき新しい不規則な戦い方や、隙を見せない針の穴を通すような攻撃、そして周囲の死体すら活用していたが、狂い火の王となってからはその知識が全く生かされず、ただ強大な力を振るっているだけである。
確かに強力な炎により、周囲はまるで影の地の影のアルター、奈落の森のようになっているが、それだけだ。
ならば、死んでもすぐに復帰できる状態で負けるわけがない。
何より自分が死んでも他の仲間が戦っているおかげか体力が回復していないのだから。
数十分後、膨大な体力を幾度も切り刻まれた死の刃のスリップダメージや、エンチャントした炎を纏う武器の攻撃により削り切られ、狂い火の王が倒れる。
周囲は影の奈落の森以上に居るだけで発狂が蓄積するほど汚染されつくしていたが、発狂対策をタリスマンで万全にした褪せ人達にとっては殆ど意味がないものだった。
騎士の褪せ人は考える、これでまだ戦い続けるようなら、あの耳が長い少女が何かするとは言ったが、どうするのだろうか。
自分たちはどうしようもない、実際戦った余波だけで周囲が奈落の森以上に汚染されているのだ。
まだ今の程度なら問題ないだろうが、このまま戦い続けて地上全域にまで広がったら、ずいぶん面倒なことになる。
恐らく狂い火で死亡する、未だ弱い騎士の褪せ人に師事している弟子たちを連れて、狭間の地へ帰還することになるだろう。
さて、これでどうなるか。
そう考えていると、既に木が燃え尽き、炭のようになった森から、狂い火の褪せ人が出てきた。
これで交渉できるなら御の字だが…
騎士の褪せ人の願いは、こちらを見つけた狂い火の褪せ人が、祈祷:空裂狂火を放ったことで夢と消えた。
死亡しても戦ったことは覚えているはずなのに攻撃をしてきた、やめるつもりはないということだろう。
これではどうしようもない、とりあえず少女の策を待とう、と遠距離から放たれる空裂狂火をそれぞれの褪せ人が避けていると。
狭間の地のものではない、見えない何かが狂い火の褪せ人を捕らえたのを、すべての褪せ人が感じた。
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