褪せ人が行く!ふかふかダンジョン!【完結】   作:No_46

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禁忌発動 騎士編終了

 踏み抜いた鳴子トラップは(けたた)ましい音を発し、貴方の存在を喧伝する。

 そのまま幾度かトラップを鳴らしていると

 

 ヒュッ! 

 

 飛んできた矢を盾で防ぎ緑亜人達を見据える。

 

 ここは彼らの居住地だったようだ。

 運が良いと貴方は呟く、前に逃がした亜人と恐らく同種、死体の剥ぎ取りが出来なかった相手にもう一度出会えた。

 

 次はしっかりと剥ぎ取ってやろう、その考えを頭を振って振り払う。

 

 違う違う、今回は会話をするために鳴子を鳴らしたんだ。

 最初から会話を選べば敵対しない可能性もある。

 前回は攻撃を受けてつい反撃してしまった、そのせいで敵対したのだろう。

 会話はまず話しかけてからだ、貴方は持ち物として装備していた

 

 呼び声頭「こんにちは」

 を使用する。

 

「HELLO」

 

 しかし

 

 ヒィヒュヒュンッ! 

 

 連続で矢を放たれてしまった。

 音が届いてないのか? 

 

 貴方は矢を避けながら再度近づいて使用する。

 

「HELLO」

 

 それでも緑亜人達は一向に攻撃を止めない。

 呼び声頭は友好の証だと闘技場で教わらなかったのだろうか? 

 全く残念だ、と貴方がロングソードを抜こうとした時

 

「6j5t@dyi(4d't」

 

 また新しい緑亜人が複数現れた。

 木製の鎧を着た坩堝の騎士のような図体にハルバードのようなものを持っている。

 

 巨体の敵は強いことを知っている貴方は警戒を強めた。

 

「bezt@;ekwexz2@qeb\dq7zt?」

 

「36eed)4を-s@bdqp@ydy9\e<d@)4-4s@6lq@>」

 

 亜人同士の会話が終わると共に

 その姿に違わぬ剛力でハルバードを叩き込まれた。

 

 

 話は変わるが、坩堝の騎士は強い

 それはその異形の身に刻まれた能力だけでなく

 こちらが攻撃した瞬間に的確に攻撃してくる判断力

 それまで忍耐強く大盾で耐える持久力

 大剣と大盾による様々な攻撃方法

 地揺らしによる体勢崩しとそれに付随する連撃

 

 全ての部分で大きく苦戦するところとなる。

 

 だが一定のラインを超えた褪せ人は苦も無く倒すようになる。

 

 特にその手段としているのは

 

 パリィだ。

 

 

 叩き込まれたハルバードを貴方は盾で外に逸らし、逸らされた勢いに引っ張られ緑巨体が制御できずに体勢を大きく崩す。

 

 そのタイミングを逃さずに貴方は致命の一撃で貫いた。

 

 戦技パリィはシビアなタイミングさえ見極めることができれば相手の体勢を崩し致命の一撃によって大きなダメージを与えることのできる。

 

 心臓から背骨の神経まで貫かれ緑巨体は膝をつく僅かな力で組み付こうとしてくるが貴方はそのまま蹴り飛ばす。

 

 だがこの巨体だ、坩堝の騎士のようにすぐに起き上がってくるだろう。

 

 d@)4q@yq@\……

 

 力のない声が横でこちらに狙いをつけていた普通の緑亜人から発される。

 

 起き上がりを待つが一向に起き上がらず、この程度で巨体が死ぬとは思えない貴方は、とりあえず何回か切りつけるがピクリとも動かなくなっていた。

 

 冗談だろ……

 

 貴方はそう呟くと同時にため息を吐いた。

 ここまで弱いのならパリィを狙うまでもない

 警戒し損だ。

 

 残った亜人に目を向けると貴方は駆け出す。

 

 一応力はまぁまぁあったので巨体から先に潰すことにした。

 盾を構えた貴方はハルバードと弓矢による連携攻撃を受けながらも巨体の目の前まで近づきそのまま袈裟に斬りつける。

 ハルバードで防御しようとしたようだがそのハルバードは容易く切断され、鎧は防御の役割を果たすことなく切り裂かれた。

 

 切りつけられた胸元からドバドバと血が出ていく、巨体はそれでも勢いよく突撃してきたがすり抜けざまにもう一度切りつけると貴方の後方に倒れ動かなくなった。

 

 弓を撃ってきた緑亜人も逃げずに弓で狙ってきている。

 さっさと殺して話の通じる相手を探そうとした時

 

 そういえば貴方は矢が弾かれた謎を未だに究明できていなかったことを思い出す。

 

 今がちょうどいいのではないか? 

 

 あの亜人の攻撃はそこまでダメージもない、テスト代わりだと盾を構えずにゆっくり近づく

 矢が一斉に飛んでくるが刺さるのは鎧の隙間や薄い部分だけだ。

 そして刺さらなければダメージを受けない。

 やはりこの世界では矢がどこにでも刺さるというわけでは無いようだ。

 カスダメを減らせるのは随分とありがたい。

 

 結局普通の緑亜人達はいくら撃っても近づいてくる貴方から大声で何事か言いながら撤退しようとしたのを後ろから切りつけて終わった。

 

 体に刺さった矢を抜き、盾もヒーターシールドから緑青の大盾と変更する。

 また身隠しのヴェールを恵みの雫のタリスマン(HP自動回復)クレプスの小瓶(装備者の音を消す)大壺の武具塊(装備重量の上限を大きく上げる)に入れ替える。

 これで緑青の大盾を装備しても中ロリのままでいられる。

 

 相手の弓矢も塵も積もれば山となる、HPは半分ほど削れてしまった。

 だが貴方は心配していなかった。

 

 撤退しようとした先にある集落のような場所に祝福の導きがあることを確認できたからだ。

 

 やっと祝福を見つけれたことに安堵しつつ緑亜人達の集落へ目を向ける。

 

 祝福で回復するなら自動回復のタリスマンは要らないのではないかと思うかもしれないが、あの集落には普通の緑亜人が多く存在していた。

 

 今までの緑亜人は弓矢をよく使用していた。

 集落では使わないというのは考えづらい。

 

 要するにカスダメの蓄積軽減用である。

 

 貴方は一斉に放たれる弓矢に対する対策として緑青の大盾を装備したが集落にはボスがいる可能性もある、カスダメでも体力の消費は抑えたかった。

 

 だが今はそんな集落よりも剥ぎ取りである。

 

 

 

 オークの木鎧

 

 太い枝を何重にも重ねたお手製の鎧

 それは木製の為防御力は期待できず重量もかさばる、しかし自然から作り出した恵みとしては十分だろう。

 

 

 

 ゴブリンの腰布

 

 ゴブリンの雄が身に着けている腰布

 股間部分を簡素に隠すだけの腰布は、その奔放な性を表している。

 

 

 

 小さいほうがゴブリン、大きいほうがオークという名前のようだ。

 特殊な効果はない

 まぁ分かっていた。

 

 とはいえ鎧の十分という言葉には疑問が残る。

 この世界はこれで防御できるような存在しか居ないのか

 それとも木製ならこれが限界ということだろうか。

 

 意識を切り替え村へと向かう

 

 村は隙間の大きな柵で囲われその隙間から多数のゴブリンがやはり弓矢で貴方のいる森に狙いをつけている。

 集落の周りは柵から10メートルほど森が拓かれ見透しが良い状態だ、軽ロリでも通るのは面倒だろう。

 集落の後ろには断崖がそびえ立っていた。

 

 流石にあんな大きな声で何か喚いていたのだから気付くか

 そう思いながらも貴方は歩みを止めない。

 

 森から出ても少し柵までは距離はあるが緑青の大盾なら問題はない

 貴方はそうして森を抜けた。

 

 森を出たのを合図に、一斉に矢が向かってくる。

 

 それが貴方に到達しようとした瞬間

 貴方は盾を押し出すように走り出した。

 

 戦技:ムーアの突撃

 

 この戦技は王になる途中、影の地にて出会ったムーアの形見である緑青の大盾の専用戦技だ。

 心優しい彼は結局、ミケラの魅了が解かれ、自分との問答の後、死んでいた。

 

 そんな心優しい彼の唯一の武器として

 戦技はダメージを与えることはなく、圧倒的なガード強度を持っている。

 

 そんな感傷すら思考から消し、貴方は柵へと突っ込みそのまま弾き飛ばす。

 

 吹っ飛ばしながらもダメージがないことに気づけば呼び声頭にも応える亜人がいるかもしれない。

 

 そんな事を考えつつも侵入が完了した貴方は周りを見渡す。

 柵の中、岩壁に沿ってには簡素な家らしきものと檻、そしてそれら通り道の中間地点ぐらいに祝福があった。

 そしてそこかしこに居るゴブリンゴブリンたまにオーク。

 やはり集落だったようで緑肌の女を守ろうとしている。

 随分と男と女で姿が違う、別の種族なのだろうか? 

 

 突撃中に弓矢が雨のように降ったがスタミナは4割ほど残っている、それもほとんどは戦技の仕様によるものだ。

 祝福の存在に安堵し安心して盾をヒーターシールドに切り替えスタミナを回復させながら、呼び声頭「こんにちわ」を使用する。

 

 だが

 

「2@d@t!?」

「2gsf@x;qt@gr@vszue!」

「dyi(4x;qc@!」

「6yubs@mをjm;!」

「tb/! tb/!」

 

 誰も聞こえてないどころか囲もうとしてくる。

 

 諦めつつもう一度呼び声頭で話しかけるが変わらず、仕方ないと剣を抜こうとしたその時

 

「助けて! 騎士さんですよねッ!? 

 ここです! 助けてくださいッ!」

 

 そんな声が聞こえてきたのは先程見た檻

 

 そこでは先程声を上げたらしき女とそれを殺気をほとばしらせて外から睨んでいる女、この世界で初めての人間だ、仲間から亜人にでも売られたのだろうか? 

 

 とりあえず貴方は包囲を抜ける為、邪魔なゴブリンを切り飛ばして檻へと向かう。

 

 途中に祝福もあるので一石二鳥だと少し立ち止まり祝福に触れると檻に向かって走る。

 

 檻が漸く目の前に迫る。

 その間に突然剣を持った女が割り込んで貴方に剣を向けてきた。

 肌色は人と同じだ、服装は囚われている方と同じゴブリン風、魅了でもされたのだろうか? 

 しかしその印、ピンクのエフェクトが出ていない。

 

 魅了の力を持つ神、ミケラは魅了されてもエフェクトが変わっていなかった。

 レダと角人が一緒協力していたが見た目は変わらなかったのが良い証拠だ。

 それにあれはミケラという神に魅了されるものだ。

 違うだろうが警戒する。

 

 貴方は警戒を強めたが

 

「やめてください! 貴方がやっていることはただの虐殺ですッ!」

 

 会話できることで少し気分が上向きになる。

 魅了されているなら魅了してきた相手の敵対者はすぐに殺そうと攻撃するはずだ。

 

 何やら訴えてくるが貴方は特に気にしていなかった。

 

 この程度で虐殺なんて、やっぱりこの世界の人や亜人の数は少ないのか? とか亜人の仲間になるなんて変わっているなぁ

 ぐらいしか考えていない。

 

 そんな取り留めのないことを考えながら歩みを進めていたせいだろうか。

 

「止まれって、言ってるでしょッ!」

 

 という言葉と共に振り下ろされた刃をパリィして、流れるようについ致命の一撃をしてしまった。

 

「がぼッ」

 

 そんな声とともに口から血を吐き倒れてしまう

 

 これは不味い、やっと会話できた相手を殺してしまっては元も子もない

 

 急いでインベントリからぬくもり石を探す。

 より回復量の多い陽だまり石は正直、もったいなくて使わなかった。

 

 そうしてやっとぬくもり石を見つけて使った時

 貴方は大きく横に吹っ飛ばされた、そのまま体勢を立て直す間もなく囲まれ剣や棍棒で袋叩きにされる。

 

 いきなり話のできる相手が死にかけて焦っていたとはいえ周りの確認を怠るとは何たる失態、貴方は自省する。

 

 どうやらオークに巨大な棍棒で殴られたようだ。

 

 なんとか脱出しようとローリングをするが何故か接触する。

 

 ローリングの時はダメージはないが体勢を立て直せない。

 囲む数が多すぎるのだ、少し抜け出してもすぐに囲まれてしまう。

 

 半分になってから3分の2ほどにまで回復していた体力がどんどん減っているのを感じる。

 

 そういえば攻撃を無敵時間で受けるのは初めてだったなと自嘲すると共に最後せめて何人か巻き込もうと火炎壺を足元に使用した。

 

 そして火炎壺が爆発し貴方が死ぬ瞬間

 

 謎の悪寒を感じた。

 

 

 祝福から復活しても自分が開けた柵の穴は空いている。

 周りのゴブリン達は貴方を見て目を見開いている事からやはり覚えているのだろう。

 簡単に周回ができないことは面倒だ。

 祝福がまだ完全には根ざしていないのだろうか? 

 赤の聖杯瓶もああなるんだったらさっさと使えばよかった、あの状態でも死なない戦技を付与した武器もあった。

 貴方はここに来て緩んでいた緊張と冷静さを取り戻す。

 

 だが冷静になるとあの死の間際の悪寒はなんだ? 

 

 そんな疑問は

 

 グォオオオオオッ! 

 ギャギャ! 

 キャ──────ッ! 

 

 という複数の叫びに掻き消される。

 

 

 その日、城塞都市アイギス周辺の北西部からモンスターが消失したと報告された。

 

 

 ゴブリン達は同族の女と檻を壊して中の一人の人間、貴方が刺した人間を担ぐと全力で逃げ出していく、貴方の足止めすらせずただ追われるように。

 

 だがそれは正しいとすぐわかった。

 

 異音がし始めたのだ、それも全方向から。

 これは恐らく多くの敵が向かってきている。

 

 貴方は檻の中に取り残された女達を檻から出し岸壁に向かうように指示する。

 

 そこなら後ろは壁だ、なんとか守ることはできるだろう。

 

 貴方が漸く見つけた貴重な対話できる存在をみすみす見殺しにするわけが無い。

 

 幸い岩壁にはおそらく食糧庫として使用されていた扉付きの洞穴がありそこに全員入れることができた。

 

 扉を閉めると貴方は祝福の場所に戻る。

 

 そして異音の原因が見え始める。

 それは狭間の地では見たこともない様々なモンスター達が一心不乱に向かってきていたことが要因だった。

 

 貴方は懐かしむ、狭間の地では当たり前だったこの敵意に。

 だが完全に正気は失っている、これなら楽に狩れるだろう。

 

 狭間の地ではその殺意のままディレイをかけたり仲間と連携するのも多かった。

 

 数が多いだけでは問題にならない。

 

 貴方は取りたくなかった選択肢を取ることに少し興をそがれるが多数にはこれが一番楽なのだ、と武器を入れ替える。

 

 大分距離が近づいている

 これなら十分届くだろう

 

 貴方は王になった証、エルデの獣の追憶、遺体から作られた【神の遺剣】

 それの真価は戦技にあった。

 大剣じゃなければ常用したい程の性能を持つそれは

 

 戦技:黄金波

 

 黄金の波は地を這い、向かってきた多くのモンスターを巻き込みながら押し潰し、吹き飛んでいく

 

 それは地を這う程大きくなり、やがて前方の地面を歩く敵を殺し消える。

 

 だが地に触れていない翼を持ったモンスターが襲い掛かる。

 それをもうエオヒドの宝剣の戦技で迎撃する。

 

 戦技:エオヒドの剣舞

 

 それは剣に気を宿し、自在に操作するもの

 攻撃しようとした翼を持ったモンスターはいきなり飛んできた宝剣に身を抉り抜かれ墜落する。

 

 黄金波に潰された死体を乗り越えまたモンスターが津波のように押し寄せるがこうなったらもうワンパターンだ。

 

 黄金波を放つ

 黄金波を放つ

 エオヒドの剣舞で落とす

 青い聖杯瓶を飲む

 

 黄金波を放つ

 黄金波を放つ

 エオヒドの剣舞で落とす

 青い聖杯瓶を飲む

 

 黄金波を放つ

 黄金波を放つ

 エオヒドの剣舞で落とす

 青い聖杯瓶を飲む

 

 黄金波を放つ

 黄金波を放つ

 エオヒドの剣舞で落とす

 青い聖杯瓶を飲む

 

 たまに祝福に休んだり範囲から偶然逸れた集団に黄金波を放つ

 

 やがて夜になりそして明けた。

 

 既に周りには轢き潰され抉り抜かれた死体が山のように積み重なり地面は血の海と化している。

 

 やっと終わったとあなたは祝福で休んだ。

 

 これだから黄金波は使いたくなかったのだ。

 今回は死なせられない相手がいたので手段を選ばなかったが本来は直剣で戦い合いたかった。

 様々な手段と制限しながら戦うのは楽しいが、ただ同じ技を延々と繰り返し続けるのはあなたの趣味ではなかった。

 

 やはりある程度知能があったほうが面白い。

 

 そう考えていると扉が空いた。

 

 忘れかけていたが彼女達を守るためだったのを思い出す。

 

「あ、あの……助けていただいてありがとうございます……」

 

 助けを求めていた少女から感謝を告げられるが良い良いと手を振る。

 

 彼女達は随分と顔色が悪い、死体を見たことがないのか? と思うがそれも後で聞けばいいかと夜明けを眺める。

 すると長身の女性から質問が出る。

 

「あの、途中で火が広がりましたけどあれは?」

 

 調合レシピを見せる。

 

 最初の少女だけが何故か顔色を良くしているのに気づいた。

 

「貴方様は御使い様なのですか?」

 

 そう聞かれるとたしかに自分は2本指の使いと言っても良いだろう。

 

 だがもっと自分という存在は瞳に光が消えた時から変わらない。

 

 ()()()

 

「褪せ人だ」

 

 

 

 その後、少女に聖女という身分と名前はシンシアだと自己紹介された貴方は彼女の手引で砦へ入り、長身の女性(エリヤという名前を道中シンシアと一緒に聞いた)は軍属だったらしく軍の詰め所へ、他の女は教会に保護された、貴方は初めて食べる現地の様々な料理に夢中で適当に相槌を打っていた結果、教国に行くということを船に乗る直前に知らされることとなった。

 

 まぁ寄り道ぐらいはいいだろう。

 そう考えていた貴方は揺れる船の中、接ぎ木の貴公子の攻撃回避で海に落ちたことを思い出した。

 

 

 

 

 side.聖女シンシア

 

 神の御加護を受けられなくなったことで捉えられ、檻に囚われた私。

 檻の中の生活は、ゴブオクの子どもを産むこと、それまでは正座で待機させられる、ゴブオクに心から服従すると開放される。

 それでも私は屈しなかった。

 

 最初の仲間は大分前に解放され外で産んだゴブリンを抱いている。

 明確に反抗していた娘は見せしめに殺されたため、表面上は服従していたが、バレているのか檻にずっと入れられ見せしめとされた。 

 

 そんな檻の中での生活に慣れ始めた頃、ゴブオク共の集落がザワついていることに気づいた。

 

 会話に耳を澄ますと偵察に出ていたベテラン部隊が帰ってこないらしい。

 ゴブオク共に言語があることは驚いたが今では情報収集のための重要な技能だ。

 それ以外やることがないとも言うが。

 

 数時間後、今度は静まり返る。

 どうやら一人だけ帰ってきたようだ。

 

 私達はもしかして冒険者がここを見つけてくれるかもしれないと沸き立つ。

 今まで何度か軍隊が来て、それでも助からなかった事実から目を逸らして。

 その夜は久しぶりによく眠れた気がした。

 

 翌日、集落は厳戒態勢だった。

 戦闘員はほぼ全員柵から森を警戒している。

 起きても誰も入ってこない、ただずっと正座をしているだけだ。

 助けが来ることを夢見つつ冷静な部分で自分たち程度に軍を動かすわけがないと理解している。

 

 だが

 

 ガランガランガラン! 

 ガランガランガラン! 

 

 鳴子が何度も鳴る。

 反抗する気力のある娘はそれで泣き始めてしまった。

 

 気持ちはわかる、助けに来たかもしれないのにゴブオク共にバレてしまった、ここから助けることは愚か、撤退して情報を持ち帰ることも難しいだろう。

 

 そんな檻の中に声が掛かる。

 

 よく私たちを抱いているオークだ。

 鋭い眼光に私は射竦められ震えてくる。

 

「俺等の言葉がわかるらしいな、お前」

 

 なんでそのことが……!? 

 檻の仲間にしか伝えてないのに……

 

 これからどうなるか、分かっているはずなのに恐ろしくて震えが止まらず涙すら出てくる。

 

「おい、聞こえてんだろ? 

 これから鳴子を鳴らしてるバカを殺しに行く

 その死体にお前も追加してやる、精々存在しない神に祈ってな」

 

 私は恐ろしさに泣きながら漏らした。

 

 ゴブオクはベテランのゴブリン3人に同じくベテランのオーク2人が向かったと聞こえる。

 

 恐ろしくてガクガク震える

 何度も「お前も追加してやる」という声が頭で反響する。

 その私の恐怖を見た他の女性達も顔を青くしている。

 

 そして鳴子が止まる。

 

 ああ、始まってしまった。

 どうか、どうか逃げて。

 私はもう死んでもいいです、だからどうか、彼らに、冒険者に加護を

 

 ドッ

 バヂンッ! 

 カカカッ! 

 

 こちらにまで聞こえる戦闘の音に絶望する、彼らは逃れられなかった。

 ゴブリンとオークの混合部隊はたかが5人でも、オークの前衛に手間取るとすぐ毒矢が飛んでくる。

 軍の30人の部隊を返り討ちにした事実も見た。

 そのことを思い出したのかその部隊に居た軍属だった女性が顔を青くして口を押さえている。

 

 無常にも時間は流れ

 

「くるな、くるなぁッ!」

「やめろぉーッ!」

 

 聞き慣れた声が響く、

 すぐになんの音もしなくなり、死に際の声を聞いて次は自分かと自嘲する。

 わかっていたことだがやはり苦しい、死にたくない。

 今からでも媚売るべきか? 

 上辺だけじゃ駄目だってわかっているだろう。

 様々な思考で頭が埋まっていく。

 

 ところが、また集落ざわつき始める、まだ帰ってこないらしい。

 

 気付く、聞き慣れたあの声はゴブオクの言語だった。

 

 そして

 

 ゴブオクが矢を放ちコンマ数秒、柵が吹き飛ばされる。

 そこに私は柵を吹き飛ばした緑青色の大盾を手に持ち直剣を下げた騎士を見た。

 

 幻覚かと思い何度も目を擦るか騎士は変わらずそこに居た。

 

 装備が変わっているが大盾は捨てたのだろうか? 

 

 だがすぐに囲まれてしまう

 

「無事か!?」

「吹き飛ばされたが傷一つない!」

「侵入されたぞ!」

「女子供を守れ!」

「囲め! 囲め!」

 

 怒号が飛び交うそんな中

 

「こんにちは」

 

 騎士は謎の頭のような笛を吹いていた。

 

 それは人間語だった。

 

 幻聴かもしれない、耳を澄ます

 

「こんにちは」

 

 確かに言っていた

 だが何故挨拶なのだろうか

 

 そんな疑問は助けが来たという事実の前にはなんの障害でもなかった。

 

「助けて! 騎士さんですよねッ!? 

 ここです! 助けてくださいッ!」

 

 声を張り上げる。

 

 騎士はこちらからはもう囲まれて見えない、だが脱出して助けてくれるかもしれない

 また冷静な部分ができるわけないと呟く

 

 でも騎士は邪魔だったゴブリンを切り飛ばし、最短でこちらへ走り向かう

 かなり早い

 

 途中でなぜか何もないところに手をかざすと再度向かってくる、ゴブリンだけじゃなくオークも随分後ろだ、このままなら本当に助かるかもしれない。

 

 だがそこで自分と同時期に来てゴブリンに服従した女が立ちふさがり、騎士の歩みが遅くなる。

 

「やめてください! 貴方がやっていることはただの虐殺ですッ!」

 

 ゴブリンオークが人間の男と子供を殺すのは虐殺じゃないのか? そう突っ込みたいがしかし女は剣を持っている。

 早く対処しなければ後ろからゴブオクに捕まってしまう。

 私はただ見守ることしかできない。

 

 それでも騎士は歩みを止めることはない

 

「聞いてるんですか?」

 

「我々人間は等価報復の原則にも関わらずとゴブリンのメスも殺してなお生きています! 

 その慈悲深さがわからないのですか!?」

 

 だが遂に女が剣を振り上げ

「止まれって、言ってるでしょッ!」

 

 騎士に振り降ろした瞬間、流れるように剣を弾き騎士の持っていた直剣で腹部を貫いた。

 

「がぼッ」

 

 変な声とともに彼女は倒れる。

 だがあれはもう助からない、最初は仲が良かった、そんな相手が死にかけていると言うのに私は悲しむ事が出来なかった。

 

 騎士は焦ったように足を止めて袋を漁っている。

 

 そしてその後ろにオークが迫っていた。

 声を出して警告することもできない、またオークの殺気迸るその顔に射竦められ何も言えない。

 

 騎士が光る小石のようなものを取り出し、倒れ血を流している彼女に放り投げたと同時にオークによってふっ飛ばされる。

 

 完全に死んだと思った。

 オークに防御もできずぶん殴られたら運が良くて即死、運が悪いと全身の骨が折れた状態で体も動かせず野生動物に生きたまま貪り食われる。

 

 だけど騎士は立ち上がるだが今度はゴブリンが囲みめった打ちにされている。

 

 今までと違う、死の恐怖よりも、あの騎士が無残に殺される恐怖に涙が出てくる。

 

 後ろに来ているとあの時私が勇気を出して教えていれば

 

 後悔はもう取り返せない、

 

 最初はあんなに輝いて見えた鎧が薄汚れてしまっている。

 

 私はせめてと正座すら崩して手を伸ばし

 

 騎士は目の間でゴブリンを巻き込み炎を巻き起こして消えた。

 

 自爆だ。

 

 こんな結末で終わるような人じゃなかった、素晴らしい騎士になる人だ。

 なのに自分が助かりたい一心で助けを求めたせいで彼は死んだ。

 

「ヒッヒッ……エグッ……」

 

 涙が止まらない、嗚咽もだ。

 そんな資格は自分にはないというのに。

 そして目を開き

 

 私は奇跡を見た

 

 騎士様が生き返るように立ち上がった。

 いや、ようにではない、確実に生き返ったのだ、訳が分からない。

 これも私が今際の際に見た都合のいい幻覚かもしれない、それでも良かった、あの騎士様がもう一度起き上がってくれるならば。

 

 そのタイミングで謎の恐ろしい叫び声が響いた。

 

 ゴブリンが逃げていく、謎の叫び声に驚愕したのだろうか、オークは私たちの檻を破壊すると最近入れられた少女を連れて行った、あの少女の顔は服従した女の顔だった、スパイだったのだろう。

 

 騎士様が檻の目の前まで来ると壁の方を指さした。

 

 そのまま歩いていく方向についていく。

 岩壁にある食料庫の扉を開くと騎士様は中にはいるようにジェスチャーをする、そして気付く、何かが迫ってきていることに、それから守ろうと騎士様が動いていることに

 

 扉が閉められるが恐ろしい叫び声は途絶えない。

 私はもしかしてモンスタースタンピードではないかと軍属だった女性に話す。

 

 助け出されてからはかなり顔色が良くなっていたが私の話を聞いてまた血の気が引いた。

 

「わかりません、何が禁忌に触れたのか、それを調べることも相当な規制がされています、ですが死ぬ時に投げた火のような物、火薬と似た性質があった可能性はあります」

 

 私たちは今何も武器を持っていない、本当にモンスタースタンピードなら武器を持ったとしても変わらないだろうが騎士様に何もできないのが心苦しい。

 

 隙間から騎士様を見るとそのすぐ目の前にモンスターの大群が押し寄せていた、見たことのないモンスターから伝説として語られているモンスター、凶悪すぎて手出しを禁止されているモンスターまで選り取り見取りだ。

 

「ヒッ……」

 

 私か他の人かはわからないがあの大群を見て私たちは恐怖に引きつりながらも、もしかしてあの騎士様なら大丈夫なのではないかと願う

 

 しかしそれは

 

 騎士様が取り出した大剣の一振りでモンスターが一掃されていくのを見て逆に目を疑うことになった。

 

 謎の神秘的な光でモンスターを一斉に弾き飛ばし轢き潰し、空の相手には謎の綺麗な意匠が施された剣が赤い覇気を纏って空を舞った。

 

 それは一昼夜続き神話の中の戦いだと確信するほど凄まじいものだった。

 

 騎士様は返り血すら浴びておらず、ただ地面にできた血の海がその代わりだった。

 

 漸くモンスターを一通り殺し終えて血の海の上に膝を立てて座っている騎士様に恐る恐る断崖の食料庫から出た私達は感謝を伝えに来た。

 

 

 だがいらないとばかりに手を振るだけだった。

 

 次に軍属だった女性があの火について聞いた

 すると謎の製法書の1ページを見せられた。

 

 私は騎士様と少しでも接点を見つけたかった。

 だから聞いた

 

「貴方様は御使い様なのですか?」

 

 そんなわけがない、私はそれでも期待した

 

 帰ってきたのは

 

「褪せ人だ」

 

 という()()()()()()()()だった。

 

 いきなりの衝撃に頭が回らなくなった私はとりあえず、私達は、取り敢えず様々なモンスターの討伐証明になる部位を回収した。

 

 勿論その部位以外にもとんでもない価値が付くが女だけで運べるものを選択した。

 後日場所を説明して回収してもらおう、1割でも分ければ十分だろう

 

 そして騎士様改め、褪せ人様に街に向かうことを伝えると立ち上がり、そのまま私が示した方向に歩き出す。

 

 褪せ人様は無口だったが偵察もしていないのに全ての敵を先に見つけていた、そして何故か、亜人とは遭遇せずに帰還することができた。

 

 道中で褪せ人様に自己紹介をしようとしたが、結局したのは軍属のエリヤのみだった。

 

 褪せ人様には身分証がないため怪しまれたが聖女の身分を活用させてもらった。

 

「やっと、やっと帰ってこれたよぉ〜」

 

 泣く出す少女を慰めとりあえず彼女達には安静が必要だと教会に預ける。

 

 軍属の娘は入った時に既に軍の関所に走っていた。

 

 教会で簡易な服を貸してもらった後、私は教会に討伐証明部位もをギルドで換金しに行ってもらった。

 ついでに死体の山の場所も教えてある、神父様からは夕食分の金銭を頂いた。

 

 一息ついて騎士様、いや褪せ人様を見上げる。

 ずっと私たちの護衛まで一人でこなしてくれたのだ、料理ぐらいご馳走しなくてはとお店を探す、ふと思い出して私が初めて来た時に好きだった料理屋は、まだ、あった。

 少し涙ぐみながらも「ここが美味しいんですよ」と教える。

 

 褪せ人様は初めて街に来たように周りをよく見渡していた、あの戦いがまるで嘘のような初々しく可愛い反応についつい微笑ましく思ってしまう。

 

 そして個室付きのその料理屋で個室をお願いした私は、おすすめの料理を何品か頼むとビールを2つ頼んだ。

 

 昨日の朝には考えつかなかっただろう、このアイギスに帰り着いていつも行っていた料理屋でビールを頼むことができるなんて

 

 私は運ばれてきたビールに乾杯して口をつけようとするが褪せ人様が未だに頭の防具すら取ってないことに気づく。

 

 私はダメ元でどうにか鎧を脱いで乾杯しないか聞いてみた、褪せ人様は少し悩んだあと、頭の防具だけ外した。

 

 そこにいたのは金髪慧眼の大人っぽい女性だった。

 

 やはり予想していたとはいえ衝撃を受ける、

 

 男モノの鎧で活動するなんて考えたこともなかった、きっと褪せ人様ほどの力量でやっとできることなのだろう。

 

「その……褪せ人様ってやつ……やめて」

 

 初めて褪せ人様から求められたのはまさかの様付け禁止だった。

 

 しかしその後は乾杯してビールのおいしさに驚き、食事のやり方を教えたあとはおいしさにとても驚いた、真顔でほっぺを膨らませていたのはとても可愛かったです。

 

 その間いろいろ教国のことやこれからの身の振り方とかを褪せ人さんに話したり相談した。

 

 でもまさか教国についてきてもらうことも許してくれるなんて! 

 

 明日ちょうど出港の便がありますからすぐ出発しましょう! ね! 

 




めっちゃ文量増えちゃった。
ついでに癖も追加した。

禁忌のモンスタースタンピードの解釈として
作り方を知っていて使用することで条件が達成され半径5km圏内の一定以上の危険度と一定以下の知能のモンスターが襲いかかってくるって解釈です。

一旦騎士編は終了で次は別の褪せ人書きます。
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