褪せ人が行く!ふかふかダンジョン!【完結】   作:No_46

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大司教の思惑(騎士編)

 聖教国:大聖堂、隠し大部屋

 

 そこにはこの国の重鎮ともいえる教皇、枢機卿、大司教が一堂に会していた。

 

 一番の上座に座っていた教皇オーヘンベルクは手に持って読んでいた報告書を机の上に置く。

 

「なるほど…現状確認できているのはこれですべてかね?」

 

「はい! 現状報告書に書かれている存在のみ、この半年で確認されているということです!」

 

 教皇の言葉に枢機卿が答えた。

 

 教皇はこの報告を行った大司教に目をやる。

 

 大司教は立ち上がり、話始めた。

 

「では、詳しくは私、暗黒大陸担当、大司教アークが説明させていただきます。

 この正体不明の人型存在、本人らの呼称で褪せ人、と呼ばせていただきます。

 現状確認できている一人は皆様ご存じ、この大聖堂にて客人としていらっしゃっている方です」

 

 そこに枢機卿が声を挟む。

 

「名前はないのかね? 褪せ人というだけでは誰が誰か分からんだろう」

 

「残念ながら、彼女たち褪せ人は別の大陸から突如飛ばされてきたと証言しており、その地では記憶が擦り切れるほどの長い間、死と生を繰り返していたため、既にほとんどの記憶はなくなっているそうです。

 ただこちらの判別のために、今聖教国に滞在されている方は騎士の褪せ人と呼ぶこととなりました」

 

 ざわつきを気にせず。アーク大司教はよどみなく答える。

 

「彼女に関しては最後、説明させていただきます」

 

「まずは彼女たち褪せ人についてです。

 まず彼女たちの特徴として

 生き返る

 頭部などの致命的な急所に攻撃を受けても行動できる。

 装備を謎の技術によって一瞬で置換できる。

 人智を超えた身体能力や不思議な魔法と言えるもの、卓越した戦闘技術を持っている。

 生存のための基本的な食料や休息が不要である、ただし戦闘や全力疾走時の場合、息を整える程度の休息は必要である。

 此等の特徴とが当てはまります」

 

 周囲の枢機卿が我慢できず問いかける。

 

「生き返る…というのはどういうことだ?」

 

「言葉通りの意味です。

 騎士の褪せ人に確認の為、訓練所にて自死を願ったところ自らの腹部に刃を幾度も突き立て、その後倒れ灰のように姿が崩れた後、近場の休息所から無傷で出現しました」

 

 枢機卿達の顔が強張る。

 

「事実とは思えん…

 彼女らは人間に協力的なのかね?」

 

「客人として招いている騎士の褪せ人は聖女を亜人共の巣から助け出した事などから協力的ではあります

 しかし彼女以外にも確認されている褪せ人はわかりません

 明確に敵対している存在も確認されています」

 

 教皇が尋ねる。

 

「では最後の、息を整えるための休息は明確な隙と言えるのかね?」

 

「…説明不足で申し訳ありません、休息と言っても戦闘時一呼吸置く等の行為で休息できる為、戦闘時の隙とは言えないと考えられております。

 実際、試験的に教会兵によって刃を潰した剣での組手を行いましたが、総勢20人が容易く排除されました」

 

 ざわめきがさらに広がるのを無視してアーク大司教は続ける。

 

「では続いて確認された褪せ人の事案を説明させていただきます。まず暗黒大陸に試験部隊として向かわせた聖女システム、加護の人数が足りていなかったのかオークとゴブリンの巨大集落にて囚われていた聖女を単独突入で救出し、モンスタースタンピードによって向かってきた100以上の凶悪なモンスターを鏖、その後、海を渡り教国の客人としていらっしゃった騎士の褪せ人。

 彼女の協力で教国内の亜人集落が大多数消滅したことは記憶に新しいと思います。

 本人は食事が好きなのか様々な食を食べることを楽しんでいる様子で傍には監視と聖女本人の希望で救出された聖女をつけています。

 戦闘訓練では審査兵、教会兵の混成部隊を突破しあの勇者パーティに単独で勝利しています。

 スタンピードに関しては本人が所持していた製法書に火薬と似た効果を持つ素材を用いた道具が記されている為、使用をしない様にお願いしている現状です」

 

「モンスタースタンピードが起きないという確証は? 

 まさか監視だけでは無いでしょう?」

 

 大司教がスタンピードを危惧した質問をするが

 

 アーク大司教は

 

「生憎とその通りです、そもそもモンスタースタンピードを単独で鎮圧できる存在に対し何ができるというのですかな?」

 

 とだけ答えた。

 

「次に、北アイギス襲撃事件の主犯とされる、呪いの褪せ人。

 周囲に呪いをばら撒き襲撃事件の後も亜人集落、開拓村と見境なく襲撃を繰り返しております。

 こちらの呪いというのは病でも迷信でもなく、実際に当たれば体調不良や意識の混濁、最悪命すら奪う攻撃として考えてください」

 

「対策は何かないのかね! 

 拘束や奇襲は?」

 

 叫ぶような枢機卿の言葉にアーク大司教は

 

「残念ながら全て失敗に終わっております。

 損害の大きさから確保や討伐は諦め、ドラゴンのように扱うべきだという嘆願書が多く届いております。

 ただ真偽不明ですがタバコを渡したところ見逃されたという話が市民たちの間に広まっています」

 

 と応えるのみだった。

 

「続いて黒衣の褪せ人

 此方はアイギスにて確認された存在で、冒険者登録を行い活動を行っていると報告がありました。

 隠密能力の高さや戦闘技能などにより既に戦闘系のS級として【暗殺者】という二つ名を持っています。

 注目すべき点はその隠密能力、眼の前に居ることが確認できない透明化や音を消す術を所持していると報告されています。

 酒好きなのかよく酒場にて酒を飲んでいる姿が確認されています。

 幸い、人と敵対しているわけではありませんが、絡みに行った冒険者チームが2つ、行方不明になっている報告から注意すべきとも言えます

 諜報員からの情報として神秘を消すためにダンジョンに潜っているとの情報が入っております」

 

「暗殺能力か…

 ネームドの討伐依頼を出しても良いかもしれないな」

 

 教皇はそう呟く

 

「神秘を消すとは?」

 

「わかりません」

 

 枢機卿の質問をアーク大司教は手早く答え、話を続ける。

 

「最後はドラゴン殺しの褪せ人

 恐らく皆さんご存知のドラゴンスレイヤーです。

 第70開拓村に向かっていたレッドドラゴンを単独討伐、その後、立ち入り禁止区域に指定された原因であるドラゴンを次々と討伐しており、既に話題がこの聖教国へ流れるほどの存在です。

 攻撃手段として体をドラゴンへと変じているという報告が多数上がっています。

 

 この褪せ人は特別ドラゴンに執着しており、ドラゴンの依頼であれば報酬すら受け取らずに討伐に向かうと知られています。

 死体には執着がないようで討伐に向かった場所にドラゴンの死体が放置されているそうです。

 

 またハイピュイアの討伐も多く、ドラゴンに変じた頭部からのブレスや握りしめた雷を投げることによって多数の討伐を成し遂げています。

 ただし殺しすぎたためかハイピュイアが見つけたら直ぐに攻撃を初め、所属している村や都市に被害が出そうになった事例もあります。

 この褪せ人の気性は荒く、いつも苛立っているという報告も受けています。

 諜報員によって聞き出した理由としてはドラゴンが偽物である、空飛ぶ鳥が嫌いなのに追い回されているから

 などの話を聞くことができました」

 

 アーク大司教の話が一区切りついたの皮切りに疑問を聞き出そうと議会は喧騒に包まれる。

 

「被害が出そうになったとはどういうことですか?」

 

「大群で飛来したハイピュイア達をドラゴンブレスや雷の魔法によって壊滅させ、その後も1週間ほどハイピュイアの拠点を襲撃しに向かったそうです。

 ハイピュイアの拠点襲撃によって攻められることが無くなったと聞いています」

 

「ドラゴンは偽物だったのか?」

 

「今まで新鮮なドラゴンの死体を入手した事例がなかった為、断定はできていませんが死体などから今まで確認されていたドラゴンと同種であるとの意見が専門家の中では占めております」

 

「褪せ人が敵に回ったらどうする!」

 

「どうしようもありません、せいぜい逃げるぐらいが関の山でしょう」

 

 そうして議論が議論と呼べないほどひどくなろうとした時

 

「静まれ!」

 

 教皇の一声により議論はひとまずの落ち着きを見せた。

 

「アーク大司教、こうして一堂に会させたのは君の発案だ、何かするつもりなのだろう? 

 進めなさい」

 

 教皇の言葉を受けアーク大司教は一堂に会した大司教、枢機卿、教皇へ向けて話し始めた。

 

「こうして一堂に会して頂いたのは実際の褪せ人を見ることによってその戦闘能力危険度を認識させるためでもあります。

 既にこの隠し大部屋から繋がっている訓練所にて騎士の褪せ人殿が勇者パーティと聖騎士団精鋭5名は真剣、騎士の褪せ人のみ寸止めの試合を行う予定です。

 戦いを見て、どうするのが得策なのかを皆様に考えて頂きたい」

 

 

 

 アーク大司教の言葉により屋外の訓練所に移動した教国の頭脳ともいえる教皇達は、既に見合っている勇者パーティの3人と聖騎士5名に相対している青い意匠の騎士に注視している。

 

 聖剣の勇者セイは既に聖剣を構え、聖壁の騎士マユリは前に出て、一番後ろに聖杖の賢者リリィが杖を構えている、そして広がるように聖騎士がマユリと並んで剣を抜いていた。

 

 対する青い意匠の騎士は片手にヒーターシールドを、もう片方に普通のロングソードを装備している

 

 アーク大司教が間に立ち、そして

 

「初めッ!」

 

 戦いが始まった。

 

 まず仕掛けたのは勇者パーティの聖壁、マユリと聖騎士達

 直ぐに取り囲みシールドで押しつぶそうとする、しかし

 

「引いて!」

 

 勇者セイの一声で囲んでいた騎士が一気に身を引く

 

 だが

「ッ! マユリ!」

 

 一緒に身を引いたはずのマユリに対して飛び上がり、回転して叩き込んだ剣はラケットメイスを両断した。

 

「きゃっ!」

 

 そのまま盾を構える間もなく首に寸止めされた剣を見て

 

「マユリ、死亡!」

 

 アーク大司教が告げる。

 

 その間にも戦闘は動いている、一瞬で離れたこととマユリの死亡判定によって空いたスペースをすり抜け勇者セイの眼の前に

 

 そして剣が黄金の粒子を纏い変化すると同時に、盾を背中に引っ掛け変化した特大剣:グレートソードを両手で握りしめる、勇者セイは踏み込みを見て横へ回避しようとするが大振りの薙ぎ払いで制限された動きは後ろへ流される、そしてできたスペースを詰めようとした薙ぎ払いの瞬間、

 

「御加護を!」

 

 聖杖の賢者リリィが祈ると同時に周囲から鋼鉄の矢が飛ぶ、しかし騎士の褪せ人は身を屈めると姿が消え

 

「リリィ! 

 回避!」

 

 その言葉を聞いたリリィがバックステップをする前に

 

 既に目の前に移動していた騎士の突きが喉元の寸前で止まっていた。

 

「リリィ死亡!」

 

 アーク大司教の言葉が終わるよりも早く踏み込んできた勇者セイの大振りを特大剣で受け、再度消える。

 

「聖騎士さん! 後ろ!」

 

 追ってきていた聖騎士達の後ろで構えた特大剣をまたしても切り替え今度は一回り小さな大剣:クレイモアを両手に持った。

 

 短い溜め動作を見て、好機と攻めに転じた3名騎士を迎え撃つように鋭い踏み込みと舞いで首近くを撫でつつすり抜ける。

 

「ジャス、リンド、ガリオ死亡!」

 

 瞬く間に二人まで減った聖騎士は

 

「打ち込む! 援護して!」

 

 と勇者セイの言葉を受け同時に突撃する。

 

 だが褪せ人は背中の盾を蝕紋のヒーターシールドに変化させ腕へ装備し直すと、攻撃に合わせシールドバッシュを踏み込んだ。

 

 正面の勇者のみを目的としたシールドバッシュは、騎士の攻撃をモロに食らった対価として勇者セイの体勢を崩すことに成功した。

 

 勇者の晒した隙を見逃さず、騎士が突撃攻撃の後で動けていない間にセイに上からクレイモアを振り下ろす。

 

 振り下ろされた刃を超人的な反応速度で回避した勇者セイ

 

 だが

「…失敗したなぁ」

 

 褪せ人が振り下ろした刃はそのままの勢いで体勢を立て直しきれていなかった騎士の二人の喉元へと突きつけられた。

 

「バーグ、ドンヒ死亡!」

 

 その言葉に勇者セイは

 

「無理だね、降参〜

 この状態なら前と同じだし、先にこっちが直ぐ疲れて負けちゃうよ」

 

 と、白旗をあげたのだった。

 

 

 周囲で観戦していた大司教達は目の前でいきなり始まった戦いが、人数有利だったはずの勇者パーティと聖騎士達の敗北で終わった事実に驚きを隠せていなかった。

 

「皆様も実際に見て騎士の褪せ人殿の強さ、よく理解されたと思われます。

 ならばこそ、此の度の暗黒大陸遠征、大きな助けと成ることは疑いようもありません! 

 教皇陛下のいたしましては何卒、暗黒大陸遠征隊への編入の許可をお願いいたします!」

 

 アーク大司教の言葉を受け、教皇は幾つかの話し合いの後、暗黒大陸遠征隊に騎士の褪せ人を参加させる許可を与えた。

 

 だがアーク大司教は安堵よりも不安が強い。

 今回の戦闘能力を見せたのも、危険な存在を教国から排除するためという意味合いも込められていた。

 

 勇者セイの言葉が頭に回っていた。

 

「割と勝てそうじゃないかですか? 

 う〜ん、あの人かなり手加減してくれたみたいですよ? 

 周りを巻き込まないような広範囲攻撃は最初から使わないようにしてるみたいでしたし、そもそも考えもそんなに読めないんですよね。

 膨大な経験から元々決められた動きじゃなくて、此方の動きを見てすぐにどう動くか決めてるみたいなんで

 細々とした部分や攻撃箇所に関してはかなり読めるはずなんですけど、それも読めなかったんで、もう無意識レベルで剣を振るうことが染み付いてると考えていいと思います。

 褪せ人さん戦いの最中、主に何を考えていたと思います? 

 晩御飯の献立ですよ」

 

 アーク大司教は人間を守るために、今日も苦労していた。

 




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