【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
娘レミーベールをローエに任せたフランベールは、姉であるリリーベールの様子を見るため彼女の部屋に向かっていた。
リリーベールはガイスの子供を妊娠し、臨月を迎えてからすでに一週間が過ぎていた。
三十七週が過ぎたから、もういつ生まれてもおかしくないのである。
だからこうして、最近は毎日様子を見に来ている。
「姉さん? 起きてる?」
部屋の扉をノックする。
すると中から姉の声が聞こえた。
「フラン? どうぞ」
入室の許可が出たのでフランベールは部屋の内部へと入った。
そこにはベッドに座るリリーベールと、彼女の夫であるガイスもいた。
ロウソクに照らされる二人はすでに夫婦で、同じ部屋に居てもおかしくない関係だ。
聞けばリリーベールがガイスに猛烈なアプローチをしたらしい。
「お邪魔します」
ペコリと頭を下げると椅子に座ったガイスも小さくお辞儀する。
「あんたまた来たの?」
「そりゃ来るよ。姉さんいつ出産してもおかしくないんだから心配なの」
「大丈夫よ。問題ないわ」
「なら良かった。ふふ、男の子か女の子か楽しみですね」
ガイスに向けて言うと、彼は小さく笑ってリリーベールを見た。
「ああ、本当に楽しみだ」
「ガイスさんとしてはどっちが良いんです?」
「リリーに似た女の子がいいな」
ポッとリリーベールの顔が赤くなった。
そんな姉を見てフランベールは思わず吹きそうになる。
何故なら以前にも姉に同じ質問をしたことがあるのだ。
その時リリーベールが言ったのはこうだ。
『ガイスに似た男の子がいい』と。
仲の良い夫婦である。
「そ、そうねぇ。まぁ元気に生まれてくれればそれでいいわよ」
「ふふ、そうだね。とりあえず姉さん調子良さそうだし、わたし部屋に戻るね」
「待って。ちょっとあんたに聞きたいんだけど」
「え、なに?」
「その……出産ってやっぱり痛い?」
もうすぐ経験するから聞きたくなったらしい姉。
とっくに出産を経験したフランベールに聞くのは当然と言えば当然だ。
しかし、どうするべきか?
陣痛の痛みを正直に教えるべきだろうか?
フランベールにとってレミーベールの出産は、死ぬほど痛かった。
もうあれである。
この世の痛みとは思えないほど痛かった。
これに尽きる。
騎士をやってる身だから痛みに強い自信はあったのだが、そんな次元の話じゃない。
何にせよめちゃくちゃ痛かったのは本当だ。
しかし、これをそのまま教えるのは、いらぬ不安を与えてしまうだけな気もする。
妊婦の身体はデリケートだ。
母体へのストレスや不安はそのままお腹の赤ちゃんにまで影響を及ぼすという。
困ったものだ。
自分の時は同じく妊娠していたカティアとローエが側にいて、共に励まし合って出産に望んだ。
だからストレスや不安も少なかった。
だがリリーベールの場合は一人だ。
ガイスが側にいるが、彼も所詮は男。
初めての出産の怖さや不安は、なかなか理解し切れてやれないだろう。
まぁでも、夫が側にいるというのが大切なのは間違いない。
それだけで安心感は違ってくるものだ。
「ん……まぁ、痛いね」
「ど、どのくらい痛いの?」
「えっと……そこそこ?」
「なにその曖昧な返事は。ハッキリ言いなさいよ」
言っていいのだろうか?
いやでも本人が言えって言ってるし……。
そう自身を正当化させて、フランベールは口に開いた。
「痛いよ。もうこの世の痛みとは思えないくらい」
「や……やっぱりそうなの? 騎士のあんたでも痛かったのね」
「そりゃあもう……例えるなら鼻に巨大な硬いパンを突っ込まれてるような感覚だったよ」
我ながら的確な表現だと思った。
だが、本当の本当に本音を言うなら『とても言葉では表現できない痛み』というのが正解である。
母もあの痛みを乗り越えて自分を生んだのかと思うと、それはそれでなんだかお疲れ様ですと言いたくなる。
「凄い例えね。とりあえずバカみたいに痛いってのは分かったわ」
リリーベールが吹っ切れたようにそう言った。
意外と大丈夫そうである。
「なら良かった。それじゃおやすみなさい」
「ええ。おやすみ」
フランベールは姉の部屋を後にした。
※
そして翌日の朝になった。
俺はカティアのおかげで絶好調な目覚めを迎える。
家族全員で朝食を取った俺は、今後の作戦を練るために装備を整えて国王の元へ向かった。
朝か夜かも分かりづらい鉱山内を歩いていると、途中で義妹のレィナと出会った。
彼女もまた装備をしっかり整えている。
「義兄さま。おはようございます」
「おはようレィナちゃん。今日も可愛いね」
いつものように挨拶を交わす。
昔はこう言うと『奥さん達に言いつけますよ』と言われていたのだが、今はもう諦めたのか何も言わなくなった。
「どちらに行くんですか?」
「国王さまのところ。みんな強くなったし、そろそろ本格的に調査を進めた方がいいと思ってね」
「なるほど。南の奥地へ進むってことですね」
「そうだ。危険だけど、やっていかないとね」
言い終えてから、目前のレィナを改めて見直す。
気のせいか?
昨日よりもレィナが妙に大人っぽくなったような?
纏っている雰囲気が違う気がする。
「……? なんですか?」
「あ、いや。なんか昨日より色っぽくなったなぁと思って」
「え……アタシがですか?」
俺は「うん」と素直に頷く。
今度こそ『奥さん達に言いつけますよ』と言われると思ったのだが、そうでもなかった。
当のレィナは顔を赤らめ、目を横に逸らしている。
何か思い当たるところがあるようだ。
「あの……」
「うん?」
「実は……やっとグリータと付き合うことになりました」
なんだと!?
いつの間にそんなことに!?
レィナがグリータを好いていたのは知っていたが、あの鈍感ロリータが相手ではその恋はなかなか成就しないだろうと思っていた。
だけど、まさか、こんなに早く付き合い出すとは。
予想外である。
「本当に!? 凄いな! あの鈍感を相手によくやったね!」
「はい。正直、リーネのおかげでもあるんですけど」
「へぇ~、リーネちゃんのおかげかぁ」
なんでリーネの名前が出てくるのだ?
そういえばリーネもグリータの事が好きだったはず。
レィナに先を越されてしまったか可哀想に、と内心で残念に思っていると。
「あ、リーネもグリータと付き合うことになりました」
──え?
「ん? え? どういう意味だい?」
「えっと……義兄さまと同じハーレムになりました」
あ、やっぱ聞き違いじゃない。
ハーレムって言ってる。
あのグリータがハーレムだと!?
信じられん!
あいつそんな度胸あったんだ!
見直したぞグリータ!
「ほ、本当に?」
「本当です」
朝から凄いこと聞いたな。
そっか。
レィナが妙に色っぽく見えたのはそういうことか。
納得してレィナを見やり、俺は口を開く。
「良かったねレィナちゃん」
「はい! ありがとうございます!」
しっかりお辞儀するレィナ。
可愛いツインテールが揺れて垂れた。
「アタシも頑張って赤ちゃん産んで、家族を増やします!」
やる気満々のレィナはそう言いながらお腹を撫でていた。
その仕草にピンと来た。
レィナが妙に大人っぽくなったと感じた理由。
グリータのヤツ、もうレィナちゃんに手を出したのか。
やるじゃねぇかグリータ。
やっぱやるときはやる男なんだな。
でもレィナちゃんこのまま妊娠したら15歳で妊娠かぁ。
まぁエルガンディって男女ともに15歳で成人扱いだから、別に不思議でもないか。
そう考えるとカティア・ローエ・フランベールって結婚も妊娠も遅い方だったのかも。