【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
開戦してからまだ数分だが、ゼクードはすでにS級ドラゴンを三十体以上も撃破している。
カティアはまだ、同じ時間でS級ドラゴンを十体ほどしか倒していない。
競争でないのは分かっているが、やはりこの差は悔しい。
妊娠によるブランクがあるのは確かだが、それを差し引いても……私がゼクードを越えられる姿を想像できない。
二年経った今でも、それは変わらない。
追い続けた夫の背中は……越えられそうにない。
あまりにも高過ぎる才能の壁。
見せつけられる男女の身体能力の差。
どれだけ手を伸ばしても。
どれだけ背伸びしても。
どれだけ強がっても。
何年経っても。
私はゼクードを越えられないだろう。
私にとってゼクードは【現実の壁】だ。
あいつは徹底的に見せつけてくる。
力の差を。
でも、だからこそ今の私は素直に女として生きていられるんだと思う。
『思い知る』という事は、決して悪いことではない。
【現実】を知り、【己】を知り、何もかも思い知る事で、色んな事に心の折り合いがつけられるようになる。
これが俗に言う『大人になる』ということなんだろう。
女でも男の騎士より強くなれるということを証明したかったが、それはきっと……永遠に叶わぬ夢だろう。
その夢に立ちはだかる壁が、愛する夫なら諦めもつく。
何より、私達を認めさせたかった父クロイツァーもこの世にいない。
すまない。
マーシュ
レテ
リリエ
エジール
アルマナ
セレディ
ルネリア
諦めてしまった情けない姉を、どうか許してほしい。
だが、これだけは誓う!
お前たちの未来を奪ったディザスタードラゴンだけは絶対に倒す!
ここで終わりにしてやる!
そして、お前たちの分も私は精一杯生きる!
前進するカティアの前に、ゼクードの誘導に引っ掛からなかった数匹が邪魔してきた。
ディザスタードラゴンは目前なのに。
「邪魔だああああっ!」
花びら舞う戦場でカティアは【クリムゾングレイス】に【気】を纏わせる。
「【ドラゴンスティンガー】!」
真っ直ぐに撃ち放った突きは虚空を穿つ。
一見、空振りにしか見えないそれは【飛ぶ刺突】を発生させ、群れるS級ドラゴンどもの身体を撃ち貫いた。
一匹、二匹、三匹、四匹と貫通していくその突きは、ついにディザスタードラゴンの胸部に命中した。
こちらの攻撃は奴の白銀の鱗をわずかに削り落とす。
竜鱗を貫くことは出来なかったが、怯ませることは出来た。
ディザスタードラゴンがカティアを睨み、怒りの咆哮を発する。
かと思うと、次の瞬間には大口開けてブレスを放ってきた。
それは青く煌めく光線。
その弾速は弓矢より遥かに速く、一瞬でカティアの元へ迫った。
この速さ。
二年前の自分なら、避けるどころか反応できずに直撃していただろう。
だが今は見える。
カティアは大盾を地面に突き刺し、全身に力を込めた。
青いブレスが大盾に直撃し、その衝撃で大盾を押さえていたカティアが全身ごと僅かに後退する。
「ぐっ!」
凄まじい威力ゆえか、ガードしているのに熱が全身を焼いていく感覚に襲われた。
魔法が使えなくなっても、ブレスは自前か。
熱いが、これでいい。
もう我々の連携攻撃は始まっている!
大盾に当たる青いブレスは左右に逸れ、花畑を一気に燃え上がらせていく。
その燃え上がる炎の中からローエとフランベールが飛び出てきて、カティアにブレスを吐き続けるディザスタードラゴンに肉薄した。
奴の周囲にいる残りのブルードラゴンをフランベールが射ぬいて全滅させる。
次いでローエは、護衛が全滅した丸裸のディザスタードラゴンへ突撃した。
※
ローエは間合いを詰めて、一気にディザスタードラゴンの懐に飛び込んだ。
「【ハリケーン】!」
風の魔法を発動させ、瞬時に竜巻を起こす。
その竜巻により浮上し、三十メートル以上もあるディザスタードラゴンの頭部目掛けて飛んだ。
カティアにブレスを吐き続けるディザスタードラゴン。
奴はローエの接近に気づいていない。
隙だらけの奴の顎を、浮上したローエはフルパワーでカチ上げた!
ぶつかる直前にカチンとトリガーを引き【ヴェルデリボルバー】の爆砕も追加する。
爆発と衝撃でバクンと閉じられた大口は、ブレスの暴発こそさせなかったがディザスタードラゴンの顔を大きく天へ向かせた。
人間がアッパーをくらった時のようにまっすぐ。
その隙をローエは逃さず、奴のむき出しの腹に──
「……っ!」
──黒い竜を身籠る腹部に【ヴェルデリボルバー】の一撃を打ち込んだ!
同時に歯を食い縛り、ローエはトリガーを引く。
大打撃と爆破による二重撃はディザスタードラゴンの巨体を大きく吹き飛ばし、花畑に倒れ込ませた。
しかし、すぐさま起き上がり、殴られた腹をかばう。
どうやらお腹の子を気にしているようだ。
先程の一撃で、お腹の子が傷ついていないのかどうなのか。
地面に着地したローエは『凄いものだ』と感心する。
ローエも妊娠を経験しているから、身籠ったまま戦っているディザスタードラゴンが凄く見えてしまうのだ。
「その身体でよく動きますわ」
吐き捨てるように言い放ち、それでもローエは武器を握り直した。
たとえ妊娠していようと、容赦はしない。
雷や嵐が使えなくなっている今が好機なのだ。
セルディスと両親の仇は討たせてもらう!