【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ゼクードが人型ドラゴンを抑えている間、残りのS級ドラゴンはフランベールが単騎で応戦していた。
敵の残りはまだ300ほど。
A級ドラゴンどももリーダーの消滅で、結局敗走を始めている。
フランベールだけで片付けられる数じゃない。
急いで加勢しなくては。
「ぅ、ぼはっ!」
走ろうとしたローエは吐血した。
口から吐き出た赤い液体が地面を濡らす。
口から血が……。
どうやら先ほど腹にくらった蹴りのせいで内臓をやられたらしい。
痛いとは思っていたが、思っていた以上にダメージがあったようだ。
だが、出産の痛みに比べればこんなもの!
「ローエ、大丈夫か!?」
こちらに来てくれたのはカティアだった。
彼女もまたダメージの深刻そうな満身創痍の状態となっている。
頭を切ったらしく、顔面が流血だらけだ。
「カティア……あなたこそ」
「こんなもの、出産の痛みに比べればどうってことはない!」
思わず吹きそうになった。
同じ事を思って自らを奮い立たせていたのだから。
「ふふ……そうですわね。さぁ、行きましょう。動けるフランを中心にしてバックアップに専念しますわ」
「了解だ。だが間違っても死ぬなよローエ。これ以上……家族を失うのはごめんだ」
「その言葉……そっくり返しますわ」
場違いな笑顔でそう返した。
カティアもフッと笑う。
「行くぞ!」
「ええ!」
家族の絆を確認し合ったカティアとローエは、たった一人で戦うフランベールの加勢に走った。
戦場となった花畑はすでに炎の海と化し、空に黒煙を立ち上げ続けた。
※
【フォルス隊】の救援に来ていたグリータは、レィナやガイス、他のS級騎士たちを何十人と引き連れていた。
森の一本道をひたすら進み、日が沈み出す時刻になった。
そこでようやく南の奥から黒煙が上がっているのを発見した。
「あれを見ろ!」
「黒煙が上がってるぞ!」
仲間たちがざわめき出す。
グリータは後ろのガイスとレィナに振り向いた。
察したように二人は同時に頷く。
あの黒煙の元に【フォルス隊】は居る。
こんな奥地まで来た以上、黒煙が上がる要因など人間とドラゴンが争っている他はない。
「みんな行こう!」
グリータは先頭に立ち、部隊を率いて森の一本道をさらに突き進んだ。
そして森を抜けた。
その先の光景にグリータは目を見開く。
「なんだ……これ……」
火の海となっていたその場所には、リザードマンとブルードラゴンの亡骸が大量に転がっていた。
百や二百なんて数じゃない。
300……いや、500は優に越えている。
これだけの数を相手に、みんな倒したのか。
「これは……【フォルス隊】がやったのか?」
後続のガイスが前に出て来て、信じられない様子で言った。
「たぶん……」
グリータもそう答えるしかなかった。
そもそもあの部隊ぐらいしか、こんな真似できないだろうし。
「姉さま!」
いきなり叫んだのはレィナで、グリータとガイスの脇をすり抜けて走って行った。
彼女の向かう先には、見覚えのある三人の女騎士が倒れていた。
「あれは!」
「フランベールくん!」
グリータとガイスも、レィナに続いて走り出した。
後続のS級騎士たちも続く。
「姉さま! カティア姉さま!」
倒れるカティアを抱き起こし呼び続けるレィナだが、彼女は目を覚まさない。
外傷が酷い。
鎧が溶けていたり、火傷を負っていたり、何より出血の量がヤバイ。
これだけの数のS級ドラゴンを相手にし、全滅させたところで三人とも力尽きたようだ。
激戦を思わせる満身創痍だが、みんなまだ息はしている。
良かった。
「なんでこんな無茶を……」
偵察任務だったのになぜ仕掛けたのか。
見つかってやむなく応戦したのだろうか?
たった3人で500匹以上もいるS級ドラゴンを全滅させるとは。
どういう訳か。
A級ドラゴンの死体も混じっている。
こいつらまだいたのか。
「医療道具を持ってる奴はこっちに来てくれ! 酷い傷だ! 手当てをしてほしい!」
「了解! すぐ行く!」
味方に指示を飛ばしてから、グリータはゼクードがいないことに気づいた。
隊長のあいつはどこだ?
燃えてバチンと弾ける木を見ると、その奥で爆音が轟いた。
派手な土煙が上がっている。
どう見ても戦塵だ。
まさか。
「ゼクード……なのか?」
グリータは呟くと、さらに地鳴りがして爆音が鳴り響く。
ガイスやレィナたちもそれに気づいて、みながその方角を見やる。
「義兄さま……まだ戦ってるの?」
レィナの言葉にグリータは「みたいだ」と返した。
「ディザスタードラゴンとやり合ってるんじゃ……」
「いや、それはない」
ガイスに言葉を遮られ、グリータは彼を見た。
するとガイスはある方角を指差し、グリータはそこを注視する。
燃え盛る炎の中に白銀の竜が倒れていた。
ディザスタードラゴンである。
な……どういう事だ?
ここに奴の死体がある?
するとまた爆音が響き、戦塵が立った。
「ゼクードの奴、何と戦っているんだ?」
「わからん。だが、ここの三人の状態を見るに、開戦からかなりの時間が経っている。それなのにまだ……あのゼクード隊長が【仕留め切れていない相手】がいる」
ガイスの説明に背筋がゾッとした。
「ディザスタードラゴンよりヤバい奴がいたってことですか?」
グリータが聞くとガイスは頷く。
「おそらくな。ここにゼクード隊長がいないのも、力尽きた三人を巻き込まないようにするためだろう」
「戦塵はそんなに遠くありません。早く加勢に行きましょう!」
レィナがそんなことを言い出した。
グリータはすぐに反対する。
「ダメだ! SSS級のゼクードが苦戦してるんだぞ。オレたちが行っても足を引っ張るだけだ」
「で、でももし義兄さまがやられたら……」
「ああ……人類は今度こそ終わりだろうな」
断言し、それでもゼクードが負けるとは、グリータは思っていなかった。
あの忌々しい天才が負けるとは、どうしても思えない。
悔しいけど男として憧れていた存在でもある。
だから──いや、でも、アイツだって人間だ……
もし英雄フォレッドのように、帰ってこなかったら……
──爆音がまたも轟く。
しかも今度は近い。
グリータは胸騒ぎがして、その場を駆け出した。
「グリータ!?」
「グリータくん!?」
ガイスとレィナの声を聴いたが、グリータは立ち止まらなかった。
そして間もなく……また爆音が鳴った。
何本もの木が倒れる轟音も響いた。
※
「ぅ……ぐ……ッブハァッ!」
俺は吐血した。
足元の草木が赤く染まる。
また音速の蹴りを食らってしまった。
あまりの威力に吹き飛ばされ、何本もの木を貫通させられた。
背中と腹が激痛でくっ付きそうだ。
もうどれだけ戦ってるんだ俺は?
全身の感覚がおかしい。
衝撃と激痛の板挟みで意識が飛びそうだ。
ローエたちは無事なのか?
ダメだ。
息が上がりっぱなしだ。
コイツがまるで休ませてくれない。
人型ドラゴン。
こちらの消耗に対し、奴はまだまだピンピンしている。
再生能力が厄介過ぎて、斬っても斬っても回復される。
しまいには動きそのものの速さが増していった。
おかげでこのザマだ。
再生させないために頭を狙っているが、人型ドラゴンは頭だけはガードが固い。
頭だけは直撃を避けている。
つまり弱点であるという証明なのだが。
まるで当たってくれない。
人型ドラゴンは、木に寄りかかって座る俺を見て、ゆっくりと近づいてきた。
俺は奴が間合いに入った瞬間に【ダークマター】を足下に向かって撃ち放った。
地面に直撃した【ダークマター】は土煙を舞い上がらせ、人型ドラゴンの視界を奪った。
「これならっ!」
死角からの【真・竜突き】を放った。
頭を狙ったその刺突は、奴の眉間に届く前に刃を掴まれ止められた。
嘘だろこいつ! と内心で驚愕した一秒後には俺は宙を舞っていた。
投げられたのだ。
掴まれたロングブレードごと。
しかも片手で。
俺は宙を何度か回転してから地面に着地した。
その着地の硬直を人型ドラゴンが見逃すはずもなく、またも一瞬で肉薄し音速の蹴りを食らわされた。
俺は食らう直前に後ろへ飛んでダメージを軽減した。
それでもなお勢いが止まらず、地面を転がった。
何度も食らっておいて良く生きているとさえ思う。
オリハルコンシリーズ様々である。
すでにあちこちヘコんでいるが、この装備じゃなかったらとっくに死んでいただろう。
俺は激痛だらけの全身をなんとか起こし、こちらに迫りくる人型ドラゴンを睨んだ。
一か八かやってみるか。
俺は片手を前に突き出し、人型ドラゴンに向かって唱えた。
「【ブラックホール】!」
掌に黒い渦が発生し、それは人型ドラゴンを吸引した。
人型ドラゴンは驚き【ブラックホール】の吸引力に足を取られる。
やはり人型なら体重もそこまでない!
吸い寄せられる!
いける!
奴の全身が浮いてこちらに吸い寄せられていく。
チャンスはこれしかない!
「もらったあああああああああ!」
凄まじい勢いで吸い寄せられてくる人型ドラゴンを、俺はすれ違い様に斬った。
人型ドラゴンの顔に何十もの一閃を浴びせ、ミンチにした。
奴の首から上が消滅する。
刹那!
ゼクードの片眼が斬られ、血の飛沫を上げた。
「ぐあああああああああああ!」