【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
結局、ローエたち【フォルス隊】は【ヨコアナ】へ帰還しなかった。
というか、できなかった。
時間設定のミスはローエ・カティア・フランベールがやらかした事なので【フォルス隊】に責任がある。
ゼクードも例外ではない。
他のS級騎士たちを報告のために【ヨコアナ】へ帰還させ【フォルス隊】は【竜軍の森】で待機することになった。
こんな極寒の状態で。
「寒いですわ……」
「寒いね……」
待機一日目の夜は、ローエとフランベールが先にテントの中で休むことになった。外の見張りはゼクードとカティアである。
キャンプ場での待機は、やはり寒さとの戦いだった。
外気を防ぎ切れないテントからは冷えが入り込み、毛布でクルまるローエたちの体温を奪っていく。
「ふぅぅ……グロリアたちに会いたいですわ……」
「うん、わたしも……」
もう3日も会っていない我が子たちに思いを馳せ、ローエとフランベールは毛布を深くかぶった。
「…………ねぇローエさん」
「はい?」
「寒いからくっついていい?」
「え!?」
突然のフランベールのお願いにローエは驚いた。
「ダメ?」とどこか可愛らしい目付きで聞いてくるフランベールに、ローエはすぐに『良いですわよ?』と言おうとした。
しかし、すぐにやめた。
良いことを思い付いたのだ。
「ん~…………ダメですわね」
「どうして?」
「ローエって呼んでくれたら良いですわよ?」
「え!?」
「ローエって呼び捨てにしてくれたら、添い寝してあげますわ」
「な、なんで呼び捨てで!?」
本気で驚いているフランベールが面白く、可愛かった。
「だってあなたが一番年上なのに、わたくし達だけあなたを呼び捨てにするなんて変ですわ」
「そんなの気にしてないよ。みんな大好きだし」
「大好きなら呼び捨てくらいしてほしいですわね?」
「そ、それは、ちょっと……」
「じゃ、添い寝はしてあげませんわ」
「……ケチ」
あ、拗ねましたわ。
「ケチじゃありません」
「ローエさん……お願い……」
口元を毛布で隠し、眼をウルウルさせるフランベール。
そんな彼女の眼差しにローエの心臓に矢が刺さりまくる。
「……ダ、ダメですわよ? そんな目したって絶対にダメですからね?」
許してしまいそうになる自分を律し、ローエはあくまで心を鬼にした。
するとフランベールはしばらく黙り、どこか重い口を開いた。
「……わたし、母が厳しかったから」
「え?」
「異端な女は全てにおいて下だから、相手を呼び捨てにする権利はないって」
「!」
異端な女は全てにおいて下!?
なんてことを……
親が子に言うことか?
「昔、友達をうっかり呼び捨てにしちゃってお母さんに殴られたわ」
「そんなことで!?」
「それがトラウマになっちゃったのかな。誰かを呼び捨てにしようとしたら、舌を噛むようになっちゃって……」
……そうか。
そうだったのか。
誰かを呼び捨てにすれば殴られる。
それがトラウマとなり、誰かを呼び捨てにしようとすると条件反射のようにブレーキが掛かって舌を噛むのか。
そう言うことだったのか。
「……ごめんなさい。フラン」
「ううん。わたしの方こそごめんね」
「その友達の方は、今は?」
「二年前の『あの時』に死んじゃった。でも、もう友達じゃなかったから、別に、気にしてないよ」
「まさか……」
フランベールは小さく頷く。
「その子にわたしが【異端】だってバレちゃってね。振られちゃったんだ」
【異端】というだけで友達さえも去っていく。
ローエにも経験があるからフランベールの気持ちは痛いほど分かった。
そしてフランベールが自分たちを呼び捨てに出来ないことも、やっと理解できた。
呼び捨てにできないのなら、わたくし達がそれを受け入れてあげれば良いだけなのだから。
ローエはそっと、フランベールを後ろから抱き締めた。
「あ……」
「……あら、フランの身体、とっても暖かいですわね」
お互いの毛布を交わせ、身体を密着させていく。
フランベールの肢体は本当に暖かった。
これは、もしかして……
「ローエさんこそ、凄くあったかいよ……」
自分と同じく高い体温だ。
ローエはフランベールのヘソの下を優しく撫でる。
「ふふ、もしかしたら、もうデキてるかもしれませんわね」
「え?」
「ゼクードの二人目の赤ちゃんですわ」
包み隠さずそう言うと、フランベールは「あ、そっか」と思い出したように答えた。
「なんか最近ずっと体温が高いような気がしてたから……そっか、そういうことか。タイミング的にもそうだね」
「間違いありませんわ。わたくしたち揃ってボケてしまって3日後に約束してしまったのは妊娠のせいかもしれませんわね」
妊娠すると妙にボケてしまったりするから、無い話ではないと思ったのだが。
「そ、それを赤ちゃんのせいにするのはどうかな……はは」
フランベールはさすがに苦笑してた。
赤ちゃんのせいにしたらダメみたいですわ。
残念。
「なんにせよ、わたくし達に時間がないことが分かってきましたわね」
「そうだね。妊娠で動けなくなる前に今回の件を片付けないと」
「ですわね。ま、今はどのみち下手に動けませんわ。今日はもう寝ましょう」
「うん」
「ほらフラン。もっとこっちに」
「ぁ、ローエさん……」
ローエはフランベールを包み込むように抱き締める。
お互いに高い体温を維持する身体は、まるで支え合うかのように暖まり始めた。
「こうすれば、わたくし達も、お腹の子達も、寒がることはありませんわ」
「うん……ありがとうローエさん。大好き」
「わたくしも大好きですわ。フラン」
家族愛を感じながら、二人は暖かい夜を過ごした。