【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第136話【義母】

「先刻の無礼は謝罪する。すまなかったな」

 

「いえ……」

 

 あの後、女王はカティアたちに謝罪し、俺と二人っきりで話がしたいとここ【女王の寝室】に招かれた。

 

 巨大な窓ガラスの両端に青いカーテンが結ばれている。

 外の雪景色を一望でき、また白い光を取り入れて部屋を明るくしていた。

 

 女王の寝室といえど、それはそのまま女性の部屋とも言える。

 やはり女性特有の甘くて優しい香りが漂っており、女王の歳を感じさせない。

 

 長く大きなベッドは高級感に溢れ、質の良い毛布やシーツなどが敷かれている。

 そこに女王は腰を下ろし、俺はそんな彼女の前にて直立していた。

 

「それにしても……そうか……フォレッドも、セレンも……死んだのか……」

 

「はい……」

 

「セレンは……あの子は身体が弱かったからな。でもまさか、あのフォレッドが死ぬなんて信じられない……殺しても死ななそうだったのに」

 

 そうだろうな。

 俺の中の親父も、無敵のイメージだったから。

 

「あの……両親とはどういうご関係だったんですか?」

 

「セレンは友達だ。フォレッドとは……結婚する約束をしていた。セレンと共に」

 

 母さんと!?

 親父もハーレムしようとしてたんだ!

 え?

 じゃあこのロゼって女王様は、俺のもう一人のお義母さんになるはずだった人ってこと?

 

「セレンとなら別に良いと思っていた。好きだったからな。身体の弱いあいつを側で支えてやりたかったのもある」

 

「じゃあ……なぜこんな国にあなたは?」

 

「ん? 聞かされてないのか?」

 

 質問に質問で返され虚を突かれたが、俺は素直に頷く。

 

「物心ついた時には、もう二人とも居ませんでしたから……」

 

 そう、お婆ちゃんも教えてくれなかった。

 知らなかったのか、あるいは、子供の俺にはまだ早いと遠慮していたのか。

 理由は分からない。

 

 そういえば国王さまもロゼ・シエルグリスの事を知っていた。

 もしかしたら、あの時に言い損ねてたのは……

 

「そうか……私はこれでも【エルガンディ王国】の生まれだ」

 

「え!?」

 

「異端だった私を、フォレッドは普通の女として扱ってくれた。セレンもだ。異端にとっては、実は女が一番の敵だったのに、不思議な女だった。天然というか、なんというか、な……」

 

 懐かしむ笑みを溢した女王は、どこか幸せそうに語り続ける。

 

「フォレッドの方は奴隷として扱われていた私を何度も気に掛けてくれた男でな。気づいたら好きになっていた。そんな時フォレッドは言ったんだ。『俺がこの国を変えてやる。お前を幸せにしてやる』って」

 

 出来てねーじゃん親父……

 

「何をやるのかと思ったら、あいつは【エルガンディ】の極秘である歴史書を公に晒したんだ。私の……いや私たち女性の人権を回復させるために」

 

 クロイツァーさんが言っていたあれか。

 

「それなら聞いたことがあります。その時に何人かの貴族が立ち上がって、女性を救ったって」

 

「……そうか。そんな奴らもいたのか」

 

「え?」

 

「私は……それらに猛反対した男どもに連れ去られ、この地に拉致された」

 

「な!?」

 

 そんな話は聞いたことないぞ!?

 クロイツァーさんはそんなこと話してくれなかった。

 国王は?

 国王はこの事を知っているのか?

 

「私たちを拉致したその男どもは……控え目に言っても女に飢えた獣だった。悲鳴を上げれば殴られ、私も、他の女達も、次第に泣かなくなった」

 

 酷い……聞いてて胸糞が悪くなってきた。

 どうやったらそこまで非道になれるんだ?

 

「A級ドラゴンを倒すような男達だ。女の我々には抵抗する術がなかった。【攻撃魔法】が使えるのだって、あの時は私しか居なかったからな」

 

 女性をこの地へ拉致して、この【シエルグリス王国】を築いたということか?

 女性の人権回復に猛反対した男どもの手によって?

 

 ならばこの国は、五つ目の国じゃないな。

 悪意から生まれた最初の国だ。

 

「じゃあ……この国は、元はその男どもが?」

 

 女王は頷き、その美しい顔に影を落とした。

 

「私たちは耐えた。あいつが……フォレッドが必ず助けに来てくれると信じて。何年も耐えた」

 

言いながら、女王は次第に俯く。

 

「だがあいつは来なかった。どれだけ待っても……フォレッドは……私を見捨てたんだ……」

 

「そんなはずありません!」

 

 女王の言葉は予測してた。

 だから俺はすぐに反論した。

 あの親父が女性を見捨てるなんて、絶対に有り得ないと思っているからだ。

 

「親父の名誉のために言います! 絶対に何か理由があったんです! 親父が女性を……まして自分の妻を見捨てるなんて有り得ない!」

 

「ならばその理由とはなんだ?」

 

 隙を突かれた気分だった。

 理由なんて分からない。

 でも、それでも、親父が女性を見捨てる理由こそ俺には分からない。

 

 俺だったらどうする?

 カティアか、ローエか……あるいはフランベールか。

 嫁の誰かが拉致されたら、俺は見捨てるか?

 

 そんなはずない!

 死に物狂いで探すに決まってる。

 手当たり次第に。

 

「それは…………分かりません。でも、もしかしたら、ですが……その……【竜軍の森】の奥地に連れ去られたという考えが、そもそもなかったのかもしれません。あんなドラゴンだらけの森を突破して、こんな奥地に逃げるなんて、普通は考えつかない」

 

「……」

 

「こんな場所に街があるなんて、俺たちでも信じられなかったくらいなんです。親父はきっと、あなたの事を必死に探していたと思います。【アークルム】や【リングレイス】になど、それぞれの王国に手当たり次第出向いて調査していたはずです。絶対に」

 

 言い切って、俺は向かいの女王と視線を重ねた。

 彼女の真っ黒な瞳は、俺を飲み込んでしまいそうなほど暗く、また、冷たかった。

 

 こちらを信じてくれていない、そんな無慈悲な瞳だった。

 ……いや、無慈悲な目に遭ったからこそ、そんな眼になるのだろう。

 俺の言葉では、女王の心には届かない。

 どうすれば……

 

 そう内心で落ち込んでいると、女王はスッと目を閉じて、また開いて俺には小さく微笑んでくれた。

 

「──……息子のお前がそこまで言うなら……セレンに免じて信じよう」

 

 !

 

「ぇ、あ……っ! ありがとうございます!」

 

 まさか、母さんに助けられるとは。

 ……ありがとう母さん。本当に。

 

「それと……レイゼの事も、お前に教えておこう。ゼクード。お前は今いくつだ?」

 

 なんで急にレイゼが出てくるのだ?

 

「えっと……17です」

 

「ならばやはり姉になるのか」

 

「え? 姉!?」

 

 ちょっと待って?

 姉? レイゼが?

 急すぎて話についていけないんだが。

 

「レイゼは私とフォレッドの娘だ」

 

「えっ!?」

 

 あいつ女王様の娘だったの!?

 ガサツ過ぎない!?

 

 いや!

 そんなことより!

 

「それってあの! か、隠し子!?」

 

「まぁ……お前の目線ならそうなるな」

 

「えええええええええええ!? だってあいつ、父親を知らないって!」

 

「フォレッドの事は伝えていない」

 

「な、何故ですか?」

 

「……察してくれ。どう伝えればいいか分からなかったんだ。私自身も……フォレッドが私を見捨てたなんて信じたくなかったし、葛藤してた。ずっと……」

 

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