【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第137話【女王の葛藤】

「……察してくれ。どう伝えればいいか分からなかったんだ。私自身も……フォレッドが私を見捨てたなんて信じたくなかったし、葛藤してた。ずっと……」

 

 女王はベッドから立ち上がり、俺と向き合う。

 

「だから今回は、お前から話を聞けて良かった」

 

「え?」

 

「フォレッドの事を言い切ってくれたのが嬉しい。あいつは私を見捨てたわけではないと、やっと信じれる」

 

「ええ、それは間違いありません。何度でも断言します」

 

 俺は胸を張って言った。

 親父のこと、よくも知りもしないのに……俺ってやつはよく言えたもんだと思う。

 

 だけど、不思議とこれだけは自信を持ってハッキリ言えるのだ。

 親父が女性を見捨てるはずがない。

 

 女王は小さく微笑み、しかしすぐに顔を曇らせる。

 

「……レイゼには、なんと説明するか」

 

「なんて言ってあるんです?」

 

「なにも」

 

「え?」

 

「なにも言っていない。あの娘には」

 

 俺は耳を疑った。

 何も言っていない?

 

「ぇ、でも、レイゼは……」

 

 ローエから聞いたことだが、レイゼは自分の母の事を『男に後ろから襲われて自分を生んだ』と言っていた。

 何も言っていないはずは……

 

「男に後ろから襲われて、子を孕んだ。か?」

 

 脳内を読まれたようで俺は思わず驚いた。

 隠す気にはなれず、素直に頷く。

 

「……そう聞きました」

 

「それはあの娘の思い込みだ。私が何も言わないから、周りと同じだと思ったのだろう」

 

 思い込み?

 じゃあ女王様は男に襲われたわけではないのか?

 

「じゃあ……あなたは、親父とだけ?」

 

 極めて失礼な質問だと理解していたが、聞かずにはいられなかった。

 女王は砂を噛むような顔で答える。

 

「いや、私も男どもに蹂躙された女の一人だ。数え切れないほど……この身体を汚し尽くされた」

 

 自分の身体を抱きしめ、震わせる。

 過去を思い出し、その身に受けた傷が疼いているのだろう。

 抱きしめてあげたい衝動に駆られたが、女王は前を向いていた。

 

「だがレイゼは間違いなく私とフォレッドの娘だ。妊娠のタイミングから見て間違いない」

 

 タイミング……か。

 なるほど。

 拉致される前に女王は親父と……

 

 でも、それならどうして?

 

「確信しているなら、どうして何も言ってあげなかったんですか?」

 

「私の……優柔不断だ」

 

「優柔不断?」

 

「……最初は信じていた。フォレッドが助けに来てくれることを。だが時が経つにつれ、私は……」

 

 瞳を閉じて、女王は大粒の涙を溢した。

 

「お前にだから言うぞ。ゼクード。本当に……本当に辛かったんだ。泣くことも許されず……好きでもない男どもに身体を蹂躙される日々。そんな中でフォレッドを信じ続けるのは無理があった。私の心が先に折れてしまったんだ」

 

 ボタボタと、止めどなく溢れる涙は床を濡らした。

 さすがにもう見てられず、俺はもう一人の母親を、自分の胸に抱きしめた。

 親父に代わって、この涙を受け止めねばと思ったのだ。

 

 母は……女王は俺の胸板に顔を埋めて、素直に泣いてくれた。

 熱い雫が鎧を濡らした。

 過去の不幸にただ震える母を一身に受け止めた俺は、彼女の背に手を回してしっかり抱きしめる。

 

「どれだけ待っても、いつまで待っても……フォレッドは来なかった……」

 

 俺は頷いた。

 

「裏切られたと……見捨てられたと思った。そんな男を……レイゼにどう説明すれば良いか分からなかった」

 

 俺は頷いた。

 母の背中を擦りながら。

 

「私の愛する夫。私を見捨てた夫。そのどちらとも決められず……でも後者だと決めつけていたはずなのに……ずっと告げられなかった……」

 

 俺は、頷いた。

 

「レイゼに何も言えなかったのは、私がいつまでもこんなだからだ。ズルズルズルズルと……」

 

「……ずっと親父を信じてたんですね。あなたは」

 

「……」

 

「俺にはそう聞こえました」

 

「……ありがとう」

 

 母が俺の背に手を回して、胸に顔を埋めてきた。

 歓喜に打ち震える母の姿は小さい。

 俺よりも背の低い母は、しばらくの間、ずっと俺の胸で泣いていた。

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