【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
入浴を終えた俺は、ローエと共に城の廊下を歩いていた。
せっかく脱いだ装備は、持つのが重くて面倒だから着た。
今思えば部屋で脱いで置いてくれば良かった。
「はぁ~スッキリサッパリ」
「ほんと、気持ち良かったですわ」
「どっちの意味?」
「両方ですわ」
微笑む妻ローエと笑い合っていると、向かいからレイゼが歩いて来た。
「おぅ、お前ら上がったのか。どうだったうちの大浴場は? 小さかったろ?」
言われたローエの顔が引きつる。
「ぃ、いぃえ? ちょうど良かっ──」
「うん小さかった。あれで大浴場なのか?」
俺は正直に感想を言った。
姉に遠慮することはないだろう。
「ちょ、あなたって人は! 遠慮を知りなさい!」
「いてててててて!」
なぜかローエに頬をつねられた。
「いやそいつの言ってることは正しいぜ? なにせ本当はあの大浴場、もっと大きかったんだ」
「へ?」
「え?」
「オレと母さんしか使わなかったからな。埋めて今のサイズにしたのさ。水がバカにならねぇからな」
「な、なるほど……」
納得したローエが俺の頬から指を離した。
「で? もうみんな入ったのか?」
「入ったよ。ありがとう。おかげでサッパリした」
ローエのおかげで身体も軽い軽い。
「そうか。ならオレも入っちまうか」
「背中流そっか?」
「うるせぇ」
あっさり拒否られました。
残念。
姉さん見た目だけは美人なんだけどなぁ。
※
レイゼと分かれてから食堂へ足を運び、風呂上がりの飲み物を頂いてきた。
俺はいつものエールだが、ローエは違った。
「ローエは水で良かったのか? エールは?」
廊下を歩きながら俺は隣のローエに聞いた。
「水で良いのですわ。エールは控えたいんですの。今日もちょっとレイゼさんに御馳走になってますからこれ以上はダメですわ」
「なんか最近みんな水ばっか飲んでない?」
「ええ。二人目の赤ちゃんがデキてるかもしれませんの」
二人目の赤ちゃん!?
さらっと凄まじいカミングアウトだよ!
「ローエもか!」
「最近どうにも体温が高いんですのよ……って、え? ローエもって……」
「カティアも同じこと言ってたんだ。二人目がデキたかもって」
「あら、やっぱりカティアも。通りで……」
「やったなぁ~! 念願の二人目じゃないか! でかしたぞローエ! さすが俺の嫁!」
「ありがとう。喜んでくれて嬉しいですわ。フランも可能性があるみたいですわよ?」
「マジで!? なんか凄いな。こんなに運良く恵まれるなんて」
自分の命中率の高さが恐ろしい。
このペースなら三人目も案外と早く授かれそうだ。
嬉しいな。
「それだけ縁があったと言うことですわ。大切にしましょう」
「そうだな。名前考えとかなくちゃな」
「ふふ、今からみんなで考えます?」
「お、いいねそれ!」
寝る前の雑談には贅沢すぎる話題だ。
俺は楽しみになって意気揚々と廊下を歩く。
そして自室の前まで来て素早く扉を開いた。
中では先に上がって休んでいたカティアとフランが部屋の中央にいた。
どちらも椅子に座って向き合い、睨み合っている。
「おーい! カティア~、フラン? ……なにしてんの?」
「シッ!」
フランベールが人差し指を口元に立てた。
何をしているのか良く見れば、カティアとフランベールの間には小さなテーブルがあった。
そのテーブルには白と黒のボードが置かれ、白と黒の駒が何個か立たされている。
有名な娯楽ゲームのチェスだ。
カティアとフランベールは風呂から上がってチェスで遊んでいたみたいだ。珍しい光景である。
「さぁカティアさん? 次の一手をどうぞ?」
「……」
カティアの顔が険しくなる。
そして微動だにしない。
「……? カティアが動かないけど、どうしたんだ?」
「動けないのですわ」
「え?」
ローエはチェスボードを見つめながら続ける。
「あの戦況では、もうカティアに逆転の手は残されていませんわ。残念ですが……チェックメイトですわね」
「え……そ、そうなの?」
なんかよく分からんけどカティアはもう勝てないらしい。
俺はチェスやったことないからサッパリ分からん。
グリータと自作したカードゲームならやったことあるけど。
「…………く、降参だ」
カティアが頭を下げた。
向かいのフランベールが勝利の笑みを浮かべる。
「ふふ〜ん、潔くてよろしい!」
「強すぎだぞフラン。得意なのか?」
「うん。チェスなら誰にも負けたことないよ?」
「あらあら。それならわたくしの相手に不足無しですわ」
いきなり割り込んで来たのはローエだった。
邪魔な鎧を脱いで外し、インナーの上にローブを重ね着て前に出てきた。
「ローエ?」
「どきなさいカティア。わたくしが仇をとってあげますわ」
「お前チェスできるのか?」
「得意分野ですわ」
ローエがチェス得意?
なんだか嘘みたいだ。
ハンマー振り回してばかりだから、そんな知的なイメージがなかった。
「意外だな」
「意外だな」
「意外だね」
「なんですの皆して!」
「まぁまぁ。じゃあローエさん。わたしと勝負しようか?」
「ふふ、望むところですわフラン。覚悟なさい!」
そして数分後。
「はいわたしの勝ちぃ~」
「なんでですの!? なんで勝てないんですの!? 有り得ませんわこんなの!」
「落ち着けローエ。相手が悪い」っとカティア。
「うぅ……わたくしチェスは負け知らずだったのに……」
悔しがるローエの肩を俺はポンと叩いた。
「よーし。なら俺がカティアとローエの仇をとってやるよ」
「え、ゼクードくんチェスできるの? 学校のとき変なカードゲームばっかりしてなかった?」
変とは失礼だな先生!
あれは俺とグリータが考案した【ナイトオブドラゴンカードバトルクリエイト】だぞ。
騎士側とドラゴン側で分かれてバトルするんだ。
ルールとかカードとか作るのたいへんだった。
バトルのバランスとか。
いや、今はそんなのどうでもいい。
「ずっと見てたからルールは頭に入ったよ。大丈夫」
「ふぅん。初心者なら手加減してあげようか?」
連戦連勝でフランベールってばご機嫌だな。
その余裕が命取りだぜ?
「それじゃあ意味ないだろ? 本気で来いよフラン」
「む……言ったね? 後悔しても遅いからね?」
「いいとも」
すると俺の両サイドにカティアとローエが。
「おいゼクード! 手加減してもらえ!」
「そうですわよ! 素人のあなたが勝てる相手じゃありませんわ!」
「やってみなきゃ分かんないだろ? まぁ、任せとけって」
そして数分後。
「はいチェックメイト。俺の勝ちぃ~」
人間やりゃあ出来るもんだ。
「ぅ、うそ……なんで?」
フランベールが信じられないといった顔をする。
というか震えてる。
「か、勝ったぞあいつ!」
「信じられませんわ!」
後ろで見ていたカティアとローエも驚愕した。
いや気分いいねぇコレは。
「フランのやり方を真似してみたんだ。先人に習えってね」
「え!?」
フランベールが目を丸くした。
俺は笑って説明する。
「最初の数手が後の有利不利に繋がっていて、ボードの中央を自分の駒で支配できれば後半かなり有利に進められる。フランはずっとこのやり方をしてた」
簡潔に真似した部分を説明すると、フランベールだけでなくカティアとローエも虚を突かれたような顔をした。
「はぁ……凄いねゼクードくん。チェスまで一瞬で抜かれちゃったよ」
「いやいや、フランの真似しただけだから、次やったら負けるって」
「そうかな? じゃあもっかいしよ?」
「いいよ」
そして数時間後……
「……チェックメイト」
「なんでぇえええええええ!? ぜんぜん勝てないよぉおおおお!」
世にも珍しいフランベールの大絶叫が見れた。
妻の新しい顔を見れて満足だが。
「なぁフラン……そろそろ寝ない?」
「もっかい! もっかいだけ!」
どうしよう……フランに変なスイッチ入っちゃった。
明日早いのに。
カティアとローエもちゃっかり寝てるし。
俺も寝たい……
「もっかい!」
「わかったって……」
この後、バレない程度に手加減して負けてあげた。