【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【シエルグリス】を後にしてから数時間が経った。
ベールのような雲が空を覆い、粉雪混じりの寒風を絶え間なく吹き込んでくる。
その外気を防ぐため、俺を含めたみんながマントを着用していた。
ある程度は寒さを緩和できるが、それでも寒いものは寒い。
白い吐息を吐き出し、両手に吹き掛けて暖めた。
そして俺は、雪山のある前方を見る。
山の麓までもう少しだ。
しかし、山に近づくにつれ雪と風が強くなってきた。
これも雪のドラゴンの仕業だろうか?
「皆さん! 前方にドラゴンを確認!」
望遠鏡を覗いていたリベカが低めの声で言った。
「数は分かるか?」
即座にカティアが問う。
「十……いえ、二十はいます」
「少ないな」
「A級ドラゴンはもともと群れを成さない。二十でも多いくらいさ」
俺はそう言いながらみんなより一歩前に出た。
「どうしましたのゼクード?」
「ここは俺に任せろ。二十なら俺一人で十分だ」
「一人で!? 囲まれたらどうすんだ!」
「まぁ見てなって姉さん。相手はA級ドラゴンだが、本気の俺を見せてやるよ」
「なに言ってんだバカ野郎! お前がやられたら……」
戸惑うレイゼは置いて、俺は一気に加速した。
雪原の向こうに屯する赤い鱗の集団を視認した。
A級ドラゴンを補足した俺は【ハーズヴァンドオブリージュ】を抜刀し、刀身を煌めかせる。
相手も俺の存在に気づき、一斉に咆哮する。
前にいる数匹が火球を放とうと頭をもたげた。
次の瞬間、頭を振り下ろして大口から火球を放つ。
俺はその瞬間を狙っていた。
闇魔法【ダークマター】で狙撃し、火球が発射されるその瞬間を狙って撃ち込んだ。
口内に【ダークマター】が直撃したA級ドラゴンどもは火球が口の中で暴発し、一斉に怯む。
その間に距離を詰め、暴発したドラゴンどもを一閃。
ブシャアと鮮血が舞い、目前のドラゴンどもが倒れて視界が良くなった。
しかしその先には──
「──なっ!?」
あまりの光景に、俺は言葉を失ってしまった。
なんでこんなところにA級ドラゴンが群れを成していたか、わかったのだ。
俺の視界の先には全身を氷漬けにされた女騎士たちの姿があったからだ。
数は四人。救助対象の偵察部隊……なのか?
いや、間違いなさそうだ。
なんで、こんなところに?
まさかここで雪のドラゴンに襲撃されたのか?
思案しながらも、目を瞑りたくなる光景だった。
氷漬けにされた女騎士たちはみんな破壊されていたから。
いや、食い壊されてると言った方が正しいか?
腹部を食い千切られ、上半身と下半身が折れている女騎士。
肩を食い破られ、腕が地面に落ちてる女騎士。
顔が無くなっている女騎士など。
ひどい有り様だった。
今こうして俺に向かって来ているA級ドラゴンたちによってやられたのだろう。
しかしいったい、いつから?
残った身体には雪が積もっているから、時間はかなり経っているようだ。
刹那!
残りのA級ドラゴンが殺気を全開にして飛び掛かってきた。
遅い。
所詮はA級ドラゴンの攻撃。
今さらそんなものに当たるか!
俺は流れるような身のこなしで敵の爪をかわし、それら全てを一閃する。
再び鮮血の花を舞わせ、辺りにいたA級ドラゴンどもが一歩引いた。
逃がすまいと踏み込もうとした次の瞬間、雪山の方角で何かが光った。
「!」
なんだ? っと目を凝らすより早く白銀の光の線が飛来した!
「どわっ!」
明らかに俺を狙っていたそれは、避けられて雪原に着弾した。
着弾箇所は広範囲に白い煙をあげ、空気の逆流音と共にカチカチカチと雪をさらに凍らせた。
次踏めばあそこの地面は沈むのではなく、割れるだろう。
前にいたブルードラゴンの白銀のブレスに似てるが、破壊力が違う。
白銀のブレスは城壁の門を破壊するレベルだったが、こっちの白銀の光線は着弾した場所を完全に凍らせてしまう。
しかも射程が段違いだ。
撃ってきたドラゴンが見当たらない。
かなり遠くから撃っているんだ。
さっき見えた光の方角へ目をやるが、風が強く粉雪が舞うせいでろくに見えない。
しかも不可解な事に、俺を包囲しつつあったA級ドラゴンどもが後退を始めていたのだ。
今度はなんだ?
射線を開けているのか?
俺の勘は当たっていたらしく、A級ドラゴンの後退によりまた白銀の光線が飛来した。
ピュンッ!
「ちっ!」
俺はなんとか光線を躱す。
くそ!
そういうことか!
罠にまんまとハマッちまった!
A級ドラゴンは獲物を引き寄せるための囮か!
というか、この視界の悪い粉雪の中を正確に狙ってきてやがる!
なんてヤツだ!
ピュンッ!
「どわっ!」
ピュンッ! ピュンッ!
A級ドラゴンどもが散開したのを見るや、光線の弾幕が激しくなった。
避けて避けて、さらに避けて。
あちこちの地面から白い煙が上がる。
ダメだ!
姉さんにカッコつけてる場合じゃねぇ!
ローエたちに支援を頼むしかない!
俺は下がりながら片手を上げて【ダークマター】を射とうとした。
しかし!
カチカチカチン!
「!?」
白い煙の上がった地面を踏んでしまった。
足が、靴底が凍った地面に一瞬で張り付いた。
嘘だろ!
こんな一瞬で!
ピュンッ!
やばい! また来た!
「【ブラックホール】!」
足元に一瞬気を取られたせいで【ダークマター】を撃つタイミングを逃した。
俺は咄嗟に切り替えて、迫り来る白銀の光線を【ブラックホール】で吸収する。
今は凌いだ!
次はどうする?
機動力を奪われた俺に反撃する術はない。
やはり味方を呼ぶしか手立てはないが【ダークマター】を空に撃っても救援が間に合うか?
ならば足元に撃つか?
いや、撃ってる間に撃たれそうだ。
くそ……次で仕留められる。
あんな細い光線、剣で弾けるか?
弾いた矢先に剣が凍って折れたら一巻の終わりだ。
「っ!」
俺はA級ドラゴンの動きに気づいた。
広範囲に渡って俺を包囲し、こちらを睨んでいる。
光線の射線もしっかり開けている。
次の狙撃と共に火球の一斉射撃を放つつもりだ。
そしてその時は一瞬で訪れた。
雪山方面で光が発し、光線が飛んで来る。
それと同時にA級ドラゴンどもが揃って火球を発射した。
くそ!
こんなところで!
カーティス! グロリア! レミー!
ごめん!
火球の全てが着弾し、爆発し、黒煙を上げる。
鼓膜が破れそうな爆音の連続だったが、不思議と痛みはなかった。
光線に直撃して氷漬けにされたか?
変に冷静な自分がいた。
いつの間にか閉じていた瞳を開けると、俺の前にはレイゼの背中があった。
「え、姉さん!?」
レイゼは片手を前に突き出し、黒い渦を発生させている。
俺と同じ闇魔法の【ブラックホール】だ。
「残念だったな。ダサかったぜ。お前」
白銀の光線を吸収したらしいレイゼが笑う。
周りを見ればローエやカティア、リベカやミオンがいた。
火球から守ってくれたみたいだ。
「みんな! ありがとう助かった!」
フランベールだけ居ないのは気になったが、俺は先に感謝を伝えた。本気でヤバかったから。
「あら? わたくし達の見せ場を残しておいてくれたのでしょう?」
ローエがわざとらしく笑った。
こちらの迂闊を責めずに、むしろ笑いに持っていってくれる妻の優しさに救われる思いを感じた。
「みんな気を付けろ! 雪山の方から光線が飛んで来る!」
俺は仲間たちに注意を呼び掛けたがカティアが「それなら大丈夫だ」と即答した。
「もうフランが仕留めたはずだ」
「え!?」
「ずっと同じ場所から光線が撃たれていた。位置の特定は容易かったよ」
なるほど。
だからフランベールが居なかったのか。
そして今になって気づいた。
光線が止んでいる。
本当にフランベールが狙撃者を撃破してくれたようだ。
「光線が止んだな。よし、一気に畳み掛けるぞ!」
カティアが吼えると、ローエたちが一斉に攻勢に出た。
迫り来る女騎士たちに慌ててA級ドラゴンは火球を乱発するが、それら全てを掻い潜られ、接近を許した。
レイゼの鉤爪がドラゴンの首を切り裂く。
リベカのロングソードがドラゴンの頭部を貫く。
ミオンの鉄球はドラゴンの頭部を粉砕した。それも数匹まとめて。
戦力の頭数に入れるなとレイゼが言っていたが、なかなか頼もしい。
特にミオンはレイゼとリベカよりも強い感じがする。前に戦った時もそう感じたが、やはりあの三人の中では彼女が一番強いようだ。
そして俺の妻たちはといえば。
ローエの【ヴェルデリボルバー】によるフルスイング。それはA級ドラゴンを吹き飛ばすのではなく、首から上だけを綺麗にぶっ飛ばした。
さらにその余波で数匹が巻き込まれて絶命する。
見ているだけで血の気が引く威力である。
カティアなぞ【ドラゴンスティンガー】の貫通力を活かして一気に数匹ほど撃ち貫いている。
レイゼたちもなかなかだが、やはりカティアやローエたちと比べると差を感じる。
一番俺が驚いたのはこの場に居ないフランベールだ。
どこからともなく【アイスアロー】が降ってきた。
フランベールの得意な曲射だ。
得意なのは分かるが、この視界で風の吹く中、次々とドラゴンの頭部に命中させている。
味方もいるのに相変わらず狙撃の化け物だ。