【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「片付いたな」
周辺のA級ドラゴンを討伐したレイゼが言った。
「助かったよみんな。本当にありがとう」
俺は礼を言いながら、地面に張り付いた靴底をロングブレードで小突いてなんとか脱出した。
ふぅ、危なかった。
まさかちょっと踏んだだけて凍結するなんて。
今後は気をつけなくちゃな。
「最近のドラゴンは巧妙だな。人間のような戦い方をしてくる」
こちらに寄ってきたカティアが武器を納めてそう言う。
ローエも同じく、ハンマーを納めて歩み寄って来た。
「ですわね。囮を使って狙撃なんて……偶然だと思いたいですわ」
「思いたいが、この女騎士たちはゼクードと同じようにやられたな」
カティアが、氷漬けにされ破壊された女騎士たちの破片を手にして告げた。
「くそ……とっくに手遅れだったって事かよ……」
「女王様と同世代の精鋭部隊だったのに。全滅なんて有り得ない……」
レイゼとリベカが悔しさを滲ませた声を発する。
後ろのミオンも、黙ってはいるが顔は穏やかではない。
それもそうだろう。
彼女たちからすれば仲間を失ったわけだ。
助けに来たのに、とっくにダメだったのだから。
「こんな搦め手を使われては仕方ない。あの光線もかなりの速度だった。ドラゴンを相手にしながら避け続けるには無理があったんだろう」
どこか励ますようにカティアがレイゼたちに言った。
そのままカティアは片手に持った破片を、氷漬けの女騎士の元へそっと置いた。
「そう考えるとゼクードが一人で突っ込んだのは正解だったね。みんなで行ってたら誰かやられてたかも」
ずっと黙っていたミオンが真顔で言った。
そしてその言葉に一番救われたの俺だったりする。
俺の迂闊な先走りが、結果的に仲間の被害を未然に防いだと、そう言ってくれているから。
ありがとうミオンちゃん。
普段なに考えてるか分かんなくてちょっと怖い娘だったけど、今のは嬉しい。
「だとよ。良かったな」
そしてこの姉さんである。
ちょ~っとムカつくけど、今は黙って目を逸らそう。
カッコつけようとして失敗したのは事実だし。
今に見てろよ。
「みんなー! こっちに来て!」
「フランだ」
姉さんの嫌味ったらしい視線を振り切って俺はフランベールの声の方へ身体を向けた。
「行ってみよう」っとカティアに進められ、みんなで雪山の方角へと進む。
雪と風を受けながらフランベールの元へ急いだ。
さすが雪山の麓なだけあって地面に傾斜が出てきた。
緩やかな坂になりつつある。
積もった雪の高さもなかなかで三十センチはあるんじゃないだろうか?
なんにせよ動きづらい。
「フラン! さっきはありがとう。助かったよ」
フランベールの元へたどり着いて、最初に出た言葉がそれだった。
カッコ悪いところを見せたから、早くどうしても言いたかったのだ。
「うん。無事で良かったよ」
やはりフランベールも優しく微笑んでそう返してくれた。
まったくこちらの不手際を責めもしない。カティアとローエと同じく。
これだけ責められもしないと、逆にウジウジしてる自分が女々しく感じてきた。いつまで言ってるんだ、と。
よし。もうウジウジやめよう。
悪いと思うなら次から気を付ければいいだけの話だ。
「みんな、コイツを見て」
「こいつは!」っと追い付いたカティアが即座に反応した。
次いで俺はフランベールの指す方に視線をやる。
フランベールが仕留めたらしいドラゴンの遺体がそこにあった。巨大な氷の槍で全身を撃ち貫かれている。
フランベールの【アイスジャベリン】か。
それにしても、と俺はドラゴンの身体に視線を泳がせた。
見たこともない紫がかった青の竜鱗と外皮が美しいドラゴンだった。
こいつが俺をブレスで狙撃していたのか。
こんな遠距離から。
ヤベェなコイツも。
「【竜軍の森】に居たヤツと同じだな」
「うん。これで三体目だね」
前に一度遭遇してるカティアとフランベールの話は早かった。
俺とローエは置き去り気味である。
「こいつらは雑魚なんだろう?」
俺が確認するように聞いたら、フランベールは小さく頷いた。
「間違いないよ。本命はこいつらじゃない。仕留めても雪が弱まる気配もないし」
確かに、と俺は空を見た。
雪も風も弱まらない。
こいつらじゃないんだ。元凶は。
「この【ブルーマウンテン】に親玉が居ればいいけど」
「必ずいる。みんなで探そう。だけどその前に」
俺は一呼吸おいて、ゆっくりと口を開いた。
忘れてはならないことがある。
「姉さん。あの氷漬けになった女騎士たちだけど」
「わかってる。先に行っててくれ。あいつらを眠りやすくしたら後を追うよ」
「え、いや、俺たちも手伝うよ」
「やめとけ。特にお前はな。……あいつら筋金入りの男嫌いだったからよ」
「……わかった。なら先に【ブルーマウンテン】の探索をしてる」
「おう。雪で道が分かりづらくなってる。道の無いとこ踏んで落ちるなよ?」
「落ちないよ」
俺は苦笑しながら告げて、レイゼたちと別れた。
ローエ・カティア・フランベールを連れて山頂を目指す。
そこに雪のドラゴンが居ればいいのだが。
※
そして事件は起こった。
「いやああああああああああああああああ! 助けてええええええええええええええええええええええ! 死んじゃううううううううう!」
登山の途中で足を踏み抜いたのはまさかのフランベールだった。
「「「フラアアアアアアアアアアアアアン!」」」
断崖絶壁の途中に生えていた小さな木によって真下までの落下は免れたが、フランベールは今、両手で木にぶら下がっている状態だ。
あれでは長くは持たない。木が。
装備の重量も俺やカティアたちと比べたら比較的軽量だが、あのフランベールを支えている木は小さく頼りない。
いつ折れてもおかしくないほどに。
落ちたら最後。
下は川だ。
こんな極寒で川に落ちればどうなるか。
「ロープは無いのか!?」っと俺。
「あるわけないだろ!」っとカティア。
「こうなったらわたくしが魔法で──」
バキッ!
いま一番聞きたくない音が下から聞こえた。
フランベールの掴んでいた木が折れたのだ。
「あ……っ!」
フランベールが重力に引かれて落ちていく。
カティアとローエの目が極限まで開く。
その光景は無音で、俺は気がつけば崖へ飛んでいた。
「フラアアアアアアアアアアアアアン!」