【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第149話【母親としての覚悟】

 ゼクードがフランベールを追いかけて崖から飛び降りてしまった。

 ドボンという川の弾ける音が響き、ローエは慌てて武器を捨て崖へ走った。

 

「今行きますわゼクード! フラン!」

 

「待てローエ! 行くな!」

 

 カティアに片腕を掴まれ、強引に引き戻された。

 

「ちょっと! なんで止めますの!? フランとゼクードが落ちたんですわよ!?」

 

「二重遭難になる。行くな」

 

「でも!」 

 

「全滅したいのか! 落ち着け!」

 

「!」

 

 全滅という言葉には、さすがのローエも動きを止めた。

 

「……じゃあ、どうしたら」

 

「ゼクードが行ったんだ。あいつを信じるしかない。我々はいったん山頂を目指すのは諦める。ゼクードとフランの捜索を優先しよう」

 

「……わかりましたわ。ならレイゼたちにも協力してもらいましょう。一刻を争いますわ」

 

「ああ。急ぐぞ!」

 

 ローエとカティアはレイゼ達の元へ急いだ。

 

 

 川の流れは激しく、何より死ぬほど冷たかった。

 寒いを通り越して全身が痛い。血が凍るようだ。

 長くは持たない。 

 

 紺色の水面下は視界が悪い。

 そんな中を泳ぎ、前を流れるフランベールを追った。

 彼女も必死に流れに逆らっている。

 おかげで俺は少ない息でフランベールを掴まえることができた。

 互いの手を握り合い、なんとか水面から顔を出す。 

 

「ぶはぁっ! はぁ、はぁ……フラン! 大丈夫か!」

 

 彼女の安否を確認しながら、俺は近くの岩に片手で掴まって流されるのを止めた。

 

「はぁ……はぁ……ゼ、ゼクード、くん……」

 

 返事をした。

 大丈夫みたいだが、川の低温にやられている。

 

「まずいな……このままじゃ低体温症になっちまう。どこかで身体を温めないと!」

 

 幸いにも少し流された先で岸があった。

 俺とフランベールはなんとか這い上がったが、あまりの寒さに身体が鈍器のように重くなっていた。

 

 俺は立つのがやっとだったが、フランベールに至っては両手を地面の砂利につけて立てなくなっていた。

 ガクガクと凄まじい勢いで震えている。

 相当体温を奪われた様だ。

 見かねた俺はフランベールを抱き上げ、雨風を凌げる横穴を探した。

 

 早く身体を暖めねば。

 

 焦る気持ちを胸に、絶壁だらけの砂利道を進んでいく。

 すると横穴ではないが、絶壁のくぼみを見つけた。

 この際ここで良いと、俺は消耗の激しいフランベールを座らせる。

 

「フラン。お前はここで休んでろ。間違っても寝るなよ?」

 

「は……は……ひ……、う……ん……ごめ、ん……なさい……迷惑、かけて……」

 

「なに言ってんだよフラン。家族ってのは迷惑かけて良いもんなんだぞ。待ってろ。すぐに火を起こしてやるから」

 

「あり、が、とう……は……は……ふ……ぅ……」

 

 俺は急いで薪を集めを開始した。

 不思議なもので、身体は立ってるのがやっとなほど重いのに、フランベールのためを思えば動くのだ。

 

 ゼクードもフランベールと同じくらい体温を奪われているのに、だ。

 

 自分の底力に驚きつつ、砂利道を進んで木を探した。

 見つけた木をロングブレードで微塵切りにし、使いやすい大きさにカットする。

 

 それを持ち帰り、フランベールの前で組んで常備している火打ち金で火打ち石を叩いた。

 鋼の削りカスがスパークし、火花となって薪に引火。

 煙が上がり、俺は空気を送るため息を吹きかけまくる。

 

 火打ち石と火打ち金は多少濡れていても火を起こせるのが強い。

 でもカティアが居ればもっと楽だったのだが。

 この際、贅沢は言ってられない。

 

 空気を送り続け、薪が燃え上がってきた。

 ようやっと焚き火の完成だ。

 

「よし。ほらフラン。暖まろう」

 

「ぁ、あり、がと、う……」

 

 俺とフランベールは濡れた衣服を乾かすために、インナーを残して装備を脱いだ。

 こんなとき夫婦だと恥ずかしがることなくできるから良い。

 

 まずはマントの水を跳ばして乾かし、それを羽織った。

 最低限の寒さを凌いでくれるマントを羽織ったら、今度はインナーをも脱いで乾かしていく。

 

 時間は掛かるが、こんな寒い場所で濡れた物を着ていたら凍死する。

 同じ要領で濡れた装備品をも乾かしていった。

 身体も暖まってきて、体力がゆっくりと回復してきた。

 だがその頃には既に日が落ちて夜になってしまった。

 

 今日はもうここで寝泊まりすると決めて、薪を追加する。

 暖かいものを飲みたいが、道具がない。

 やれやれと溜め息を吐き、隣に座るフランベールを見た。

 彼女は先程から暗い顔でお腹を撫でている。

 

「大丈夫かフラン? お腹痛いのか?」

 

「ううん……赤ちゃんが、心配で……」

 

「え?」

 

 フランベールのお腹に赤ちゃんが?

 あ、でもローエがそんなことを言っていたな。

 でも……なんで赤ちゃんが心配なんだろう?

 まさか、強くどこかに打ってしまったのか!?

 

「こんなに身体冷やしちゃって……。これでお腹の赤ちゃんが死んじゃったら……わたしのせいだ……」

 

 違ったようだ。ぶつけたわけではないらしい。

 

「冷やすと、やっぱりまずいのか?」

 

 フランベールは泣きそうになりながら頷いた。

 

「最悪……流産になるって聞いたことあるの……妊娠中の身体を冷やすのは自殺行為だって……」

 

 そうか。

 だから最近ローエ・カティア・フランベールは、任務中でもどこでも、やたら頻繁にお湯を飲んでいたのか。

 身体を冷やしすぎないために。

 

 エールをまったく飲まなくなったのもそのためか。

 凄いなみんな。

 妊娠したと分かると飲食にも気をつけるんだ。

 

 一人の騎士であると同時に母親でもあるんだ。

 自分一人の身体じゃないから。

 

 彼女たちに比べたら……男の俺なんて気楽なもんだな。ホントに。

 出すもの出してスッキリしたら、あとは女性に丸投げなんだから。

 

 だからこそ、こんな場面では誰よりも動けないとダメなんだろうな。男は。

  

「フラン……あんまり思い詰めるなよ?」

 

「うん……わかってる。わかってるけど……なんであんなドジ踏んじゃったんだろうって、自分で自分が腹立たしくて……」

 

 崖から落ちたことか。

 過ぎたことは仕方ないけど、取り返しのつかない事態になっている可能性は否めない。

 

 敬意を表したい妻に対して、なんと言ってあげたらいいのか?

 こんなとき、気休めな言葉が意味をなさないのは知っている。

 俺にできることと言えば、彼女の不安を分かち合ってあげるだけ。

 

「……絶対大丈夫なんて、無責任なことは言わないよ。とにかく温めてあげよう? お腹の子のためにも」

 

 俺は手を出し、マント越しにフランベールのお腹を撫でた。

 フランベールはポロポロと大粒の涙を流す。

 

「ありがとう……ゼクードくん」

 

「うん」

 

 まだ出来てるかも確定ではない赤ちゃんのために、こんなにも本気の涙を流せるフランベールは、やはり本物の母親だ。

 ちゃんと常に覚悟を持っている。

 

 だからこそ、こんなドジを踏んだ自分が許せないんだろう。

 

 そんな妻に、命があっただけ良かったじゃないか、なんて無神経な言葉は掛けられなかった。

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