【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
洞窟から飛び出して来たのは二匹のドラゴンだった。
片方はまっすぐゼクードに向かって行く。
まるで最初から狙いを定めていたかのように。
対してフランベールに向かってきたのは二足歩行の、両手が翼になったドラゴンだった。
頭から足先まで約五メートルほどで、空を舞っている。
かなり小型なドラゴンだが、それでもフランベールの二倍以上もある巨体だ。
黒い全身から紫がかった氷を纏っており、明らかに今まで見てきた個体とは違う。
そいつは両翼から冷気を放出し、フランベールに向かって羽ばたいた。
「冷気!?」
それが攻撃だと察したフランベールは横へ走り、大弓をしまって【アイスソード】を召喚する。
羽ばたかれた冷気は無数の氷柱となり、ツブテのようにフランベールに飛来した。
「くっ! このっ!」
氷の弾雨を氷の双剣で弾き、翼のドラゴンに肉薄していく。
中距離まで来ると、そのドラゴンは両翼を冷気を固めて巨大な氷のブレードへと変化させた。
身を翻した翼のドラゴンはブレードを薙ぎ払う。
近くにあった木が容易く一閃され、その切れ味を示した。
だが、それを見切っていたフランベールはジャンプして身体を回転させ、ブレードの鎬(しのぎ)を流れるように転がった。
それは回避も兼ねたブレードへの攻撃。
回転に乗せた斬撃は、ほんの一瞬のすれ違いで数十を刻まれた。
果たして、フランベールの【双《ダブル》・竜《ドラゴン》斬り】が炸裂し、敵のブレードに亀裂が走って次の瞬間には破砕した。
それに驚いたらしい翼のドラゴンが間合いを空けた。
その隙を逃さず双剣を消し、大弓を展開して【アイスアロー】を撃ち放つ。
「そこっ!」
フランベールが敵の頭部に狙いを定めるまで、一秒の間もなかった。
それでも【アイスアロー】はドラゴンの頭部に命中した。わずかな誤差もなく。
神業とも言える早撃ちは、竜鱗こそ貫通しなかったが、打撃にも似た衝撃を敵に与えて墜落させた。
【気】を纏った射撃だったのに竜鱗を抜けないとは、恐ろしい硬度である。
すると墜落したドラゴンが一瞬で受け身を取り、青いブレスを吐き出した。
「!」
霧状の息吹がフランベールにまっすぐ飛来する。
それに対し横ステップで避け、またも早撃ちで片眼を狙撃した。
【アイスアロー】の切っ先がドラゴンの瞳を刺し、敵は激痛に悶え咆哮する。
残った片眼でフランベールを捉え、再びブレスを発射!
フランベールは別の木に隠れてそれを遮蔽物とした。
木にブレスが直撃し、あっという間に凍っていく。
木の裏に隠れたフランベールを探そうと、翼のドラゴンは前に出てきた。
フランベールはその瞬間を狙って、
ドラゴンが気づいた時にはもう遅く、そこはフランベールの間合い。
【アイスジャベリン】を召喚し、全身に力を込める!
「【竜突き】!」
ゼクードに教わった【対竜剣技】の【突きの型】。
落下の勢いと【気】で切れ味が増した【アイスジャベリン】の刺突は翼のドラゴンの脳天をぶち抜いた。
ドラゴンが大口開けて断末魔を叫び、間もなく絶命した。
フランベールは敵に突き刺さった【アイスジャベリン】から手を離し、一息吐く。
そして敵の亡骸を見ると、ドラゴンの血が雪原に広がっていくのが見えた。
倒したドラゴンを見て、フランベールは胸に手を当てる。
また一人で新種のドラゴンをやれた。
ゼクードくんに頼らずに。
やっぱりわたし、凄く成長できてる!
その事実が素直に嬉しい。
ゼクードに頼りっぱなしだった過去の自分より、かなりマシになっている。
「……ゼクードくんは」
勝利の余韻に浸っている場合ではなかった。
この個体はかなり強かった。
あのゼクードの元へ走って行ったドラゴンはどうなのだろう?
ゼクードに限って遅れを取るとは思えないが、少し心配だ。
「フラン! 無事か!」
当のゼクードが雪の中を駆けてきた。
「あ、ゼクードくん!」
さすが外傷の一つもない。
「敵は?」
「バラバラにしてきた!」
親指を立てて、当たり前のようにゼクードは笑った。
あの硬度の敵をバラバラとは恐れ入った。
さすがである。彼を心配するなどおこがましいのかもしれない。
「けっこう素早い奴だったけど、フランも勝てたんだな。良かった良かった」
どこか満足そうにゼクードが言うので、フランベールは苦笑した。
「ゼクードくんほど楽勝じゃなかったけどね」
「良いんだよ勝てれば。とりあえず別のドラゴンが出てくる前にここを離れよう。山頂を目指して反対側に下山する」
「了解よ」
言って、先行するゼクードにフランベールは足並みを合わせて追う。
そしてお腹をそっと撫でた。
「あなたのお父さん、やっぱり強いや」
「え? なんだって?」
「ううん。なんでもないよ」
言いながら、そして願う。
強いお父さんの子だから、どうか無事でありますように……