【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第155話【ドラゴンディーネの怒り】

【シエルグリス王国】の城壁上にある胸壁にて。

 見張りの女騎士二人が望遠鏡を覗いていた。

 

「聞きましたか? あのゼクードって男の話」

 

「ええ。なんでも凄く強いって」

 

「いえ、それは……そうなんですけど、そこじゃなくてですね」

 

「女王様の息子さんらしいわね。義理の」

 

「義理ってどういうことなんでしょうか?」

「レイゼ王女とは腹違いの姉弟って言ってたわ。何か複雑な事情があるんでしょう」

 

「……なんだかイメージが崩れますね。女王様ってこう、凛としてて、揺るがないような女性だと思ってました」

 

「ふふ、あなたくらいの若い娘たちはみんなそんなイメージを持ってるみたいね。でも女王様だって、昔はただの一般人だったのよ? ……ううん、一般人より下だった。そんなお方だから何か過去にあってもおかしくはないでしょう」

 

「そうですね…………ん?」

 

 若い女騎士は望遠鏡の先で、何かを見つけた。

 灰色の空に浮かぶのは、一つの黒い影。

 

「隊長! 西の方角に黒い影が!」

 

「なんですって!?」

 

 刹那、黒い影が閃光を放った。

 純白の光線が、胸壁にいた女騎士二人に直撃する。

 何が起こったかも認知できぬまま、その二人の意識は凍った。

 

 

 雪のドラゴンは胸壁にいた女騎士たちを氷漬けにした。

 飛行速度を上げ、その胸壁にトドメの一撃をお見舞いする。

 ブレード状の尻尾による一撃は石造りの胸壁を容易く破壊し、氷漬けになった女騎士二人も粉砕した。

 

「ドラゴンだ!」

 

「大砲では無理だ! バリスタを撃て!」

 

 別の胸壁にいた女騎士たちが叫ぶ。

 バリスタを構えて狙いを定めるが、雪のドラゴンはすでに遥か上空へ達していた。

 

 放たれるバリスタの矢を回転しながら美しく避け、急降下。

 女騎士たちのいる胸壁目掛けて剛爪を振りかざす。

 それは女騎士ごと胸壁をも破壊し、城壁を崩した。

 

「撃て! 王国内に入れるな!」

 

 まだ残っている胸壁のバリスタで女騎士たちが果敢に立ち向かう。

 しかし15メートル以上もある巨体なのに、バリスタの矢は一発も当たらない。

 

 彼女たちの練度が低いわけではない。

 ただ単純に速いのだ。

 まるで弾道を見切っているかのように飛来し、胸壁に迫りくる!

 

「い、いやあああああああああ!」

「こっちに来るなああああああ!」

 

 突撃してくる雪のドラゴンにバリスタを乱射する女騎士たちだが、当たってもまるで怯みもしなかった。

 効いていないのだ。バリスタの矢がヤツの竜麟を貫通できてない。

 

 わざわざバリスタを避けていながら、その防御力も半端ではなかったらしい。

 

 おかげで女騎士たちに対抗する術はなく、雪のドラゴンの大口に胸壁ごと食われてしまった。

 ゴリゴリゴリと胸壁の石を砕く音なのか、女騎士たちの骨の音なのか。

 そんな音を奏でながら雪のドラゴンは容易く城壁を突破する。

 

 翼を持つドラゴンに、城壁などなんの意味も成さなかった。

 地上を逃げ回る市民たちを蒼い眼で捉え、無慈悲なブレスを吐き散らす。

 

 それは男も女もみんな氷漬けにし、巨大な羽で突風を巻き起こし、それら全てを破壊し尽くす。

 文字通りの皆殺しだった。

 ただ怒りのままに、雪のドラゴンはひたすら暴れ続ける。

 

 

 街の西側でドラゴンが暴れている。

 その光景をロゼは城のバルコニーで確認していた。

 

「あれは……!」

 

 見たこともないドラゴンだ。

 ヤツが今回の雪の元凶か?

 ゼクードはどうしたんだ?

 

 まさか、すれ違った?

 いや、今はそんなことよりヤツを止めねば!

 思い至ったロゼは城を駆け抜け、街の西側へと急いだ。

 

 何人かの城の者に呼び止められたが聞きはしない。

 あのドラゴンは危険だ。雰囲気で分かる。

 レイゼ達では荷が重い。

 

 早々に私が押さえるべき相手だ!

 

 

 雪のドラゴンの進行は【下級層】で止められていた。

 それは複数の女騎士たちとレイゼ・リベカ・ミオンの必死な抵抗のおかげでもあった。

 

「【ダーククロー】!」

 

「【エアカッター】!」

 

「【プロミネンス】!」

 

 レイゼたちがそれぞれ魔法を放ち、他の女騎士たちもそれに合わせて魔法を放つ。

 上空を泳ぐ雪のドラゴンに魔法の弾幕を張るが、まるで当たらない。

 

「くそ! 速ぇ!」

 

 捉えられないドラゴンを睨みながらレイゼが言う。

 すると上空のドラゴンはレイゼたちを睨み付け、大口開けて白銀のブレスを吐き出す。

 

「! 避けろ!」

 

 味方に回避を促し、レイゼはミオンと共に建物の隙間に入ってブレスを凌いだ。

 しかし避け損ねた何人かの悲鳴が耳朶を打った。

 味方がどんどん減っていく。

 

 思わず舌打ちした。

 雪のドラゴンの襲撃からまだ数分しか経ってない。

 なのに何人やられた?

 

 くそ!

 こんなことになるなんて!

 ゼクードはすれ違っちまったのか!

 

 レイゼは建物の壁から顔を出し、外の戦況を確認した。

 また何人かの女騎士たちが空からの狙撃で氷漬けになった。

 顔を出した瞬間にこんな光景を見せつけられた。

 

 まるで悪夢だ。

 向かいの家にリベカがこちらを見ている。

 どうすればいい? とレイゼに問うような瞳だった。

 

 オレが聞きてぇよ。

 こんな化け物どうすりゃいい?

 どうすれば勝てる?

 

 あの巨大であのスピード。

 A級ドラゴンとは比較にならない。

 何よりずっと飛んでて魔法や弓やバリスタでしか攻撃が届かない。

 

 魔法なんて撃ち続けてたら体力が持たない。

 この周辺のバリスタはほぼ壊された。

 味方の弓使いもやられている。

 

 こんな短時間で、くそ!

 

「レイゼちゃん」

 

 隣のミオンが囁く。

 

「なんだ?」

 

「このままだとみんな死ぬ。あたしが囮になるよ」

 

「はっ!?」

 

「まだバリスタが残ってる。あたしがドラゴンの注意を引いてる間に隙を見てバリスタを撃ち込んで」

 

「見てなかったのか! バリスタは効いてなかったろ!」

 

「違う。ロープの付いた拘束用のバリスタが近くの武器庫にあるはずだよ。それを取ってきて撃ち込んで!」

 

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