【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ロゼの剣技はフォレッドから教わったもの。
しかしそれはシンプルに力と技量で成り立っている剣技にすぎない。
型は同じでもロゼとゼクードの決定的な違いは【気】を引き出せているか否か。
剣技自体の完成度は達人の域に達しているが、残念ながらロゼは【気】を引き出せていない。
そもそもロゼはフォレッドに【気】という概念があることすら教わっていなかった。
当時の【気】はごく一部の上級騎士(フォレッド・クロイツァー・セルディス)しか知り得ないものだった。
知っていればロゼも自分なりに修行しただろう。
対人戦やA級ドラゴン相手には十分すぎる剣技だったが、この本物の脅威を相手には、あまりにも貧弱で……。
【気】を纏ってすらいないミスリル製のロングブレードでは雪のドラゴンの竜鱗を削ぐことは叶わない。
敵の攻撃を躱わしつつ、果敢に斬撃を繰り出すも、手応えがない。
ロゼは顔を険しくし、戦況がまるで好転していないことに焦りを感じた。
ドラゴンの氷のブレードは破壊できたが、肝心の肉に刃が届かない。
竜鱗を突破できない。
A級ドラゴンとは比較にならない硬度だ。
どうする!
このままではこちらが先に力尽きる。
そんなことを考えながらも、音速にも等しいドラゴンの尻尾ブレードを避けて破壊した。
左腕・右腕・尻尾。
それぞれのブレードを破壊されたドラゴンはロゼから引いて間合いを開けた。
ロゼも迂闊には追撃せず、踏み込まなかった。
互いに間合いを維持してにらみ合い、円状の広場を回る。
やるか。
咄嗟に閃いた打開策は、今の戦況にピッタリのものだ。
ロゼは【闇魔法】の使い手。
【ブラックホール】と【カオスエンチャント】で武器を強化できる。
この雪のドラゴンが相手なら禁じ手を使わなくてはならないだろう。
複数の魔法を取り込む【限界突破(オーバーロード)】だ。
短期決戦の諸刃の技。
これを使って仕留め損ねれば武器を失い、間違いなく死ぬ。
危険極まりない賭けだが、このままでは負ける。
やるしかない!
意を決して、ロゼはレイゼたちに自分に魔法を撃つよう指示を出そうとした。
その時、ドラゴンも動いた。
翼の氷が再生していたのだ。
ドラゴンは即座に飛び上がり、どの建物よりも高く浮上した。
まさか、逃げる気か?
ロゼだけでなく、周りで見ていたレイゼや女騎士たちも同じ事を思っただろう。
離脱と見せかけたそれは、やはり違った。
雪のドラゴンは城より高い高度に達すると吼えた。
吹雪がさらに強くなり、かと思うとその吹雪は流れるようにドラゴンへと集結していく。
なんだ!?
何をする気だ!?
嫌な予感がして、ロゼの全身に悪寒が走った。
雪が集まっていく。
あのドラゴン本体に。
奴の全身に雪が纏われていく。
しかもそれは──
「……。……っ! ……っ!? なっ!」
巨大化していく。
ドラゴンが雪に埋もれて見えなくなってもそれは止まらない。
雪が重なり続け、ドラゴンの型を維持しながら山のように大きくなっていく。
100メートルとかそんなレベルではない。
もはや雪山に匹敵する。街全体を影に覆うほどの大きさだ。
ドラゴンの形を成した……超巨大な雪ダルマ。
今までのは何だったんだ?
そんな圧倒的な力を隠し持っていた雪のドラゴンに、ロゼはロングブレードを落とし、レイゼや女騎士たちは膝をついた。
「嘘だろ……なんだよそれ……」
レイゼが霞むような声でそう言った。
ロゼも同感だった。
もはや絶望しかない。
こんなの誰が勝てるんだ?
あれだけ巨大だと、倒れてくるだけで街を滅ぼせるぞ。
ロゼがそう思うと、それを読み取ったかのように雪ダルマドラゴンがその巨体を傾けてきた。
ボディプレス!
本当に倒れて街を潰しにきた!
ロゼたちには山が落ちてくる光景に見えた。
逃げようもない圧倒的な質量で、押し潰そうとしてくる。
もうダメだ!
おしまいだ!
こんなの、どうやって!
迫りくる雪ダルマドラゴンにみなが悲鳴を上げた。
慌てて逃げ出す者や、腰を抜かして立てなくなる者。
絶望して青ざめる者。
ロゼは絶望して膝をつく者だった。
涙を流し、無駄だと分かっていながら懇願する。
助けて……フォレッド……
過去にこの願いが叶ったことはない。
今回も無駄であることは分かり切っていた。
当のフォレッドは、もうこの世にいないのだから。
「打ち上げろ! ローエ!」
それは幻聴か、
「本気でいきますわよ! うぉおおりゃああああああああ!」
威勢の良い声を張り上げたのは緑騎士のローエだった。
広場のど真ん中で、ハンマーに乗った黒騎士をフルスイングで打ち上げた。
大砲で打ち上げられた砲弾の如く、雪ダルマドラゴンに飛んで行ったのはゼクードだった。
フォレッドじゃない。
「ゼクード!?」っとレイゼが叫ぶ。
やはりフォレッドじゃないんだ。
だがロゼには、そのゼクードにフォレッドの影が重なって見えた。
それこそ幻覚だったのかもしれない。
でも、それだけでロゼの胸の奥の何かが救われた。
今度こそ……助けに来てくれたんだと。
そしてロゼやレイゼたちが見守る中、ゼクードが風圧に耐えながら空中で抜刀する。
果たしてゼクードに、あれほど巨大な敵をどうにかできるのだろうか?
ロゼはゼクードの実力を知らない。
レイゼからは【エルガンディ】の中でも別格だと聞いているが、相手が相手だ。
あんな山のような敵に、何をするのか?
どのみちロゼたちはゼクードに賭けるしかない。
あの倒れてくる雪ダルマドラゴンを止められなければ、みんな死ぬ。
その死を告げる巨体が風を轟音に変えて迫りくる。
そいつの胸部にゼクードはまっすぐ飛んでいく。
抜刀したロングブレードを煌めかせ、力の限り握り締めた。
「どんなにデカくても! 所詮は雪だ!」
吼えて剣を構えた。
ロゼには無い【気】を纏わせ、刃の輝きをさらに強くする。
片眼を見開き、ゼクードは大きく息を吸って剣を振るう!
「【真・竜斬り・大・竜獄斬】!」
傍目には一閃。
しかし実際には秒間に十、いやそれ以上もの斬撃が飛んだ。
銀の牢の如く斬破が音速を越え、衝撃波を生じる。
【シエルグリス王国】を叩き潰すはずの巨体が十重二十重に切り裂かれた!
その光景を目の当たりにしたロゼやレイゼたちは、ただ唖然と目を開けて、限界まで口を開いた。