【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第159話【薔薇よ。儚く】

『ああああ痛い……胸が、痛いぃっ! くそ! くそ! くそっ!』

 

『あの黒い奴! 許さない! 絶対に許さない!』

 

()()()()()()()()()()()()!』

 

 

 巨大雪ダルマの崩壊は【シエルグリス】の半分以上を白く埋め尽くした。

 俺が斬った雪ブロックは街のあちこちに飛散。

 疎(まば)らに民家を埋めて降り注いだ。

 

 気づいたときには街は雪山だらけになっていた。

 民間人の安否が心配だ。

 

「くそ……雪でほとんど埋まっちまったな」

 

 街の通りを歩きながら俺は言った。

 仕方ないとは言え、雪を防ぎ切れなかった俺は胸の奥で反省する。

 すると前を歩くローエが肩を竦めた。

 

「もっと細かく斬れば良かったですのに。あなたなら出来たでしょう?」

 

「これでも頑張ったぜ? なんせデカ過ぎる。山を斬れってんだからさ……」

 

 精一杯の斬撃だったのは間違いない。

 相手はもはや雪山と呼べる巨大さで、過去に戦った超大型ドラゴンが可愛く見えるレベルだった。

 むしろよく斬れた方だとさえ思うのだが、この街の被害を見ると、なんとも言えなくなるのは事実で。

 

「ゼクードォオオオオオオオオオオオオ!」

 

 甲高い声を発して街中を突っ走ってきたのは姉のレイゼだった。

 

「あ、姉さん」

 

 やべ、街の被害で怒られる! と身構えた。

 しかしレイゼは俺の前まで来ると、何度か呼吸して息を整えてから俺の両肩をバンと掴んできた。

 

「お前スゲェよ!」

 

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 あの姉が眼を輝かせて、まっすぐ俺を賞賛しているのだから。

 びっくりである。

 

「ぃ、いやぁ~それほどでも……」

 

 俺は照れたいのだが、姉の意外な一面にやられ、照れが何故か苦笑になってしまった。

 怒られると思ってたら誉められたから。

 

「今回のはマジでカッコ良かったぜ」

 

 肩から手を離して、レイゼがウインクしてくれた。

 不覚にも、姉にドキッとしてしまった。

 今のウインクが、あまりのギャップで可愛かったのだ。

 

 性格こそガサツだが、やはりレイゼはローエたちに引けを取らない美人だ(あと胸の大きさも)。

 俺は改めてそう思った。

 

「弟じゃなかったら奴隷に欲しいくらいだ」

 

「ど、奴隷っすか……」

 

 嬉しくねぇ~

 この国ならではの言われ方だな。

 

「レイゼさん。報告がありますの」

 

 隣で奴隷発言に笑っていたローエが、切り替えたかのように真面目な顔になった。

 言われたレイゼは視線をローエに向ける。

 

「街からその奴隷たちが脱走してましたわ。何人かの女性たちが誘拐されかけてましたわよ」

 

「なんだと!?」

 

 そう。

 俺たちがこの【シエルグリス】に向かっている途中、そいつらと出くわした。

 時間がなかったが、拐われてる女性たちを見捨てるわけにもいかなかった。

 

「姉さん大丈夫だ。その件に関してはカティアとフランを向かわせた。もう全員ボコボコにされて女性も救出されてるはずだ」

 

「たった女二人で男の集団に!? 本当に脱走したなら、かなりの人数になるんじゃねぇのか?」

 

 確かにいっぱい居た。

【シエルグリス】の城壁を突破して、やっとの思いで自由になれたと思っていただろう。

 だけど残念。

 俺の嫁たちはそこら辺の男より何百倍も強い。

 

「大丈夫だって。S級ドラゴンを500匹も相手にできるんだから。人間の男なんて何人相手でも楽勝さ」

 

「S級ドラゴンを、500!? なんだS級って? S級ドラゴンなんて見たことねぇぞ?」

 

 あ、そっか。

 この辺にはA級ドラゴンしかいないのか。

 

「さっきのあいつ見たいな雪のドラゴンの事だよ。それより味方の被害は?」

 

 一番気になる事を問う。

 するとレイゼの顔が露骨に曇った。

 

「かなりの人数やられた。ミオンも重傷で、リベカも傷を負った。その上この街の全体のこの被害だ。深刻と言わざるを得ねぇ」

 

 やっぱりか。

 あの雪のドラゴンに返り血が付いていたから、もしやと思っていたが正解だったようだ。

 

「ごめん。もっと細切れにできたら良かったんだけど」

 

「何言ってんだ。お前に関しちゃ文句なしの上出来だぜゼクード。お前とローエさんが来なかったら、オレたちは今頃ドラゴンバーガーになっちまってたからな」

 

「ははは……」

 

 例えが面白いな。

 それにまさか、レイゼに文句なしとまで評価されるとは。

 救われる思いだ。本当に。

 

「──ん?」

 

 ──弱まっていた風が、急に強くなってきた。

 それは次第に吹雪となり、俺たちの体温を奪っていく。

 

 この吹雪……まさかまた!?

 

「おい、これって!」

 

 レイゼが俺を見て言った。

 俺は雪のドラゴンだと確信して頷こうとする。

 しかし、俺の視界はあるものを捉えていた。

 

 真っ青な閃光。

 今、レイゼの後ろで何かが光った。

 それは瞬く間にレイゼの背後へ迫り来る。

 

 俺の血がザワついた。

 直感が告げる。

 あれをくらってはならないと!

 

「姉さん! 危ない!」

 

「え?」

 

 俺はレイゼを抱きしめ、自分を盾にするように閃光を背にする。

 

 咄嗟の判断でやってしまった身代わり!

【ヨコアナ】に置いてきた子供たちの事が走馬灯のように脳裏を過ぎる!

 

 …………しかし何故か衝撃はなかった。

 俺はレイゼを抱きしめながら振り返る。

 

「!?」

 

 そこに居たのは女王ロゼ──義母さんだった。

 彼女は両手を広げ、俺とレイゼを守っていた。

 しかし、閃光を受けた義母の身体は青く氷漬けになっていた。

 

 俺は心臓が跳ね上がった。

 俺の肩から顔を上げたレイゼも、その光景を目の当たりにしてしまう。

 

「か、母さん!?」

 

 レイゼは氷漬けになったロゼに駆け寄る。

 しかし俺とローエは建物の物影にすぐ隠れた。

 ドラゴンの狙撃から身を守るためだ。

 

「母さん! おい母さん!! 嘘だろ!!!」

 

「姉さん隠れろ! 次が来る!」

 

「でも母さんが!」

 

「早く!」っとゼクードはレイゼを無理矢理に引っ張った。

 

「ぁあああああっ! そんな! くそっ! くそおおおおお!」

 

 怒声を張り上げたレイゼは俺と同じ建物の物影に身を隠した。

 ローエは俺とレイゼの向かい側の物陰にいる。

 

「ゼクード! どうしますの!」

 

「どうするったって……」

 

 相手は姿が見えない狙撃者だ。

 この吹雪を見るに、雪のドラゴンが戻ってきたらしい。

 どうする?

 どう応戦する?

 

 冷静に考えたいのに、氷漬けになったロゼが頭から離れない。

 心臓も爆発しそうなほど脈動している。

 冷静そうで、まるで冷静になれていない。

 

 義母さん……

 

 ドガッ!

 

 巨大な氷柱が複数飛んできた。

 それは物影に隠れた俺たちを狙っていた。

 しかし、その複数の内の一発が

 

 女王ロゼに、直撃した!

 

「っ!」

 

 氷柱が義母ロゼの身体を粉砕した。

 

 俺も、レイゼも、それを目の当たりにしてしまう。

 限界まで眼を広げた。

 何故か視界が曇る。

 時間もゆっくりに感じる。

 

「か……母……さん……?」

 

「義母さん……っ! そんな……」

 

 ようやく絞り出した声がそれだった。

 

 死んだ……義母さんが…………こんな、あっさり……

 なんの間もなかった……最後の言葉も、なかった。

 

 血の気が引いていく。

 全身の熱が溶けていくような虚無の感覚が、脳を侵食した。

 

「野郎ぉおおおおおおおおお! ふざけやがってあのクソドラゴンがああああああああああああ!」

 

 姉のレイゼは逆で、ついに怒りを爆発させた。

 物影から飛び出そうとし、俺はそれを全力で引き止めた。

 

「姉さんダメだ!」

 

「離せコラァアアアア! ぶっ殺すぞテメェエエエエエ!」

 

 激昂するレイゼに殴られながらも、俺はレイゼを離さなかった。

 いま出たら狙い撃ちにされる。

 義母さんの二の舞になってしまう。

 行かせるわけにはいかなかった。

 

「クソガアアアアア! 離せ! 離せえええええ!」

 

「やめろ! 義母さんの死が無駄になる! 生きるんだ姉さん! 命を捨てるな!」

 

「うわああああああああああああああああああああああ!」

 

 断末魔にも似たレイゼの怒声が響く。

 暴れ続けるレイゼに俺はまるで動けなくなっていた。

 

 すると向かいのローエが自分の武器であるハンマーを物影から投げてみせた。

 物影から出てきたと勘違いさせ、誤射させるつもりらしい。

 

 しかし狙撃は来なかった。

 さらに吹雪も弱まってきた。

 獲物を仕留めたと思ったのか、雪のドラゴンは近くから去ったらしい。

 

「離せええええ!」

「ちょ、姉さん!」

 

 暴れるレイゼに突き放された。

 レイゼは真っ直ぐ砕けた義母さんの元へ走った。

 氷の欠片と化した女王ロゼに、レイゼは雪地に膝をついた。

 

「母さん! あぁ……ぁぁあぁ……母さん!」

 

 震える声で、大粒の涙を溢れさせた。

 

「嘘だ……こんなの! 嘘だああああああああああああああああ!」

 

 欠片となった薔薇に、レイゼは泣き続けた。

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