【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
その日。
一匹のドラゴンによる襲撃で【シエルグリス王国】は甚大なる被害を被った。
軽傷者と重傷者はむしろ少数で、死亡者の数の方が多かった。
何よりこの国の指導者たる女王ロゼが、今回の戦いで命を落とした。
それがこの国にとって……これ以上にないほどの大打撃だった。
誰もが涙を流し、女王の突然の死を受け入れられずにいた。
中でも実の娘であるレイゼは、あまりに呆気ない母の最後に、今も【女王の自室】で泣いている。
当の俺は氷の欠片となった義母の埋葬のため、レイゼを呼んできてほしいとリベカに頼まれていた。
そして今、レイゼのいる【女王の自室】前にいる。
俺は……意を決して扉をノックした。
「姉さん」
返事はなかった。
しかし意外なことに、レイゼの方から扉を開けてくれた。
俺は姉と目を合わせた途端に、出て来てくれた笑みを吹き消してしまった。
レイゼの顔は涙で濡れたままだったから。
「……なんだよ?」
「……リベカさんが呼んでる。義母さんの埋葬を始めるから来て欲しいって」
「埋葬……」
俯いてしまったレイゼに、俺はなんと声を掛けたら良いのか迷った。
弟なんだし、励ましてやらねばならないのだが。
「姉さん……辛いだろうけど、一緒に行こう? 義母さんを見送ってあげないと」
「……」
レイゼは、返事をせずに部屋の中へと戻って行った。
「姉さん?」
俺もついていき、部屋の中へと入る。
扉が閉まり、カーテンも締め切られた部屋はとても薄暗い。
でも、なんだろう……俺も今の心境だと、この薄暗い部屋はどこか居心地が良い。
姉さんがこの部屋に入り浸るのも分かる気がした。
「嫌ってばかりで、何もしてやれなかった……」
部屋の突き当たりに立ったレイゼが、静かにそう口を開いた。
俺は彼女の背を見た。
「これからだったのに……」
「姉さん……」
「ゼクード……お前は今、どんな気持ちだ?」
「俺は……」
「……」
「俺は、気づいたら泣いてた」
「……」
「出会って間もないのに、凄く悲しかった……」
「……」
「落ち着いたらもっと話したいと思ってた。母さんのことや、親父のこと、たくさん聞きたかった……」
「……」
「俺……物心ついた時から両親がいなかったから、母さんってのに甘えてみたかったんだと思う」
その甘えてみたかったという気持ちが、いつの間にか年上のカティアたちに向いていたのかもしれない。
「……そうか。お前でも泣くんだな」
「……隣で泣いてたの、気づかなかったんだ?」
「気づくかよ」
苦笑混じりの声で返し、レイゼは俺の方へ振り向いてきた。
涙を腕で拭うが、拭ったそばからまた流れ出す。
滝のように。
「お前はスゲェな。もう泣き止んだのかよ」
当たり前である。
俺とレイゼでは、女王ロゼの死に対する重みは違う。
義母と出会って間もない俺なんかより、よっぽど姉の方が重いに決まってる。
まして和解したばかりなら尚更。
「姉さん……」
「見ての通り、オレは涙が止まらねぇんだ。わりぃがもう少しだけ待ってくれって、リベカに言ってくれねぇか? ちゃんと出席はする」
「大丈夫だよ姉さん。遅くなるって前もって言ってある。リベカさんも理解してくれてたよ」
「そうか……わりぃな……いつまでも泣いてちゃダメだって、わかってんだけどよ……」
そのレイゼの顔は、あまりにも痛々しかった。
必死に涙を止めようと、笑おうとしているのだ。
こんな時に笑う必要などないのに。
「姉さん」
俺は両手を広げて姉を優しく抱き締めた。
「ぁ……ぉ、おぃ……」
「泣いていいよ」
「!」
「姉さんはこれから、この国を背負っていかなきゃならない。だから今のうちに……たくさん泣いてほしい」
「お前……」
「無理して抑えなくていいんだ」
「!」
「その涙は、ぜんぶ流してあげなきゃいけない涙だ」
「……バカ……この国で、男の胸で泣くなんて……ありえねぇだろ…………これから、女王になろうって女がさ……」
「ここには俺しかいないよ姉さん。それに……今の姉さんの涙を誰かに批判なんかさせるもんか。何があっても泣かないなんてヤツを、俺は信用しない」
「……」
「だから、姉さん……」
「お前……なんで……」
「え……」
「なんで弟なんだよ……」
「!」
「…………ぅ、ぅ……ぅぁあああああああああああああ」
レイゼはついに、俺の胸に顔を埋めて泣いてくれた。
──なんで弟なんだよ……か。
おそらく姉として、抱いてはいけない感情を弟に抱いてしまったんだろう。
たとえ一瞬でも、姉の心をそこまで掴めたのは一人の男として嬉しい。
そして、だからこそ……こうして泣いてくれたんだと分かった。
震える姉の身体を包み込むように、俺は両手に力を込めた。
固く抱き合ったまま、俺はいつまでもレイゼの嗚咽を聞き続けた。