【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第167話【父と母と息子】

「カティアって……」

 

 絶句するしかなかった。

 思考が止まりそうにもなった。

 

 人生で一番重い沈黙が、浜辺に蔓延する。

 波打つ音と鳥のさえずりだけが響く。

 

 この目の前にいる男はカーティスという名前で、父がゼクードで、母がカティアだと言っている。

 

 嘘をついているようには見えないし、そもそもいま俺に嘘をつくメリットが彼にはまるでない。

 

 まだどこか信じられない俺は、意を決して質問した。

 

「……ローエとフランベールって、知ってる?」

 

「知っている」

 

 即答だった。

 彼の表情に偽りの色はない。

 

「グロリアとレミーベールは?」

 

「……オレの、姉二人だ」

 

 ──即答だった。

 

 そして今ので、俺の中で完全に繋がってしまった。

 

 確定だ。

 

 彼は…………俺の息子のカーティスだ。

 

 否定する材料が無くなってしまった。

 

 カティア・ローエ・フランベール。

 三人の母の名前を知っていて、

 グロリアとレミーベールという娘二人の名前も知っている。

 

 しかも聞いてもないのに姉だと断言した。

 

 これをどうやって否定すればいい?

 

「いったい……どうなってるんだ?」

 

 カーティスは顔を険しくした。

 おそらく彼の中でも、俺が父親であることを確信してしまったのだろう。

 

 カーティスからすれば、教えてもないのに母親であるローエとフランベールの名前が出され、あげく姉のグロリアとレミーベールの名前さえ聞かれたのだから。

 

「いやこっちが聞きたいよ……」

 

 俺もそう答えるしかなかった。

 何が起きているんだろう?

 なんでこんなに時間が過ぎてるんだ?

 

 俺は手のひらを見た。

 まだまだ若い、シワのない手のひらがそこにある。

 

 俺……ぜんぜん年取ってないな……

 まさか……氷漬けにされていた影響なのか?

 身体の老化が止まって、時間だけが過ぎた?

 

「あんたは伝説の黒騎士……ゼクード・フォルスなのか?」

 

 あれこれ考えていたら、向かいのカーティスがそう聞いてきた。

 

「え、俺……伝説になってるの?」

 

「……18年前。雪のドラゴンと相討ちになって死亡認定された。それから伝説になった」

 

 は!?

 

「じゅ、18年前!? ちょ、ちょっと待ってくれ! あの時からそんなに経ってるの!? なんで!?」

 

「オレに聞かれてもな……」

 

「いや! だって!? 俺! そ、その雪のドラゴンと昨日戦ってたような感覚だぞ!? なんでそんなに時間が経ってんだよ!? そんなに長いこと氷漬けにされてたのか!?」

 

 こんな時こそ冷静にならねばならないのだが、無理があった。

 寝て覚めたら18年後でしたって……そんな無茶な。

 

「氷漬け?」っとカーティスがそこに食いついてきた。

 

「う、うん。雪のドラゴンにトドメを刺そうとしたとき、奴の身体から白い霧が出てきたんだ。張り付いてた俺たちはその霧に包まれて氷漬けになった。そして目が覚めたらこれだよ……」

 

「……そう、だったのか」

 

 カーティスも納得した様に言った。

 でも俺の脳ミソは未だに現実と戦っている。

 これは夢なのかもしれないと。

 現実の俺はまだ氷漬けになっているのかもしれない、と。

 

「本当に夢かな……実は死んでんのかな俺……いてっ!」

 

 ホッペをツネッて見たが、普通に痛かった。 

 

「……」

 

 頬を撫でる俺を、カーティスはただジッと見つめている。

 その視線を感じて、なんだか胸がソワソワしてしまう。

 息子と分かって、なんて声を掛けたらいいか分からない。

 

 どう接すればいいか分からない。

 カーティスからすれば18年も過ぎてるんだ。

 今さら父親面するのか?

 

 いやでも、18年ってことは、当時のカーティスは一歳だったはずだから、彼はいま19歳のはずだ。

 俺の身体は17歳のままだ。

 つまり父親が年下になってしまったってわけだ。

 

 そんな年下に父親面なんてされたくないだろうし、いやでも……実年齢は35歳になるんだろうし…………いやそうじゃなくて!

 

 どう接すればいいか、本気で分からない。 

 

「いや……その……なんていうか……」

 

 カーティスに掛ける言葉を探していたら、当人がゆっくりと口を開いてきた。

 

「あんたは……いや、あなたは、オレの──」

 

 その時だった。

 海の反対に広がる浜辺の森から悲鳴が聞こえてきた。

 聞き覚えのある女性の声だ!

 

「今のは!」っと言いながら俺は走り出した。

 

「うっぐっっ!」

 

 走り出そうとするが、全身がまだ痛くて思ったよりスピードが出ない。戦えるのかこれ。

 

 だが見捨てるわけにはいかないと森に入り、息子のカーティスも何も言わずついて来てくれた。ありがたい。

 

 すると茂みの奥が揺れて、一人の女性が飛び出してきた。

 赤い髪をした赤い鎧の女騎士。

 それは間違いなく俺の妻の、

 

「カティア!」

 

 俺は叫んだ。

 

「カティア!? あれが……!」っとカーティスが驚愕した。

 

 当のカティアは身体を庇いながら必死に走っている。

 しかも武器を無くしたのか持っていない。

 

「くそ……こんなところで死ぬわけには……グロリア……レミー…………カーティス!」

 

 カティアは俺と同じく身体が不調のようでフラフラしている。

 何かから逃げているようだが、それはすぐに現れた。

 彼女の背後から見たこともないドラゴンが飛び出てきた。

 

 大きさと形状はA級ドラゴンのそれだが、見た目が違う。

 灰色の鱗に、全身に浮き出た赤い血管。

 不気味な光を放つ真紅の眼光はカティアをひたすら捉えている。

 

 なんだあれ!?

 A級ドラゴンに似ているけど、何か違うぞ!?

 

 俺がロングブレードを抜刀しようとした瞬間、武器がないことに気づいた。

 

 雪のドラゴンに突き刺した記憶が今さら甦る。

 

 しまった……武器が!

 

 しかし間もなくカーティスが動いた。

 

「っ! カーティス!」

 

 爆発的な加速だった。

 彼の踏み込みは草と土をハゼらせ、カティアに迫るドラゴンに一秒の間もなく肉薄する!

 

 刹那に抜刀!

 

 十の斬撃が放たれ、その剣先には銀の波動が生じる。

 それは銀の斬撃。

 音速を越えて衝撃波を生み、切り裂かれたドラゴンを無情にも吹き飛ばす。

 

「な!? お前は!?」

 

「……」

 

 助けられ振り向くカティアに、カーティスは黙ったまま背を向けている。

 まだ奥から数匹のドラゴンが隠れていたからだ。

 カーティスは無言で剣を構え、カティアの壁になる。

 

「カティア!」っと俺は妻の元へたどり着いた。

 

「ゼクード!?」

 

 俺の登場に驚くカティアだが、とりあえず肩を貸してこの場を離れようとした。

 

「カーティス!」

 

 俺は確認のために息子の名を呼んだ。

 カティアがその名で驚く気配を見せたが、今は無視する。

 

「……下がっていてください。オレがやります」

 

 急に敬語になっていて驚いたが俺は頷いた。

 

「頼む!」

 

 確認を終えて、しんがりをカーティスに任せた俺はカティアを連れて下がる。

 

「いまカーティスって……ゼクード?」

 

「今は離れよう。息子の足手まといになる」

 

「む……息子!?」

 

 カティアの目がこれでもかと見開いた。

 おそらく状況を飲み込めていないだろう。

 今はそれでもいい。説明は後だ。

 

 俺はある程度まで下って、カーティスの戦いを見た。

 さっきの銀の斬撃……俺の【竜斬り】と同じだった。

 誰から教わったんだカーティスは?

 

 そんな疑問もあったが、あの見慣れぬ灰色のドラゴンも気になった。

 また新種のドラゴンか?

 

 動きがA級ドラゴンよりも俊敏で、狂暴性も上がっている気がする。

 そいつらは茂みの奥から三体も現れ、先頭の一匹がカーティスに飛び掛かってきた。

 

 獲物を屠らんとするその大口を、カーティスは果断に穿つ。

 そのまま剣を持ち上げて頭部を裂くと、左右から二匹のドラゴンが飛び掛かってきた。

 

 二匹の同時攻撃だが、カーティスは凄烈なる迷いなき二撃を放つ。

 あまりにも疾く強靭、それでいて美しい斬閃だった。

 

「強い……!」

 

 俺は思わず感嘆の声を漏らした。

 それは剣技という分野に限れば、紛れもなく人類の最高峰に位置していると分かる洗練さだったからだ。

 

 俺は胸が高鳴った。

 こんなにも誰かの戦いを賞賛したことはない。

 生まれて初めてだ。

 

 見ていてもいっさい不安にならないこの安心感はなんだろう?

 こんな気持ちを抱いたのは本当に初めてだ。

 

 息子だから?

 

 違う。

 見てて分かった。

 カーティスは俺と同じ実力を持っている。

 

 この安心感の正体はきっとそれだ。

 

 カチンとロングブレードを納めたカーティスがこちらにやって来た。

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