【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
涙を拭いて、俺たちはローエとフランベールの捜索に動き出した。
森の中を歩いては近くの浜辺を確認する。
それの繰り返しだ、
「驚きました。本当に」
道中カーティスがカティアを見ながら言ってきた。
カティアは「ん?」と振り向く。
「レィナおばさんから、母さんのことは聞いていました」
「レィナから?」
「はい。いつも凛としていて強く美しい人だと聞いていました」
「ふ……あいつはいつも大袈裟に言うからな」
「とんでもない! 聞いていた以上に綺麗な女性(ひと)で驚きました」
「……っ!」
息子に真顔で綺麗と言われて顔面がみるみる赤くなったカティア。なんか可愛い。
「顔、真っ赤だぞカティア」
「やかましい!」
怒られた。
でも満更でもなさそうだ。
「ところでカーティスはなんでこんなところに居たんだ? 任務か?」
浜辺の砂を踏み込み、俺はカーティスに問う。
「はい。先ほどのドラゴンの調査任務です」
「そういえばさっきのドラゴン……A級ドラゴンみたいだったけど、なんかいろいろ違ったな。あれはなに?」
「あれは『元A級ドラゴンの成れの果て』です」
「成れの果て?」
「一度死んだドラゴンが蘇生して、あの姿になるんです。我々は【ドラゴンゾンビ】と呼んでいます」
「生き返ってあんなのになるってこと? なんで?」
「わかりません。いきなりこんなことが起こり出したんです。この現象をドラゴンの【ゾンビ化】と呼んでいますが、原因がさっぱり分からないんです」
「それで調査してたんだ」
「はい。この辺りのドラゴンもゾンビ化していました。もうすでにかなりの広範囲にゾンビ化が進んでいるようです」
「人間に影響はないのか? 噛まれたりとか、引っかかれたりとか」
カティアが聞くとカーティスは首を振って否定した。
「今のところは何も。人間には何も影響がないところを見ると、そもそも病気の類いではない可能性も上がってきています」
「黒幕がいるのかもな。なんかこう……死体を操る能力を持ったドラゴンとか?」
俺は咄嗟に思い付いたことを適当に言ってみた。
するとカーティスがポンと手のひらに拳を乗せた。
「なるほど! その線は考えていませんでした。さすが父さん!」
「あ、いや……適当に言っただけだよ!?」
※
心地良い波の音が、ローエには聞こえていた。
全身が仄かに暖かい。
でも意識はぼんやりとしている。
まだ微睡(まどろ)みの中だ。
覚醒し切れていない脳に、砂を踏む足音が聞こえてきた。
「あれ? この人の鎧……エルガンディの?」
若そうな女性の声だ。
目を開けて立たねば、と意識するも、全身に力が入らない。
何もかもが重い。
そんな感覚が抜けない。
とんとんとんとん……
「もしもーし? 生きてるー?」
両肩を叩かれてる。
けっこう痛い。
どんどんどんどん……
「おーい!」
耳元で叫ばれてうるさい。
しかも叩く力もかなり強くなってきていて痛い。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
ちょ、ちょ、ちょっと!
肩が外れる!
「痛いですわっ!」
「あ、生きてた」
上半身を起こしたローエは、人をぶっ叩いていた犯人を目にする。
金髪のツインテールに、エメラルドグリーンの瞳をした女性だった。
見たこともない真っ白な鎧を着ている。
背中には彼女の武器らしい巨大な戦斧が掛けられていた。
自分と同じ女騎士のようだが。
「いきなり何しますのあなた!?」
「いやアンタがこんなところで寝てるから起こしてあげたんでしょ? 危ないわよこんなドラゴンのいる場所で寝てたら」
こんなところ?
ローエは辺りを見渡した。
目前には広大な海があり、後ろには鬱蒼とした森がある。
ローエの座るここは砂浜。
太陽光で暖められた砂がサラサラと指の間を埋める。
なぜ、こんなところに?
わたくしは、雪のドラゴンと戦ってたはず……
「そういえば……」
氷漬けになっていく自分の姿が記憶として甦ってきた。
ゼクードやカティアたちがどんどん氷になっていく様も、鮮明に思い出せた。
そうだ……わたくし達はあの時、みんな氷漬けになって……!
「みんなは!?」
「みんな?」
「あなた! わたくし以外に三人の騎士を見ませんでしたこと!? 仲間なんですの!」
ローエは白い女騎士の肩を掴んで聞いた。
「え? ううん……アンタしかここに居なかったけど?」
「そんな……きっと別の場所に打ち上げられているんですわ! 探さないと……痛っ!」
立った瞬間、全身に激痛が走った。
まるで長らく動かしてなかったような身体の軋み具合だ。
思わず膝をついてしまう。
「ちょ、ちょっと大丈夫!? 無理しちゃダメよ!」
白い女騎士がローエの背を擦る。
「そ、そうもいきませんわ。ここにはドラゴンがたくさんいるのでしょう? わたくしのように気絶していたら食べられてしまいますわ!」
自分に言い聞かせるように言って、ローエはまた立ち上がった。
ギシギシと身体のあちこちが痛む。
「わかった。わかったから! アタシも協力するから無理しないで。ね?」
フラつくローエの身体を支えながら白い女騎士が言ってきた。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳に、ローエの顔が映る。
どこかで見たことあるような瞳だ。
何故か安心感を覚えてしまう。
彼女はいったい?
そんな事を思っていると、彼女は腰のポーチに手をやり、瓶に入った水を差し出してくれた。
全身の渇きを覚えていたローエにはありがたい支援だった。
ローエは彼女からその瓶を受けとる。
「……ごめんなさい。ありがとう。あなた名前は?」
「グロリアよ」
──…………グロリア?
こんな偶然があるのね。
「あら? わたくしの娘と同じ名前ですわ」
「そうなの? アンタの名前は?」
「ローエですわ」
「へぇー偶然。アタシのお母さんの名前もローエって言うのよ」
「え、そうなんですの!?」
「うん」
凄い偶然だ。
でも同時に素敵だな、とも思った。
娘と同じ名前の女性に助けられるなんて。
ちょっとロマンチックで悪くない気分ですわ。
これでお父さんがゼクードという名前だったら笑えますわ。
「こんな素敵な偶然があるんですわね。お父様の御名前を聞いてもよろしくて?」
微笑みながら聞き、ローエは瓶を開けて水を飲んだ。
すると隣のグロリアが急に嬉しそうに口を開く。
「お? 良いところ聞いてくれるわね! 何を隠そう! アタシのお父さんは【伝説の黒騎士】と呼ばれている【エルガンディ王国の英雄ゼクード・フォルス】なのよ!」
ブバアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ローエは盛大に水を噴いた。