【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第169話【笑えなかった】

 涙を拭いて、俺たちはローエとフランベールの捜索に動き出した。

 森の中を歩いては近くの浜辺を確認する。

 それの繰り返しだ、

 

「驚きました。本当に」

 

 道中カーティスがカティアを見ながら言ってきた。

 カティアは「ん?」と振り向く。

 

「レィナおばさんから、母さんのことは聞いていました」

 

「レィナから?」

 

「はい。いつも凛としていて強く美しい人だと聞いていました」

 

「ふ……あいつはいつも大袈裟に言うからな」

 

「とんでもない! 聞いていた以上に綺麗な女性(ひと)で驚きました」

 

「……っ!」

 

 息子に真顔で綺麗と言われて顔面がみるみる赤くなったカティア。なんか可愛い。

 

「顔、真っ赤だぞカティア」

 

「やかましい!」

 

 怒られた。

 でも満更でもなさそうだ。

 

「ところでカーティスはなんでこんなところに居たんだ? 任務か?」

 

 浜辺の砂を踏み込み、俺はカーティスに問う。

 

「はい。先ほどのドラゴンの調査任務です」

 

「そういえばさっきのドラゴン……A級ドラゴンみたいだったけど、なんかいろいろ違ったな。あれはなに?」

 

「あれは『元A級ドラゴンの成れの果て』です」

 

「成れの果て?」

 

「一度死んだドラゴンが蘇生して、あの姿になるんです。我々は【ドラゴンゾンビ】と呼んでいます」

 

「生き返ってあんなのになるってこと? なんで?」

 

「わかりません。いきなりこんなことが起こり出したんです。この現象をドラゴンの【ゾンビ化】と呼んでいますが、原因がさっぱり分からないんです」

 

「それで調査してたんだ」

 

「はい。この辺りのドラゴンもゾンビ化していました。もうすでにかなりの広範囲にゾンビ化が進んでいるようです」

 

「人間に影響はないのか? 噛まれたりとか、引っかかれたりとか」

 

 カティアが聞くとカーティスは首を振って否定した。

 

「今のところは何も。人間には何も影響がないところを見ると、そもそも病気の類いではない可能性も上がってきています」

 

「黒幕がいるのかもな。なんかこう……死体を操る能力を持ったドラゴンとか?」

 

 俺は咄嗟に思い付いたことを適当に言ってみた。

 するとカーティスがポンと手のひらに拳を乗せた。

 

「なるほど! その線は考えていませんでした。さすが父さん!」

 

「あ、いや……適当に言っただけだよ!?」

 

 

 心地良い波の音が、ローエには聞こえていた。

 全身が仄かに暖かい。

 

 でも意識はぼんやりとしている。

 まだ微睡(まどろ)みの中だ。

 

 覚醒し切れていない脳に、砂を踏む足音が聞こえてきた。

 

「あれ? この人の鎧……エルガンディの?」

 

 若そうな女性の声だ。

 目を開けて立たねば、と意識するも、全身に力が入らない。

 何もかもが重い。

 そんな感覚が抜けない。

 

 とんとんとんとん……

 

「もしもーし? 生きてるー?」

 

 両肩を叩かれてる。

 けっこう痛い。

 

 どんどんどんどん……

 

「おーい!」

 

 耳元で叫ばれてうるさい。

 しかも叩く力もかなり強くなってきていて痛い。

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 ちょ、ちょ、ちょっと!

 肩が外れる!

 

「痛いですわっ!」

 

「あ、生きてた」

 

 上半身を起こしたローエは、人をぶっ叩いていた犯人を目にする。

 金髪のツインテールに、エメラルドグリーンの瞳をした女性だった。

 

 見たこともない真っ白な鎧を着ている。

 背中には彼女の武器らしい巨大な戦斧が掛けられていた。

 自分と同じ女騎士のようだが。

 

「いきなり何しますのあなた!?」

 

「いやアンタがこんなところで寝てるから起こしてあげたんでしょ? 危ないわよこんなドラゴンのいる場所で寝てたら」

 

 こんなところ?

 

 ローエは辺りを見渡した。

 目前には広大な海があり、後ろには鬱蒼とした森がある。

 ローエの座るここは砂浜。

 太陽光で暖められた砂がサラサラと指の間を埋める。

 

 なぜ、こんなところに?

 わたくしは、雪のドラゴンと戦ってたはず……

 

「そういえば……」

 

 氷漬けになっていく自分の姿が記憶として甦ってきた。

 ゼクードやカティアたちがどんどん氷になっていく様も、鮮明に思い出せた。

 

 そうだ……わたくし達はあの時、みんな氷漬けになって……!

 

「みんなは!?」

 

「みんな?」

 

「あなた! わたくし以外に三人の騎士を見ませんでしたこと!? 仲間なんですの!」

 

 ローエは白い女騎士の肩を掴んで聞いた。

 

「え? ううん……アンタしかここに居なかったけど?」

 

「そんな……きっと別の場所に打ち上げられているんですわ! 探さないと……痛っ!」

 

 立った瞬間、全身に激痛が走った。

 まるで長らく動かしてなかったような身体の軋み具合だ。

 思わず膝をついてしまう。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!? 無理しちゃダメよ!」

 

 白い女騎士がローエの背を擦る。

 

「そ、そうもいきませんわ。ここにはドラゴンがたくさんいるのでしょう? わたくしのように気絶していたら食べられてしまいますわ!」

 

 自分に言い聞かせるように言って、ローエはまた立ち上がった。

 ギシギシと身体のあちこちが痛む。

 

「わかった。わかったから! アタシも協力するから無理しないで。ね?」

 

 フラつくローエの身体を支えながら白い女騎士が言ってきた。

 綺麗なエメラルドグリーンの瞳に、ローエの顔が映る。

 どこかで見たことあるような瞳だ。

 

 何故か安心感を覚えてしまう。

 彼女はいったい?

 

 そんな事を思っていると、彼女は腰のポーチに手をやり、瓶に入った水を差し出してくれた。

 全身の渇きを覚えていたローエにはありがたい支援だった。

 ローエは彼女からその瓶を受けとる。

 

「……ごめんなさい。ありがとう。あなた名前は?」

 

「グロリアよ」

 

 ──…………グロリア?

 こんな偶然があるのね。

 

「あら? わたくしの娘と同じ名前ですわ」

 

「そうなの? アンタの名前は?」

 

「ローエですわ」

 

「へぇー偶然。アタシのお母さんの名前もローエって言うのよ」

 

「え、そうなんですの!?」

 

「うん」

 

 凄い偶然だ。

 でも同時に素敵だな、とも思った。

 娘と同じ名前の女性に助けられるなんて。

 

 ちょっとロマンチックで悪くない気分ですわ。

 これでお父さんがゼクードという名前だったら笑えますわ。

 

「こんな素敵な偶然があるんですわね。お父様の御名前を聞いてもよろしくて?」

 

 微笑みながら聞き、ローエは瓶を開けて水を飲んだ。

 すると隣のグロリアが急に嬉しそうに口を開く。

 

「お? 良いところ聞いてくれるわね! 何を隠そう! アタシのお父さんは【伝説の黒騎士】と呼ばれている【エルガンディ王国の英雄ゼクード・フォルス】なのよ!」

 

 ブバアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 ローエは盛大に水を噴いた。

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