【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第171話【フランベールとレミーベール】

「う……うぇ……げほっ! げほっ! は、は……かは……」

 

 ローエは込み上がって来た胃の中身を地面にブチまけた。

 

「ちょ、大丈夫!? ねぇ! どしたの!?」

 

 グロリアが駆け寄り、痙攣するローエの背中を撫でる。

 

「はぁ……はぁ……よ、良かった……つわり、みたいですわ……」

 

「つわり!?」

 

「お腹の子、無事みたいですわ……」

 

 氷漬けにされて18年も経っていたのに、妊娠は継続されている。

 その事実がローエにはとんでもなく嬉しいものだった。

 心のどこかでもうダメだろうと諦めて、考えないようにしていたから尚更、このつわりは嬉しい。

 

「お腹の子って……妊娠してるの!?」

 

「ええ……でも一緒に氷漬けにされて……でも大丈夫だったみたいで、本当に良かったですわ」

 

 涙目で安堵するローエに、グロリアはポカンと口を開いて呆然としていた。

 

「もう……わけ分かんない」

 

 グロリアが呟いた。

 それも仕方ない。

 自分の母親が若い姿のまま現れて、しかも妊娠しているのだから。

 

「ごめんなさいグロリア……わたくし、あなたを18年も放置して──」

 

 なんとか立ち上がったローエが、どうしても言いたかった言葉を紡ぐ。

 

「んなこと今はどうでもいいわよ」

 

 キッパリ返したグロリアはまた別の水瓶を取り出し、ローエに手渡した。

 

「グロリア……」

 

「生きてただけ良かったわよ。ほら、その水で口の中すすぎなさいよ。気持ち悪いでしょ?」

 

「ありがとう……」

 

 娘の優しさに感動を覚えながら、ローエは水を口に含んですぐに吐いた。

 口内をスッキリさせると、グロリアが寄ってくる。

 

「ほら、掴まって」

 

「え!? ちょ、え!?」

 

 ローエは娘の突然の行動に頬を赤くして驚愕した。

 抱き上げられたのだ。

 その抱き方が【お姫様抱っこ】である。

 

「あら。思ったより軽いのね。お母さんって」

 

「や、ちょ、ちょっと! こんなの恥ずかしいですわ!」

 

「いいからしっかり捕まっててよ」

 

「で、でも……」

 

「仲間探すんでしょ?  だったらチンタラしてる場合じゃないわ」

 

「……うぅ」

 

 まさか娘に【お姫様抱っこ】される日が来るとは思わなかった。鎧装備の自分を軽いだなんて……。

 本当の本当の本当に……人生とは分からないものである。

 

 ローエは抱かれながら、大きくなった娘の横顔を見た。

 美しく綺麗で、気丈そうな横顔がそこにある。

 

 自分が彼女の母親だという実感は、まだ湧かない。

 でも娘だと確信を持っているという複雑な心境だ。

 一言で言うなら、夢を見ているみたいだ。

 

 しばらく娘の横顔を見つめていると、視線を感じたらしいグロリアと目が合った。

 

 お互い顔を赤くして、視線を剃らした。

 

 

 波の音が聞こえる。

「ん……」

 

 胸が苦しい。

 圧迫されてるみたいだ。

 でも、背中は妙に暖かい。

 

 フランベールは自分が俯(うつむ)けで倒れていることに気づいた。

 それに気づけるぐらいには、意識が回復してきた。

 

「ここは……?」

 

 痛む身体をなんとか動かし、フランベールは顔を上げた。

 すると髪に絡んだ砂がサラサラと溢れる。

 

 砂?

 ここはどこ?

 

 ゆっくりと上半身を起こして、フランベールは周りを見た。

 前には森があり、後ろには海が広がっている。

 

 ……なんでわたし、こんなところに?

 みんなは?

 

 ゼクード・カティア・ローエの姿がない。

 おかしいな……何してたんだっけ、わたし……

 

 そうだ……雪のドラゴンと戦ってて、それから……

 

 フランベールは自分の手を見た。

 バリスタの矢を握って氷漬けにされたはずの右手。

 

 そうだ。

 わたしたち、みんな氷漬けにされて……それから……

 

 それから?

 どうなったんだろう?

 

 ……なんとなく繋がっては来た。

 氷漬けにされて、海に落ちて、今に至るのかもしれない。

 

 みんなは別の場所に打ち上げられてるのかも。

 

 そう自分を納得させると、不意に殺気を森の方から感じた。

 見ればそこから灰色のドラゴンが現れた。

 

「!?」

 

 なに、あれ!?

 A級ドラゴンみたいだけど……色がおかしい。

 

 まるで腐ったような灰色で、鱗が剥がれた隙間から血管のようなものが浮き出ている。

 目など赤く光っていて恐ろしい。

 

 ドラゴンはこちらを見て、黄ばんだ唾液を垂らしながら近づいてくる。

 

 フランベールは咄嗟に立とうと思ったが、全身の骨が軋んで、あまりの激痛に動けなかった。

 ならば、と武器だけでも展開しようと背中に手をやったが、武器はどこにもなかった。

 

 抵抗する術がない!

 

 やっと暖まってきた身体が、一気に凍りつくような寒気を感じた。

 冷や汗が喉を濡らす。

 

 ドラゴンは牙を剥き出しにして近づいてくる。

 フランベールの肉を屠らんと。

 

「や、来ないで!」

 

 腕の力で身体を後退させるも、お尻が波に濡れるだけだった。

 

「だ、誰か!」

 

 叫んだフランベールに、ドラゴンが飛び掛かってきた。

 

 せっかく助かったのに、こんなところで!

 

 フランベールは涙し【ヨコアナ】に残してきた子供たちと、お腹の子を想った。

 

 ごめんなさい!

 

 ただそれだけしか言えず、目を閉じて死を覚悟した。

 

 直後!

 白銀の閃光がドラゴンを裂いた。 

 ピタリと動きを止めたドラゴンは、綺麗にバッサリ左右に割れた。

 

 え、なに!?

 

「間に合ったー」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 姉リリーベールの声だ。

 

 なぜ姉さんがここに!?

 

 目を開けると、そこにいたのは銀髪で碧眼の女性だった。

 姉さんじゃない!?

 誰?

 

「大丈夫?」

 

 リリーベールそっくりな声で手を差し伸べてくれるその女性は、女騎士だった。

 銀の重厚な鎧に身を包み、さきほどドラゴンを一閃したらしい大剣を肩に担いでいる。

 

「あ……ありがとうございます! 助かりました」

 

 言いながら彼女の手を握り立ち上がったフランベールだが、やはり全身の骨が軋む。

 

「痛っ!」

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

 銀の女騎士に身体を支えてもらい、なんとか踏ん張った。

 

「ご、ごめんなさい……身体のあちこちが軋んで……」

 

「無理に動かない方がいいわ」

 

 優しくそう言われ、まるでリリーベールに言われてるみたいで変な気分になった。

 でも不思議と落ち着く……安心できる声だった。

 初対面なのに不思議だ。

 姉の声と同じというだけで、こうも安心できるものなのか。

 

「あなた……エルガンディの弓使いみたいね。なんでこんなところに?」

 

「えっと……雪のドラゴンと戦ってたんです」

 

「雪のドラゴン?」

 

 銀の女騎士が怪訝な顔を浮かべる。

 だが当のフランベールはハッと、雪のドラゴンで仲間の事を思い出した。

 

「あ、あの! わたしの他に三人の騎士を見ませんでしたか!? 一緒に戦ってた仲間なんですけど!」

 

「ごめんなさい。見てないわ。あなただけよ」

 

「そんな……! こ、こうしちゃいられない!」

 

「ちょ、ちょっとあなた! そんな身体でどこ行くの!?」

 

「仲間を探しに行きます! 助けてくださってありがとうございました! きゃっ!」

 

 砂に足を取られて転倒してしまった。

 またやってしまったと、フランベールは自分に腹が立った。

 お腹に子供がいるのに転けるなんて……もうわたしって、本当に!

 

「ほら、フラフラじゃない。無理しちゃダメだってば」

 

 銀の女騎士がフランベールを立たせながら呆れる。

 

「で、でも……こうしてる間にも仲間がドラゴンに襲われるかもしれません!」

 

「わかったわ。付き合ってあげるから落ち着いて。ね?」

 

 本当に優しい……姉のような包容力でフランベールに囁く。

 同じ銀髪と声のせいか、リリーベールと被って見える。

 そんな彼女に得体の知れない安心感を覚えているのも事実で。

 

「す……すみません」

 

「いいのよ。気にしないで。ワタシはレミーベールよ。あなたは?」

 

「え!?」

 

「ん?」

 

 レミーベール?

 いまレミーベールって言った?

 

 うそ……なんの偶然なの?

 

「いま、レミーベールって……」

 

「そうよ? で、あなたは?」

 

「フ、フランベール……です」

 

「あら偶然ね。ワタシの母と同じ名前だわ」

 

「え!?」

 

 母親がフランベール!?

 ちょっと待ってどういうこと!?

 

「ワタシの母もフランベールって言うのよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 どうにも引きつった笑い顔で答えるフランベール。

 この子はなに?

 わたしの娘のレミーベール・フォルスなの?

 

 どう見ても自分と同じくらいの年頃に見える。

 レミーはまだ一歳のはずだけど……はて?

 やはりたまたまだろう。

 

「あなたさっき『雪のドラゴンと戦ってた』って言ってたけど……それいつの話?」

 

「いつって……最近だと思うんですけど……」

 

「雪のドラゴンって18年前に討伐されたはずよ?」

 

「18年前!?」

 

 なんか凄い昔の話になってる!?

 なんで!?

 もしかしてここ……わたしの知ってる大陸じゃないのかな?

 

 いや、でもさっき彼女はわたしの装備を見て【エルガンディの弓使い】って言ってたから、ここはやはりわたしの知ってる大陸なのかも。

 

 だとしたら【雪のドラゴン】の話は、わたし達が戦ったあのドラゴンの事よね?

 なんで18年も過ぎてるの!?

 

「そうよ。……ワタシの母もね。その雪のドラゴンと相討ちになっちゃったらしくて……帰ってこなかったらしいのよ」

 

「ええええ!? ちょ、ちょっと待って! 相討ちにはなってないよ!」

 

 フランベールは思わず口を出してしまった。

 

 

「え、なに!?」っとレミーベールが驚く。

 

「あ、いや……相討ちには、なった、のかな? いやでもこうして生きてるし、相討ちにはなってないよ!」

 

「な、なに言ってるのあなた?」

 

「いや、だから……その」

 

 やばい……自分でも何が言いたいか分かんなくなってきた。

 

 でも最後に氷漬けにされたのは覚えている。

 結果としてわたし達が生きてるなら相討ちじゃないと思う。

 勝ったということにしたい。

 

 ……いや、そんなことは今はどうでもいい。

 なんであれから18年も過ぎてるのか?

 それが重要だ。

 

 まさか氷漬けにされて18年そのまま過ぎたなんて、バカな話はないと思うのだけど……。

 

「そもそも雪のドラゴンの討伐命令なんて出てないわよ? あなたどこの部隊の騎士なの?」

 

「え? ふぉ、【フォルス隊】ですけど……」

 

「【フォルス隊】!? 冗談でしょう? 伝説の部隊じゃない!」

 

「で、伝説!?」

 

「そうよ? 五千のS級ドラゴンをたった四人で全滅させたっていう超強い部隊よ?」

 

 ──わたし達の事だ。完全に。

 伝説になるほど過去のものになってるなんて……

 

 ……じゃあ彼女は?

 本当にレミーベールなの?

 わたしの……わたしとゼクードくんの……娘?

 

 確かに当時はこんな女騎士は居なかったはず。

 見たことない。

 やっぱりこの子は……大きくなったレミー!?

 

「あなたが【フォルス隊】だとは思えないわねぇ~、なんか弱そうだし」

 

 さらっと失礼ねこの子。

 

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