【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
森を抜けたフォルス家一行は、カーティスたちの設置した岩影のキャンプ場へ来ていた。
ちょうど日も暮れ始め、
そこで俺たちは息子と娘たちの手厚い接待を受けた。
座る丸太の用意や火起こし……面倒なことは全部やってくれた。
疲れている俺やカティアたちを思っての行動だろう。
中でも笑ったのはカーティスとグロリアの料理準備中のやりとりだ。
「あれ? ねぇカーティス。このスープ味薄くない?」
「それまだお湯」
「え!?」
みんなが大爆笑した。
周辺にドラゴンが居ないからこそできる大爆笑だった。
その笑いの中、カーティスは黙々と作業を続ける。
クールなところはお母さん譲りか、それとも祖父譲りか。
カーティスは乾燥してガッチガチのパンをナイフでスライスし、お湯に入れてスープにした。
さらに俺たちのために森から採取してきてくれたキノコを切って入れ、パンとキノコのポタージュにした。
素晴らしい手際である。
俺より普通に上手なんだが。
「すみません。こんなものしか作れませんが」
言いながらカーティスは俺たちにポタージュを配ってくれた。
「とんでもない。ありがとうカーティス」
俺は差し出された皿を受け取る。
木製の皿が三枚。
予備に一枚あったおかげで俺たち四人分の皿は足りた。
カーティスたちは後で食べるとのことで、御言葉に甘えて先に頂くことにした。
「……まさかいきなり息子の手料理を頂けるとはな。夢のようだ」
皿を受け取ったカティアが微笑んだ。
言われたカーティスは頬を赤くする。
「ぉ、お口に合うかは分かりませんが……」
「ありがとう」
カティアは本当に嬉しそうにそう言った。
見ている俺まで微笑んでしまう。
それはローエとフランベールも同じようで、二人も笑っている。
「どうぞ。お義母さん」
カーティスは続けてローエに皿を手渡した。
「ありがとうですわ。頂きますわね」
ローエの微笑みに、カーティスは満更でもない笑みを浮かべてフランベールに視線を移した。
「お義母さんもどうぞ」
「ありがとうカーティス。お腹ペコペコだったから本当に嬉しいよ」
「いえ。帰還したらもっと美味しいものをご馳走します」
「ありがとう! 楽しみ!」
もっと美味しいものをご馳走!?
まさか、カーティスって料理できるの!?
嘘だろ!?
俺の息子なのに!?
いや、まぁ……料理できるならできるで、それに越したことはないと思うけど。
あんなに強いのに料理も出来るとか反則じゃないか?
と、そんなことを女々しく思いながら、冷えて渇ききっていた体にスープを注ぎ込んだ。
焚き火で温められたスープは、芯まで届く熱があった。
いろんなものが不足していた身体は、ようやく血が巡り出したように暖かくなり、歓喜して震える。
美味い……
味覚が叫び、泣きそうになるほどそれは美味かった。
ただの水にパンを溶かし、キノコを混ぜて煮ただけなのに。
息子が……カーティスが作ってくれたから、だろうか?
今になって俺は、まだ生きていると実感した。
再確認と言っても良い。
気力も体力もないはずの身体が、熱を沸き起こしてくる。
申し訳ないほど美味いポタージュに、全身の熱が鼻に集まってきて、俺は空を振り仰いだ。
そこには、いつか見た無責任に美しい夜空があった。
その夜空がじわりと滲む。
何故か涙が出てきたのだ。
夜空を見上げて誤魔化しても、カーティスたちはすでに気づいているようで気恥ずかしい。
しかし救いもあった。
俺だけでなくカティア・ローエ・フランベールも、俺と同じく涙を流していた。
彼女たちがどんな気持ちで泣いたのかは分からない。
でも、少なくとも俺と遠い気持ちを抱いたわけではないだろう。
「なんで……泣くの?」
焚き火に薪をくべつつ、グロリアが問う。
俺は空を見上げたまま、素直に答えた。
「死ぬほど美味い……」
「ああ……」
「うん……」
「美味しいですわ……」
妻たちも同意してくれた。
やはり俺と同じ感情を持ったらしい。
熱に浮かされるとは、こういうものなのかもしれない。
端から見れば大袈裟で、涙を流す理由も、実にしょうもない。
息子が作ってくれた一杯のポタージュ。
それは、ほんの少し分けてもらった他者の情愛。
その他者が家族なら、この涙の理由も説明できるような気がした。
「おかわりはまだ有りますから」
カーティスの言葉を合図に、俺はポタージュを身体に掻き込んだ。
もっと食べたいという本能に従って。
カティア・ローエ・フランベールも柄にもなく一気に食べ始めた。
そこに品性はなく、ただひたすらに本能が熱を求める。
「おかわり!」
俺が一番に言い、カティアたちもすぐに「おかわり!」と皿をカーティスに差し出した。
その光景にカーティス・グロリア・レミーベールは笑った。
ぱちぱちと焚き火が爆ぜ、笑い合う一家の影を岩に映し、ゆらゆらと揺らした。