【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
フクロウが鳴き始めた。
夜を照らす焚き火は未だパチパチと弾け続けている。
静まり返った夜の外は、思ったよりも涼しい。
俺は丸太に座り、エールを片手に焚き火に当たって休んでいた。
周囲の見張りはカーティスがやってくれている。
「お母さんたち、すぐに寝ちゃったわ。相当疲れてたみたい」
テントから戻ってきたグロリアが言った。
「まぁ、そうだろうな」っと俺は返す。
ローエ・カティア・フランベールの三人は妊婦だ。
すでにつわりや眠気などの初期症状が出始めている。
すぐに寝たのも疲労と眠気によるものだろう。
氷漬けにされても尚そんな症状が出るということは、お腹の赤ちゃんが無事だという証拠。
本当に良かった。
それにちゃんとした場所で休ませてやれて良かった。
グロリアたちに感謝だ。
彼女たちが居なかったらキャンプはおろか、合流することもできず、誰か死んでたかもしれない。
「お父さんも寝て良いのよ? 見張りはワタシたちがするから」
右隣に座るレミーベールが薪をくべつつ言った。
せっかくのご厚意だったが、俺は妙に目が冴えていた。
ポタージュを食べて身体の調子が戻り、今という現実をぼんやりとじゃなく、ハッキリと感じるようになっていたせいかもしれない。
そしたらなんか息子や娘たちともっと話したくなったのだ。
いまこの瞬間を味わいたいと。
もっと子供たちの事を知りたいと。
「ありがとう。でも……もうちょっとだけ。せっかくだからみんなと話がしたい」
「ん、何が聞きたいの?」
左隣に座ったグロリアが聞いてきた。
左右にグロリアとレミーベール。
可愛い娘の両手に花状態だ。素晴らしい。
「……レミーたちを育ててくれたのは、誰なんだ?」
どうしても聞きたかったことだ。
おそらくグリータたちだと思うのだが。
「リリーおばさんとリーネおばさんね。主に」
答えたのはレミーベールだった。
「主に?」っと俺は首を傾げる。
「うん。グリータおじさんやレィナおばさん。ガイスおじちゃんとかも面倒見てくれたから」
ガイスさんとリリーベールさんまで……
「そうか……帰還したらまず頭を下げに回らないとな」
帰還したら大忙しだな。これは。
「まぁその前に軽くパニックになると思うけどね。国が」
グロリアが笑うと、レミーベールも笑った。
「オバケと勘違いされるんじゃない?」
「ははは、確かにな」
グロリアとレミーベールの言うとおりだろう。
18年も帰還しなかった部隊が帰還するのだ。
騒ぎにはなるだろう。
国王さまも、どんな顔をされるのか。
御元気だといいのだが。
それにしても18年か。長いな。
俺の感覚では、氷漬けにされてから1日くらいしか経ってない。
その1日から数週間前までは、ここにいるグロリアやレミーベールは一歳の赤子だった。
今ではこんなに大きくなって、お母さんたちにも負けないぐらい美人で逞しくなっている。
その過程はいっさい知らない。
側にいてやれなかったから。
「……ほんと、ごめんな。18年も放ったらかしにして」
「もういいよお父さん。生きてたから良かったわよ」
グロリアが言って、レミーベールが続ける。
「うん。それに……騎士の仕事は死と隣り合わせだから。そう考えれば、こうしてまた生きて会えたのは幸運だと思うわ」
前向きに捉えてくれる。
俺やカティアたちを傷つけまいと。
育ちの良さが窺えるな。
グリータたちや、ガイスさんたちに感謝しかない。
こんなに優しい子たちにしてくれて。
「……ありがとな。二人とも」
また感動して泣きそうになるのを我慢しながら俺は言った。
どうにも氷漬けにされてから涙もろくなったな。
そう思い反省しながら、俺はエールを喉に注ぎ込んだ。
このエールも、本当はカーティスの物だった。
あっさり俺にくれたのだ。
子供たちの優しさが、いちいち胸に刺さって泣きそうになる。
「……それにしてもお父さんって、思った以上に細身なのね」
新たな話題を出してきたのはレミーベールで、俺の身体をマジマジと見てきた。
するとグロリアも。
「それ思ってた。もっとゴツいのかと思ってたわ。お父さん本当に強いの?」
「はは、すんごく強いぞ? 自信ある。まだまだ若い者には負けんよ」
「いやお父さんの方が若いけどね」
グロリアに突っ込まれ「そうでした」と返す。
ほんとそうだった。
俺はまだ17歳だった。
グロリアとレミーベールは19歳だ。
子供の方が年上って、なんか凄く違和感しかない。
年上は妻たちだけで十分だってのに。
いやでも、18年過ぎてるなら18年生きてるわけだから、17歳に18年プラスして35歳になる。
俺は35歳だ。
うん……オッサンだな。
グリータが今この歳になるのか。
あいつどんな顔になってんだろ?
……ちょっと会うの怖くなってきたな。
「ねぇお父さん。今度アタシと狩り勝負しましょうよ」
「あ、ワタシもやりたい」
まさか娘二人に勝負を挑まれるとは。
なんだか見覚えのある光景だな。
俺が隊長になったときも、カティアとローエが俺に狩り勝負を挑みに来たっけ。
ほんと……懐かしいな。
「べつにいいけど、俺が勝ったら何してくれるの?」
「そうねぇ……ならデートしてあげようか? アタシとレミーが」
娘二人とデートかぁ。
嬉しいんだけど、娘相手だとあんまりドキドキしないな。
グロリアとレミーベールは美人で胸も大きいのに。
不思議なもんだ。
「悪くないなぁ。てことはデートできるほど【エルガンディ】は復興してるんだ?」
「してるよ」っと頷くグロリア。
「もう【ヨコアナ】生活じゃないわ」っとレミーベール。
「そっか。なら俺が勝ったら【エルガンディ王国】の案内 兼 デートで頼むよ」
「ふふ、娘のデートの誘いに乗るなんて、お父さんホントに女好きなのね。話には聞いてたけどさ」
レミーベールがどこか呆れたように笑う。
当のグロリアはイタズラっぽい笑みを浮かべて俺を見てくる。
「いいの~お父さん? お母さんたちに怒られてもしらないわよ?」
「ははははっ! あいつらはこんなことでイチイチ怒らないよ」
間違いないのだが、グロリアは凄く意外そうに「そうなの?」と言った。
「そうだよ。『お前も好きな奴だな』ってみんな鼻で笑うだけさ」
「ふーん。お母さんたち寛大なんだね」
「さっすがハーレム妻やってるだけあるわ」
グロリアとレミーベールがそれぞれ感心した。
「寛大っていうか、みんな俺のこと信じてくれてるだけだって」
「ふーん……」
「そんなお父さんに憧れてハーレムする人けっこう居たんだけど、そのほとんどのハーレムがみ~んな破局しちゃってんのよねぇ」
グロリアの発言に俺は驚きを隠せなかった。
「え!? マジで!?」
「マジよ。マジマジ。ハーレムで上手くいってる夫婦なんてグリータおじさんのとこしか知らないもん」
「あぁ……レィナちゃんとリーネちゃんか」
あの二人なら上手くいくわな。
「何が違うのかしら? 上手くいってるハーレムと、そうでないハーレムって」
グロリアがレミーベールを見て言って、レミーベールは「さぁ?」と肩を竦める。
前にも言ったんだけどなぁ。
S級騎士の彼らに。
まさかあの人達じゃないよな?
やめとけって言ったのに。
「たぶんその人たちは……男の好みだけでハーレムを形成したんだろうな。ハーレムって端から見れると下品だけど、凄く難しくて……男と女が愛し合うより難しいんだ。なぜかと言うと、女同士の愛も必要になってくるからなんだよ」
「女同士の愛!?」
驚愕するグロリアと、
「……あーでも、なんか分かるかも」
と納得するレミーベール。
俺はそのまま続けた。
「リーネちゃんとレィナちゃんが上手くいってるのは、あの二人がそもそも仲良しだったからだろうな。グリータも運のイイ奴だよ」
「そう言われると確かに……あの二人ほんと仲良いもんね」
「うん。じゃあワタシのお母さんたちもやっぱり仲良いの?」
「ああ、凄く。そういう意味では俺も本当に運のイイ男なんだ。ハーレムってのは【奇跡の産物】なんだよ」
「なんかすっごい説得力」
「だろ?」
感心するレミーベールに胸を張る俺だが、グロリアが気になることを口にしてきた。
「でもお母さんたちは、お父さんの何に惹かれたのかしら?」
「えっ!?」
一瞬の沈黙が起こり、焚き火の爆ぜる音だけが響く。
娘二人の視線が集中し、俺は嫌な汗が出た。
何も思い付かないからだ。
「そ、それは……たぶん……あれだよ」
「あれって?」っとレミーベール。
「つ、強いとこじゃない? 俺の自慢できるところってそれしかないし」
「やっぱ顔じゃないんだ」っとグロリア。
「やっぱって何!?」
「だってお父さんの顔『カッコいい系』じゃないもん。『可愛い系』だもん」
「うん可愛い。凄く可愛い」っとレミーベール。
可愛い言うのやめろ。
こんな隻眼の何が可愛いんだ。
「……ぉ、お前らな。男が女の子に可愛いとか言われてもぜんっぜん嬉しくないからな? ましてや娘に可愛いなんて言われてもな、父としては複雑だよ」
「え、嫌なの?」っとグロリア。
「嫌だよ!」
「褒めてるのに」っとレミー。
「嘘つけ!」