【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第175話【ゼクードと娘二人】

 フクロウが鳴き始めた。

 夜を照らす焚き火は未だパチパチと弾け続けている。

 静まり返った夜の外は、思ったよりも涼しい。

 

 俺は丸太に座り、エールを片手に焚き火に当たって休んでいた。

 周囲の見張りはカーティスがやってくれている。

 

「お母さんたち、すぐに寝ちゃったわ。相当疲れてたみたい」

 

 テントから戻ってきたグロリアが言った。

 

「まぁ、そうだろうな」っと俺は返す。

 

 ローエ・カティア・フランベールの三人は妊婦だ。

 すでにつわりや眠気などの初期症状が出始めている。

 すぐに寝たのも疲労と眠気によるものだろう。

 

 氷漬けにされても尚そんな症状が出るということは、お腹の赤ちゃんが無事だという証拠。

 本当に良かった。

 

 それにちゃんとした場所で休ませてやれて良かった。

 グロリアたちに感謝だ。

 彼女たちが居なかったらキャンプはおろか、合流することもできず、誰か死んでたかもしれない。

 

「お父さんも寝て良いのよ? 見張りはワタシたちがするから」

 

 右隣に座るレミーベールが薪をくべつつ言った。

 せっかくのご厚意だったが、俺は妙に目が冴えていた。

 ポタージュを食べて身体の調子が戻り、今という現実をぼんやりとじゃなく、ハッキリと感じるようになっていたせいかもしれない。

 

 そしたらなんか息子や娘たちともっと話したくなったのだ。

 いまこの瞬間を味わいたいと。

 もっと子供たちの事を知りたいと。

 

「ありがとう。でも……もうちょっとだけ。せっかくだからみんなと話がしたい」

 

「ん、何が聞きたいの?」

 

 左隣に座ったグロリアが聞いてきた。

 左右にグロリアとレミーベール。

 可愛い娘の両手に花状態だ。素晴らしい。

 

「……レミーたちを育ててくれたのは、誰なんだ?」

 

 どうしても聞きたかったことだ。

 おそらくグリータたちだと思うのだが。

 

「リリーおばさんとリーネおばさんね。主に」

 

 答えたのはレミーベールだった。

 

「主に?」っと俺は首を傾げる。

 

「うん。グリータおじさんやレィナおばさん。ガイスおじちゃんとかも面倒見てくれたから」

 

 ガイスさんとリリーベールさんまで……

 

「そうか……帰還したらまず頭を下げに回らないとな」

 

 帰還したら大忙しだな。これは。

 

「まぁその前に軽くパニックになると思うけどね。国が」

 

 グロリアが笑うと、レミーベールも笑った。

 

「オバケと勘違いされるんじゃない?」

 

「ははは、確かにな」

 

 グロリアとレミーベールの言うとおりだろう。

 18年も帰還しなかった部隊が帰還するのだ。

 騒ぎにはなるだろう。

 国王さまも、どんな顔をされるのか。

 御元気だといいのだが。

 

 それにしても18年か。長いな。

 俺の感覚では、氷漬けにされてから1日くらいしか経ってない。

 その1日から数週間前までは、ここにいるグロリアやレミーベールは一歳の赤子だった。

 

 今ではこんなに大きくなって、お母さんたちにも負けないぐらい美人で逞しくなっている。

 

 その過程はいっさい知らない。

 側にいてやれなかったから。

 

「……ほんと、ごめんな。18年も放ったらかしにして」

 

「もういいよお父さん。生きてたから良かったわよ」

 

 グロリアが言って、レミーベールが続ける。

 

「うん。それに……騎士の仕事は死と隣り合わせだから。そう考えれば、こうしてまた生きて会えたのは幸運だと思うわ」

 

 前向きに捉えてくれる。

 俺やカティアたちを傷つけまいと。

 

 育ちの良さが窺えるな。

 グリータたちや、ガイスさんたちに感謝しかない。

 こんなに優しい子たちにしてくれて。

 

「……ありがとな。二人とも」

 

 また感動して泣きそうになるのを我慢しながら俺は言った。

 どうにも氷漬けにされてから涙もろくなったな。

 そう思い反省しながら、俺はエールを喉に注ぎ込んだ。

 

 このエールも、本当はカーティスの物だった。

 あっさり俺にくれたのだ。

 子供たちの優しさが、いちいち胸に刺さって泣きそうになる。

 

「……それにしてもお父さんって、思った以上に細身なのね」

 

 新たな話題を出してきたのはレミーベールで、俺の身体をマジマジと見てきた。

するとグロリアも。

 

「それ思ってた。もっとゴツいのかと思ってたわ。お父さん本当に強いの?」

 

「はは、すんごく強いぞ? 自信ある。まだまだ若い者には負けんよ」

 

「いやお父さんの方が若いけどね」

 

 グロリアに突っ込まれ「そうでした」と返す。

 

 ほんとそうだった。

 俺はまだ17歳だった。

 グロリアとレミーベールは19歳だ。

 

 子供の方が年上って、なんか凄く違和感しかない。

 年上は妻たちだけで十分だってのに。

 

 いやでも、18年過ぎてるなら18年生きてるわけだから、17歳に18年プラスして35歳になる。

 

 俺は35歳だ。

 うん……オッサンだな。

 グリータが今この歳になるのか。

 あいつどんな顔になってんだろ?

 ……ちょっと会うの怖くなってきたな。

 

「ねぇお父さん。今度アタシと狩り勝負しましょうよ」

「あ、ワタシもやりたい」

 

 まさか娘二人に勝負を挑まれるとは。

 なんだか見覚えのある光景だな。

 俺が隊長になったときも、カティアとローエが俺に狩り勝負を挑みに来たっけ。

 

 ほんと……懐かしいな。

 

「べつにいいけど、俺が勝ったら何してくれるの?」

 

「そうねぇ……ならデートしてあげようか? アタシとレミーが」

 

 娘二人とデートかぁ。

 嬉しいんだけど、娘相手だとあんまりドキドキしないな。

 グロリアとレミーベールは美人で胸も大きいのに。

 不思議なもんだ。

 

「悪くないなぁ。てことはデートできるほど【エルガンディ】は復興してるんだ?」

 

「してるよ」っと頷くグロリア。

「もう【ヨコアナ】生活じゃないわ」っとレミーベール。

 

「そっか。なら俺が勝ったら【エルガンディ王国】の案内 兼 デートで頼むよ」

 

「ふふ、娘のデートの誘いに乗るなんて、お父さんホントに女好きなのね。話には聞いてたけどさ」

 

 レミーベールがどこか呆れたように笑う。

 当のグロリアはイタズラっぽい笑みを浮かべて俺を見てくる。

 

「いいの~お父さん? お母さんたちに怒られてもしらないわよ?」

 

「ははははっ! あいつらはこんなことでイチイチ怒らないよ」

 

 間違いないのだが、グロリアは凄く意外そうに「そうなの?」と言った。

 

「そうだよ。『お前も好きな奴だな』ってみんな鼻で笑うだけさ」

 

「ふーん。お母さんたち寛大なんだね」

「さっすがハーレム妻やってるだけあるわ」

 

 グロリアとレミーベールがそれぞれ感心した。

 

「寛大っていうか、みんな俺のこと信じてくれてるだけだって」

 

「ふーん……」

 

「そんなお父さんに憧れてハーレムする人けっこう居たんだけど、そのほとんどのハーレムがみ~んな破局しちゃってんのよねぇ」

 

 グロリアの発言に俺は驚きを隠せなかった。

 

「え!? マジで!?」

 

「マジよ。マジマジ。ハーレムで上手くいってる夫婦なんてグリータおじさんのとこしか知らないもん」

 

「あぁ……レィナちゃんとリーネちゃんか」

 

 あの二人なら上手くいくわな。

 

「何が違うのかしら? 上手くいってるハーレムと、そうでないハーレムって」

 

 グロリアがレミーベールを見て言って、レミーベールは「さぁ?」と肩を竦める。

 

 前にも言ったんだけどなぁ。

 S級騎士の彼らに。

 まさかあの人達じゃないよな?

 やめとけって言ったのに。

 

「たぶんその人たちは……男の好みだけでハーレムを形成したんだろうな。ハーレムって端から見れると下品だけど、凄く難しくて……男と女が愛し合うより難しいんだ。なぜかと言うと、女同士の愛も必要になってくるからなんだよ」

 

「女同士の愛!?」

 

 驚愕するグロリアと、

 

「……あーでも、なんか分かるかも」

 

 と納得するレミーベール。

 

 俺はそのまま続けた。

 

「リーネちゃんとレィナちゃんが上手くいってるのは、あの二人がそもそも仲良しだったからだろうな。グリータも運のイイ奴だよ」

 

「そう言われると確かに……あの二人ほんと仲良いもんね」

 

「うん。じゃあワタシのお母さんたちもやっぱり仲良いの?」

 

「ああ、凄く。そういう意味では俺も本当に運のイイ男なんだ。ハーレムってのは【奇跡の産物】なんだよ」

 

「なんかすっごい説得力」

 

「だろ?」

 

 感心するレミーベールに胸を張る俺だが、グロリアが気になることを口にしてきた。

 

「でもお母さんたちは、お父さんの何に惹かれたのかしら?」

 

「えっ!?」

 

 一瞬の沈黙が起こり、焚き火の爆ぜる音だけが響く。

 娘二人の視線が集中し、俺は嫌な汗が出た。

 何も思い付かないからだ。

 

「そ、それは……たぶん……あれだよ」

 

「あれって?」っとレミーベール。

 

「つ、強いとこじゃない? 俺の自慢できるところってそれしかないし」

 

「やっぱ顔じゃないんだ」っとグロリア。

 

「やっぱって何!?」

 

「だってお父さんの顔『カッコいい系』じゃないもん。『可愛い系』だもん」

 

「うん可愛い。凄く可愛い」っとレミーベール。

 可愛い言うのやめろ。

 こんな隻眼の何が可愛いんだ。

 

「……ぉ、お前らな。男が女の子に可愛いとか言われてもぜんっぜん嬉しくないからな? ましてや娘に可愛いなんて言われてもな、父としては複雑だよ」

 

「え、嫌なの?」っとグロリア。

 

「嫌だよ!」

 

「褒めてるのに」っとレミー。

 

「嘘つけ!」

 

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