【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第178話【騎士になった理由】

 グロリアとレミーベールを左右に、俺は草原を走り抜けた。

 娘の二人はどちらもなかなかの脚力で速い。

 俺のロングブレードより大きな武器を装備しているのに大したものだ。

 

 グロリアはポールとグリップの長い戦斧……バトルアックス。

 その長さはパッと見ても二メートルはある。斧刃も巨大だ。

 しかも右手で片手持ち。

 左手には防御用なのかバックラーが装備されている。

 

 レミーベールは刀身が背丈以上もある大剣で、使用者より大きいグレートソードだ。

 こちらも右の片手で持っているが、振るうときは両手持ちになりそうだ。

 グロリアと違って盾を装備していないから。

 

 代わりに鎧の密度が重厚だ。

 並大抵の攻撃では怯みもしなさそうである。

 あれほどの武器と鎧だと重量も相当なはずだろうが、レミーベールは平然と走っている。

 

 二人の共通点はパワータイプの武器を装備していること。

 しかし戦い方は違いそうだ。

 ちょっと見てみたいな。

 

「お父さん! やるのはドラゴンゾンビ優先よ! A級ドラゴンは襲ってきたらやればいいから!」

 

「わかった!」

 

 レミーベールの忠告に俺は頷いた。

 だが次の瞬間。

 唐突にグロリアとレミーベールの姿がブレた。

 

「お?」

 

 それは霞(かす)んだと表した方がいい。

 気がつけば二人は恐るべき速さでドラゴンの群れの中へと飛び込んでいた。

 俺は置いてけぼりである。

 

 グロリアが草原を蹴って跳び、凄まじい跳躍力でドラゴンどもの頭上を取った。

 

「【竜《ドラゴン》斬り・轟《ごう》】!」

 

 知らない技名を叫んだグロリアが、落下の勢いを乗せてバトルアックスを振り下ろす。

 一匹のドラゴンゾンビに命中した斧刃《ふじん》は、バッサリそいつを両断して間もなく地面に激突。

 亀裂が走り、瞬時に爆砕。

 

 周囲にいたドラゴンゾンビもまとめて吹き飛ばした。

 まるで群れの中に大砲を撃ち込んだかのような破壊力だった。

 あの細腕のどこにこんなパワーが隠れているのか……

 ローエ共々不思議である。 

 

「はぁあああああ!」

 

 勇ましい声を上げながら走るレミーベールはグレートソードを両手持ちにした。パワーで言えば彼女も負けていない。

 ドラゴンの群れに突撃し、その長大な刃を薙ぎ払う。

 1匹・2匹・3匹~4、5、6匹と巻き込んで力任せに一刀両断!

 

 豪快な攻撃によって何匹かのドラゴンゾンビがレミーベールに気づき襲い掛かる。

 レミーベールはそのドラゴンどもを見据え、姿勢を低くして溜めの姿勢で大剣を構える。

 それは何かを撃ち放つような構え。

 

「【竜《ドラゴン》斬り・銀雷《ぎんらい》】!」

 

 薙ぎ払い、そして撃ち放ったのは銀色の斬撃!

 

 それは確かにジグザグの軌道を描いた銀の雷。

 射線上のドラゴンゾンビを切り刻んでいった。

 

 あっという間に10匹以上ドラゴンを倒していく二人に、俺は感動せずにはいられなかった。

 一歳の時のグロリアとレミーベールは、今でもハッキリ覚えている。記憶に新しい。

 

 あんなに小さかった赤子の女の子が、いまこんなにも強く、逞しくなっている。

 ますます自分の手で育ててやりたかった後悔も出てくるが、それ以上に今こうして一緒に肩を並べて戦えている、この現実こそ尊い。

 

 横槍を刺されたドラゴンゾンビたちはグロリアとレミーベールに狙いを変えて向かってきた。

 劣勢だったA級ドラゴンはこの隙に! と言わんばかりに撤退を始める。

 

 ドラゴンゾンビはまだ20匹ほど残っている。

 娘たちの撃破数は12~13匹くらいか?

 残りは俺が倒さないと負けてしまうな。

 

 よーし!

 

 俺は全身に力を込めた。

 姉レイゼの時はカッコつけるのに失敗したが、

 今回はさすがに娘二人の前だ。

 意地でもカッコつけたい!

 

 

 何かが風となってグロリアの横を通り過ぎた。

 そよ風が突風に代わり、ツインテールを靡かせる。

 

 なに……今の?

 

 グロリアは倒したドラゴンゾンビからバトルアックスを引き抜いて、風の通った先を見た。

 残りのドラゴンゾンビどもが、瞬く間に血の雨を降らせている。

 

 何かに襲われている。

 とてつもない速さの相手に。

 新手の敵? 味方? 何に襲われてるのアイツら?

 

「レミー! ドラゴンゾンビが何かに襲われてるわ!」

 

「あれお父さんよ!」

 

「はっ?」

 

 レミーベールの言葉にグロリアは理解が追い付かなかった。

 

 お父さん?

 だってお父さんならスタートダッシュをミスって遅れていたはず。

 かなり突き放してやったから、こんなすぐ追い付くはずは……

 

 グロリアは後ろを振り向くと、そこに父ゼクードの姿はなかった。

 

「──……嘘」

 

 じゃあさっきの風って!

 

 思い至って、グロリアはドラゴンゾンビたちのいる方へ向き直った。

 そこには全滅したドラゴンゾンビどもが……

 

「えっ!?」

 

 振り向いてから数秒しか経ってないのに、もう全滅してる!

 

 ドラゴンゾンビの亡骸が草原に散らばる。

 その中央にはロングブレードをカチンと納刀するゼクードの姿があった。

 

 本当に一瞬。

 見る間もなかった。

 何をしたのかも見えなかった。

 振り向いている間に全てが終わっていた。

 

 速い……カーティスと同等か、それ以上かも。

 

 何も見ていなかったから、何と言えばいいのか分からなかった。

 グロリアはただ唖然とする。

 

「聞いたことあるわ」

 

 突如レミーベールが言い出し、グロリアは「え?」と姉を見た。

 

「お母さんたちが5匹のドラゴンを倒してる間に、お父さんは20匹倒してたって伝説」

 

「……っ!」

 

 グロリアにもその伝説は聞き覚えがあった。

 お父さんの戦いを生で見た騎士たちの語りで、それは今でも黒騎士伝説の武勇伝になっている。

 

 大袈裟な伝説だと思ってたのに。

 お父さんは本当に強かった。

 完全に実力で負けてるのに、妙に嬉しい自分がいた。

 

「グロリア。レミー。ケガはないか?」

 

 ゼクードが戻ってきて言った。

 

「大丈夫よ」とレミーベールは大剣を肩に乗せる。

「平気」とグロリアもバトルアックスの石突を地面に付けた。

 

「なら良かった。でも正直焦ったよ。二人とも思った以上に強かったから」

 

「それこっちのセリフ」っとグロリアは口を尖らせた。

 

「ね」とレミーベールが同意し続ける。

 

「お父さん速すぎよ。カーティスと同じくらいじゃない?」

 

「やっぱカーティスもあれくらい動けるのか?」

 

「うん。カーティスも本当に強いんだから」

 

 負けたのに嬉しそうに語るレミーベール。

 しかしそんな姉の気持ちはグロリアにも理解できた。

 同じ気持ちを持っていたから。

 

 自分とレミーベールが騎士になったのは、他でもないカーティスを思っての事だった。

 みんな何か強いドラゴンが現れればカーティスカーティスと、弟を頼る。

 

 それは最強の騎士なら仕方のないことだったが、それでも大切な弟であり、肉親である。

 彼の負担を少しでも減らしてやりたいと、レミーベールと共に騎士になったのだが……カーティスと肩を並べるのがそもそも無理だった。

 

 どれだけ頑張っても弟に追い付けないでいた。

 今でも、まったく歯が立たないし、心配ばっかり掛けてしまっている。

 

 心配を掛けてしまうくらいなら、いっそ本当に騎士なんて辞めた方が良いのかもと悩んでいたほどだ。

 

 でも、ついにカーティスと肩を並べて戦える人が現れた。

 それがまさか伝説の……自分の父親だなんて。

 

 ロマンチック過ぎて、逆に笑っちゃう。

 

 でも嬉しい。

 お父さんの伝説が大袈裟なものではなく、本物の伝説だったことが。

 

 これで弟カーティスの負担が減る。

 お父さんも居てくれれば、カーティスにも余裕が出てくるはず。

 

 お父さんが来てくれて……本当に良かった。

 

「お父さん。今回はどう見てもお父さんの勝ちだから、約束どおりアタシとレミーがデートしてあげる」

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