【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
日が落ちてきた夕方。
グリータの豪邸にある台所では、料理人たちが懸命に働いていた。
レィナが大鍋でスープを煮て、リーネは焼き串をそろえ、リリーベールは野菜を洗って切り、カーティスはA級ドラゴンの肉をスライスしていく。
俺も手伝おうとしたが何故か妻たちに「邪魔しなくていいから」と全力で止められた。
「ならアタシが」とグロリアが出たが「あ、いいから」とリーネに突き返された。
「ならワタシが」とレミーベールが出たが「あっち行きなさい」とリリーベールに突き返された。
俺とグロリアとレミーベールは三人揃ってショボンとした。
※
ホールの中央に置かれたメインテーブルは長方形だ。
白いリネンのテーブルクロスを敷かれ、その上に次々と完成した料理が並べられていく。
ドラゴンの串焼きロースト。
野菜たっぷりのドラゴンシチュー。
薄切りドラゴンロースの卵焼き。
各種パン。
蜂蜜入りブドウ酒。
妊婦のローエ達用の絞りたてオレンジジュース。
野菜あり肉あり酒ありと豪華な食事をみんなで楽しんだ。
ローエとリリーベールが座って食事をしながら談笑しているという、凄い光景も見た。
「グロリアは一番オネショが多い子だったわ」
「あら、そうなんですの」
なるほど。グロリアはそうだったのか。
カーティスは泣き虫だったらしいな。
レミーベールはなんだろ?
「ねぇねぇお母さん!」
片手に串焼きを持ちながらグロリアが呼んだ。
おそらくグロリアはローエを呼んだのだろうが振り向いたのは!
「なんだ?」
「なぁに?」
「なんですの?」
カティア・フランベール・ローエ全員だった。
聞いていたグリータやガイスたちが笑う。
まぁ、確かにみんなお母さんだけどこれは厄介だな。
「うわ……こういう時メンドくさっ」
俺もそう思うよグロリア。
だが良い案は浮かんだ。呼び方を変えればいいん──
「それぞれ呼び方を変えればいいのよ」
レミーベールに先に言われた。
「例えば?」っとグロリア。
「【お母さん】って呼び方にもいろんな呼び方をあるでしょ? 【ママ】とか【お母様】とか【母上】とか」
「なるほど」
「ならば、私は普通に【お母さん】で頼む」
カティアが言うとローエが続いた。
「わたくしの事は【お母様】とお呼び!」
「ババァじゃダメ?」っと真顔のグロリア。
「殴りますわよ!」
「わたし【ママ】って呼ばれてみたかったから【ママ】で」
ママ……だと。
フラン……それだとカーティスが呼びづらいんじゃ。
「了解よママ! はいカーティス分かった? アンタもちゃんとママの事はママって呼びなさいよ~?」
嫌味ったらしく言うグロリアだが、カーティスは顔色一つ変えなかった。
「……お前のことはゴリラと呼んでいいか?」
「なんでよ!? レミーにしなさいよ!」
「なんでよ!? こっちに振らないでよバカ!」
そんな三人のやりとりにまた俺たちは笑った。
※
夜のドンチャン騒ぎが終わり、みんなホールの至るところで寝てしまった。
俺はみんなに毛布を掛けてから、1人でバルコニーに出た。
青白い夜空の下で、エールを片手に欄干に腕を乗せる。
久しぶりにあんなに馬鹿笑いして楽しんだ気がする。
というか、久しぶりに人間らしいことしてる気がした。
俺はエールを一口飲み、ほぉ、と息を吐く。
やや冷たい夜風は火照った身体を冷ますにはちょうど良かった。
気持ちいい。
欄干の前方に広がる夜景を見れば、真っ暗になった【エルガンディ】が広がる。
光一つなく、見ていて面白みもない光景だった。
聞こえるのは虫の鳴き声のみ。
だが、まぁ……これもこれで悪くない。
「よう」
背後から声を掛けられ俺は振り向いた。
そこには寝てしまったはずのグリータが、エール片手に立っていた。
「おう」っと俺が答えると、グリータは隣までやって来た。
何を言うでもなく、グリータはただ隣に来て欄干に腕を乗せた。
俺とグリータは前屈みになり、欄干に体重を乗せながらエールを飲む。
ふぅ、と一息し、しばらく共に真っ暗な夜景を見つめていた。
青白い月明かりが俺とグリータを照らす。
そして俺は思い出しを口にした。
「そーいやお前だろグリータ。俺の事をカーティスにいろいろ吹き込みまくったのは」
「おう。べつにウソを言ったつもりはねぇぞ?」
「そうだろうけどすんごい俺のこと崇拝(すうはい)してるんだよ。あんな眼差しで見つめられたら失敗したり出来ないじゃねーか。ガチガチだよ俺……」
「憧れの父ちゃんなんだから、それくらい気張ってやれよ。あいつの強さの根源なんだぜ? お前は」
「簡単に言いやがって……」
俺はエールを一口飲む。
グリータも飲んで、また続けた。
「カーティスはお前が居ない穴をずっと埋めてくれてたんだ。それに報いる気持ちで頑張ってくれよ」
「いやお前も頑張れよ……」
「うるせぇ。オレら凡人を天才さまと一緒にすんな。誰にでも出来ることと出来ないことがある」
「……カーティスは、やっぱり剣の才能があるのか?」
「ああ、あるね。才能は間違いない。お前への憧れで開化したって感じだな。……今の【エルガンディ】は強い。優秀な若い騎士が揃ってるからな。グロリアやレミーベールもそうだし、うちのレグナやリイドだって良い腕してる。ガイスさんとこのアルベールもだ」
「アルベール?」
「ガイスさんとリリーベールさんの息子だよ」
「あぁ」
「いま言った奴らはみんなSS級騎士だ。レィナとか他にもまだまだ居るが、みんな若くて腕の良い連中だよ。ま、カーティスはその中でも頭一つ抜けてるけどな。昔のお前みたいに」
「ふーん」っと俺はまたもエールを飲んだ。
そして思う。
やっぱりカーティスは別格だったのか。
あの時見た戦闘力は本物だったわけだ、
さすが俺の息子だ。なんか鼻が高いな。
思わずニヤニヤしてしまいそうになるが、なんとか抑えて俺はSS級騎士の話題に触る。
「……それにしてもすげぇな。俺の時は
「そうだったなぁ……。実はあの後すぐオレとレィナもSS級騎士になったんだけど大変だったぜあの頃は……」
「何かあったのか?」
「シエルグリスの連中と揉めたのさ」
「揉めた!? なんで?」
「お前らが居りゃ穏便に済んだんだろうけどな。あの時お前らは帰ってこなかった。オレたちはお前らがシエルグリスに捕まったんだと思っちまったんだ。どう口論になったか……だいたい想像つくだろ?」
シエルグリスに向かったまま帰還しなくなった【フォルス隊】。
疑われるのはもちろんシエルグリスの女王レイゼ。
当然の流れか……俺たちが居れば穏便に済んだというグリータの言葉も分かる。
「ああ……でも、その後どうなったんだ?」
「レイゼって女王がオレたちに頭下げたよ。お前らが帰ってこないのはオレたちのせいだ! ってな」
「!」
「だからどうか捜索を手伝ってほしいって」
姉さん……
「一国の女王が頭下げるとんでもねぇ事態だったよ。けど、だからこそうちの陛下はその女王を信じたんだ。何よりそのレイゼって女王はお前の姉だって話しじゃないか」
なんだ。
その話はもう出回ってるのか。
「ああ。腹違いだけどな」
「それが決定打になった。もちろんシエルグリスの場所も聞いて、街中の捜索もさせてもらった。お前らが捕まってる可能性がないか、オレたちには確かめる必要があったからな」
本当にいろいろあったんだな。
グリータたちだけじゃなく、姉さんたちにも迷惑を掛けてしまったな。
今度謝りに行かないとな。
また殴られそうだけど。
「……今では【シエルグリス】と【エルガンディ】の関係はどうなってるんだ?」
「まぁ友好さ。非常時には協力する体制になっている」
「なら良かった……」っと安堵してエールを口にしようとするが。
「良くねぇよ。お前らが居てくれりゃ話はすぐに済んだのに。こちとらレィナとリーネが妊娠してて大変だったんだぜ? 側に居てやりたいのにシエルグリスの問題で駆り出されるし」
レィナちゃんとリーネちゃんが妊娠?
うわ、そんな最悪なタイミングだったのか……ホントに悪いことしたな。
「いやそれは……すまん……」
エールを飲まずに謝った。
しかしグリータは小さく笑う。
「いいよ。ちょっと愚痴を聞いてほしかっただけだ。お前らだって大変だったわけだしな」
「グリータ……」
「まぁ過ぎたことさ。それより正直、オレはお前が戻ってきてくれたことが本当に嬉しいぜ」
言いながらエールを飲んだグリータは、果たして夜空を見上げた。
「やべぇドラゴンが現れたら、結局いつもカーティスに頼ってたからな」
「そこは昔と変わらないな」っと皮肉を言いながら俺もエールを口にする。
「ああ。でもこの立場になってやっと分かったよ。下手に未熟な騎士に任せたら、それこそ死にに行かせるようなものだ。オレは……死亡通知を書きたくないんだ。遺族の涙を見るのは辛いし、慣れない。だからカーティスばっかり頼っちまう。あいつは絶対に負けないからな」
グリータの言葉を聞いて、胸の奥で共感する熱を感じた。
「……わかるぜグリータ。俺も【ヨコアナ時代】はそうだった。誰か死なないかヒヤヒヤしてた。嫁を貰って子供を儲けて幸せな時間が増えたけど、同じくらい嫌な事も増えてた。でも責任ある立場に立たないとフランたちを養っていけなかったし、仕方ないって、割り切ってた」
俺も誰かに任せて死なせるくらいなら自分が出るようにしてた。
一番頼りにしてたのはガイスさんだったが。
「そっか……お前はもうその時からそんな苦労してたんだな。まぁ騎士団を丸ごと任されてたもんな。お前」
「そうそう。でも俺は賢いから上手いことグリータを使って仕事をやり過ごしてたよ」
報告を任せたりして上手くサボってた。
結果カティアに怒られたのは記憶に新しい。
「次はオレがお前を上手く使ってやるから覚悟しておけよ?」
「息子の負担が減るならいくらでもやってやるよ」
「へへ、お前ならそう言ってくれる信じてたぜ」
言ってグリータはエールの入ったカップを突き出して来た。
「また、よろしく頼むぜ」
「任せろ」
俺はエールを、グリータのエールとぶつけて乾杯した。