【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第194話【母として、騎士として】

『それではルールを説明致します! 決闘の勝敗は大怪我防止のため【鎧の肩当てを先に吹き飛ばした方の勝ち】となります! 肩当ての無い方は借りられるのでご安心を!』 

 

 なるほど。

 肩当てを吹き飛せば勝ちなら簡単だな。

 アスレイ王子をケガさせないでくれって頼まれてるから速攻で終わらせよう。

 

『魔法の使用は禁止! 場外も敗北扱いです。また肩当てではなく、致命傷を負ってしまった場合はそこで試合を中断させます。もちろん致命傷を負った者が敗北扱いとなりますのでご注意ください』

 

 ヤバい傷を負っても敗北か。

 まぁ重傷のまま戦いを続けたら助かる命も助からなくなるからな。

 ドラゴンと戦って死ぬならともかく、味方と戦って死ぬのはさすがによろしくない。

 このルールは当然だろうな。

 

『さぁそれではトーナメント第1回戦を始めたいと思います! 両者! 構え!』

 

 審判騎士の合図に俺はカチンとロングブレードを抜刀し、霞の構えをとった。

 アスレイ王子もロングブレードを脇に構えた。

 

 審判騎士が片手を上げると、場が静まり返った。

 俺とアスレイ王子が睨み合い、それを見守る見物客たちが緊張の糸を張り詰めさせる。

 

 合図が来たら速攻で終わらせる。

 一秒だ。

 アスレイ王子のマントに覆われた肩当てに狙いを研ぎ澄ませる。

 

 一歩目の踏み込みを意識する。

 

 さぁ来い!

 アスレイ王子にも、周りの若い騎士や子供たちにも見せてやる。

 

『始め!』

 

 審判騎士が片手を下ろして叫んだ!

 

 刹那に一歩目の踏み込みを開始する。

 タイミングは最高だった。合図と共に踏み込めた。

 踏み込んだ足が地面に着くと、そこから風が吹き荒れる。

 

 次の瞬間に前進!

 アスレイ王子をすれ違い様に斬った!

 マントが裂け、肩当てが吹き飛ぶ。 

 

「お父様! レミーベールさんを私にください!」

 

 まだ斬られた事に気づいてないアスレイ王子が長剣を構えたまま叫んだ。

 

「え? なんて?」

 

 斬ってる最中に言われたので上手く聞き取れなかった。

 アスレイ王子は今なんて言った?

 レミーがどうとか聞こえた気が……

 

 ガチャン! っと宙を舞っていた肩当てが地面に落ちた。

 その音でようやく気づいたらしいアスレイ王子は。

 

「あれ? ──は!?」

 

 彼は目前に居なくなった俺に気づき、ようやく声のした背後に振り向いて来た。

 俺とバッチリ目が合う。

 そして彼の目は点になった。

 

 しかし俺は問う。

 

「今なにか言いました?」

 

「え? いや、え!?」

 

 何が起きたか分かってない様子だった。

 彼だけじゃない。

 周りの見物客たちも唖然とし、みんな揃いも揃って目を点にさせていた。

 

『そ、そこまで! 勝者ゼクード!』

 

 なんとか声を絞り出した審判騎士が手を上げた。

 そこでようやく理解が追い付いたらしいアスレイ王子と見物客たちが同時に「ええええええええええええええええええええええええ!?」と絶叫する。

 

『こ、これはとんでもないルーキーが現れました! 今後の活躍に期待です!』

 

 やや興奮気味に審判騎士がそう言うと、観客席の方から声が聞こえてきた。

 

「す……すっげぇ……」

「なんて速さだ……まるで見えなかったぞ」

「あれ本当にC級か!?」

「いやC級の動きじゃなかった!」

「見えない動きって……まるでカーティスじゃねーか!」

 

 例の若い騎士たちだ。

 そしてやはりベテラン騎士たちも驚愕している。

 

「おい……あの動きやっぱり!」

「本物のゼクードさんじゃねーのか!?」

「いや、でも……」

「若すぎるよな……」

「どうなってんだいったい……」

 

 やっぱり戸惑っている。

 このトーナメントが終わったらキッチリ説明しよう。

 実力を見せた後ならば話も進めやすいし、信じてもらえるだろう。

 

 俺はカチンとロングブレードを納刀し、未だに呆然とするアスレイ王子を置いて舞台から下りた。

 

 アスレイ王子が何を言っていたのか気になるが、後で聞けばいいか。

 

 

「……見えた?」

 

 グロリアが聞いた。

 

「ぜんぜん見えなかった……」

 

 レミーベールが首を振る。

 

 そうだろうな、とカティアは思った。

 自分も見えなかった。悔しいが、やはりゼクードは格が違う。

 追い付こうとしても追い付けなかった男だ。

 

 そんな男を夫に持てることを誇らしく思う女の気持ちが半分。

 どうしてもあの領域へ辿り着けない悔しい騎士の気持ちが半分。

 

 かなり強くなったつもりでいたが、やはりまだ『つもり』の領域を出ない。

 

「相変わらず凄まじいな」

「あの子あんなに強かったのね……」

 

 ガイスが感心し、リリーベールが驚いていた。

 近くのローエも頷く。

 

「さすが……ゼクードですわ」

 

 そう言うローエの顔は笑っていなかった。

 フランベールもだ。

 自分と同じ事を感じているのだろう。

 

 ゼクードには追い付けないと、割り切っていたはずなのに……騎士としての心がまだ悔しいと叫んでいる。

 大人になったつもりでいたが、これもまだ『つもり』だったらしい。

 

 いつになったら本当の意味でゼクードの隣に立てるのだろうか……

 

「肩当てが吹き飛んだね。斬ったのかな?」

 

 フランベールは見えなかったことを自分から晒すように言った。

 なぜ肩当てが吹き飛んだのかは自分も見えなかった。

 速すぎて。

 

 唯一見えていそうなのは──

 

「ええ、すれ違い様に斬っていました」

 

 当然のようにカーティスが言った。

 みんなの驚愕する視線が彼に集まる。

 

「お前……見えたのか!?」

 

 思わず聞いたのはカティア自身だった。

 なぜか無性に嬉しい。息子だからだろうか?

 自分が見えたわけではないのに。

 

「見えました。……ですがギリギリ。やっぱり父さんは凄いです!」

 

「あれが見えるなんて……」

 

 凄すぎてついていけないリーネが息を吐く。

 

「やっぱりあなたもバケモノね」

 

 レィナは感心したように言った。

 するとグロリアが思い出しを口にする。

 

「っていうかアスレイ王子……最初なんか叫んでなかった? レミーの名前を呼んでたような」

 

「え、なんでワタシ?」

 

「いやそれは知らないけど」

 

 確かにゼクードが消えた瞬間に何かを口走ってた気がするが、ゼクードに気を取られてたから何も聞いてなかった。

 お父様とか、レミーベールとかなら聞こえたが、詳細はわからない。

 

「ワタシお父さん見てたから何も聴こえなかったわ。カーティスは何か聴こえた?」

 

「え!? いや……それは」

 

 レミーベールに聞かれて露骨に困り出すカーティス。

 それを見て察した。カーティスはちゃんと聞き取ったみたいだ。

 でも伝えにくい内容なのだろうか?

 そんな困るほどに。

 

「カーティスさん! 次出番ですよ! 控え室へ急いでください!」

 

「! 了解。すぐ行く」

 

 係員の者に呼ばれ、カーティスは席から立ち上がった。

 連動するようにカティアも立ち上がる。

 

「油断するなよ。カーティス」

 

「はい!」

 

 するとオフィーリアも立った。

 

「カーティスさん! 頑張ってくださいね!」

 

「ああ」

 

 母と彼女に笑って見せ、カーティスは観客席を後にした。

 そんな彼を見送りながら、カティアは気づく。

 息子の背中は逞しく、父にも祖父にも似ていた。

 

 祖父が喉から手が出るほど欲しがっていた男の子だ。

 それを自分が産み、今やゼクードの次を担うほどの最強の騎士になっている。

 

 天から見守っているであろう祖父は、きっと喜んでくれているはずだ。母や妹たちも。

 

 だが……最強の夫と最強の息子に挟まれながら、自分はその間にも入れない中途半端な実力だ。

 女としてなら最強の夫と息子を持っているだけで名誉なことだが、騎士としての自分は満足しちゃいない。

 いつか追い付きたい。

 

 二人目の出産が無事に終わったら、また上を目指そう。

 我ながら相変わらず面倒くさく贅沢な性格だと思いつつ、カティアは静かに決意するのだった。

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