【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
それからトーナメントは進み、ゼクードとカーティスはその全ての決闘を一瞬で終わらせ、危なげなく決勝まで勝ち残った。
トーナメントの進みは早く、時間はまだ昼を少し過ぎたくらいだった。まだまだ明るく、決闘には十分な天候だ。
観客たちも次の決勝を今か今かと待ち焦がれている。
元から優勝候補だったカーティスより、いきなり現れたゼクードの方が注目を浴び、観客たちの話題を潤した。
それは騎士たちの間でも同じで。
「あいつ何者だよ!? ぜんぶ一瞬で勝ってるぞ!」
「ぜったいC級じゃないって!」
「なんで今まであいつの存在に気づかなかったんだ?」
「おお、次はいよいよカーティスとだぜあいつ!」
若い騎士たちが口々にざわめく。
そして18年前のゼクードを知るベテラン騎士たちも同じだった。
「あの強さ……やっぱりゼクードさん本人なんじゃ……」
「だったらなんで息子さんと同じ若さなんだよ。有り得ないだろ?」
「その事は後で聞きゃいい」
「だな。次はいよいよあのカーティスとだ。スゲェ戦いが見られるぞきっと」
みなが決勝戦に期待を膨らませる中、ゼクードとカーティスはついにトーナメントの最終舞台に上がった。
夫と息子が練兵場にて対面する。
それを見ていたカティアは、昔を思い出した。
あの時も練兵場でゼクードと手合わせをした。
だが手加減され、それでもゼクードに手も足も出なかった。
一秒も張り合えなかったのだ。
ゼクードと向き合えば、今でも一瞬でやられるだろう。
自分の弱さと向き合ってきた今でも、ゼクードの本気を受けきれる自信はない。
だが息子のカーティスならば、ゼクードの本気を受けとめ、もしかしたら勝てる可能性さえある。
自分では辿り着けていない境地に息子が立っている。
それだけでも誇らしいが、自分がそこに立ちたかった気持ちもある。
さらにゼクードだが……彼が負ける姿を想像できない。
いや、したくないのだろう。
息子カーティスには勝ってほしいが、夫ゼクードにも負けてほしくない。
とんでもないワガママで矛盾した気持ちが、カティアの胸の奥で交差し続けた。
※
俺の前にカーティスが立った。
目の前に息子が立っている。
その感動から、耳が拾う周囲の歓声は小さな波音になった。
人間相手では初と断言できる強者だ。
向けられる闘気の桁(ケタ)がローエ・カティア・フランベールを足しても足りないレベルにある。
俺の全身がそのカーティスの闘気で戦慄した。
これも人間相手では初めてのことだ。
全てが期待となるカーティスを相手に、俺の心臓は高鳴りっぱなしだった。
本気でやらねば勝てないだろうと……そう感じさせてくれることそのものが嬉しい。
息子が最強の壁となって立ち塞がるなんて、夢のようだ。
感極まる中、俺はカチンとロングブレードを抜刀した。
「本気でいくからな。カーティス」
「はい! オレも……全力でやらせてもらいます!」
お互いの武器を展開し、挨拶を済ませる。
ゴクリと生唾を飲んだ審判騎士が、ゆっくりと片手を上げた。
『両者……構え!』
するとさっきまで盛り上がっていた観客席が一斉に静まり返る。
国王やアスレイ王子。
大勢の観客たち。
グリータやガイスたち。
そしてフォルス家の妻たちと娘たちが、みながその決戦の合図を、息を殺して待った。
『──始め!』
刹那に振り下ろされた審判騎士の片手!
同時に父と息子は地を蹴った!
それは今までの踏み込みが遊びだったと証明した。
二人の蹴った地面が亀裂を生じて瞬時に弾け跳んだのだ。
今までの決闘にそんな現象は発生していない。
瞬きよりも早く加速して、極限まで洗練された剣技をぶつけた。
俺の迷いなき全力の一撃だ。
一切の手加減はないこの一撃を、カーティスは受け止めてみせた!
果たして、ぶつかった俺とカーティスの周囲に衝撃波が生じ、近くにいた審判騎士が吹っ飛ばされ、観客席にも波動が届いた。
「うわああああああ!?」
「きゃああああああ!!」
「なんだこれ!? 突風!?」
観客たちが悲鳴を上げる中、俺はカーティスと鍔迫り合いになっていた。
俺の本気の一撃にカーティスは膝を付かない。
それどころか押し返してくる。
すげぇ……
心の底から本気で相手を賞賛をしたのは、これで二度目だ。
しかも相手は同じカーティスだ。
俺の本気の一撃を難なく耐えてみせた。
普通の騎士ならば、ここで終わっている。
今までがそうだったから。
いつかカティアとやり合った時も、本気を出したらすぐに終わった。
だが今は違う。
本気を出しても倒れない男が、目の前にいる。
それがまさか俺とカティアの息子だなんて。
こんなに嬉しいことがあるだろうか?
カティア……見ているか?
※
銀の斬撃が二つ。
凄まじい膂力(りょりょく)で10合、20合、30合、40合、50合、60合、70合、80合、90合、100合と無限に斬り結ぶ。
それだけやっておきながら、どちらも倒れない。
火花が散り、銀の流星のごとき剣閃がひたすらに交差する。
それはもはや芸術で、達人同士の戦いでないと起こり得ないものになっていた。
ただ無造作に剣を交えているように見えて、実は攻撃の剣と、防御の剣を巧みに使い分けている。
あの一瞬の内に判断して、だ。
そのゼクードとカーティスの速すぎる読み合いを理解できている者は、観客席には一人もいない。
カティアでさえも。
……だが一つだけ見えたものがあった。
ゼクードとカーティスが笑っている顔だ。
あんなに楽しそうに、真剣に、剣を交えている。
誰もが言葉を失うほどの凄絶なる戦いを繰り広げておきながら、当の二人はそれを楽しんでいた。
「すげぇ……すげぇよカーティス! お前! 本当にすげぇ!」
「父さんこそ!」
夫と息子が感動しながら戦っている。
本気を出しても倒れない相手に、無邪気に喜んでいるのだ。
カティアにはそれが物凄く羨ましかった。
あのテンションの中に自分も飛び込みたい。
いつか自分も、あの世界へ……
そう思う自分が居ながら、満たされている自分が居るのも感じた。
自分ではゼクードの本気を引き出すまでには至らなかった。
だがカーティスがそれを成してくれた。
自分では成せなかったことを、自分の子供が成してくれる。
それは親として本望なのだろうか?
気がつけばポタポタと……カティアは涙を流していた。
本当は自分こそ成したくて……でもそれができなくて……
息子がそれを成してくれて、嬉しくて……でもやっぱり悔しくて……
それでもやっぱり本当に嬉しくて涙が止まらなかった。
悔しいという気持ちより、歓喜こそ勝っているのだ。
歩くのが下手っぴで、甘えん坊だったカーティスが、今はこんなにも強く成長し、あのゼクードと互角に戦っている。
その事実が女として……母として、嬉しくてしょうがなかった。