【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第196話【父 VS 息子】

 それからトーナメントは進み、ゼクードとカーティスはその全ての決闘を一瞬で終わらせ、危なげなく決勝まで勝ち残った。

 

 トーナメントの進みは早く、時間はまだ昼を少し過ぎたくらいだった。まだまだ明るく、決闘には十分な天候だ。

 観客たちも次の決勝を今か今かと待ち焦がれている。

 

 元から優勝候補だったカーティスより、いきなり現れたゼクードの方が注目を浴び、観客たちの話題を潤した。

 それは騎士たちの間でも同じで。

 

「あいつ何者だよ!? ぜんぶ一瞬で勝ってるぞ!」

「ぜったいC級じゃないって!」

「なんで今まであいつの存在に気づかなかったんだ?」

「おお、次はいよいよカーティスとだぜあいつ!」

 

 若い騎士たちが口々にざわめく。

 そして18年前のゼクードを知るベテラン騎士たちも同じだった。

 

「あの強さ……やっぱりゼクードさん本人なんじゃ……」

「だったらなんで息子さんと同じ若さなんだよ。有り得ないだろ?」

「その事は後で聞きゃいい」

「だな。次はいよいよあのカーティスとだ。スゲェ戦いが見られるぞきっと」

 

 みなが決勝戦に期待を膨らませる中、ゼクードとカーティスはついにトーナメントの最終舞台に上がった。

 

 夫と息子が練兵場にて対面する。

 それを見ていたカティアは、昔を思い出した。

 

 あの時も練兵場でゼクードと手合わせをした。

 だが手加減され、それでもゼクードに手も足も出なかった。

 一秒も張り合えなかったのだ。

 

 ゼクードと向き合えば、今でも一瞬でやられるだろう。

 自分の弱さと向き合ってきた今でも、ゼクードの本気を受けきれる自信はない。

 

 だが息子のカーティスならば、ゼクードの本気を受けとめ、もしかしたら勝てる可能性さえある。

 自分では辿り着けていない境地に息子が立っている。

 

 それだけでも誇らしいが、自分がそこに立ちたかった気持ちもある。

 さらにゼクードだが……彼が負ける姿を想像できない。

 いや、したくないのだろう。

 

 息子カーティスには勝ってほしいが、夫ゼクードにも負けてほしくない。

 とんでもないワガママで矛盾した気持ちが、カティアの胸の奥で交差し続けた。

 

 

 俺の前にカーティスが立った。

 目の前に息子が立っている。

 その感動から、耳が拾う周囲の歓声は小さな波音になった。

 

 人間相手では初と断言できる強者だ。

 向けられる闘気の桁(ケタ)がローエ・カティア・フランベールを足しても足りないレベルにある。

 

 俺の全身がそのカーティスの闘気で戦慄した。

 これも人間相手では初めてのことだ。

 全てが期待となるカーティスを相手に、俺の心臓は高鳴りっぱなしだった。

 

 本気でやらねば勝てないだろうと……そう感じさせてくれることそのものが嬉しい。

 息子が最強の壁となって立ち塞がるなんて、夢のようだ。

 

 感極まる中、俺はカチンとロングブレードを抜刀した。

 

「本気でいくからな。カーティス」

 

「はい! オレも……全力でやらせてもらいます!」

 

 お互いの武器を展開し、挨拶を済ませる。

 ゴクリと生唾を飲んだ審判騎士が、ゆっくりと片手を上げた。

 

『両者……構え!』

 

 するとさっきまで盛り上がっていた観客席が一斉に静まり返る。

 

 国王やアスレイ王子。

 大勢の観客たち。

 グリータやガイスたち。

 そしてフォルス家の妻たちと娘たちが、みながその決戦の合図を、息を殺して待った。

 

『──始め!』

 

 刹那に振り下ろされた審判騎士の片手!

 

 同時に父と息子は地を蹴った!

 

 それは今までの踏み込みが遊びだったと証明した。

 二人の蹴った地面が亀裂を生じて瞬時に弾け跳んだのだ。

 今までの決闘にそんな現象は発生していない。

 

 瞬きよりも早く加速して、極限まで洗練された剣技をぶつけた。

 俺の迷いなき全力の一撃だ。

 一切の手加減はないこの一撃を、カーティスは受け止めてみせた!

 

 果たして、ぶつかった俺とカーティスの周囲に衝撃波が生じ、近くにいた審判騎士が吹っ飛ばされ、観客席にも波動が届いた。

 

「うわああああああ!?」

「きゃああああああ!!」

「なんだこれ!? 突風!?」

 

 観客たちが悲鳴を上げる中、俺はカーティスと鍔迫り合いになっていた。

 俺の本気の一撃にカーティスは膝を付かない。

 それどころか押し返してくる。

 

 すげぇ……

 

 心の底から本気で相手を賞賛をしたのは、これで二度目だ。

 しかも相手は同じカーティスだ。

 俺の本気の一撃を難なく耐えてみせた。

 

 普通の騎士ならば、ここで終わっている。

 今までがそうだったから。

 いつかカティアとやり合った時も、本気を出したらすぐに終わった。

 

 だが今は違う。

 本気を出しても倒れない男が、目の前にいる。

 それがまさか俺とカティアの息子だなんて。

 こんなに嬉しいことがあるだろうか?

 

 カティア……見ているか?

 

 

 銀の斬撃が二つ。

 凄まじい膂力(りょりょく)で10合、20合、30合、40合、50合、60合、70合、80合、90合、100合と無限に斬り結ぶ。

 

 それだけやっておきながら、どちらも倒れない。

 

 火花が散り、銀の流星のごとき剣閃がひたすらに交差する。

 それはもはや芸術で、達人同士の戦いでないと起こり得ないものになっていた。

 

 ただ無造作に剣を交えているように見えて、実は攻撃の剣と、防御の剣を巧みに使い分けている。

 あの一瞬の内に判断して、だ。

 

 そのゼクードとカーティスの速すぎる読み合いを理解できている者は、観客席には一人もいない。

 

 カティアでさえも。

 

 ……だが一つだけ見えたものがあった。

 ゼクードとカーティスが笑っている顔だ。

 

 あんなに楽しそうに、真剣に、剣を交えている。

 誰もが言葉を失うほどの凄絶なる戦いを繰り広げておきながら、当の二人はそれを楽しんでいた。

 

「すげぇ……すげぇよカーティス! お前! 本当にすげぇ!」

 

「父さんこそ!」

 

 夫と息子が感動しながら戦っている。

 本気を出しても倒れない相手に、無邪気に喜んでいるのだ。

 

 カティアにはそれが物凄く羨ましかった。

 あのテンションの中に自分も飛び込みたい。

 いつか自分も、あの世界へ……

 

 そう思う自分が居ながら、満たされている自分が居るのも感じた。

 自分ではゼクードの本気を引き出すまでには至らなかった。

 だがカーティスがそれを成してくれた。

 

 自分では成せなかったことを、自分の子供が成してくれる。

 それは親として本望なのだろうか?

 気がつけばポタポタと……カティアは涙を流していた。

 

 本当は自分こそ成したくて……でもそれができなくて……

 息子がそれを成してくれて、嬉しくて……でもやっぱり悔しくて……

 それでもやっぱり本当に嬉しくて涙が止まらなかった。

 

 悔しいという気持ちより、歓喜こそ勝っているのだ。

 歩くのが下手っぴで、甘えん坊だったカーティスが、今はこんなにも強く成長し、あのゼクードと互角に戦っている。

 

 その事実が女として……母として、嬉しくてしょうがなかった。

 

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