【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
岩影から飛び出したゼクードは片手を突き出した。
その掌から闇魔法【ダークマター】が何十発も発射され、それらは全てドラゴンゾンビの剥き出しになった血管に直撃する。
血管が爆発で裂け、血が弾けるように噴き出した。
ドラゴンゾンビたちには激痛らしく、怯むどころかのたうち回り出した。
「すご……」
グロリアは父の凄まじい魔法精度に感動の声を漏らした。
適当に撃って牽制しているのかと思ったら、全て敵の弱点を狙った必殺の一撃だった。
あの距離でなんという命中レベルだ。
ドラゴンと父の距離はまだ数メートル以上もあるのに。
「け、剣だけかと思ってた……」
隣の姉レミーベールも驚愕していた。
父が魔法を使うところを見るのは今回が初めてだから、同じ事を思っていたようである。
格闘と射撃の両立で隙がない。
そのくせあの速さ。
群れのど真ん中に立っても被弾しない回避と立ち回りの熟練度。
何より防御無視の【真・竜斬り】がドラゴンゾンビたちをバターのように斬り裂いていく。
銀の剣閃は虚空に鏡面を生み出すほど速く、斬られたドラゴンの鮮血を映した。
撃ち漏らしを任されたが、父の猛攻にそれはない。
たった一人で何匹ものドラゴンを蹂躙していく。
危なげもなく安定した実力で。
父ゼクードは、顔は可愛いが背中は逞しくて男らしい。
先陣切って戦う彼の勇姿には、さすがのグロリアも見惚れてしまう。
相手が自分の父親だと知らなければ……おそらくあの強さに心奪われていたかもしれない。
強い男性はやはり純粋にカッコいい。
母たちが父ゼクードに惚れたのも分かる気がした。
「アタシたちの出番はなさそうね」
言いながらグロリアはオフィーリアの方へ振り返った。
彼女は大鎌を展開してはいるものの、それを支えにして立っている。
どうにもフラフラで、今にも倒れそうだった。
「ちょ、ちょっとオフィーリア! アンタ倒れそうじゃない!」
グロリアとレミーベールがオフィーリアに駆け寄り手を貸そうとした時だった。
シュンっと大鎌の一閃がグロリアとレミーベールの首をかすめた。
「な!?」
「ちょっ!」
当然のオフィーリアの攻撃にグロリアとレミーベールは驚愕する。
「ふー」っとオフィーリアは大きく息を吐くと、俯いていた顔を上げた。
彼女の糸目が開眼し、赤い光を孕んだ瞳が露になっていた。
「いきなり何すんのよオフィーリア!」
「待ってグロリア! あの眼!」
怒鳴るグロリアの隣で、レミーベールがオフィーリアの眼を指差す。
それは間違いなくドラゴンゾンビと同じ、血のような不気味な眼光だった。
「ドラゴンゾンビと同じ眼をしてる!」
「どうなってんのよ! なんで!?」
感染したのか?
いや、人間にゾンビ化は感染しないはず。
そもそも病気かも怪しいものなのに。
答えは分からず、迷っているうちにオフィーリアは大鎌の振り回して襲い掛かってきた!
「ちょ! 嘘でしょ!」
「やめてオフィーリア!」
※
最初にいた100匹は全滅させた。
しかし街中からドラゴンゾンビが大量に沸いてくる。
キリがないな。
ドラゴンゾンビは狂暴性が上がったが、血管が出てくるほど鱗が腐ってもいるので防御力は無いに等しい。
だから狩ること事態はA級ドラゴンよりも楽だった。
ゾンビ化したドラゴンマンも同様で、動きは早いが人型ドラゴンに比べれば赤子同然だ。
集団で来ようが大した脅威にはならない。
さて、ここからどうするか?
このまま狩り続けて親玉を引きずり出すか?
敵の数を減らせば、それだけで【レグナ隊】と【リイド隊】の生存率が上がる。
問題は敵の数が未知数という事と、
親玉の能力も未知数という事。
敵の数が分からないのはかなり危険な事だ。
親玉の能力だってそうだ。
だいたいS級クラスのドラゴンは、獲物を仕留めるとんでもない能力を隠し持っている。
経験上、それが分かる。
一番怖いのは親玉の能力だな。
いったいどんな能力なのか。
「やめてオフィーリア! 危ないってば!」
「正気に戻ってオフィーリア!」
なんだ!?
グロリアとレミーベールの焦る声に気づき、俺は咄嗟に【ダークマター】を撃って複数のドラゴンゾンビを止めた。
そして振り返り、目前の光景に眼を疑った。
あの糸目のオフィーリアが開眼し、不気味な赤い光を発している。
それはあのドラゴンゾンビと同じ光で、オフィーリアは無表情のままグロリアとレミーベールに大鎌を振っている。
なんで味方に攻撃を!?
どうしちまったんだオフィーリアちゃんは!?
慌てて俺は娘二人の元へ駆けようとした。
しかし後ろから複数のドラゴンマンが飛び掛かってくる。
「くそ!」
それを薙ぎ払い、また別の方角から来るドラゴンマンも一閃した。
さらに足止めしたドラゴンゾンビどもが進行を再開し迫り来る。
街中から次々と溢れ出て来ており、その数はもやは先程の倍にもなっている。
前には200を超え始めたドラゴンゾンビの群れ。
背後には正気を失ったオフィーリア。
これは、ヤバいな。
グロリアとレミーベールはオフィーリアの攻撃を捌いてはいるが、反撃できないでいる。
仲間を攻撃するなんて非情なことはできないのだろう。
当然だ。
なんとかしてオフィーリアを正気に戻さないと。
だが、何が彼女をおかしくしたんだ?
あのドラゴンゾンビと同じ不気味な赤い瞳はなんだ?
感染したのか?
人間には感染しないはずじゃ……
くそ。
どうする?
敵の数は増える一方で、親玉の能力すらも把握してないのに。
まさか人間を操る能力……なんて言うんじゃないだろうな?
だがそれならオフィーリアだけ操られて、俺たちが操られないのはおかしい。
「お父さん! 危ない!」
!?
グロリアの叫びに振り向けば、そこにはオフィーリアが。
大鎌の一閃が首を狙って薙ぎ払われた。
「いっ!?」