【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第207話【転倒】

「危険なのは仕方ないわよ。でもやらなきゃ。オフィーリアを見捨てるなんて出来ないわ。あいつ、やっとカーティスと一緒になれてこれからって時なのよ。お願いお父さん!」

 

「……」

 

 娘グロリアの頼みに俺は悩んだ。

 何を悩んでいるのかは当然……この作戦の危険度だ。

 グロリアとレミーベールが囮になり、オフィーリアとドラゴンゾンビどもをオルブレイブから誘導する。

 

 その間に俺は単騎でオルブレイブに侵入し、オフィーリアとドラゴンゾンビどもを操っているであろう元凶を叩く。

 現状、打てる手はこれしかない。

 

 だがこの作戦……一番危険なのはグロリアとレミーベールだ。

 オフィーリアをかわしながらドラゴンゾンビどもを誘導せねばならない。

 

 問題のオフィーリアはスピードがかなり強化されている。

 彼女に捕まって、そのままドラゴンゾンビどもの餌食というパターンもあり得る。

 

 俺が恐れているのはそこだ。

 もし娘二人に何かあったら……俺は……

 

 いや、騎士である以上……仕事に私情を挟むのは良くないのは分かっている。

 分かってはいるんだが……

 

 子供を失う怖さは半端ではない。

 子供を失うくらいなら自分が死んだほうがマシだとさえ思うほどだ。

 

「お父さん……ワタシからもお願い。オフィーリアを助けて」

 

 レミーベールにまで頼まれた。

 やれやれ……人の気も知らないでまったく。

 いや、もう、ここは考えようだな。

 

 娘に嫌われるくらいなら。

 

 その気持ちで行こう。

 

「……わかった。なら誘導はお前たちに任せる」

 

「「お父さん!」」

 

 グロリアとレミーベールの顔が一気に明るくなった。

 俺は構わず続ける。

 

「最悪のパターンも想定しておくぞ。もし親玉を倒してもオフィーリアが元に戻らなかったら──」

 

 その言葉にグロリアとレミーベールがハッとなって息を飲んだ。

 

「まさか……お父さん」

 

 グロリアの問いに俺は頷いた。

 

「ボコボコにして気絶させるんだ。どうするかはその後で考えよう」

 

 言うと何故かグロリアとレミーベールがコケそうになっていた。

 どうしたんだろう?

 

「あ~ビックリした。殺せって言ってくるのかと思ったわ」

「ワタシも」

 

「んなこと言うわけないだろ……」

 

 

 そして準備を整えてオルブレイブの手前に戻ってきた。

 雨が少し弱まってきたのが幸いだが、地面がぬかるんで滑りやすくなっている。

 

 これから走りまくるグロリアとレミーベールが心配だが……

 

「おらぁああああああああ! 出てきなさいよドラゴンどもぉおおおおお! 相手してあげるわ!」

 

 俺とは別の方角から現れたグロリアが怒声を振り撒く。

 その声に反応したドラゴンゾンビどもが一斉にグロリアとレミーベールに殺到した。

 

 見事に釣れたドラゴンゾンビどもに、娘二人は踵を返して走り出す。

 

 始まったな……あれ?

 

 俺はあることに気づいた。

 望遠鏡で見るドラゴンゾンビ群の中には──

 

 ──オフィーリアちゃん、がいない!?

 

 刹那!

 

 望遠鏡の光景が真っ暗になり、外して見れば赤い眼のオフィーリアが目前に迫っていた!

 

 嘘だろオイ!

 

 迫り来るオフィーリアの掌底が俺の望遠鏡を弾き飛ばした。

 危うく顔面にもらうところだったが間一髪で回避に成功した。

 

 あっぶねぇ! 武器を持ってなくて助かった!

 やっぱりスピードも強化されてる!

 っていうかなんで俺に気づいたんだ!?

 

 誘導に引っ掛からなかった……というより、最初から俺を狙っていたかのような動きだ。

 

 オフィーリアの拳打や蹴りを捌きながら俺は気づいた。

 グロリアとレミーベールは大量のドラゴンゾンビに追いかけ回されており、俺はオフィーリアに張り付かれ、孤立して動けなくなっている。

 

 やられたな。

 オフィーリアに張り付かれたままでは、親玉を探すなんて無理だ。

 なんとかグロリアかレミーに交代してもらわないと。

 

 しかしオフィーリアの乱打を前にその余裕はない。

 よりによって対人戦。

 しかも武器を持たない素手での戦い。

 

 くそ!

 対人戦は専門外だってのに!

 格闘だって得意じゃねえって!

 

 そんな言い訳がオフィーリアに通じるはずもなく、情け容赦ない無感情の攻撃が降り注ぐ。

 迂闊な反撃ができないというだけでとんでもないハンデだ。

 

 オフィーリアは速い。

 けど、対応できないほどじゃない。

 なんとか隙を狙って気絶させるしかない!

 

 

 おびただしい数のドラゴンゾンビが迫り来る。

 その気配を背後に感じつつ、グロリアは走りながら姉レミーベールに叫んだ。

 

「レミー! 後ろ来てる!?」

「見たくない!」

 

 と言いつつレミーベールは振り返った。

 そして何かに気づいたようでハッとする。

 

「オフィーリアがいないわ!?」

 

「え!?」

 

 グロリアも振り返った。

 そこには確かに居なきゃいけないオフィーリアの姿がなかった。

 要るのはドラゴンゾンビばかり。

 

「うそ!? どうなってんのよレミー!?」

 

「ワタシに聞かれても……あ! あそこ!」

 

 疾走しながらレミーベールがとある方角を指差した。

 そこはかなり遠くだが父ゼクードがオフィーリアと戦っているのが見えた。

 

 うそ……アタシとレミーに釣られなかったってこと!?

 なんでお父さんを狙って……

 

 しかし当のゼクードはさすがというべきか、オフィーリアの首や鳩尾を狙って的確に攻撃している。

 気絶させて戦闘不能を狙っているようだ。

 武器を使わない格闘でありながら操られたオフィーリアを圧倒している。

 

 圧倒しているがオフィーリアが弱る気配はない。

 気絶する様子もない。まるでゾンビのようにダメージを無視して突っ込んでいく。

 特に鳩尾は鎧の防御効果も相まって怯みもしない。

 あれでは父ゼクードが動けない。

 

「レミー! あのままだとお父さんが動けないわ!」

 

「プランBを考えておくべきだったわね。こうなったらワタシたちがこいつらを全滅させてオフィーリアをお父さんから引き離すわよ!」

 

「了解!」

 

 ドラゴンゾンビ群にオフィーリアが紛れていないのならば、こちらは暴れやすい。

 レミーベールと二人なら200~300匹ぐらい片付けてみせる!

 

 お母さんたちは500匹も狩ったんだ。

 しかもS級ドラゴンを。

 だからこんな格下のA級ドラゴンもどき!

 

 ズルッ!

 

「あ!?」

「は!?」

 

 逃げから転じて踵を返したその時、グロリアとレミーベールはぬかるみに足を取られて転倒した。

 

 嘘でしょ!?

 なにやってんのよこんな時にアタシは!

 姉妹揃ってこんな……っ!

 

 転倒はわずか数秒の隙。

 しかしその数秒は、ドラゴンゾンビ群が接近するには十分すぎる時間だった。

 

 女騎士二人を屠らんと、ドラゴンゾンビどもは一斉に襲い掛かる!

 

 ダメ! せめて姉さん(レミー)だけは!

 

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