【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第208話【大丈夫じゃない!】

ズルッ!

 

「は!?」

「あ!?」

 

 逃げから転じて踵を返したその時、レミーベールとグロリアはぬかるみに足を取られて転倒した。

 

 嘘っ!?

 こんな時にワタシ!

 

 転倒はわずか数秒の隙。

 しかしその数秒は、ドラゴンゾンビ群が接近するには十分すぎる時間だった。

 女騎士二人を屠らんと、ドラゴンゾンビどもは一斉に襲い掛かる!

 

 いけない! せめてグロリアだけは!

 

「グロリア!」

「姉さん!」

 

 互いに叫び、妹グロリアを庇おうとがむしゃらに起き上がるレミーベールだったが、ドラゴンゾンビはもはや目前まで来ていた。

 

 もう間に合わない。

 

 レミーベールとグロリアはもうダメだと直感し反射的に目を閉じた。

 

 ──シュピンッ!

 

 刃が滑る音がした。

 次いで響くのはボトボトという物々しい落下音。

 目を開ければ、そこにはバラバラの肉片になったドラゴンゾンビの無惨な姿があった。

 

 誰!?

 まさかお父さんがこっちに!?

 

 レミーベールは真っ先に父ゼクードを考えた。

 聞こえた刃はたったの一閃だけ。

 なのに手前のドラゴンゾンビはバラバラに斬られている。

 

 こんな事ができるのは──

 

「レミー! グロリア! 早く立ちなさい!」

 

 聞き覚えのある女性の声が弾けた。

 見やればそこには黒いポニーテールの女騎士。

 双剣を振るうレィナだった。

 

「レィナさん!」

「副団長!」

 

 立ち上がりながらレミーベールとグロリアが驚く。

 するとレィナに続いてレグナ・リイド・ローグが現れ彼女の隣に並び立つ。

 

「間に合ったみてぇだな!」

 

「あれ~? オフィーリアとゼクードさんは~?」

 

「ふ……ドラゴンの雑魚どもが。この英雄の剣【ハーズヴァンドオブリージュ】で蹴散らしてくれる。俺には48……いや98個の対ドラゴン技があるのだ!」

 

「遊びじゃないのよローグ」っと言葉でピシャリと叩いたレィナはドラゴンゾンビどもを睨みながらこちらに問うてきた。

 

「レミー。グロリア。状況は?」

 

「オフィーリアが何かに操られてるの! お父さんが今まさに襲われているわ!」

 

 レミーベールの言葉にレィナたちは振り向かず「操られてる?」と口にする。

 説明したいがこちらも理由が分かっていない。

 それにそんな暇もない。

 

 レィナたちの不意討ちで止まっていたドラゴンゾンビどもも我に返って再び前進してきた。

 ここは増援のレィナたちに任せて、オフィーリアを押さえないと!

 

「みんなここをお願い! アタシとレミーがオフィーリアを押さえないとお父さんが動けないの!」

 

 グロリアの頼みに対してレィナの反応は速かった。

 

「わかったわ! ここは任せて! 行って!」

 

「ありがとう!」

「みんな気をつけて!」

 

 心強い援軍を得て、レミーベールとグロリアはゼクードの元へ走った。

 何匹かその二人に気づいて追いかけようとしてきたが。

 

「行かせるかよ!」

 

 斬っ! っとレグナの双剣が円舞した。

 パックリとドラゴンゾンビの頭部が割れて、本体が遅れて倒れる。

 

 その攻撃で前に出たレグナに対し、別のドラゴンゾンビが飛び掛かった。

 

「させないよ~?」

 

 のんびりとした口調でリイドはレグナとドラゴンゾンビの間に割り込んだ。

 そのまま敵の爪をバックラーでパリィし、隙だらけになった首を片手剣で突き刺す。

 

 突き刺した片手剣を横薙ぎへ派生させ、ドラゴンゾンビの首と本体を両断した。

 

 しかし休む間もなく別のドラゴンが三体向かってきた。

 そこへ疾走したのはローグ。

 背中のロングブレードを抜刀し、加速する!

 

「いくぞ! 奥義! 【エターナル・フォース・ドラゴンキラー】!」

 

 無駄に長い技名の斬撃は……しかしものの見事に三体のドラゴンゾンビを一撃で切り伏せた。

 彼の実力はSS級では本物なのである。

 

「この一閃を受けた者は過去と未来を奪われ、消える運命となる」

「いや当たったら死ぬで良くね?」

「ね~」

 

「アンタたち真面目にやりなさい! 死ぬわよ!」

 

 怒声を響かせるレィナだが、少なからず息子らや彼に頼もしさは感じていた。

 こんな何百のドラゴンゾンビを前にしても余裕を失わず、むしろ圧倒しているのだから。

 

 ここは大丈夫だろう。

 問題はオフィーリアか。

 操られたとはどういう事なのだろうか?

 

 答えは分からず、今はレミーベールたちを信じるしかないとレィナは目の前の敵を斬り裂いた。

 

 

 俺はオフィーリアの猛攻に押され、オルブレイブの崩れた城壁まで追い詰められていた。

 思い切った反撃ができない分、後退を重ねた結果だった。

 

 気絶を狙って攻撃しても倒れない。

 首への手刀も効かず、鳩尾への打撃も鎧のせいで衝撃が伝わり切らない。

 

 倒そうと思えば倒せるのだが、オフィーリアが死んでしまう。

 だが気絶しない相手を止める方法は殺害以外にはない。

 万事休すか。せめてグロリアかレミーのどちらかが来てくれれば!

 

 薄い希望を抱くもオフィーリアには関係なく、無情なる鉄拳を俺の顔めがけて放ってきた。

 

「ちっ!」

 

 顔を傾けてその鉄拳をかわし、伸びきった彼女の腕を掴んだ。

 そのまま身を翻して背負い投げし、オフィーリアを城壁に叩きつけた。

 壁に叩きつけられたオフィーリアは勢いを失い地面に落ちてグッタリした。

 

 かなり強めにやってしまった。

 オフィーリアちゃん、大丈夫だろうか……まさか……

 

 刹那!

 

 ガバッとオフィーリアが起き上がり、迂闊に近づいていた俺の両肩を掴んできた。

 

「いっ!」

 

 凄まじい力で振り回され、次の瞬間には仕返しとばかりに城壁へ叩きつけられた。

 

「がはっ!」

 

 城壁に亀裂が走るほどの衝撃に、俺は嘔吐しそうになる。

 しかし歯を食い縛り、オフィーリアの両肩を掴み返す。

 

「このっ!」

 

 押し返し、オフィーリアとの力比べとなった。

 互い押し合い、回り、そしてまた城壁へ。

 今度はオフィーリアが叩きつけられた。

 

 だが俺と違って苦痛の表情はいっさい浮かべない。

 無表情のまま壁に叩きつけられている。

 不気味な光景だ。

 

「オフィーリアちゃん! 目を覚ましてくれ!」

 

 何度かやっている呼び掛けだが、これも反応はない。

 代わりに蹴りが跳んできて、俺の股間に見事命中した。

 

 ドンッ!

 

「ぎぃいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!」

 

 内蔵を抉られたかのような激痛と衝撃が走り、俺は思わずオフィーリアの両肩から手を離して股間を押さえた。

 泣きそうになった俺の顔にオフィーリアの拳が容赦なくめり込んだ。

 

「ッっ!」

 

 頬を思いっきりぶん殴られ、その衝撃は脳を揺らし意識を飛びかけさせた。

 口内のどこかを切って血が流れ、それでもオフィーリアの攻撃は続いた。

 

 左頬・右頬・また左頬。

 さらに後頭部を掴まれ、そのまま城壁に鼻から叩きつけられた。

 バカン! っとまた壁に亀裂が走る。

 

「……っ!」

 

 股間と顔面の激痛に挟まれ、死にそうだった。

 額から血が流れ、鼻からも血が溢れ、口からも。

 顔の至るところから出る血は滴り、地面を赤く濡らした。

 

 俺の後頭部を掴んだままのオフィーリアは、また城壁に叩きつけようと引っ張ってくる。

 もう食らうまいと俺は肘鉄をオフィーリアの顔面に放った。

 

 ごめんオフィーリアちゃん!

 

 内心で謝りながら、生まれて初めて女性の顔を殴り怯ませた。

 後頭部の手が離れ、この隙を逃す手はないと屈んで素早く足払い。

 オフィーリアは転倒し、しかしすぐに受け身をとって立て直してきた。

 

 くそ! 

 速い!

 

 倒れたところを押し倒して、グロリアたちが来るまで動きを封じるつもりだったがダメだった。

 こんなところでダメージを増やしてる場合じゃないのに。

 股間も顔面もまだジンジンしてて痛い。

 これ以上の戦闘は勘弁してほしい。

 

「「お父さん!」」

 

 突如として聞こえたのは娘という女神の声!

 グロリアとレミーベールがこちらに向かって走ってきた。

 ……転けたのか泥だらけになっているが。

 

「グロリア! レミー! 来てくれたのか! 敵は!?」

 

「レィナ叔母さんたちが応援に来てくれたの! ドラゴンゾンビは叔母さんたちがやってくれてるわ!」

 

 グロリアの言葉に俺は驚いた。

 どうしてレィナちゃんが応援に?

 心強い援軍だが理由が分からない。

 

「なんでか分からないけれどレグナとリイドも一緒だったわ! 彼らは無事だったみたい!」

 

 レミーベールに言われ俺はまたも驚愕した。

 救援対象のレグナとリイドが一緒!?

 無事だったのか!?

 

 どういうことだ?

 ……いや、このさい理由はどうでもいい。

 

「わかった! ならあとは親玉を倒してオフィーリアを助けるだけだ! ここは任せるぞ!」

 

「「了解!」」

 

 娘二人の返事を聞き、俺はオフィーリアをかわしてオルブレイブへと走った。

 

「「ていうかお父さん! 顔凄いことになってるけど大丈夫!?」」

 

「大丈夫じゃない!」

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