【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
俺は未だに痛む顔と股間を我慢しながら、廃墟と化したオルブレイブの街中を走り回っていた。
半壊した建物や原型のない枠だけの家。
道の至るところに草や苔が育ち、自然豊かに花まで咲いている。
ドラゴンゾンビどもが住処(すみか)にしている割にドロドロした汚さはなかった。
20年前に滅ぼされ、その時の遺体や白骨さえ見つからない。
人間がいなくなったことで自然がのびのびと栄えている。
滅びの美学とでも言えば美しくも見えるが、過去のアークルムやエルガンディの惨劇を知っていれば……そうは思わない。
忌々しい過去の記憶を振り払い、俺は廃墟を走り続けた。
ドラゴンゾンビどももレィナたちの迎撃に出払ったのか街中には一匹もいない。出くわさない。これはこれでありがたいのだが。
「くそ……親玉はどこにいるんだ!」
肝心のボスが見つからないのだ。
街中を見渡してもそれらしい影は見えない。
ほとんどの建築物が崩壊してて見渡しはけっこう良いのだが見つからない。
というか気配もない。
まさか親玉なんて存在しないとか、そんなオチじゃないだろうな?
もしそうならオフィーリアちゃんはどうすれば……
いや! オフィーリアちゃんは操られてる。
だったら必ず原因となってる奴が存在するはずだ。
どこかに隠れてるはず。
「やっぱデカいんだろうな。それが隠れるとなると、かなり大きい建物じゃないと無理なはず……」
俺は走りながら辺りを見渡した。
しかし街中に残っているのは崩れた建物や半壊した建物ばかり。
半壊した建物なんてドラゴンの巨体を隠すにはあまりにも小さすぎる。
俺の知ってるS級ドラゴンなら城ほどの大きさでないと隠れられないだろう。
──城!
俺は気づいてオルブレイブの城を探した。
半壊した城ぐらいなら残ってるはずだ。
親玉のドラゴンもそこに隠れてる可能性がある!
しばらく走るとそれらしい巨大な物影が見えた。
あれがオルブレイブの主城か。
やはり半壊しているが、あそこなら巨大なドラゴンでも隠れられるはず。
俺は確信を持ってさらに加速した。
すると道中で数匹のドラゴンゾンビが見えてきた。
もはや原型のない建物の枠内にたむろしているソイツらは、俺を見るなり咆哮して襲い掛かってきた。
「ちっ! まだ残ってたか!」
俺はロングブレードの柄を握った。
数は6匹。
一太刀で終わらせる!
「邪魔だ!」
キンッと抜刀音がして、次の瞬間にはドラゴンゾンビどもが銀の斬光に一閃される。
6匹とも同じタイミングで両断され、同時に血の雨を降らした。
カチンと納刀し、俺は止まらず走り抜け……なかった。
──なぜあんなところでドラゴンゾンビが集まっていたのか?
まばらに居たなら違和感はなかった。
でもヤツらはわざわざ
枠の大きさだけを見れば、そこそこ大きな建物があったんだろう。
何がヤツらを集めたんだ?
俺は気になって崩れた石枠の内部に入った。
「!」
そこにあったのは地下への階段。
そこから異様な気配が感じられる。
何より……
「うっ! 血生臭い!」
思わず鼻をつまんだ。
とんでもない血の臭いがする。
しかしこれは……死臭ではない。
そういう腐った感じの悪臭ではない。
高濃度の鉄の臭い……というべきか?
余計なものが混じっていない濃い血の臭いだ。
この臭いにドラゴンゾンビどもは集まっていたのか?
この奥にいったい何が?
★
階段の奥は光が途中までしか届いておらず暗い。
なにより人間ひとりが通れる狭さだ。
この奥にドラゴンがいるとは考えづらい。
だが小型のドラゴンならあり得る、か?
人型ドラゴンとか。
あんな人生で最高の悪夢みたいな奴がこの奥にいたら泣きたくなるね。
でも居たとしたら、それこそ俺がやらねばならないだろう。
グロリアとレミーじゃ荷が重すぎる。
しかしこの階段を降りるにしても、明かりとかどうしようか?
松明なんて持ってきてないし、ましてやランプなんて……
入るのやめようかな? 危ないし。
いやいや騎士が危ないから動かないって本末転倒な気がするし、そういうのが騎士の仕事だし。
でも暗闇で何かに襲われたらたまったもんじゃないし……
いやでも、階段の奥から異様な雰囲気を感じるのは事実だし、あのドラゴンゾンビどもがここにたむろしていたのだって、臭いじゃなくこの階段の奥にいるヤツを守っていると仮定したら納得できるし。
いやいやいや考えてる場合じゃないぞ俺。
こうしてる間にもグロリアとレミー。
レィナちゃん達が頑張ってるんだ。
ささっと階段を下りて確認せねば。
なにか松明代わりになりそうなもの、ないかな?
俺は周囲を見渡した。
自然は豊かで、元からそこに生えていたであろう大きな木もいくつかあった。
あ、これオークだ。ドングリが成ってる。
んー、松の木はないのか?
アレを木の棒にして何本か持ってけば、それだけで松明代わりにはなる。
あっ!
あった!
松の木を見つけた俺はロングブレードで必要な分だけ枝を切り分けた。
しっかり松脂の含まれた良い木の棒だ。
俺は常に携帯している火打ち金と火打ち石でそれを点火し、やっと階段の暗闇を照らすことが出来た。
むせそうな血の臭いを我慢しながら、俺は思った以上に長い階段を下りて行った。
かなり深い。
後ろを見れば、入り口の光が凄く遠くにある。
まだ下へ着かないのか?
この先にいったい何があるんだろう?
なんのためにこんな地下を作ったんだ?
浮かぶ疑問を胸に、俺は階段を下りていく。
……オルブレイブはもともと女性を奴隷にしていた国だ。
この地下はもしかすると、そういった女性を捕まえておく場所だったとか……じゃないよな?
でも死臭はしないし、この異様な雰囲気は人間の出せるものじゃない。
S級ドラゴンに感じるそれだ。
ディザスタードラゴン・雪のドラゴンと似ているヤバいやつ。
どうか人型ドラゴンでありませんように。
あんなデタラメに強い奴とはもうやりたくない。
そうこう考えていたら、ようやっと地下の部屋にたどり着いた。
黒ずんだ木製の扉がある。
鉄格子付きの覗き窓があり、奥を見てみた。
──うん。暗くてサッパリ見えない。
けど、何かある。
しかもこの扉の奥の部屋……めちゃくちゃ広い。
俺はゆっくりとドアノブを握り、扉を開──開かなかったので蹴り飛ばして開けた。
ローエかグロリアがいたらもっとスマートに破壊してくれたろうけど。
そして俺は部屋へ一歩踏み出す。
ピチャッと水の弾ける音が響いた。
松明で足元を照らすと、そこには赤い液体が溜まっていた。
「!」
俺の足元だけじゃない。
部屋のあちこちに血溜まりがある。
不思議なのは、これだけ血がありながら人間の遺体が1つもないことだ。
無気味な部屋だ。
長居すると気がおかしくなりそうだ。
俺は部屋を見渡した。
天井は高く、そして広い。
この地下を支える柱が何本も立っている。
俺はさらに歩を進め、部屋の中央にまで来た。
そこには……真っ白なバスタブがあった。
場違いにもほどがある純白のバスタブだ。
その中の溜まっているものは──血。