【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第217話【ゼクードVSエリザ】

「くっそこの触手ども! 邪魔すんじゃねぇ!」

 

 レグナはグロリアとレミーベールを助けようと前進するが、触手は次から次へと生えてくる。

 無数に殺到してきて切りがない。

 

 まばらに散っていた血溜まりもこちらに集まって来ていて触手の密度が上がっている。

 さらに血の怪物本体までもがこちらに迫ってきている。

 

 とんでもねぇ挟撃だ。

 このままだと全滅する。

 早くグロリアとレミーベールを救出してこの場を逃げなければ!

 

「お父さん!」

 

「みんな! お父さんが来たわ!」

 

 いきなりグロリアとレミーベールが叫んできた。

 

 お父さん?

 

「レグナ! あれ!」

 

 怪訝な顔をするレグナを呼び掛けたのはリイドだった。

 彼の指差す方角を見ると、曇り空の下に……確かに二人の人影が見えた。片方は母親のレィナ。そしてもう一人……

 

「ゼクードさんだ! 伝説の英雄だ! カーティスに勝った精鋭中の精鋭が来たぞ!」

 

 ローグが興奮しながら叫び、レグナはその伝説の英雄の姿を見た。

 顔は額から血を流しており、鼻と口からも流血している。

 鎧は胴が半壊しており、下に来ているインナーが露出していた。よく見れば胸からも出血している。

 

 どう見ても満身創痍で頼もしさが微塵もない。

 だけど、あれが──

 

「──あれが伝説の、オヤジの親友? ……すげぇボロボロだけど大丈夫なのか!?」

 

 

「なんだこの触手! 気持ち悪りぃな!」

 

「お義兄様! あれ!」

 

 レィナの指差す方角には先ほど彼女が倒したはずの血の怪物がいた。

 ところどころ見た目が変わっているが、上半身が人間なのと、下半身がドラゴンという特異な見た目はそのままだ。

 

「あれは……さっきの怪物か!?」

 

「生きてたみたいです!」

 

「「お父さぁああああああん!」」

 

 娘二人の声が聞こえた。

 

「っ! グロリア! レミー!」

 

 遠くだが娘二人を見つけた。

 しかし彼女たちは二人とも触手に捕まってしまっている。

 グロリアの傍らにはオフィーリアもいた。

 

「お父さん助けて! 動けないの!」

 

 レミーベールの叫びに俺は胸の奥がカッと熱くなる感覚を覚えた。その瞬間、全身の激痛や疲労などが一切感じなくなった。

 

「あの野郎! 人の娘に!」

 

 何も感じなくなるこの感覚は前にもあった。

 あれはフランベールが雪山で流された時だったはず。

 あの時と同じように身体が先に動いてくれている。

 

 俺は自分のダメージを忘れて一足に加速した。

 レィナなら後から追い付いてくるだろうと考え、俺は一人で突っ込んでいく。

 

「お義兄様! あっ!?」

 

 血溜まりの真横を通ったレィナは、しかし次の瞬間生えてきた触手に捕まった。

 

 あまりにも早い触手の軌道は一瞬!

 速攻の捕獲だった!

 

「ぐっ、しまった……っ!」

 

「レィナちゃん!? うわっ!」

 

 レィナの事態に気づいて足を止めた俺だが、他の触手が【ダークマター】を乱射してくる。

 それらを斬っては避けてを繰り返し、途中であることに気づいた。

 

 レィナを拘束している触手が射線上にいたら奴らは迂闊に撃ってこなくなる。

 やはりこの血の怪物は女性を捕獲しようとしている。

 

 現に捕まっているのはレィナ・オフィーリア・グロリア・レミーベールと女性ばかり。

 遠くで味方の騎士が三人見えるが、彼らはみんな男のようだ。

 シルエットで分かる。

 

 やはり男だけを襲っている。

 捕獲しようとはしてない。

 殺す気満々だ。

 

 この怪物……なんで女性を狙うんだ?

 そういう趣味なのか? いや、そんなわけないか……

 捕まえるだけで傷つけようとしないのが救いだが、それゆえに疑問が沸く。

 

「お義兄様! 後ろ!」

 

 レィナの声が弾け、俺は迫り来る気配に振り返った。

 血の怪物が俺を狙っている。

 さっきまであの三人の騎士を狙ってたのに。

 

 一番危険な奴だと判断されたか?

 いや、逆だ。

 さっき負けそうになったんだ。

 

 勝てる見込みがあるから……一番弱いと判断したから俺を狙ってきたんだ。

 

 上等だ!

 もうあんな騙し討ちには引っ掛からないぞこの野郎!

 

 俺はロングブレードを握り直して血の怪物に向かって走り出した。 

 血の怪物は手のひらから【ブラックホール】を生み出し、それを天へと発射した。

 

 なんだ!? っと思ったのも束の間。

 空中で【ブラックホール】が停滞し【ダークマター】の雨を降らした。

 

 そんな使い方できんのかよ!

 

 同じ闇魔法使いとしてはあっちが上か。

 認めつつ【ダークマター】の雨を、僅かな隙間を縫ってかわしながら前進する。

 

 剣の間合いまで肉薄しようとする俺に対し、血の怪物はドラゴンの身体から生えている四本の触手から【ダークマター】を乱射。

 上半身の両手からは【ダークセイバー】を連続で薙ぎ払ってくる。

 

 さらに周りの触手が援護するように【ダークマター】を発射。

 前方と左右からの凄まじい弾幕だった。

 避ける間はない。

 

 ならばと俺は隻眼に極限の集中をほどこし、避けられない【ダークマター】を見切って斬り伏せ活路を開く。

 身体を回転させながら跳び、端から見れば当たっているようにしか見えないほどの弾幕を突破した。

 

 あまりにも超人的な反応。

 非常識な芸当。

 それらを目の当たりにしたグロリアやレグナたちは口を開けてただ驚愕した。

 ただ一人、レィナを除いて。

 

「ぉおおおおおおお!」

 

 気を高め、長剣に纏わせていく。

 もはや目前と迫った血の怪物は、最後の悪あがきに口から炎のブレスを吐いた。

 

 しかしそう来ると予測していた俺は、そのブレスを一刀両断。

 風を斬るように、炎を両断した。

 

「終わりだ!」

 

 首を狙って長剣を構える。

 すると怪物の顔に肉が再生し、ドクロから女の顔になった。

 

「や、やめて! 斬らないで! 私はエリザ・ライ──」

 

「黙れっ!」

 

 俺は腹から発した怒声と共に女の首は一閃した。

 

「ト──っ」

 

 女の生首は目を限界まで見開いたまま地面に落ちた。

 ほぼ同時にゼクードも着地する。

 

「お……ぉ、の、れぇ……」

 

 女の生首が忌々しそうに俺を睨みながら溶けて小さな血溜まりになった。

 しかしそれはすぐに真横の本体へと吸収される。

 

 刹那!

 その血の怪物の本体が動き出し、真横に立っていた俺を狙って尻尾の薙ぎ払いをかます。

 

 残心にて構えを解いてなかった俺は、その尻尾を容易く両断し、駆けて奴の四肢と触手をも一閃した。

 

 足を無くした血の怪物は崩れるように倒れた。

 だが次の瞬間には人間の上半身とドラゴンの下半身の接合部を一刀両断される。

 

 情け容赦ないゼクードの斬撃は、上半身の両腕さえも吹き飛ばした。

 トドメに豊かな乳房の中心を──心臓を狙って技を放つ!

 

「【真・竜突き】!」

 

 人間の肉体には過ぎた攻撃力を誇る刺突技。

 それが見事に敵の心臓を捉えて穿った。

 確かな手応えの後に、突き刺した長剣を斬り上げ、心臓から首へと刃を通した。

 

 凄まじい量の血が吹き荒れ、顔のない血の怪物は声もなく倒れた。

 

「人を怒らせるとこうなるんだ。あの世でも覚えとけよ」

 

 吐き捨てるように言い放ち、俺はカチンとロングブレードを鞘に納めた。

 

 

「す、すげぇ……」

 

 圧倒的なゼクードの実力を目の当たりにしたレグナはそれしか言えなかった。

 あんなボロボロなのにあんなに動けて、あの怪物を圧倒した。

 

 ……っていうか、あんな強いのになんでボロボロになったんだ?

 わかんねぇな……さっきのメチャクチャな弾幕だって一発も被弾しなかったほどの人なのに。

 

「あの弾幕を突破して切り刻むなんて! やっぱスゲェよあの人! 伝説の英雄は健在だ!」

 

 まだ興奮してるローグと、未だに唖然としてるリイドがそこにいた。

 

「あれが父さんの自慢話に毎回出てくるゼクードさんかぁ~。伝説とか、英雄とか……いろいろ大袈裟な話だと思ってたけど……これは本物だね~。ヤバイよあの強さ」

 

 納得するリイドの言葉を聞きながら、レグナは内心で同意した。

 これは確かに、オヤジが自慢するのも頷ける。

 

 昔の事はなんでもかんでも美化されるものだが、黒騎士の英雄譚は本当のようだ。

 

「レグナ! 危ない!」

 

「!」

 

 グロリアの声にレグナは咄嗟に反応した。

 近くの触手が最後の悪あがきなのか、叩きつけを放ってきたのだ。

 まだ緊張感が残っていたおかげで身体が動き、すぐに回避することができた。

 

「あっぶねぇ! 助かったぜグロリア……って、あれ?」

 

 グロリアは未だに触手に捕まっている。

 レミーベールもだ。

 彼女らを逃がさないように拘束する触手たちも、まだまだ元気だ。

 その拘束している触手を守る周囲の触手たちも。

 

「お、おい……なんでまだ動くんだコイツら!?」

 

 レグナは嫌な予感がして、本体のある方へと視線を向けた。

 すると例の血の怪物が切断された箇所を再生し、立ち上がってきていた。

 

 周囲にあった血溜まりがその本体に集まり吸収され、血の怪物が少しずつ大きくなっていくのが分かった。

 

「ち、血があいつに集まっていくよ……まだ何か力を隠してるの!?」

 

 震えた声でリイドが言った。

 確かに周囲に生えていた触手は消え、全て血溜まりとなっていた。

 残った触手はグロリアたちを拘束する触手と、それらを防衛するための触手が数十本。

 

 必要な触手だけを残し、残りは自分の強化に当てたのかもしれない。

 10メートルほどしかなかった血の怪物が、血溜まりをかき集めたことで30メートルにも及ぶ巨大な化け物へと成長した。

 

「……」

 

 首と目が痛くなるほど見上げなければいけないサイズになった。

 レグナはもはや声が出ない。

 リイドとローグも。

 捕まってるレィナやグロリア・レミーベールも。

 

 みんな巨大化した血の怪物に精神を圧倒された。

 口を開けて、ただ唖然とする。

 

 しかし当のゼクードは違った。

 敵の目の前に立ちながら、まったく気圧されていない。

 それどころか、圧倒的な怒気を発して敵を威圧する。

 

「おい……」

 

 そのゼクードの一言に、巨大化した血の怪物が驚き、一歩だけ後退した。

 

「いい加減にしとけよ」

 

 ゼクードは静かに、また長剣を抜刀した。

 

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