【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「グロリアさん……何か知っているんですか?」
「んーん? 知らない」
「いや嘘ですね? グロリアさんってミスした時いつも真顔になります!」
「だ、誰が言ったのよそんなこと!」
「カーティスさんです」
「あんのキザ男!」
「グロリアさん……なにか知ってるなら教えてくださいよ」
「いや知らないってば本当に」
「だったらあんな怪物を『あんな過去がある娘』なんて呼ばないでしょう? まるで人間みたいな扱いじゃないですか」
「いや、それは……そのぉ……」
問い詰められたグロリアは助けの視線を俺に寄こした。
俺は頬掻きながら苦笑する。
「オフィーリアちゃん。俺が話すよ」
「お父様?」
「あの怪物の正体は……元は人間なんだ」
「え!?」
驚いたのはオフィーリアだが、グロリアとレミーベールも驚きの気配を見せていた。
全容を打ち明ける気はないが、俺は続けて話した。
「どうやってそれを知ったかと言うと、オルブレイブの調査でその子に関する日記を発見したんだ。それに全部書かれてた」
「人間があんな怪物に……でも、どうやって?」
「頭がおかしいとしか思えないよ。ドラゴンの血をバスタブで満たして、そこにその子を漬けたんだ。きっと何年も」
「ドラゴンの血!?」
俺は頷いた。
「人間はドラゴンの血に漬かると化け物になる。それが証明されたとんでもない日記だった。悪用されちゃまずいから……俺はその日記を燃やした。こんなの誰も知らない方が良いと思ってね」
我ながらよく口が回る。
隠してる面はあるが、嘘は言っていない。
「……そう、ですね」
なんとかオフィーリアは納得してくれたみたいだが、これ以上ボロが出る前に娘二人を離脱させよう。
「グロリア。レミー。お前たちも疲れてるだろ? 見張りは俺とオフィーリアちゃんがやるから、もう休んでいいぞ」
※
それから俺とオフィーリアちゃんだけになった。
相変わらず冷える夜風が吹き、虫の鳴き声が闇に吸い込まれていく。
「あの……お父様」
「うん?」
「どうしてわたしだけ操られたんでしょうか?」
「!」
聞かれて、俺は思わず焚き火に枯れ木をくべていた手が止まった。
俺は焚き火越しのオフィーリアを見ると、彼女は夜空を見上げていた。
「どうしてわたしだけ、あの化け物の声が聞こえたんでしょうか? みんなやお父様には聞こえてなかったんですよね?」
「ああ」
「どうしてわたしだけ……」
「気になるのかい?」
「それはもちろん。怪物に自分を支配されてしまうなんて……やっぱり実力や精神的に未熟ってことでしょうか?」
「そんなことはないと思うよ。実力や精神で言うならグロリアとレミーだってまだまだだし、オフィーリアちゃんと大差ないはずさ」
そう答えてから俺は後悔した。
そう思ってるならそう思わせておけば良かったのに。
何やってるんだ俺は。
「では、どうして……?」
「ん~……」
自分で解決法を潰しておいて悩んだ。
なんと答えればオフィーリアは納得してくれるのだろうか?
「……もしかしてわたしには生き別れの姉妹がいて、その姉妹が実は今回の怪物になってしまっていたヤツで。だから血縁関係にあったわたしだけ操られてしまったとか」
夜空から視線を落としたオフィーリアが笑顔で答え、俺は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
「どぅ!? ……ど……な、なんでそう思うの?」
「わたしお母さんのこと何も知らないんです。それでお母さんの出身を聞いたら方角的にオルブレイブだって知ったんですよ。それでそのオルブレイブについて調べたら……まぁ~女性に対して酷い扱いをする国だって分かったんです。わたしのお母さんはもしかしたらオルブレイブでたくさん子供を産んでたんじゃないかなって思ってたんです。だから今回の怪物はわたしの姉妹だった可能性もあるんじゃないかなぁ~って」
当たってて笑えない。
まさか自分で母親の事を調べていたとは。
オルブレイブの事も。
「じゃないとわたしだけ操られたり、声が聞こえたりするの、やっぱり納得いかなくて……」
「そうか……そうかもしれないね」
「もし本当にわたしの姉だったのなら……」
「悲しいかい?」
「いえ。やっと楽になれたねって……言ってあげたいです。すっごく苦しそうでしたから」
オフィーリアの意外な言葉に、俺は虚を突かれた思いで彼女の顔を見た。
するとオフィーリアは焚き火を見ていた。
ゴウゴウと揺れる炎を、ただ静かに見つめている。
エリザが焼死したのは知っているのだろうか?
もしかしたら、口に出さないだけでエリザの最後の断末魔を聞いたのかもしれない。
「そっか……そうだね」
楽になれたね、か。
オフィーリアの姉を殺した形になっていたが、今の一言でだいぶ罪悪感は薄らいだ。
楽になれたのは俺の方かもしれない。
いや……やっぱり一番はエリザか。
「もし今の仮説が正しいのなら……お母さんはわたしを愛してたんでしょうか?」
「え?」
「たくさん子供を産むのは……オルブレイブっていう国が女性をそういうものとして扱うからだって聞いてます。だからお母さんはわたしを好きで産んだんじゃないんだと思うんです。愛してなかったんじゃないかな、と」
「それだけは絶対にないよ!」
日記の事を知っているから俺は即答してしまった。
「断言する! 絶対にない! 君のお母さんは間違いなく絶対に君を愛してた!」
なまじ日記の内容を知っているから感情が先に来て言葉になる。
勢いだけで言ったせいでオフィーリアが辟易(へきえき)としていた。
「な、なんで分かるんです?」
「え……いや……それはぁ……」
日記のことを話すことはできない。
けれど、あの日記のお母さんは……オフィーリアを愛していた。
あんな男の娘だとか、産みたくて産んでないとか、そんなことは一言も書かれてなかった。
あの変異したエリザにだって、最後まで娘と呼んでいた。
あの人の娘たちに対する愛は本物だから、これだけはお母さんに代わってしっかりオフィーリアに伝えてあげたい。
男の身分では難しいが、なんとかして伝えねば。
「俺も……見た目はこんなんだけど親だからさ、なんとなく分かるんだ。親ってさ、よっぽどの理由がないかぎり子供は愛してるんだ。……いや、よっぽどの理由があっても、心のどこかでは愛してるもんなんだ」
「そうなんですか?」
俺はゆっくりと深く頷く。
「俺にはカーティスとグロリアとレミーがいる。三人とも俺より年上になっちゃったけど……やっぱり可愛いし、大切だし、愛しい。あいつらを愛さない時間なんて1秒もないよ」
改めて口に出すと少し気恥ずかしい言葉だったが、恥ずかしがってる場合じゃない。
正直に親としての目線と気持ちを伝える。
「父親の俺でもそうなんだからさ。お腹を痛めて産んだお母さんなら、もっとそうなんじゃないかな? 本当に好きで産んだ子じゃないから愛してないって言うなら、オフィーリアちゃんはとっくに捨てられてたと思うんだ。少なくとも【エルガンディ】に連れていくことなんてしなかったと思う」
言ってオフィーリアを見ると、彼女の糸目は俺を見ていた。
細い目線は感情が読み取れず、いまオフィーリアがどんな感情で俺を見ているのか分からなかった。
「だから……根拠は示せないけど、お母さんは君を愛していたと思う。絶対に」
言えるだけのことを言って、俺は焚き火に枯れ木をくべた。
言葉にすると軽いな、と我ながら思った。
親としての経験不足は言うまでもない。
父親らしいことなんて、何一つもやっていない。
何年も子供を置き去りにした俺が言ったところで、説得力は生まれないだろう。
でも……やっぱり……それでもカーティスたちを愛してるこの気持ちだけは、嘘じゃない。
本当に感じているこの暖かい感情が嘘だなんて絶対にないはずだ。
たとえ父親として経験不足でも、抱いている気持ちが嘘か本当かくらいは分かる。
「……なんだか凄く説得力を感じました。そう言い切ってくれると、嬉しいです」
まさかの返答だった。
オフィーリアが笑った。
俺はその笑顔を見て、いつの間にか緊張して強張っていた全身の力が抜けた。
「なら良かった……本当に」
「わたしも早く家族が欲しいです。ずっと一人でしたから」
そうだろうな。
物心ついた時には母親はとっくに死んでて一人ぼっち。
なんだかちょっと似てるな俺と。
「そうか。カーティスと結婚したら子供は何人ほしいんだい?」
「10人です!」
「じゅ……」
多いな!?
一人で10人も産むのか!?
「カーティスさんにそっくりな男の子10人が良いですね~」
しかも全員男の子とか!
凄い家族構成だ。
「じゅ、10人かぁ……」
「あれ? 多いですか?」
「いや……いいんじゃないかな? 孫は多いほどいいさ」
俺もこれから子供が6人になるから、あんまり人のこと言えないし。
「孫……ああ! そうでした! お父様はお爺様になるんですね!」
「そうそうお爺様に……はは……」
カーティスとオフィーリアちゃんで孫が10人。
もちろんグロリアとレミーもいつか嫁いで子供産むよな?
あいつらもポンポン子供産んで10人だったらどうしよう?
孫が30人……俺、30人の孫に囲まれて死ぬの?
ん~……
それはそれで幸せな最後かも。