【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第230話【嫁たち】

 馬の機嫌も直り、俺たちはオルブレイブを後にして草原を走っていた。

 ドラゴンゾンビの影は最早なく、A級ドラゴンとの遭遇もなく順調にエルガンディへと近づいていた。

 

 途中、馬の休憩にと草原の岩影を拠点にみんなで足を休めていた。

 

「にしても……けっきょくあの怪物は何がしたかったんだろうな?」

 

 岩に寄りかかるレグナが不意にそう口にした。

 

「勢力拡大でしょ?」っと返したのはグロリア。

 

「いや、だから。勢力拡大して何がしたかったのかなってこと」

 

「んなもんアイツの能力見りゃ分かるでしょ? ドラゴンゾンビを増やせば増やすほどあいつ強くなれるんだし」

 

「やっぱそんなもんかぁ」

 

 レグナはやや納得していないようだが、端で聞いていた俺はグロリアに同意だった。

 

 エリザの意思が母と妹を守ることだったとしても、ドラゴンの血で侵食された本能はおそらく勢力拡大そのものだろう。

 

 やつの能力はドラゴンゾンビを増やせば増やすほどメリットがあるからだ。

 皮肉を言うならドラゴンゾンビを増やして取り込み、奴は自身の能力を強化して巨大化する。

 

 強くなるということはエリザの母と妹を守ることにも繋がる。

 ドラゴンの血でドラゴン化しても、得た能力はエリザの意思に沿ったものであると言える。

 

 ドラゴンの動機は勢力拡大で間違いないだろう。

 早めに食い止められて良かった。

 

 今回の任務は俺にとって……いや参加したみんなにとって後味の悪い任務だった。

 しばらくは忘れられそうにない。

 

 俺はフゥと一息ついて、頭の中を切り替えようと愛妻たちを思い出した。

 ローエ・カティア・フランベールの顔が脳裏に浮かび、彼女たちに飛び込みたい衝動に駆られた。

 

「あ~、はやくフラン達に会いたいなぁ……」

 

「ふふ、お義兄様ったら……もう少しで会えるじゃないですか」

 

 近くの小さめの岩に座っていたレィナが笑う。 

 レィナの隣にはレミーベールもいて、同じく笑っていた。

 ちょっと恥ずかしい。

 

「うん……ちょっと離れただけなのに寂しいや。やっぱ俺にはカティアたちが必要だよ」

 

「あらお父さん。ワタシとグロリアじゃ不満?」

 

「いやいや娘と妻はやっぱり違うぞ?」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ。説明しにくいけどな」

 

 

「あ~、はやくゼクードくん帰って来ないかなぁ~」

 

 エルガンディでの早朝で呟いたのは義母のフランベールだった。

 天気の良い晴れの空を見上げながら寂しそうにしている。

 

「ママ……もうすぐ帰ってきますよきっと」

 

 ママと呼ぶのも慣れてきたカーティスが告げると、フランベールは小さく頷く。

 

「うん……でもわたしやっぱりゼクードくん居ないと寂しいや」

 

お母さん(カティア)お母様(ローエ)がいるじゃないですか」

 

「うふふ、違う違う。そういう寂しさじゃないの」

 

「? ……ではどういう寂しさですか?」

 

「ん~とね……」

 

「おーいカーティス! ゼクードさんたちが帰ってきたぞ~!」

 

 フランベールが説明する前に一人の騎士が手を振ってやってきた。

 彼の言葉を聞いたフランベールは先程の寂しそうな顔を一変させ慌て始める。

 

「ゼクードくんが!? 大変! カーティス先に行ってて! わたしカティアさんとローエさん呼んでくる!」

 

「あ、ちょっとママ! 走っちゃダメですってば! 妊婦なんですよあなたは!」

 

「そうだった! ごめんなさい!」

 

 

「あ~、寂しいですわぁ……。ゼクードまだ帰ってきませんの~?」

 

 自宅のホールにてボヤいたのはローエだった。

 彼女はソファーに座り、横になってカティアの膝枕を堪能していた。

 

「私に聞くな。というかベタベタするな」

 

「良いじゃない。わたくしとあなたの仲じゃありませんの」

 

「まったく……フランといいお前といい。いつからそんなに甘えん坊になったんだ?」

 

「フランはもともと甘えん坊ですわ。一番年上なのに」

 

「ん……まぁ……年上と言っても私やお前と違ってフランはフラム家の末っ子だからな。仕方ないさ。……っていうかそろそろどけ」

 

「嫌ですわ。あなたの太もも、と~っても気持ち良いんですもの」

 

「……バカ者が」

 

 ローエが膝からどいてくれないからカティアは動けない。

 ゼクードにもしてあげたことがない膝枕を、まさかローエにしてやるはめになるとは。

 本当に人生とは何があるか分からない。

 

 ライバルとしてバチバチやっていた過去が信じられなくなってくる。

 あんなに馬が合わないと思っていた女と家族になり、こうして一緒に夫の帰りを待っているのだから。

 

「──……ゼクードもこんな気分だったのかしら?」

 

「ゼクード?」

 

「こうやって、昔してあげたんですの膝枕。結婚する前で、本当に昔の話ですわ」

 

 結婚する前か。

 ならば2年前……いや20年前か。

 というかやってあげてたのか膝枕。

 

「そうか……私はしてやってないな」

 

「今度してあげれば良いですわ。喜びますわよきっと」

 

「考えておこう」

 

 できれば自分こそ膝枕されてみたいのだが、年下のゼクードにそんなことを頼むのは……なんだか年上としてのプライドが許さない。

 

 何を今さら強がっているのか。

 正体不明の負けん気が発動して困る。

 

 やれやれ……ゼクードとの夜伽の時は案外も素直に甘えられるのだが、こんな簡単なものには何故か素直に甘えられない。

 我ながら面倒な性格だ。

 

 ゼクードに膝枕をしてと頼むのがそんなに癪なのか私は?

 

 自身に自問自答するが答えは出ず、ため息だけ出た。

 

「どうしましたの? ため息なんか吐いて」

 

「べつに」

 

「もしかして膝枕するのが恥ずかしい?」

 

「いや逆だ。私もされてみたいが、ゼクードに頼むのが……なんか癪だ」

 

「あら? ならわたくしがしてあげますわよ」

 

 なんの迷いもなくローエはそう言ってきた。

 身を起こしてカティアの隣に座り、膝をポンポンと叩いて誘う。

 

「ほらカティア。どうぞ」

 

 言われて、カティアは自分でも驚くほどすんなりとローエの膝に頭を乗せた。

 柔らかい感触とローエの優しい匂いがカティアを包み、なんとも言えない心地好さを感じた。

 

 これが……膝枕か。

 あったかい……柔らかい……ローエなのに妙に安心するのは何故だろう?

 

 いや、ローエだからだ。

 誰よりも信用しているローエだからこそ、こんなに安心できるんだ。

 彼女だからすんなりと身を預けることができたんだ。

 

 こんなにもローエに心を許していた自分に、今まで気づいてなかったとは。

 いや……気づいていたはずなのに、久しぶりに思い出した感じだ。

 

「どうです? わたくしの膝枕は」

 

「ああ……とても気持ち良い。心が安らぐ」

 

 ローエにとっては思わぬ返しだったらしい。

 彼女はカティアの言葉に虚を突かれ、それでも理解して頬を赤くしながら微笑んだ。

 

「ふふ……素直でよろしいですわ」

 

 ローエはそっとカティアの頭を撫でてきた。

 最初は驚いたカティアだが不思議と悪い気はしなくて、それを受け入れた。

 甘えていいよと、優しく言われたような気がして……カティアは安らぎと共に全身の力を抜いてローエに身を任せた。

 

 ※

 

 そんな二人を窓越しから見ていたフランベールは思った。

 

 どうしよう……声掛けづらい……

 

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