【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「カーティスに勝ったなどとほざく……手加減してもらっただけの雑魚が。まさかやらんとは言わんよなぁ?」
この子どんどん口が悪くなってる。
親の顔が見てみたいな。
「……いいよ? 帰って来たばかりで疲れてるけど、君にはちょうど良いハンデだろう」
「なっ!?」
一太刀返してやったがネオの顔はあっという間に怒りに染まった。
挑発的な言動を取る割に、挑発されることに慣れてないようだ。
「貴様! ハンデだと! この僕を舐めてるのか!」
「いや?」
舐めてはいない。
彼から感じる実力の波動は本物だ。
カーティスに並ぶ気迫さえ分かる。
レイゼが誇るだけあって【シエルグリス】のエースの名は本物だろう。
「舐めてるわけじゃないけど。雑魚って言われたらさすがに黙ってられないな」
カーティスの憧れである父として。
ローエ・カティア・フランベールの旦那として。
何より【エルガンディ王国】のトップとして黙っているわけにはいかない。
そしてネオに教えてやらねばならない。
彼は自分を天才と称していた。
だが天才とはそんな自慢するための能力じゃない。
それ相応の責任があるものだ。
「もう一つハンデをやる」
「なに!? またハンデだと!」
「俺はここから一歩も動かない」
「!?」
その俺の言葉はネオだけでなく周囲にいる全員が驚いた。
「父さん何を!? いくらなんでもそれは──」
カーティスが焦りの声を上げるが俺は片手で彼を制した。
そして続ける。
「どうせ練兵場は俺とお前の決闘でまだボロボロなんだろ? ならここで良い。ネオくん。君の最高の技を俺にぶつけてこい。それで俺を仕留めれば君の勝ち。捌き切れば俺の勝ち。それでどうだ?」
ここは街の中央広場。
動き回る戦闘は住民を巻き込んでしまう。
街の外でやるのもいいがドラゴンの乱入が怖い。
ならば一歩も動かない短期決戦でのこの方法がいい。
「二つもハンデとは思い上がりも甚だしい奴だ。手加減したカーティスに勝って自分が強いと錯覚しているのか?」
「お、おいゼクード! 性格はアレだがネオの実力は本物だぞ! シエルグリスで一番強いんだ! ミオンですら手も足も出ないくらいなんだぞ!」
慌てて口を挟んできたのは女王レイゼだった。
「大丈夫だよ姉さん」
「いや大丈夫ってお前……」
「ほら、危ないから離れてて」
レイゼをカーティスの方へやり、俺は周囲を見た。
住民は少ないが、みながこちらを何事かと凝視している。
グロリアやレミーベール・オフィーリアも心配そうに俺を見ていた。
あのローエたちでさえも。
ネオのただ者ならぬ雰囲気を感じているのだろう。
そんな奴の最高の技を一歩も動かずに捌くとなれば不安にもなる。
ましてしくじれば俺は死ぬかもしれない。
だから妻や娘たちの心配はもっともだ。
だが、俺にもプライドはある。
ロートルだの雑魚だのと呼ばれては黙ってはいられない。
俺は広場の中心に立ち、ネオと向かい合った。
ロングブレード【ブレイブエルガンディ】を抜刀して得意の【霞の構え】をとる。
「いつでもいいぜネオくん。殺す気でかかってこいよ」
「ふん……来ると分かっている攻撃なら対応できると思っているようだな」
嗤いながら二刀を抜いたネオは短剣を逆手に持ち、直剣を正に構えた。
「心底バカな奴だ。だが乗ってやる。望み通り最高の技で貴様を葬ってやろう!」
刹那──ネオの身体が霞んだ。
周囲の人間の視界から消えたネオは、降って湧いたように俺の目の前に現れた。
「!」
「殺す気で来いと言ったのはそっちだ。後悔するなよ!」
互いに眼が合い、次の瞬間にはネオの横薙ぎ一閃が放たれる。
それを難なく捌き……かと思うとすでに俺の背後にネオが現れた。
まだ先程の斬光が残っているにも関わらず、次の攻撃が来ていた。
速いな。さすがだ。
感心しながら俺は振り向かず、ロングブレードだけでそれを受けた。
ネオの斬撃を刃で滑らせ受け流す。
そして息継ぐ間もなく次の斬撃が俺の頚を狙う──が、それも捌く。
自分で天才と言うだけある。
このネオという少年……やはり腕は本物だ。
だがカーティスより若干遅い。
そして何より。
「やるな。だがここからだ! 無限の剣! 貴様に見切れるか!【真・竜斬り・無限刃】!」
吠えたネオの身体が霞むどころか増えた。
残像である。
六人のネオが一斉に俺に掛かってくる。
凄まじい技だが、何より驚いたのは【真・竜斬り】をネオが使っていることだ。
銀色の斬撃はまさしく【竜斬り】そのもの。
シエルグリスにもこの技が伝えられていたのか。
殺到する残像と銀の斬撃。
同時に【ブレイブエルガンディ】の刃が幾重にも閃く。
受けては弾き、音速を越える刃群は火花を散らす。
端から見ればゼクードの周りで火花だけが散っているようにしか見えない電光石火の世界。
捌いた音速の斬撃は衝撃波となり周囲に飛散。
石畳みを抉るほどの破壊力を秘めた斬波がイタズラに飛び散り、周囲で見ていた住民たちが悲鳴を上げた。
俺が捌いた斬波は住民たちの手前で落下し地面を抉る。
住民たちに被害はないが迫力が有りすぎてみんな悲鳴を上げながら下がった。
そうだ。下がってくれた方が助かる。
さすがにギリギリだ。
このネオってヤツ、本当に強い!
※
何故だ!?
何故だ! 何故だ何故だ!?
ネオは理解できないでいた。
ゼクードの首が飛ばせない。
殺す気でやっているのに刃が届かない。
左・右・背後・空・下・前。
どこから攻めても弾かれる。
奴は本当に一歩も動いていない。
こんなバカな話があるか!
この技は速さを極限まで高めた音速の剣舞だ。
カーティスを倒すために極めた剣技だと言うのに。
それをこの男は……なんだ!? 何者なんだ!?
「おい」
「!」
ゼクードに呼ばれて眼が合う。
完全にネオの速度に追い付いている。
「そろそろ諦めたらどうだ?」
「っ!?」
剣先を弾かれネオの直剣が空を舞う。
直剣は回転しながら最後には地面に突き刺さった。
ネオは残った短剣だけを構え、ゼクードの前で止まる。
もともと半壊した鎧らを装備したゼクードだが、彼にそれ以上の外傷はない。
……一発も当たらなかった。
【無限刃】が……捌き切られた。
「バ、バカな……僕は天才だ! なのに! なんでだ!?」
「いや、その歳でこの完成度は本当に天才だよ」
意外にもゼクードはネオを誉めてきた。
思わぬ返しにネオはゼクードを凝視する。
「このまま精進すればいい。強いよ。君は」
カチンとロングブレードを納刀したゼクードは周囲に目をやった。
「あともう少し周りを見る余裕を持った方がいい」
「なに!?」
言われたネオは意味が分からずゼクードと同じように周囲に目をやった。
街の中央広場は斬波の弾雨に撃たれて抉れまくっていた。
ゼクードを仕留めることに夢中で周囲の被害に気を配れていなかった。
し、しまった!
僕としたことが!
女王様には当たっていないよな!?
見ればレイゼ女王には当たっていなかった。
彼女の足元に全ての斬波が落ちている。
運が良かった。
周りの住民にも被害はない。
みんな足元で斬波が止まっている。
グロリア達もそうだ。
みんな足元に斬波が──
『あともう少し周りを見る余裕を持った方がいい』
唐突に先程のゼクードの言葉が脳裏をよぎった。
ネオは気づいたのだ。
斬波が不自然なまでにみんなの足元に落下していることに。
まさかこいつ……僕の技を受けながら、周囲の被害を抑えて!?
「さすが、気づいたみたいだな」
「ぁ……」っとネオは顔が赤くなった。