【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
まさかこいつ……僕の技を受けながら、周囲の被害を抑えて!?
「さすが、気づいたみたいだな」
「ぁ……」っとネオは顔が赤くなった。
周りがまるで見えていなかった自分が急激に恥ずかしくなった。
それに対してこのゼクードという男は周囲の被害を考えて、なおかつネオの【無限刃】を捌き切った。
格の違いを見せつけられた気がした。
なにか言葉にできない圧倒的な差を……見せつけられた気がする。
この男……まさか本当にカーティスに勝ったというのか!?
例の大袈裟な黒騎士伝説は……本当だと言うのか!?
こんな奴が……伝説の存在だと!?
どう見たって僕と大して変わらないガキじゃないか!
「天才を自称するならこれくらいは気づかないとダメだぞ?」
「くっ!」
「あと天才ってのは自慢するための言葉じゃないからな?」
「!?」
「天才ってのはそれだけたくさんの責任を持って生まれたってことなんだ。そんな軽々しい言葉じゃないぞ?」
……責任?
何を言ってるんだこの男は?
「何を言っている? 天才とは凡人より優れていることを指す言葉のはずだ」
「違う。天才ってのは他の誰よりも責任を多く背負うことができる者の事だ。そうやって他人を見下すための言葉じゃない」
他人を見下すための言葉じゃない?
初めて聞いたな。
コイツは凡人を見ていて苛立ちを覚えたことはないのか?
なんでこんな事もできないのか、と。
「あと、天才って言ったって所詮は人間だ。一人じゃどうにもならない場面が必ずある。君はそういうのを経験した方がいいね」
「余計な御世話だ。僕は今までどんなドラゴンも一人で倒してきた。これからもそうだ。凡人など役に立つものか」
ハッキリ言い切ってやった。
周囲の目が敵意に満ちていたが構いやしない。
凡人に凡人と言って何が悪い。
「それは運が良かっただけだ」
今度はゼクードがキッパリと言い切ってきた。
「国がドラゴンの大群に囲まれた時……そこに天才が一人いても大勢にはなんの影響もない。しょせん一個人に国一個を救う力なんてありはしないんだ」
苦しげに細められた片眼には、自分を責める色があった。
そんなゼクードの顔を見上げたネオは妙な説得力を感じてしまった。どこか重い。彼の言葉が胸に残る。
「状況に流されて、生き残るだけで精一杯で……──自分を天才と自称するのはいい。天才と自覚して前に出るのもいい。それで救われる人は大勢いる。でも仲間を凡人とバカにしちゃダメだ。守るべき住民たちも」
「……」
「君は間違いなく剣の天才だから、これを忘れないでほしい。そしてもっと強くなって姉さん達を……【シエルグリス】を末永く守ってほしい」
冗談ではない本気の声音だった。
いちいち重い言葉が胸の節々に刺さる。
やはりこの男は……本物らしい。
あのカーティスに勝ったのも本当なのだろう。
【無限刃】を捌き切ったのもマグレではない。
こいつの実力は本物だ。ただのロートルでも雑魚でもない。
それを理解すると、なぜかゼクードの言葉に胸が高鳴った。
伝説の黒騎士は【エルガンディ】から【シエルグリス】にも伝わっている。
女王レイゼの弟としても有名であり、雪のドラゴンから【シエルグリス】を救った英雄としても讃えられている。
いわば真の天才だ。
そんな本物の男に「君は間違いなく天才だから」などと賞されれば嬉しくもなる。
「………………はい」
柄にもなく敬語で、ゼクードの言葉に返事をしてしまった。
だが、不思議と悪い気はしない。
もうすでにネオは心のどこかで彼を認めてしまっているようだ。
カーティスが自分を眼中にないと言った意味が分かった。
自分もカーティスカーティスと喚いている場合ではない。
このゼクードに勝ちたい。
「……修行して出直してくる。いつか必ず貴様に勝つ!」
ネオが言うとゼクードは笑った。
※
「いつでも受けて立つよ」
するとカーティスが割って入ってきた。
「ちょっと待て! 父さんはオレが先に倒すんだ!」
「知るか。順番なんて決まってないだろう?」
あーでもない、こーでもないとカーティスとネオが口論をし始めた。あのカーティスがムキになるなんて珍しい。
それだけ本気で俺を越えようとしているってことか。
いいね~若い世代にこれだけ熱があると頼もしい限りだ。
「お~お~、とんでもねぇ二人から狙われてるなゼクード」
言ってきたのは姉のレイゼだった。
俺は笑いながら肩を竦める。
「まったくだよ。男にモテたって嬉しくないのに」
「ばーか。……でもよ、ありがとうな」
「え?」
「ネオが良い眼になった。あいつ……ミオンといろいろあってちょっと捻れてしまったからな」
やはりネオは母親ミオンと関係がよろしくないのか?
さっきもそれっぽいことを呟き欠けていたが……
「姉さん……それ詳しく聞かせ──」
「うぉわああああああ!? なんだこりゃあああああ!?」
いきなり広場に響いたのはグリータの声だった。
見ればグリータは穴だらけになった広場を見て驚愕している。
口論していたカーティスとネオに目をつけ、グリータはキッと顔を険しくした。
「カーティス! ネオ! またお前らかああああああああ!」
「ち、違いますおじさん! これはネオが!」
「ネオがなんだ!? 今回はお前だけが悪いのか!」
「いえ、ここを指定したのは彼です」
ネオが俺を指差す。
俺とグリータの視線が重なった。
そして不意に思い出した。
街中での抜刀は禁止されていると。
額から一粒の汗が流れる。
やっべー……なんで誰も止めてくれなかったんだろ?
などと、誰かのせいにしたい気持ちが沸いてきた。
「は、はは……ただいま~グリータ。息子さんたちは無事だったよ?」
「知ってる。ありがとう。お疲れさん」
凄い棒読みでこっちにくる。
「なんでここでドンパチやったんだ?」
練兵場が壊れてるだろうし、なにより帰って来たばかりで戦う場所を探すのが面倒だったのだが……言えんよなぁ……
「いや、その……練兵場は壊れてるだろうって……」
「じゃあ外でやれよ。こんだけ騎士がいるならできたろ?」
「いや、そうなんだけど……でも、やっぱり危ないじゃん?」
「お前な? 仮にも騎士のトップに立つ男がそんなんじゃ困るんだよ。見ろお前これ。広場が穴だらけじゃねぇか。お前らレベルの騎士が争うと周りの被害は尋常じゃねぇんだからちったぁ考えろよ。これお前オレが責任問われるんだぞ? お前は南の領地の騎士だから領主のオレに責任が来るの。わかる? てかおまえ知ってたはずだよな? 街中での抜刀は禁止されてるって。まさか忘れてたとか言わないよな? 人の恥ずかしい過去はしっかり覚えてるくせに。だいたいお前はな──」
「はい……すみません……すみません。はい。はい。本当にすみません……」
伝説の黒騎士は正座して親友に何度も頭を下げた。