【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第237話【ドアノブブレイカーズ】

 翌日の朝は雲ひとつない青空だった。

 耳に心地良い小鳥の囀(さえ)ずりを聞きながら、俺は工具を片手にドアノブを修理している。

 

 というか交換だ。

 壊れたドアノブを新しいドアノブに取り換えてるのだ。

 朝からリーネにお願いして新しいドアノブを錬成してもらった。

 

 対ゴリラ用……じゃなかった。

 対ローエ用のミスリル製ドアノブだ。

 本当はオリハルコン製にしたかったが、さすがに稀少鉱石なので断られた。

 

 相手はあのローエだと説明したら、リーネは無言で予備のドアノブを作ってくれた。

 やはりオリハルコンはダメらしい。

 

 その予備を受け取った時にリーネが話してくれたのだが、昔のローエもマクシア家のドアノブを何度も壊して親に叱られていたらしい。リーネも何度か自室のドアノブを破壊されたとか。

 

 そして彼女の娘であるグロリアもグリータ家やガイス家のドアノブをよく壊したらしい。

 

 それを聞いた俺はリーネに土下座していた。

 

 妻と娘がご迷惑を御掛けしました、と。

 

「あの……ゼクード」

 

 さっきからずっと俺の後ろにいた愛妻ローエがおそるおそる話しかけてきた。

 

「なんだよ」

 

「お……怒ってます?」

 

「怒ってない」

 

 俺はドアノブのネジを工具で回しながら答えた。

 

「良かった……」

 

「で、なんでいちいち全力でドアノブ回すの?」

 

「や、やっぱり怒ってませんこと!?」

 

「怒ってないよ? 聞いてるだけ。なんでいちいち全力でドアノブ回すの?」

 

 大事な事なので二度聞いた。

 

「わ、わたくし何事も全力で取り組まないと気が済まない質ですの~、ほほほ……」

 

「そっか」

「そうですのよ」

 

 俺とローエは笑い合った。

 夫婦円満のお手本のように。

 そして俺は笑いながら釘を刺す。

 

「次壊したら二度とドアノブ触らせないからな?」

 

「ええ!? ちょ、じゃあわたくし家に入る時どうすればいいんですの!?」

 

「俺かカティアかフランに開けてもらって」

 

「ええええええ!? 自室のドアは!?」

 

「俺かカティアかフランに開けてもらって」

 

 大事な事なので二回言った。

 

「あなたやっぱり怒ってるじゃありませんの!」

 

「怒ってないって。次壊したらって言ったろ?」

 

 言いながら俺は立ち上がり額を手の甲でぬぐった。

 ドアノブの交換が完了したので工具をしまう。

 ドアノブを試運転し鍵を掛けた。

 

「よーし直った。これで安心だな」

 

 バキャッ!

 

「お父さ~ん。レイゼ女王様が~」

 

 グロリアが入ってきた。

 

 

「ねぇなんで!? なんでいきなり殴んの!? アタシ何かした!?」

 

 脳天にタンコブをつくったグロリアが涙目で俺に抗議してきた。

 

「何かしたじゃねーよ。思いっきりドアノブ壊して入って来ただろうが」

 

「壊してないよ! アタシ普通に回しただけだし!」

 

「力加減を覚えろ。お前もローエも」

 

 そう叱ると壊れた扉が開かれて、奥からレイゼが入ってきた。

 

「うるせぇな朝からギャーギャーと。ドアノブの一つや二つ別に良いじゃねーか」

 

「姉さん!? まだ居たの?」

 

 てっきり昨日のうちに帰ったのかと思ってた。

 グリータの説教が終わった頃にはいなくなってたし。

 

「なんだよその言い方。当たり前だろーが。あんな時間に帰るか」

 

 よかった。

 見送りできなかったから不満足だったんだ。

 もう少しゆっくり話もしたかったし、これはこれでありがたい。

 

「ならちょうど良いや。どうだい姉さん? これから一緒に街でデートでもしないか? 俺いまメチャクチャ気分転換したいんだ」

 

「ぉ、おお? いや、それも良いんだが。お前らこのまま【シエルグリス】に行くぞ」

 

「え!?」

 

 レイゼのいきなりな発言に俺だけでなくローエとグロリアも驚いた。

 

「お前らに見せたいものがたくさんあるんだよ。例えば……オレの娘とかな」

 

「む、娘っ!?」 

「あなた結婚してましたの!?」

 

 俺とローエが驚愕したが、当のレイゼはとぼけた顔で肩を竦める。

 

「いや? 独身だぜ?」

 

「「ええ!?」」

 

「実はゼクード。お前にそっくりなガキを見つけてよ。ちょーっとつまみ食いしたらデキちまった。なっはっはっはっ!」

 

 デキちまったって……

 

「いや姉さんそれ笑い事じゃ……」

 

 端で聞いていたローエとグロリアも顔を真っ赤にしている。

 

「いいからオラ。カティアさんとフランベールさんも呼んでこい。準備したら出発するぜ」

 

「いやいやいや急すぎるって! それにアスレイ陛下やグリータに黙って国を出るわけには──」

 

「それなら心配すんな。もう許可は取ってある」

 

「へ!?」

 

「昨日のうちに話を通しておいた。ほら早く準備しろ。もたもたすんなよ」

 

 

 急で強引なレイゼだったがありがたいことに、

 姉さんはローエたちの身体を気遣って馬車を借りてくれていた。

 

 聞けば【エルガンディ】と【シエルグリス】の間にはもう街道が設けられたらしく、馬車での移動が簡単になったそうだ。

 ここ【エルガンディ】の門から伸びている石の道は【シエルグリス】に続いているらしい。

 

 これは凄い。

【竜軍の谷】にも街道を設けたってことだし、本当に凄いな。

 

「父さん。母さんたち。どうかお気をつけて」

 

【エルガンディ】の門まで見送りに来てくれたカーティスが言った。

 俺は頭を掻きながら苦笑する。

 

「ごめんなカーティス。急にこんなことになって。しばらく留守を頼むよ」

 

「了解です。任せてください」

 

 頼もしいなぁ本当に。

 カーティスが居るなら【エルガンディ】は大丈夫だ。

 安心して遠出ができる。

 

「あとグロリア。これ」

 

「なにこれ?」

 

「工具と予備のドアノブ」

 

「は?」

 

「ドアノブちゃんと直しとけよ」

 

「ええええ!? なんでアタシが!?」

 

「最後に壊したのお前だろ」

 

「え!? グロリア! あんたまた壊したの!?」

 

 レミーベールが驚く。

 

「またか」とカーティスも呆れた。

 

「ちがっ! 壊してないって! 普通に回しただけよアタシは!」

 

「あんたの普通は普通じゃないの! 力加減を覚えなさいっていつも言ってるでしょう!」

 

 おぉ……レミーがお母さんみたいになってる。

 

「あーもう! うっさい! 気を付けるわよ!」

 

「またそうやってはぐらかそうとする!」

 

「おい。ケンカは父さんたちを見送ってからにしろ」

 

 カーティスがヒートアップしてきたレミーベールとグロリアを仲裁し、また俺に向き直ってきた。

 

「ドアノブの件は心配しないでください父さん。オレが責任を持って──」

 

「直してくれるのね!」っとグロリア。

 

「──このバカが直すまで見張っておきます」

 

「なんでよ! 見張るなら手伝ってよ!」

 

「うるさい」っとカーティスは一蹴し、俺は笑いながら「頼むよ」と返して馬車に乗り込んだ。

 

 間もなくネオが馬車を発進させ、俺とローエたちは遠くなっていくカーティスたちに手を降った。

 彼らも手を振り返してくれた。

 

 

「はぁ……」

 

 両親たちを見送った後、グロリアは大きく溜め息を吐いた。

 

「どうしたの?」

 

 レミーベールが聞くと、グロリアは父から渡された工具とドアノブを眺めている。

 

「ドアノブって……どうやって直すの?」

「え? さ、さぁ? やったことないから分からないわ」

 

 グロリアの問いに虚を突かれ、レミーベールは隣のカーティスを見やった。

 そんな姉の視線を受けたカーティスは大きな溜め息を吐く。

 

「一回だけ教えてやる。覚えろ」

 

「はい……」

 

「レミー。お前もだ」

 

「ワタシも!?」

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