【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
馬車は防水布に覆われた幌馬車《ほろばしゃ》で、馬が2頭で牽引している。
俺は馬車の最後尾に座り、後ろに流れていく草原を堪能していた。
「すっげぇーっ! 馬車ってこんなに早く動いたっけ?」
思わず弾んだ声で俺は言ってしまった。
実は馬車に乗るのは初めてでやや興奮している。
すると隣のレイゼが俺と同じく流れる草原を眺めながら口を開く。
「最近の馬車は性能いいんだぜ? 車輪の回転も良くなってるしな。乗り心地は整理された街道のおかげで完璧だ」
確かに。
馬車はなにせ乗り心地が悪いとしか聞いたことがない。
悪路を走るにはあまりにも劣悪だったそうだ。
でも俺がいま乗っているこの馬車は小刻みな振動しか来ない。
気になるほどのものでもなく、舗装された街道の凄さを思い知る。
「この街道……完成まで何年かかったの?」
フランベールが聞くと、レイゼは視線を馭者(ぎょしゃ)のネオに向けた。
「あ~……何年掛かったんだっけ?」
「7年です。予定では3年だったのですが【竜軍の谷】でのトラブルが多くてかなり遅れたと聞いてます」
7年か。凄いな。
やっぱり【竜軍の谷】が一番たいへんだったんだな。
むしろよくやったなとさえ思う。
「7年だってよ。そんだけ長ぇともういつの話か分かんねぇな」
「うん……いや、だから7年前でしょ?」
マジなのかボケなのか分からないレイゼに俺がツッコミを入れると、カティアが口を開いてきた。
「これドラゴンの襲撃とか大丈夫なのか? 道の前に現れたりとか、火球でいきなり狙撃とかされたらひとたまりもないんじゃ……」
するとレイゼは自信満々に頷いた。
「大丈夫だ心配すんな。火球が飛んできたら終わりだ」
「ぜんっぜん大丈夫じゃありませんわよソレ!」
ローエがツッコむ。
しかしレイゼは揺るがない。
笑って俺の肩を叩いてくる。
「大丈夫だって。こっちにはネオとゼクードが居るんだぜ? 直撃する前に斬ってくれるよな?」
「いやネオくん手綱握ってんだけど……」
「じゃお前が護衛やれゼクード。直撃する前に火球斬れよ? 当たったら承知しねーからな?」
「姉さん女王になってから人使い荒くなった?」
「ったりめーだ。人を使えないと女王なんてやってらんねーよ」
「ですよねー」
「あの~、聞きたかったんですけど。女王様の娘様はなんて御名前なんですか?」
「フランベールさん。オレのことはレイゼでいいよ。身内なんだからさ」
「え、でも……」
「ゼクードがオレのこと姉さん姉さんって呼んでんだから気にすんなって。オレもこのメンバーの時くらい肩の力抜きたいしな」
「それでしたら……レイゼ、さん。娘さんの御名前は?」
「ロジェールだ。オレの母さんをそのまま銀髪にしたみたいな女の子だ。けっこう可愛いんだぜ?」
「それは是非とも会いたいね!」
思わず俺がそう言うと、レイゼが微笑んできた。
「手ぇ出したらお前でもブッ殺すからな?」
「ぁ、はい……」
姉さん意外と娘さんのこと溺愛してんのかな?
「リベカは元気にしてるか?」
カティアの問いにレイゼは溜め息混じりに肩を竦めた。
「ああ元気も元気。毎日うるさい姉貴みたいだよ。いや第二の母ちゃんだな」
それを聞いた俺たちは笑った。
そこで意外にもネオが口を挟んできた。
「それは女王様が仕事をすっぽかすからでは?」
「うるせぇ。たまの息抜きも必要なんだよ」
「たまにじゃないからリベカ大臣が怒るんですよ」
なるほど。
姉さんサボり癖があるのか。
リベカさんも苦労してんな。
「リベカさんにも子供はいるんですの?」
俺も気になっていたがローエが聞いてくれた。
「もちろんだ。みんな国の人口を増やすために頑張ってくれたからな。ちなみに言うとリベカの子供は双子なんだ。男と女。片方がエルジーっていう女の子でな。ま~無口な子なんだが……なんでか知らんがロジェールと仲が良くてよ。ならばと思ってロジェールのメイドをやらせている」
「へぇ~メイドさんかぁ。騎士じゃないんだね」
ちょっと意外だったから俺は言った。
するとレイゼは首を振る。
「いや女中騎士《メイドナイト》だ」
「メイドナイト!?」
なんかカッコいいな……
「リベカの教えで剣も扱えるんだ。A級ドラゴンくらいなら軽くぶった斬ってくれるぜ」
メイド服を着ながら戦うのか?
めちゃくちゃ戦いづらそうだが、見栄えは良さそう。
うちのローエ・カティア・フランベールにもメイド服を着せてメイドナイトやらせたい。
…………ん?
ちょっと待てよ?
「姉さん姉さん。その子は料理上手なの? そのエルジーって子は」
「ああ。そりゃあメイドだしな。なんでだ?」
「いや……なんかカーティスらの世代は男が家事できる子が多い印象だったから」
「そうか? オレは逆だなぁ。そこのネオなんかパンの一つも焼けないんだぜ?」
え!?
ネオくん俺と一緒じゃん!
ちょっと嬉しい。
「最近は焼けますよ僕だって!」
「あ? このまえ焼かせたら真っ黒だったってエルジーとロジェールから聞いたぜ?」
「ぐ……あいつら……」
顔を真っ赤にしてそっぽ向いてしまったネオ。
「俺……ネオくんに親近感が湧いたよ!」
素直に喜ぶとカティアが呆れてきた。
「阿呆。お前も練習しろ。もうすぐ六児の親になるんだぞ」
た、確かに……
でも俺には家事万能の嫁が三人もいるし……
「六児の親か……スゲェなお前。大家族じゃねーか」
笑うレイゼに俺も「カティアたちのおかげだよ」と笑って返した。
「オレなんかロジェールだけで死ぬような思いしたぜ。出産もそうだが育児もマジで大変だった」
「姉さんの立場なら誰かが代わりに見てくれたんじゃないの?」
「そうなんだが、仕事を言い訳にしたくなかった。できるだけ自分の手で育ててやりたくてよ。うんと愛してるって感情を込めたくて、どうしても自分がやらないと気が済まなかった」
ハッキリと愛情を伝えたい育児か。
姉さんらしいな。
義母さんとの事で後悔してたもんな。
「素敵ですわ。レイゼさん」
「母親の鏡ですね」
ローエとカティアが褒めると、レイゼはまんざらでもなく頬を赤くして頭を掻いた。
「そりゃ言い過ぎだ。あんたらだってそうだろ? 子供は可愛い。腹を痛めて生んだ我が子なら尚更だ」
「はい。すっごく分かります」
フランベールが共感を露にする。
男の俺には入り込みにくい話だ。
ここは黙って聞いてようか。
「出産と育児に比べたら仕事なんて楽なもんだ。特に育児は常に睡眠不足だったな。ロジェールは夜泣きが多くて多くて……あんたらはどうだった?」
聞かれた俺の妻たちは目を丸くし、それぞれが顔を見合わせた。
「寝不足……にはならなかったな」っとカティア。
「そうですわね」っとローエ。
「誰かが必ず起きてて交代で休んでたし……特には」っとフランベール。
そう。
ローエたちの育児は常にローテーションをしっかり組んでおり、子供たちの面倒を見る者。家事をこなす者。しっかり睡眠を取る者と役割分担されていた。
おかげで俺はまったく育児も家事もしなくてよかった。仕事に集中できた。
ハーレムにはこういったメリットがある。
「……そうか。ハーレムは育児に強いんだな……」
睡眠不足の件だけ共感されなかったレイゼはそれだけ呟いた。
どこかしょんぼりしている姉に、俺はなんと声を掛ければいいか分からなかった。