【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第242話【緑のドラゴンたち】

【謎の咆哮】を調査するため、ミオンは仲間三人を連れて任務に当たっていた。

 

【シエルグリス】から南にある広大な森を歩くミオンたち。

 

 生き残りの仲間から聞いた【謎の咆哮】はこの方角らしいのだが……正解だった。

 

 森を抜けた先には草原が広がっており、そこを埋め尽くすA級ドラゴンの大群がいた。

 

 ミオンたちは近くの茂みに身を隠し、その光景を覗く。

 

「A級ドラゴンがこんなに……」

 

 仲間の女騎士が驚きの声を出した。

 

「アイツらが群れを成すときは大抵ロクな事がないよ」

 

 吐き捨てるようにミオンが言うと、A級ドラゴンの群れの中心に見慣れないドラゴンが4体いることに気づいた。

 ミオンは望遠鏡を取り出して覗き込み、その4体の形状を確認する。

 

 最初の1体は顔が大きく長い翼のあるドラゴン。

 

 2体目は異常なまでに爪が発達した4本腕の二足歩行ドラゴン。

 

 3体目は狼のようなドラゴンで、全身の至るところにブレードのような突起物が生えている。中でも尻尾の先端に備える巨大なブレードが恐ろしい攻撃性を放つ。

 

 そして最後の4体目は至って普通……なのだが他の3体はA級ドラゴンと大差ない大きさなのに対して、そのドラゴンは二倍ほど大きい。しかしあれでもかなり小型の方だ。

 4体目のドラゴンはちょっと大きいのと、翼もあって飛行可能な点以外はこれといった特徴はない。

 

 それぞれが違う特徴を持った4体のドラゴンだが、一つだけ共通点がある。

 4体とも緑色の竜鱗をしていることだ。

 

 A級ドラゴンの竜鱗は赤。

 その大群の中に浮く4つの緑。

 

 奴らが【謎の咆哮】の正体だろうか?

 

「ミオン隊長。あの4体……報告にはありませんでした」

 

「ええ。どれもヤバそうね。見たことないドラゴンは基本的にS級だと思ってた方がいい」

 

「A級ドラゴンにやられたのではなく、あの4体に仲間がやられた可能性があるのでは?」

 

 女騎士の言葉にミオンは望遠鏡を覗いたまま答える、

 

「それはないわ。だったら誰か一人くらい目撃してるはずよ」

 

「しかし……それでしたらやはり、A級ドラゴンの強い個体が?」

 

「分からないからこうやって調べてるんでしょう?」

 

「ぁ、す、すみません」

 

 謝る女騎士を端におき、ミオンは望遠鏡を覗き続けた。

 周囲には他のドラゴンは見当たらない。

 新種はあの4体のドラゴンのみ。

 太陽に照らされて妙に神々しく見える。

 

 このA級ドラゴンの群れは、あの4体のドラゴンによって集結しているみたいだ。

 

 A級ドラゴンは自分より強いものに従う習性がある。

 この集まりは、新しい親玉を歓迎しているのだろうか?

 

 そんなミオンの疑問に答えるかのように、あの4体の内の一番個性のないドラゴンが咆哮を発した。

 

 その咆哮は聞いたこともない咆哮で、やはりこいつらが【謎の咆哮】の正体だとミオンはこの瞬間に察した。

 

 

『みなさん! 聞いてください! 私は故郷を奪われ、この地に流れ着きました。そんなわたしたち家族を受け入れてくださったみなさんには感謝しかありません』

 

 緑竜のリイスがA級ドラゴンの群れに言う。

 

『おい母さん。こんな雑魚どもに頭下げるこたぁねぇだろ』

 

 母竜リイスに不満を告げたのは爪の長いゲイルだった。

 

『そうだぜ。母さんの歌がなきゃ人間一人すら食えないこんな奴等にさ』

 

 全身刃物のドラゴンであるブレイドがA級ドラゴンを見下しながら言った。

 

『ゲイル。ブレイド。口を慎みなさい、故郷を奪われ、行き場のない私たちを受け入れてくれた恩人たちなのですよ? いつか故郷を取り戻すためにも、彼らの力は必要です』

 

『でもよぉ……いてっ!?』

 

 ゲイルの顔に小さな火球が飛んで来て当たった。

 

『うるせーよお前ら。母さんが慎めって言ってんだから黙ってろよ』

 

 顔の大きなドラゴンであるガナーが言った。

 顔に火球を当てられたゲイルは怒る。

 

『ガナーてめぇ! 殺されてぇのか!』

 

『やれるもんならやってみろ』

 

『ああん!?』

 

『やめなさい!』

 

 母リイスの一喝でゲイルとガナーはすぐに黙った。

 A級ドラゴンたちが不安そうに彼らを見つめている。

 

『みなさん。息子達の失礼をどうか御許しください。そしてどうか、私たちの故郷を取り戻すため、みなさんの力を貸してほしいのです』

 

 リイスの言葉にA級ドラゴンたちは顔を見合わせる。

 リイスは続けた。

 

『私の力は以前お見せした通り、歌でみなさんを強くできます。すでに何人かの人間をみなさんの仲間が歌の力で倒しました。私のこの歌があれば、みなさんも人間に勝てるんです!』

 

 A級ドラゴンの視線がリイスに集中する。

 

『私の歌の力と、みなさんの力を合わせれば、人間など恐れるに足りません。まずは近くの人間たちを皆殺しにしましょう。大丈夫です。みなさんには私たちが付いています』

 

 リイスの説得に応じたA級ドラゴンたちは活気をみなぎらせ始め、それぞれが雄叫びを上げ始めた。

 その雄々しく頼もしい光景に微笑むリイスは……わずかに人間の臭いを嗅ぎとった。

 

 リイスは茂みに隠れる人間たちを見つけた。

 

 

 緑のドラゴンがいきなり大咆哮を発した。

 するとA級ドラゴンたちが一斉にこちらに向く。

 

「見つかった! みんな走って! 逃げるわよ!」

 

 ミオンの叫びを期に女騎士たちはすぐに撤退を開始した。

 その直後に緑のドラゴンが遠吠えを始めた。

 荒々しい咆哮とは違う透き通るような遠吠えだった。

 

 なに、これ?

 

 考えてる余裕はなかった。

 背後からA級ドラゴンの群れが迫り来る。

 止まっている場合じゃない。

 

 刹那!

 ミオンは殺気を感じて慌てて屈んだ。

 屈んだミオンの上を何者かの爪が薙ぎ払われる。

 

 その爪がカスってピンクの髪が少し散った。

 同時に二人の女騎士の首も地面に落ちた。

 

「レマ!? ティエリ!?」

 

 二人やられた!

 

「ミオン、隊長……」

 

「セシリ……っ!」

 

 ミオンは目を限界まで見開いた。

 三人目の部下であるセシリは、胸をブレードで貫かれていた。

 それはさっき見た4体のドラゴンの内の2体。

 爪のドラゴンと、尻尾のドラゴンだ。

 

 もう追い付いてきた。

 速い!

 

「隊長……逃げ──」

 

 セシリはミオンに言葉を告げ切る前に首を切断された。

 爪のドラゴンだ。

 精鋭の三人が一瞬でやられた。

 

 やっぱりこいつらヤバい!

 

 レマ・ティエリ・セシリの死体に追い付いてきたA級ドラゴンたちが群がろうとする。

 しかもそのA級ドラゴンたちの動きがやたら早かった。

 

 まさか、ここにいる全員が強い個体なの!?

 

 考える間はなかった。

 爪のドラゴンがミオンに襲い掛かってきた。

 

「くっ!」

 

 敵の放った爪の薙ぎ払いを籠手で受け止め、顎を狙ってキックを放つ。

 

「【エクスプロード】!」

 

 直撃した蹴りに追加で魔法を唱えた。

 蹴りに大爆発の追加ダメージが入り、爪のドラゴンは大きく吹き飛ぶ。

 

 爪のドラゴンを撃退したのも束の間。

 尻尾のドラゴンが逃がすまいと食らいついてくる。

 その噛みつきをかわし、尻尾のブレードによる追撃もパリィしたミオンは武器である鎖付きの鉄球を展開。

 

 空振りした尻尾に鉄球を放ち、巻き付けて一気に引っ張った。

 尻尾のドラゴンが浮き、空を舞い、遠くの木に激突する。

 

 爪のドラゴンと尻尾のドラゴンの攻撃を捌いたミオンにA級ドラゴンが驚いたように一歩下がった。

 

 それを隙と見なしたミオンは【フレイム】を乱射する。

 地面に打ち付けて土煙を舞わせ、ドラゴンの視界を奪う。

 騎士ならば誰もがやる撤退の基本戦術だ。

 

 ミオンは走った。

 爪のドラゴンたちやA級ドラゴンどもの追撃はなんとか振り切った。

 ミオンは動きやすさを重視するため、装備はかなりきわどく軽装になっている。

 

 被弾すれば一撃で大怪我するほどの装備だが、撤退戦では輝く。

 もともと足の早いミオンは全力で【シエルグリス】を目指す。

 

 あの数であの1個体の強さ。

 これはヤバい。

 新種も4体。

 強い個体のA級ドラゴンも大群。

 

 あんなのが【シエルグリス】に攻めてきたら大変なことになる。

 

 リベカちゃんに知らせないと!

 レイゼちゃんとネオは戻ってきてるかな……

 あのドラゴンの集団はマズイ。

 

 ネオの力が必要──

 

 どくん!

 

 心臓が高鳴る。

 苦しくなる。

 

 ──……またアイツに頼るの? 私……

 

 それは母親としてのプライドか。

 騎士としてのプライドか。

 

 また息子に頼らなければならない不甲斐ない自分が見えて、ミオンの胸をキツく締め付けた。

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