【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
『おい母さん! あいつらすげぇ勢いでやられてるぞ!』
『なんですって!?』
街中へのブレスを中断したリイスはA級ドラゴンたちの情勢を確認した。
ガナーの言うとおり100匹以上もいたA級ドラゴンたちがすでに40匹ほどに減っている。
速すぎる!
こんな短時間で信じられない!
歌で強化したはずなのに!
『あれは……っ!』
リイスはやたらと速い二つの影を見つけた。
そいつらがA級ドラゴンたちを減らしている元凶のようだった。
強化されたドラゴンたちを容易く蹴散らしている。
人間の中にはこうした強い個体が混じっているのは知っていたが、この大陸にもいたとは。
しかもあんな小さな巣にこれほどの強敵が潜んでいたなんて。
これは完全に見積もりが甘かった。
小さな巣だと侮った。
こんなことならあのナイトという子の力を借りておけば良かった。
あの時、拒否しなければ──
『──良い声だな』
『あらあら私の声が気に入ったのですか?』
『ああ。母に似ている』
『あなたのお母様に?』
『俺はあんたの声を聞いていたい。側にいさせてくれないか? その代わり俺を戦力として使ってくれて構わない──』
──母を失い、私をその代わりの母と見立てて寄ってくる。
そんな彼が気持ち悪くて、つい追い返したが……
彼の纏う強者のオーラは本物だった。
おそらく今までに見てきたどんなドラゴンよりも彼は強い。
あんなに人間に近い形状でありながら醸し出す強者の匂い。
彼がいればあの下で暴れる2体の人間を押さえれたかもしれない。
後悔しても遅い。
どうする?
『……ガナー。ゲイルとブレイドに伝えて』
『なんて?』
『遊ばず真面目に迅速に……人間を皆殺しにしなさい、と』
※
爆音が鳴り止み、ベッドの下に避難していたフランベールは身を出した。
「止んだみたい」
寝室で寝ていたフランベール・カティア・ローエを起こしたのは外から響く爆音、それに伴う地鳴りだった。
ドラゴンの襲撃だと瞬時に察した三人だったが、寝間着の姿ではどうすることもできなかった。
鎧を着ている間に屋根が崩れて下敷きになっては大変だと、着替えるよりも先にベッドの下へ避難したのだ。
そしてやっと爆音が収まったのだが、外から悲鳴が聞こえ始めた。
まだ何かが起こっている。
「悲鳴ですわ!」
「街中にドラゴンが侵入したのかもしれん。鎧に着替えるぞ!」
カティアが寝間着を脱ぎ捨てていく。
それを見たローエとフランベールが慌てた。
「着替えるって、まさか参戦するんですの!?」
「ダメだよカティアさん! わたしたちには赤ちゃんが!」
「わかっている! 万が一のためだ。急げ!」
※
「攻撃が止んだ……?」
魔法大砲のある高台へ急いでいたレイゼは空を見上げた。
空にいる二匹が見えたが、そいつらはふたてに別れた。
片方は
もう一匹はゆっくりと降下しながら、またブレスを吐いてきた。
【シエルグリス】の至るところに火球が直撃し、悲鳴と爆音を轟かせる。
「くそ! また始めやがった! リベカ急ぐぞ!」
「いえ、先に行って下さい女王様」
「あ? 何言って……っ!」
振り返ったレイゼの目に映ったのは、全身が刃物のように刺々しい尻尾の長い【四脚のドラゴン】だった。
見て分かるS級クラスのドラゴンだ。
街中に侵入してやがったのか!?
いつの間に!?
あのゼクードとネオを突破してきた?
いやそんなはずはねぇ。
まさか、空から?
こいつだけか?
ロジェールは!?
「ここは私が抑えます。女王様は【魔法大砲】の指示を!」
リベカが直剣を抜刀し、目前のドラゴンを睨む。
他の女騎士たちも駆けつけ、その四脚のドラゴンを包囲した。
「わかった! ここは頼んだぜ! おいそこのお前! 街にドラゴンが侵入したと門の方で戦ってる連中に伝えてこい!」
駆けつけた女騎士の一人にレイゼは言う。
「はっ!」
「ゼクードかネオ。どっちでもいい! こっちに回ってくれと伝えろ!」
「了解しました!」
指示された女騎士は駆け出した。
そしてレイゼもリベカたちを残して走った。
※
一方で、街の北東にいたロジェールとエルジーは身を隠していた。
空からの攻撃もそうだが、それ以上に空から降ってきた【四本腕のドラゴン】がとんでもない脅威だったからだ。
奴は周囲の建物を破壊し、その石や破片を掴んで投げていた。
それがとんでもない威力を誇り、大砲よりも速い弾速で逃げ戸惑う市民を撃ち抜いていった。
駆けつけた女騎士たちもその破片を避けられず顔を吹っ飛ばされていた。
なんとかその弾幕を掻い潜った女騎士たちもいたが、ドラゴンの鱗には刃が通らなかった。
A級ドラゴンとは比較にならない硬度を有している。
そのくせスピードは桁違いで、奴の振るう四本の腕はまさに爪の乱舞。
近づく女騎士たちが次々とやられた。
みんなエルジーとロジェールよりも強い女騎士たちだったのに。気を引き出した強い人たちだったのに。
こんなの、勝てるわけない!
そんな結論に至って、こうして建物の影に身を隠している。
見つかったら殺される。
怖い……お母様……
駆けつけた女騎士たちは全滅し、四本腕のドラゴンは周囲の匂いを嗅ぎ始めた。
人間の匂いを辿っているようだ。
こ、こっちに来てる!
助けてネオ……ミオンさん……叔父様!
「王女様……」っとエルジーがソッと手を握ってくれた。
まるで震えを止めてくれるように優しく。
「……エルジー?」
「私が囮になります。その間に城へ避難してください」
「そんな!」
「王女様はいま武器がありません。ここに居られても邪魔です」
そう……ロジェールは丸腰だった。
いつもの日課で父と祖母の墓参りに来ていただけだから。
だがエルジーは違う。
いつものメイド服に剣を常に携帯していた。
それを抜刀し、エルジーはロジェールに合図もなく駆け出した。
「え!?」
不意のエルジーの行動に驚愕したロジェール。
物影から飛び出したエルジーに、敵は即座に破片を投げ始めた。
それをなんとか回避するも、すべて掠ってメイド服を裂いていく。
「【竜斬り・乱針《みだればり》】!」
間合いに入り、気を纏わせたエルジーの連続突きが四本腕のドラゴンを捉えた。
しかしまったく効いていない。
四本腕の間合いに入っていたエルジーに、爪の乱舞が炸裂する。
「くっ!」
それらを紙一重で回避していくも、メイド服がどんどん裂けていくのが見えた。
あまりに速い猛攻でギリギリでの回避しかできないでいる。
このままではエルジーが……どうすれば。
逃げろと言われたロジェールだが、大切な親友を見捨てるなんてそれこそ出来なかった。
二人でやれば時間くらい稼げるはず!
決意したロジェールは倒れた女騎士から武器を拝借した。
都合の良いことに、自分が練習しているロングブレードだ。
これはもう戦えと祖母や父が言っているのかもしれない。
本当は祖母の使っていたロングブレードが自室にあるのだが、取りに行ってる暇ない。これでやる!