【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第256話【大きな背中】

 ローグたちは馬を駆りながら街中の光景を目の当たりにした。

【シエルグリス】の街中は至るところに火の手が上がっていた。

 瓦礫に埋まった市民や、それらを救出しようと励む騎士や住民。

 子供の泣き声や女性の悲鳴。

 それら全てがローグたちにとっては初めて見る光景だった。

 

「誰か! 手を貸してください! 娘が埋まってるんです!」

「今行く! 待ってろ!」

「こっちも助けて! 出血してる!」

「その傷じゃ助からない。諦めろ」

「そんな!」

 

 ……これまで街中にまでドラゴンが侵入してきたことはない。

 少なくとも【エルガンディ】では。

 

 だから廃墟でない市街戦など初めてだ。

 いつもは自然の草原や森などで戦闘が行われる。

 

 だからか、これだけの光景が地獄にさえ見えてしまう。

 ローグだけではない。

 レグナ・リイド・グロリア・レミーも、この光景に息を呑んでいた。

 

 過去のエルガンディを知るローグの父エドガードなら、これはまだ生ぬるい光景と言うだろう。

 

 A級ドラゴンの大軍。

 S級ドラゴンの大軍。

 そしてディザスタードラゴン。

 

 それらの圧倒的な襲撃こそ地獄と呼ぶに相応しい光景だったと。何人死んだか分からないほどの殺戮だったらしい。

 

 しかしそんな過去の経験などないローグたちには、この光景はあまりにも刺激が強かった。

 騎士仲間の悲鳴なら何度と聞いたことがある。

 しかし市民たちの生の悲鳴は初めてだ。

 

 こんなにも違うものかと、不思議になる。

 

 度重なる上空からのブレスに爆音と悲鳴が重なった。

 顔のデカい一匹のドラゴンが上空を飛び回り好き勝手にブレスを吐き散らしていく。

 

 その威力がいちいち大きい。

 大口から放たれる火球は質量そのままの大型火球だ。

 着弾した場所は大爆発を起こして家や人間を簡単に吹き飛ばす。

 

 あれを何とかしないと被害が広まる一方だ。

 しかしどうする?

 あんな上空にいては魔法も届かない。

 

 そう思った刹那。

 どこからともなく「撃てぇええええ!」っと声が聞こえた。

 轟っと発射音が鳴り響き、街中を震わせる。

 

 見上げたローグの先には虹色の閃光が槍の如く鋭さで顔のデカいドラゴンを撃ち貫いていた。

 

「おおっ!」

 

 ローグは思わず歓喜の声を弾ませる。

 顔のデカいドラゴンは羽をやられたらしく、一気に落下。

【シエルグリス】の【北西】へと落ちて行った。

 

「落ちた! 今のは【魔法大砲】か?」

 

 レグナが言ってローグが答えようとしたその時、少し遠い先で激しい戦塵が吹き荒れた。

【シエルグリス】の【北】【北東】で戦闘が起こっている。

 先ほど顔のデカいドラゴンが落ちた【北西】にも戦塵が立つ。

 

 やはりまだ他にもドラゴンがいるみたいだ。

 撃ち落としたさっきのドラゴンも健在か。

 加勢に行かないと。

 

 もしかしたらどこかで母と妹が危険な目に遭ってるかもしれない。

 

 そう思うと焦りが増した。

 

「3ヶ所で戦闘が起こってる。散開して加勢に行くぞ!」

 

 思い付くままに仲間に指示を出したローグに誰も反論せず「おお!」っと頼もしい返事をした。

 

 そして馬の石畳みを蹴る音が響く中、分かれ道を目前にしたグロリアが口を開く。

 

「ねぇローグ! メンバーはどうすんの!?」

 

「え!? じ、じゃあおれはこのまま【北】へ行く! グロリアとレミーベールは【北西】へ! レグナとリイドは【北東】に向かってくれ!」

 

「ちょっと! あんた一人で大丈夫なの!?」

 

「心配なら早く終わらせて加勢に来てくれ! どうせ誰か一人になるんだ!」

 

 なんとなく指示を出してる自分が一人を請け負わねばならない気がした。だからこうなった。

 仕方ない。

 

 それにグロリアとレミーベールの方角は負傷したさっきのドラゴンだ。

 二人がかりならすぐに倒せるはず。

 

「わかったわローグ。気を付けてね!」っとレミーベールがグロリアと共に馬で【北西】へ。

 

「死ぬんじゃねぇぞ!」っとレグナはリイドを連れて【北東】へ走った。 

 

 それぞれが別れて加勢に向かい、ローグは一人となった。

 基本的に四人で部隊を組む【エルガンディ】の騎士は一人ではあまり行動しない。

 

 故に不安だった。

 だが【シエルグリス】の騎士たちも応戦している。

 味方はいるんだ。大丈夫だ。

 無事でいてくれよ。母さん。妹よ。

 

 

【魔法大砲】が発射された。

 おそらくレイゼ女王が指揮したのだろうが、今のリベカにはそんな事に気を回す余裕はなかった。

 

 目前の敵【四脚のドラゴン】の猛攻にギリギリ耐えていたのはリベカと数名の女騎士だけだった。

 

 他の味方は尻尾のブレードに真っ二つにされた者や、顔面を噛み砕かれた者。

 全身をバラバラにされた者で地に伏している。

 

【シエルグリス】の街中ゆえに味方の女騎士はたくさん応援に来てくれるが、その悉くがやられてしまう。

 なんとか生き残っているリベカも、奴のスピードにギリギリで反応できているだけで防戦一方。

 

 ろくな反撃さえ出来ないでいた。

 ついには男の騎士たちも出撃して加勢に来たが、未だ劣勢のままだった。

 

 こいつは間違いなくS級。

 とんでもない強さだ。

 奴は建物を飛び回る術を心得ており、その持ち前のスピードを遺憾なく発揮している。

 

 A級ドラゴンとは比較にならない圧倒的な速さを有しており、まるで勝負になっていない。

 

 連携して応戦している味方騎士たちも、敵の動きにまるで追いつけない。

 

 加勢に来てくれた男騎士たちも女騎士たちを援護するように魔法による弾幕を張るが、知り尽くしているかのようにするりと避けて内部へ入り込んでくる。

 

 そしてまた数名が切り刻まれ、悲鳴が上がる。

 

 情けないが、今はあの大嫌いなネオさえ来てくれればと思っている。

 彼ならこいつを狩れる。

 いや、ミオンでもいい。

 ミオンの実力ならばこいつは狩れるはず。

 

 ここは彼らに任せて、前線のミオンを呼ぶしか! 

 疲労で体を庇うリベカは息が上がっていた。

 そんなリベカを守るように男騎士たちが壁を作る。

 

「リベカ様! お逃げください!」

 

「……っ!」

 

 大嫌いな男たちが自分のために必死に死力を尽くしている。

 いい加減、男性には慣れなければと思っていた。

 でも、未だ慣れずにいる。

 

 今も守ってもらってるのに彼らの大きな背中に圧倒されて身体がビクついてしまった。

 守ってもらってるのに、なんて失礼なんだろう。

 

 抜けない過去のトラウマが恨めしい。

 たった一度……男の奴隷たちに捕まり、身体を蹂躙されかけたあの日。

 

 幼かった自分に抵抗できる術もなく、泣けば殴られ、暴れれば刺され、髪を引きちぎられ、服を裂かれた。

 犯される寸前で、あの初代女王ロゼ様に助けられた。

 

 助けられたが、その事件がきっかけで幼いリベカの心に深い傷を作ったのは言うまでもない。

 

 克服できない一生の傷。

 

 だから……こうして壁を作って守ってくれている男騎士たちに上手く感謝できない自分がいる。

 

 だが、逃げてくださいと言ってくれているのは都合がいい。

 ここは彼らに任せて、ミオンを呼びに行こう。

 自分たちだけでは勝てないから。

 

「つ、突っ込んでくる!」

「速いぞ!」

 

 男たちが叫んだ次の瞬間……リベカは全身に衝撃を食らった。

 

「……っ!?」

 

 何が起こったか分からず、数秒後には建物の壁に激突し、さらなる衝撃を全身に打ち付けられた。

 

「がっはっ!」

 

 あまりの衝撃に吐血。

 全身のあちこちに激痛が走り、服の至るところがズタズタに切り裂かれていた。

 しかもそれは肉にも届いていたらしく、服の切目の奥から血が滴った。

 

 何を……くらったの?

 

 何かに激突されたような衝撃と、全身をズタズタにされた裂傷の痛み。

 

 まさか……【四脚のドラゴン】の攻撃?

 まったく見えなかった。

 

 みんなは?

 

 もはや血だらけのリベカは味方の状況を確認する。

 さっきまで自分を守ってくれていた男騎士たちは…………バラバラになっていた。

 

「──ぁ……ぁ……そんな……」

 

 彼らだけではなかった。

 連携して応戦していた女騎士たちもやられている。

 

 全滅……

 

 こんなことが……

 

 絶望的だった。

 味方は全滅。

 自分だけ助かったが、それでも重症で動けない。

 

 なぜ自分だけ助かったのか?

 

 リベカはバラバラになった男騎士たちの遺体を見る。

 

 ……彼らが壁になってくれたおかげで、敵の攻撃の威力が緩和されたようだ。

 

 リベカは歯を食い縛り、涙を流した。

 

 ごめんなさい…………ありがとう…………

 

 感謝しつつ、リベカは激痛の走る身体をなんとか起こした。

 

 ミオンを、呼ばないと……

 

 幸い、あの【四脚のドラゴン】はいなくなった。

 これで──

 

 ダン!

 

 音を立ててリベカの目の前にソイツは現れた。

【四脚のドラゴン】が生き残りを抹殺しようと、戻ってきた。

 

「ぁ……」

 

 終わりだ。

 今度こそ。

 

 リベカは倒れそうになる身体を後退させながら、そう絶望した。

 

 もう守ってくれる味方はいない。

 

 ここまでか……

 

 エルジー……

 

 …………ごめんなさいレイゼ。

 ミオン。

 

 ドラゴン相手に何もできなかったことを謝りつつ、リベカはあることを走馬灯のように思い出した。

 

 エドガードと息子のローグ。

 

 せめてローグに、きっと大きくなっているであろう息子に……一目でもいいから会っておけば良かった。

 

 後悔はいつも、先には立ってくれない。

 

 無念だと思いつつ、覚悟を決めて全身を強張らせた。

 

【四脚のドラゴン】が追い詰めたリベカに尻尾のブレードを振りかざす。

 

「させるかぁあああああああああああああ!」

 

 誰かの叫びが割って入り、リベカを狙ったブレードを弾き返した。

 

「!?」

 

 誰だ!? っと戸惑うリベカの前には赤いエルガンディ製の鎧を着た男が立っていた。

 

 武器はロングブレード。

 しかしゼクードではない。

 赤い鎧だがあのカーティスでもない。

 

 見たこともない茶色い髪の男騎士。

 自分より大きな身長で、大きな背中が見える。

 

 その男騎士は剣を敵に突き付けてこう言った。

 

「調子に乗るなよ狼モドキ! このおれローグが相手だ!」

 

 ……ローグ?

 

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